破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「しかし……」
視線は、牢内に転がっている女へ向いている。
「ありゃいったい、何しでたかしたさ?」
「報酬の分配問題だ……」
ライワは調書のチェックをしながら、嫌な顔をした。
「それで揉めるってのぁ、よくある話だけどねえ」
「こいつのパーティーには、
「ポーター?」
ミゾイは首をかしげて、
「そりゃ、ある意味パーティーの生命線だろ。簡単にやれるもんじゃないよ?」
どんな屈強な戦士も、魔力に秀でた魔法使いも――
兵站が十分できなければ、あっという間に弱体化する。
食料や医薬、予備の装備や野営で使用する諸々……。
「ああ。色んな意味でヒーラー以上に守る必要のジョブだ。とはいえ、それも各パーティーでいくらか違ってくるが……」
ライワは、疲れたように息を吐き出す。
「こいつのパーティーでは、荷物持ちへの分配は全体の1割以下だ。ムチャクチャだよ。ギルドのルールを完全に破っている。だから、事前に警告したが――」
まさに聞く耳持たず、だったな。
言い捨てて、ライワは束ねた書類を脇に抱える。
「あの青い
「いやあ、あの美人さんは金に執着がないからねえ。同じには考えられないサ」
ミゾイは長身の細身を揺らすが、
「けど、困るンだよねえ……。そういうのは。余計な怨恨だの、トラブルの種じゃァないか」
「自分のほうが上だから、相手は何もできん。逆らえんと思ってたんだろう」
ライワは、牢内で半死半生になっている女を見て吐き捨てるように言った。
「ガキとママとのお約束みたいに思ってたのか知らないがな、それを守れんバカにはペナルティーがあるんだ」
ミゾイはちょっと肩をすくめてから、
「しかし使えないなら、とっととクビにでもすりゃ良いだろ。ポーターにしたって、その役がこなせるなら足を洗うほうが賢明だ。ヤクザな稼業でいきがるよりも、
「知らん。そこまでして、冒険者なんかに未練があるのか。私には理解の外だ」
「まさか、色恋沙汰でもあるまいしねえ」
蛇目の女は苦笑して、報告書を軽く読む。
「だけどいくら上前はねたんだか? あれはなかなか稼いでようだけど?」
ざっと目を通してから、
「ひゃあ。ずいぶんとヤッたもんだ。こら、ルール守る気ゼロだねェ」
ミゾイは自分の黒髪をいじりながら、
「そんな
と。
髪を触っていた手を止めて、
「サキュバスなんぞ、どこだってある程度の
ブツブツ言っていたか思えば、急に意地の悪い笑みを浮かべた。
「なんだ――?」
「いや、なにね。夜ごとに悶々(もんもん)としてるであろう、健康な若い衆のケアをしてやろうと思ってね。いや、新規の紹介かねえ」
「ああ、そう……。で、紹介料はいくらだ?」
「そういうことは言いっこなし」
ライワの生暖かい視線に、
と。
そこで、ノックの後から職員が入ってくる。
「~~~~とのことで……」
ライワに何事か報告する。
「なにさ?」
「いや――そのピンはねされていたほうのバカが来たそうだ。なめ腐ったリーダーを引き取りにな」
「おやおや」
ミゾイはまたも苦笑する。
「おや、ひとりじゃなかったのかい?」
応対を買ってでたミゾイは引き取り手たちを見てフェイスベールごしに笑う。
少年と、少女が連れ立って2人。
――体つきや動きからして、男のほうがポーターかね。
ミゾイが内心で当たりをつけていると、
「あ、あの、殴られて逮捕されたって……」
少女がオズオズとたずねる。
「まあ、そうだねェ。あんなムチャな配分してりゃ無視はできないよ」
……。
……。
「……あ~~~。つまり? 坊やは、パーティーに入りたいばっかりに、バカげた取り分で雇ってもらったと?」
「ま、まあそうなんス」
少年は、照れているのか自嘲しているのかわからない態度。
「ンなものダメに決まってるだろ。ギルドに所属している以上、勝手にタダ働きなんぞしても、させても困るんだ。迷惑なんだよ」
「あ、あの、それは、理不尽とは思うんスけど。その」
「それを決めるのはあのお嬢ちゃんじゃないよ。お前さんでもない。ギルドだ」
お互いが納得しようと約束しようと関係ないの。
ミゾイは言って、ペシペシと少年の肩を叩く。
「そんなもの容認してたら、冒険者なんかあっという間にヤクザものから犯罪者に転がり落ちる。国にも、
冒険者の基本ルールは知ってるだろ。
普通に考えればガキでも守って当たり前のことだ。
だけどね?
世の中にはそれを守る気もない、守ろうって意識もないゴミクズがいるんだよ。
意外にたくさん。
ミゾイはゆっくりと聞き取りやすい口調で言いながら、
「似たようにムチャクチャをしたトラブルメーカーもいるけどね。そいつは懲罰クエストをいくらでも引き受けるから、許容されてるんだ。金にもこだわらないから、儲けた分は使って流す。まともに対応すれば話も通じる。けど、あんたらのリーダーは違うだろ? 調べたけどね、懲罰クエストも事実上お前さんが全部ひっかぶったようじゃないか。意味ないよ、それは」
「ミズ・ホゥキ……妹のほうだったか」
「ナギです」
チョコン、と――
セミロングの髪が揺れて、動いた。
ミゾイと入れ替わるように、部屋をたずねてきた少女。
――物腰や口調で見分けはつきやすいが……。なるほど、顔の造りはそっくりだな。双子だから当たり前なのか。
ライワはそんな取り止めのないことを考えるが、
「どうやら、常ならぬことらしい」
すぐに……。
ナギの表情から、何事かの事情を察した。
「いえ。それまだわかんないんですけど、お姉ちゃんが見えなくって……」
「ミズ・カンナが、いない?」
「はい。何か手紙みたいなのが置いてあって……」
「失礼だが、中身……内容は? あなたが確かめて問題ないと思うのなら、教えていただきたい」
「あ、はい。ちょ、ちょっと待ってくださいね……?」
ナギはあわてながら封を開けて、手紙に目を通していく。
「……」
ナギの瞳に、明らかな動揺があるのをライワは見逃さなかった。