破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
――しかし?
街の中央まわりを見て回った後、カーシャは上を見て思う。
――こんなものを造って、当然のように維持している。どうやって? あの女には……。
それだけの知識も技術もある。
……。
――ようには、とてものことに思えないのだけど?
「なあ、姐さんはさ? どうするか決めてるのかい?」
「ン」
カーシャを見ながらたずねるマコネへ、
「そうね。まあ私が加勢すれば、まあだいぶ話も変わってくるかもしれないけど」
「いやー? そりゃ当然だけどよ?」
「こっちには物資が足りない。労働人口が足りない。お金が足りない。何もかも足りない。だから、それを寄越せ――と。ヤオアムトに要求することもね」
「いや……それ」
「もちろん? まともな人材や労働力が集まって、それを統括できる指導者でもいれば別だけど」
「あのねーちゃんができるのかね、それは」
「どこをどう見たって無理よ」
「…………」
「ただ、見物する側としては面白くもあるわ。だから、さっき言ったように敵対はしない。味方にもならないけど」
「おおー、まさにこんな感じのものでしたな!」
精密に描かれたそれを見て、ドローこと泥田坊固丸は感嘆の声。
「見たところ、大昔のランタンみたいだが……」
絵を見たゴトクは妙な目つきで言った。
「なんか由来でもあるのか?」
「さあ……。あの時を思い出すに、蔵のすみっこに他のものと一緒に木箱に入ってましたな」
「実物がないから判断しづらいが……」
ゴトクはその髪を無造作に掻いて、
「俺が生まれる前、300か400年ほど昔か。その時の記録に、似たようなものがあった」
「す、すごい話ですな……。さすが、エルフ」
「願いをかなえるランタン。強力な魔神が封じられてるとか。どう考えても、与太話か酔っ払いの冗談みたいな話だが」
「ふーむ!? それはまるで、魔法のランプみたいなものですか」
「ランプ?」
「はあ。内容はほぼ同じで、ランプかランタンかの違いだけでして」
「……じゃあ、ますますデタラメじゃねえか。ンなものが、そこらに転がっててたまるもんかよ」
「ですよねえ」
ゴトクの指摘に、ドローは照れ笑い。
「いたとしても、中にいるのはロクでもないもんだぞ。ほぼ間違いなく」
「そうなのですか?」
「こっちの伝承では、
ゴトクは言って、絵を返した。
「そんなヤツが、定命の種族に都合良く動くもんかよ。必ず落とし穴がある。まあ、願いを言ったヤツが自滅するのはしょうがないとして」
「じ、自滅は決定事項なのですか……?」
「注文通り願いが叶っても、その後までは面倒みてくれんしな。分をこえた願いってのは、本人も周りにも災厄をまき散らすんだよ……」
どこか。
妙に実感のこもった声で、ゴトクはそう言った。
「――!!」
その気配に、少女は総毛だって剣を構えた。
モンスターも、不審者らしき者もいない。
ただ。
公園のベンチに、女性が座っているだけ。
その隣りには、小柄な少年が座っている。
――いえ……?
たぶん、
男装でもしているようだが、
――女の子だ、きっと。
この判断は確かに間違いはなかった。
「あなた」
涼しい美声が響く。
「え」
「確か、不幸にもこっちに連れてこられた転移……【お客様】のひとりかしら」
美声がすぐそばで――
目の前に、暗い青髪の女が立っている。
――い、いつの間に……!?
まるで。
女神か悪魔みたいな美貌だった。
ただ。
白人のそれとは異なる。アジア系ともまた違う。
あえて言うなら?
複数の人種や血統がいくつも混じって重なり続けた末。
その先で生まれた、ホモ・サピエンスの領域を超えた美しさ。
――なんてきれいな
ただ、そう思って見惚れるしかない。
こんな風貌の女が現れれば、社会は震撼するだろうか。
「私は、カーシャ。一応冒険者ギルドに所属している身ですわ」
カーシャは片手を胸に当てるような仕草。
そこから、流れるような動作を礼をとった。
「あ、あの。私……!」
舌がもつれるカンナを、水色の瞳が見ている。
「なんというの、かしら?」
カーシャはそっと街の様子に視線を送る。
「あなたは、ご招待されてここに来たの?」
「……それは」
「私も、同じ立場ですのよ」
カーシャは静かに、送られてきた手紙を見せた。
……。
………。
「……はあ。勝手なことして、半殺しにされた、ねえ?」
話を聞き終えたマコネは、微妙な顔。
「そりゃーさあ。ンなことしてたら、そうもならぁね」
「いや、だって」
「こっちの姐さんだって、負債を片づけるのにだいぶクエストやってるしよ」
「……そういうこともあったわね」
カーシャは言いながら、青い髪を撫でる。
「その後始末というか、ペナルティーのために外国まで行ったこともあるわ」
お互いに利用し合う関係というのかしら?
トラブルを起こしたら、その分色々とね……。
「楽しくもないけど、別に嫌でもなかった。まあ、それならそれで、というところ? 大してすることもなかったから」
「暇つぶし、ですか?」
少女――
若干の非難を込めた視線。
「それでも、分配はそれなりにちゃんとしてきたつもりだけど」
「まー、おいらたちは後ろにくっついてただけってのも、よくあったからなあ。モンスターの死体やら返り血を体中にひっかぶったなんて、いっつもだし」
マコネは初期を思い出し、苦笑。
「とはいえ。アレで何十万ジュラももらえるなら安いもんだ」
「それは良かった」
カーシャは肩をすくめてから、
「他で、何度も言われたかもしれないけれど。この国では、ただ女であるだけでは何の価値もないの。特に、正当な国民でもない流民や不法入国者にはね」
貴族の嫡男だって、適性がないとなれば放り出されるわ。
分家から、優秀なのを養子に迎えればすむのだから。
「…………」
「自国民より、そんなの優先してみなさい。あっという間に家は取り潰し。下手をしなくても、コレね」
カーシャは指で、喉を切り裂く仕草をしてみせた。