破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
ヒュン……!
と。
涼やかな音が響く。
汗が風切り音と共に周辺に飛ぶ。
少女は、苛立ちを振り払うように刃を振り続けていた。
ポニーテイルの、凛とした顔だち。
長年続けている武道で引き締まった肉体。
が。
同時に、女性らしいプロポーションでもあった。
――帰りたい。ここは、息がつまる……。
素振りを終えた後、少女は荒い呼吸の中で強く思った。
スキル:剣聖。
――こんなのがあっても……。
モンスターと戦うのには、最適かもしれない。
――でも……。
それは、それだけでしかないのも事実。
転移者の少女。
伯耆カンナは、暗い気持ちで数日前のことを思い返した。
「ふざけるな」
あの時、ライワは冷たく叫んで拳を振るった。
「な……!?」
あまりにも、早すぎる行動。
何かしたり言ったりする余裕もなかった。
殴られた相手は、血まみれになって倒れて、転がっていく。
「立て、ゴミクズ」
ライワは冷たい声で言いながら、転がる相手の髪をつかみ上げる。
殴られたのは、若い女性。
いや?
もしかすると、同じくらいかもしれない。
そのまま――
ライワは女性を宙づりにしたまま、
ガッ
また、殴った。
手加減はしているの、だろう。
ただし。
それもあくまで、ライワの基準では……だろうが。
「貴様が何様かは知らんがな」
バキッ
メキッ
「この国で、冒険者をやる以上はルールに従え」
ガッ ガッ ガッ
「再三、警告したはずだ」
メシィ
バキン……
「他の国では、その
ゴムッ
最後に叩きこまれた一撃。
それは、女性の鼻と半分以上の歯を砕いた。
「この国では、お前の価値などネズミの死体以下しかない」
ライワは、血に染まった拳を洗浄魔法で洗いながら、
「さっさと連れていけ。ヒーラーの練習台くらいにはなる」
ライワの下した命令に、ギルド配下の歩兵たちは肩をすくめて、
「嫌になるなあ、毎回毎回……」
「何でこっちに送ってくるんだよ」
「あっちは土地柄流民が多いだろ? 処理しきれんのだとさ」
ブツブツ言いながら、女性を縛り上げていく。
女性は血だらけの顔でヒーヒー泣いているが、
「うるせえな。泣くくらいならルールくらい守れ」
歩兵たちは半ば引きずるように、縛られた女性を連行していた。
ほとんど荷物というのか、
――ゴミ袋みたいな扱い……。
あまりのやり方。
少女の眼から、そう思えた。
「何をする気だ」
いきなり、ライワの手が少女の肩をつかむ。
特に力はこもっていない。
しかし。
それだけで少女は動けなくなった。
「まさか、助けるとか言うつもりじゃあるまいな」
「でも、あんな扱いって……」
「冒険者のルールは、事前に学んだだろう。お前は何事も呑み込みが良いし、頭も悪くない。だったら、忘れましたなどとは言うまい?」
「……おぼえています」
「ああ。一般人だって日常の中で、普通に守るべき内容だ。それこそ、子供でもな。だが、あの女はそれさえも破った。3度もな。それがどういうことか、わかるか?」
情けをかける意味などない。
いや、もう十二分にかけた。
そもそも、一般の冒険者には裁判を受ける権利もない。
ライワは静かだが、容赦ない声で言った。
「で、でも……」
「言ってもわからんバカや、穏やかに対応すればつけ上がるゴミはな。死んで火葬でもされたほうが世の中のためだ」
「…………」
「本来なら懲罰クエストか監獄行きだ。それを罰金ですませてやれば……」
ライワは吐き捨てるように言って、カンナを睨む。
「で? まだ何か言い分があるのか?」
「……」
「不服そうだな」
「それは――」
「ひょっとして、
「!?」
「……図星か」
カンナの表情を見て、ライワは情けなそうに顔を歪める。
「もういい。わかった。それならそれで、お前の自由だ。だが、ギルドのルールややり方に口を挟むな。お前はあくまで客分だ。部外者だからな」
「あの――」
ライワは、もうカンナの声には応じなかった。
黙って、仕事に専念をし始める。
これは――
オグ近辺で謎の結界が発見される2日ほど前だった。
「なに、お前は」
カーシャはゆっくりと振り返り、それを見た。
前の壁には古いサイレント映画が映されている。
心を善悪2つに分けようとして、自滅した男の物語。
「まだ途中なのだけどね」
親指で動画を指しながら、カーシャは淡々と言った。
ふわふわと。
小さな、人魂に似た発光体が空中を漂う。
その中には、小さな少女……妖精のような何かがいた。
――使い魔の一種らしい。
カーシャはそう理解した。
見ていると?
光る妖精は、机に何かを置いて窓の隙間から出ていった。
「ずいぶん、こったスタイルの使い魔だこと」
カーシャは置かれたものを手に取り、わずかに目を細めた。
手紙らしい。
「…………ふうん」
中身を何度か読み直して、
「これは、光栄とすべきか笑うべきか。判断に悩むわね?」
カーシャは手紙を封筒にしまいながら、肩をすくめた。
それから、しばらく。
映画の続きを鑑賞していたところへ、ドアがノックされた。
ちょうど、映画もそこで終わる。
「やれやれ。まいっちゃったね、どうも」
ブツブツと言いながら、マコネが部屋に入ってきた。
「良いタイミングよ」
カーシャは小さく笑い、マコネを見た。
「どしたのさ? 街の様子ならざっと見聞きしてきたけど」
「それはまた後で聞かせてもらうとして」
カーシャは立ち上がりながら、
「食事休憩をすませてから、一緒に付き合ってもらうわ」
「どっか行くのかい?」
「ええ。偉大な解放運動、いえ革命かしら? その同志として招待を受けちゃったものだから」
「はい???」
手紙を手にクスクス笑うカーシャ。
マコネは、意味がわからず困惑するばかり。