破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
ドラゴンの襲撃から3日。
まだまだ混乱はあるが、ミズイはある程度落ちつきを取り戻しつつあった。
それはともかく。
距離的に、ミズイの『となり街』と言える街・バタム。
カーシャたちは、そこにいた。
パーティー3人から少し離れた位置に、ライワ。
紫の女騎士は普段からむっすりとした顔を、より険しくしている。
「ドラゴン・ホルン……?」
バッキーがキョトンとした声でつぶやいた。
はじめて聞く単語だからだ。
「……確か、ドラゴン種を操れる魔道具だったかしら」
カーシャはうっすらと記憶している知識から、その名前を出した。
「そうです、そうです」
うなずいたのは、目の前にいる女。
バタムの冒険者ギルド支部長。
それが、彼女の立場らしい。
名前は――
「シュニオ」
と、名乗った。
ややたれ目気味で、おっとりした印象の美女だった。
髪は緑に近く、ややウェーブがある。
左の目下にホクロがひとつ。
「これのね? 基本設計図が流出してもうた、らしいんです」
そういかにも育ちの良さそうな仕草でシュニオは説明する。
「……あのぅ、そのアイテム自体が、じゃないんですか?」
バッキーが遠慮しながら質問。
「へえ。本物というか、実物のほうは王都の宝物庫で厳重に保管されてますわ。それを盗むんは、かなり難しいでしょうねえ」
「つまりよ? 作り方が漏れたんで、誰かが作っちまったってことかよ?」
「――で。その作ったドラゴン・ホルンがミズイのドラゴン騒ぎにつながった、と?」
マコネ、そしてカーシャが推測を口に出した。
「多分そんなことやないかと思われますねえ」
ふう、と困った顔でシュニオは言った。
「……でも、そのドラゴンを操れるんでしょう? そんなもの、簡単に作れるんですか?」
「そらもちろん。作り方がわかっても、パッパとどこでも誰でも作れるもんやないですよ」
バッキーの疑問にシュニオはそう答えた。
「必要な材料。必要な場所や道具。必要な技術。そろえるのはなかなかできません。それに……あのクラスの魔道具を作るのには、かなりの魔力が必要です。つまり大量の魔石がいりますのんや」
――魔石……。地球で言うなら、石油? に近いものだっけ?
バッキーは考える。
確か、大気中の魔素が山や地下で結晶化したものだ。
金属や石油とは違い、採掘しても時間がたてばまた魔素はたまって結晶となる。
だから完全に掘りつくすということは起きにくい。
もっとも。そのサイクルはかなり長いものらしいが。
その結晶体を使いやすいように加工したものを、色んな用途で使用するわけだ。
バッキーは、自分の持っている杖を見た。
杖にはめられている緑の宝珠も、その一つである。
「それだけの魔石を手に入れるには、手間にしろお金にしろものすごいかかりますやろなあ」
「……購入されたのか、奪われたのか。そんな動きがどこかにあったと言われるのか?」
ライワがしかめっつらのままで言う。
「なかったようですねえ? ただ……」
「ただ?」
「ある部族のエルフたちが、魔石をどっかにえらいたくさん運んでいたらしい。そういう情報はおましたで」
シュニオは、おっとりした目を微かに細めてそう言った。
「エルフか」
その単語を聞いたライワは、しかめっつらを困った顔に変えた。
「――?」
バッキーには、その反応がよくわからなかった。
「ご存じのとおり。エルフは基本部族ごとに固まってて、排他的なんが多いですやろ? ドワーフと揉めてたり、人間を見下してたり、嫌ってたり。ましてこのへんはエルフとゴチャゴチャしてたこともありましたから。そら、やったやられた、恨みつらみは互いにありますわな」
「そう、なんですか?」
バッキーは思わず言った。
彼女の知るエルフは、猫のゴトクと少し見ただけだが、ユオンしかいない。
「そういえば――」
カーシャは思い出しながら、首をかしげた。
「昔、エルフを奴隷として捕えていたことがあったと歴史の本で読んだことがあるわ」
「ど……奴隷?」
不穏なその単語に、バッキーは思わずたじろいだ。
「だいぶに昔の話ですけどね。少なくとも、うちらの親世代が生まれるよりも前の……。エルフはあのとおり美形ばっかりですやろ? スケベなアホがムラムラ悪心起こすには十分すぎる。それに何年たってもふけんのやからなあ。おのれでいてこますとか、どっかに売り飛ばすとか」
「はあ……」
「まあ、とはいえ。それは当時もはばかられたことなんですわ。平たく言うと違法ですね。エルフに限らず奴隷自体が」
「……」
「とは言うても、そのへんは人情とか善悪の問題というより、色んな都合からですよ。ほら、この国は魔法の技に長けてますから。奴隷よりも使い魔やゴーレムのほうが使い勝手が良かったんですなあ。奴隷に限らず人間を使ういうのは色々面倒ごともたくさんおますのや。なんやかんやで手間もお金もいりますやろ? その上、疫病の発生源になることもありますし、逃げ出すこともある。場合によっては主人を裏切ることかてあります。恨みもするし、憎みもします。そら当たり前ですわねえ」
