破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「まあ、運営方針? ってのも色々あるようですが……」
報告書を出した後――
ユオン・キナは自分の長耳をいじりつつ、
「特徴的なひとつに、男社会からの搾取と支配からの脱却だそうです」
「おとこしゃかい?」
話を聞いているトーザ侯爵は、不可解そうに言った。
「いえ。まあ、この国なんかでも、国の運営とか王位継承者とか、基本男性でしょう。女性はあまりいない。いる場合も女傑と評される傑物ばかりで、ややイレギュラーなかたばかりです」
「ふうん」
侯爵は巨体を揺すりながら首をかしげ、
「確かに。そこらの凡庸な女ではそういう立場にはなれんか」
「権力はありますが、いざとなれば斬首になることもままある立場ですからねえ。あえてなろうというかたは、そりゃ少ないです。過酷な淘汰の果てにある、冒険者ギルドはまた別ですけど」
「おう。確かに、アレには怖い女が大勢いるらしいな」
「上位層は、下手な男よりも苛烈で残酷なかたも多いですね。血の気が多いとも言えますか」
「待て。まさか、そういう連中があそこに集まるなどとは言うまいな」
侯爵はやや表情を引き締めて、睨むような目つきに。
「もちろん、違います。そこはご安心を――」
「女が安心して暮らせる街かあ――」
マコネはテーブルの骨付き肉を取り、首をひねる。
「なんで女に限定するのかは知らんけど。あれって、どういう意味だ?」
「そうですねえ……」
バッキーは木製コップに入ったスープを飲みながら、
「女性が女性であるだけで加害されない、犯罪被害の心配をしなくていい。そういうところ、ですかね。たぶん?」
「
「そりゃそうなんですけどね。んー、なんだろ。それだけ、男性を信じられないってことじゃないですか」
「男に食い物にされ続けて、そう思うようになった、てのは、わかるけど……。ちょっと女に夢見すぎじゃねーの?」
「ううーん……」
「考え方が単純すぎるつーか、極端なんだよ」
「**のオバハンが消えた?」
ギルドナイトの副長は、部下の報告に振り返った。
「あー……。確かに、家にほぼ引きこもってるんだっけか? 話だけは聞いたことあるが」
「それでも近所の住民が、庭を歩いてるところは見かけてたそうですが……。数日、まったく姿を見せてないそうで……」
「で。わざわざ訪問したっての? 手厚いというか、なんというか……」
副長は困った顔で頭を押さえる。
――隊長が知ったら、『無駄な時間を使うな!』……と怒るんだろうねえ、これは。
「息子2人を説得して、一緒に行ったんですけど。これが、家のどこにもいなくって」
「……どっかで野たれ死んでるんじゃないの?」
困った顔の部下に、副長は冷たい意見。
「いやいやいや。そんな、気軽に死体なんか転がってたら大事件ですよ!?」
「……ああ。
「はい……」
「しかし? そのオバハンってのは、なんで引きこもってたんだい? 心でも病んでたの?」
「まあ、その……」
「何かおかしな事情がありそうだな。まあ、なんでもいいけど」
「どっかに消えちゃったババァ?」
ゴトクの質問に、そのサキュバスはちょっと考えて――
「プラカードや包丁持って騒いだヤツじゃないわよね」
「ああ。それとは別人だよ。ちょっと知り合いから頼まれてな。死体になってても困るってんで」
「ふーん。あんたも大変ねえ。そんな世話焼きばっかしてて疲れない?」
「好きでやってるんじゃねえがな……」
「んー……。で、おかしなオバチャンか……。ま、とはいえ。実年齢で言うなら私よりもずっと子供だろうけど」
うん。
そうそう。
サキュバスはうなずいて、
「前に、街中でこっちに塩まいてきた変なのがいたわ。息子がどうのと怒鳴ってたかも」
「ああ。それだな、多分」
ゴトクは腰に手を当て、疲れた表情でうなだれる。
「なんなの、アレ?」
「病人だよ」
「こっちの?」
サキュバスは頭をつつきながら、冷たく言った。
「まあ、そうだ」
………。
――何が哀しくって、こんなことまで……。
ゴトクは腕を組みながら、郊外を歩いていく。
中央部分とはまるで別物の、山と田畑ばかりの場所。
例の、行方不明になったという中年女。
いや。
もう【年寄り】という年齢かもしれない。
話を聞くに……。
息子たちにかなり偏執的な教育と銘打った虐待をしていたらしい。
思春期に入り、エロ関係に興味を持ちだした息子を罵倒。
自分の性嫌悪を倫理とか道徳という薄い皮にかぶせての押しつけ。
他の女は汚らわしいから関わるなと厳命。
おまけに。
下半身関係まで異常な熱心さで監視。
いわゆる夢精をしてしまった場合は、これまた発狂して怒鳴り散らした。
この徹底した
息子たち、特に次男は従順な下僕となっていたようだ。
が。
――こっちに来て、情勢が一変したか。
サキュバス。
彼女の思考からすれば、まさしく悪魔の化身。
それに、息子2人はあっさり陥落。
「あんたとはもうウンザリだ!!」
反抗して、家を出て行ってしまった。
いくらわめいて命令しても、
「うるせえ、キ××ババァ!!」
もはや肉体的な力は完全に逆転したのだ。
精神面が変わってしまえば、どうにもならない。
――まあ、ごく正常なことでもあるんだがな……。
ゴトクは思いつつ、探索を続けるが、
――こいつは……。
【痕跡】が、街の外まで続いていることに気づいた。
――すると、この街から出ていった? だが。年寄りの、ろくな知識も経験もない女が飛び出して行って、どうにかなるもんじゃねえ……。
ヤケを起こして、外でのたれ死ぬか、モンスターの餌か。
あれこれ考えながら、ゴトクはひとまず使い魔を放つ。
猫型の使い魔は、女の痕跡をたどって風のように走っていく――