と、シュニオはため息。
「人間かてそうなんや。ましてや、エルフ。人間見下してたりするような気位の高い連中や。恨みも屈辱もえげつないですやろ。それにうちらにとっては大昔でも、向こうにとってはちょっと前程度。当事者も生きとるし、おぼえてますわ」
厄介な話ですよ、そう言ってシュニオは締めくくった。
「つまり、エルフたちがドラゴン騒ぎの犯人だと?」
「おおかた、そうでしょうねえ。まあ、エルフいうても、部族ごとで色々違うし。みんなまとめて一緒くたにするのんは無理ありますけど。部族間で揉めたり、戦争することもあるそうですから」
「……なんか色々話してるがよぉ。おいらたち、結局何するんだよ? その犯人を捜せってのかい?」
マコネが鋭い声で言った。
「いえいえ」
シュニオは首を振って、カーシャのほうを見た。
「一応、おおかたの目星はついてますのや。問題は、その連中とかち合う時です」
「……エルフは、人間よりもずっと魔力と魔法に長けている。それが集団だとすれば」
ライワが拳を顎に当てながら顔をしかめた。
「かなり厄介ですわ。戦争かもしれません」
「で。そのエルフを始末しろということね」
カーシャは、冷たい声でシュニオに言った。
「始末言うたら物騒やけど。まあ多分血を見んことにはおさまらんでしょうねえ……」
「よく言うわ」
カーシャはシュニオに対し、鼻で笑った。
「だったら――」
カーシャは、マコネとバッキーを親指でさす。
「この2人はネビズに帰しなさい。そのクエストには、不向きよ」
「姐さん……」
マコネは何か言いたげにしたが、
「……ま。そのほうがいいかもな」
「でも、リーダーは……」
「前の時だって平気な顔で帰ってきたろ? おいらたちがいても鉄火場じゃ足手まといだぜ」
マコネは不安そうなバッキーをなだめる。
「……」
「それによ。お前さん、ヒーラーだろ。回復役は後ろにいるもんだ」
「……。そうですね」
バッキーは少しうなだれてから、カーシャに向かってうなずいた。
「つまり、そういうことだから」
カーシャは言って、髪の毛をかき上げる。
「あのー、現場へ行くのはカーシャさんだけでもええんですけれども……。お2人も一応この街で待機しててください。後からお手伝いがいるかもしれませんよってなあ」
シュニオはそう言って、
「ちゃんとした宿を手配しますのんで」
「大した厚遇ですね」
どこか含んだもののある声で、ライワが言った。
「そら一応個人やのうてパーティーへのクエスト依頼ゆう形式ですからねえ」
「なるほど……」
――面倒なことになった。
ギルド支部の宿でギルドマスターへの報告書をまとめながら、ライワは頭を押さえた。
ミズイのドラゴン襲撃。
それが片づいたかと思えば、今度はバタムでのクエスト依頼だ。
――本来、ここの所属冒険者でやる仕事だろうに。
わざわざカーシャを使おうというのは、これまでのことに加えて、
――ドラゴンを討伐したのが大きかったか。
ドラゴンスレイヤー。
それを単身で成し遂げたカーシャの戦闘力をあてにしているのか。
――それとも、双方共倒れでも狙っている?
カーシャの存在は色んな意味で厄介だ。
ここでエルフのテロ集団と相打ちにでもなってくれれば、中央も安堵するかもしれない。
――しかし、それでシュニオに何の得がある?
彼女とて、いち地方のいち貴族にすぎない。
多分カーシャとは縁もゆかりもないはずだ。
そんなことを考えていると、
リン。
部屋に置かれていた魔導通信機が鳴った。
「――なにか?」
<ああ、ライワさん? これからちょっとお話しできません?>
聞こえてきたのは、シュニオの声だった。
「はなし、ですか?」
支部の、応接間。
いくつかある応接間の一つだが。
そこでシュニオは酒瓶を前に息を吐いていた。
「ナンギなことでなあ?」
すでに酔いが回っている声で、支部長は言う。
「上というか、中央にもね? 報告はしましたんよ? ちゃんと。せやのにねえ、ぜーんぜん人回してくれませんの……! エルフの武装集団って、国軍出す話やないですか。なのに、お前ンとこの人間でどうにかせえて。ムチャな話ですわ」
「……そ、そうですか」
酔ってからんでくる女に対し、ライワはひきつった顔で対応するしかなかった。
以前から、どことなく苦手意識のある相手なのだが。
こうなれなれしくされると対応に困った。
相手は爵位もずっと上の人間であり、支部長でもある。
だが、それはそれとして。
「うちとこの冒険者や騎士も、何人もやられてますのんや。相手はハイレベルの攻撃魔法をポンポン使うよって……。それが大勢や。もう最低最悪…」
――中央が放置している? まさか、楽観視しているのか……。いや、ミズイではドラグーンを送ってきていた……。状況がわからないはずがない。