破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「まあ、落ちつきなさい。そうヒステリックに怒鳴られたら話もできませんわ」
そう言ったのは、カーシャだった。
青い髪をした、絶世の美女。
騒いでる女たちとは、とても同じ性別、同じ生き物とは思えなかった。
「話を要約すると? つまり、皆さん自分の仕事にご不満だと――」
カーシャの物腰は優しく、穏やかだった。
そのせいか。
あるいは?
見下されていると、邪推したのかもしれない。
実際の話――
見下されてはいたのだろう。
「そうよ! 何とかしなさいよ!」
「こっちに呼んだんだから、責任とって!」
「何で、こんなことばっかしないといけないわけ!?」
「こんなこと、他のひとにやらせればいいでしょ!!」
などなど。
ほとんどが、そう若くない女ばかりの集団は騒ぎを再開。
いや。
前以上にヒートアップしていった。
「よろしい」
それを無視して?
カーシャは笑顔でうなずいた。
直後。
ヒュッ
風が吹くような音。
ベチャリ
何かが、地面に落ちた。
「え?」
その場にいたヤーマンにも、見えなかったし、わからなかった。
一瞬に、何がどうなったのか。
気づいた時には――
前にいた10人近い女の顔から、鼻がなくなっていた。
静寂の中、カーシャの手はひとりの女をつかんでいた。
どうやら。
騒ぎの中心人物……そのひとりだったらしいが。
「交渉に応じる余地はありましてよ。少なくとも今のところはね?」
言いながら、スルスルと――
カーシャはつかまえた女の顔、その皮をはいでいった。
果物ナイフでリンゴの皮をむくように。
「この先どうなるかは、皆さん次第。要求を聞いてほしければ、口を閉じて座りなさい」
絶叫をあげ、血をまき散らしてもがく女。
それを気にした様子もなく……。
カーシャは静かだが、よく通り、よく聞こえる声で言った。
「――よろしくって?」
「どうにか、落ちついたようですわ」
「そ、そうですか」
優雅な仕草でお茶を飲むカーシャ。
その姿を見ながら――
はつっかえながらも、どうにか応える。
「ミズ・ヒシャク」
カーシャは独り言のように市長の名を呼んだ。
どこを見ているのか、よくわからない眼。
「な、なんでしょう?」
「秘密ごとなら、お答えがなくってもけっこうなのだけど……」
あなた。
どうやって、こんな場所を造ったのかしら?
どうでも良さそうな口調。
カーシャはつまらなそうな顔で、窓に視線を移していた。
「……言って、信じてもらえるかどうか」
「なにを今さら。あなたがたからすれば、この世界こそ信じがたい場所なのではなくて」
上品な苦笑をまじえて、カーシャはそう言った。
「ええ。おっしゃるとおり」
言いながら、ヒシャクは立ち上がって棚から何かを取り出す。
古びたランタン。
――どっちかいうなら、安物の部類ね。
造形自体は、カーシャからそう判断されるものだった。
「触っても、よろしい?」
「ええ」
前に置かれたランタンを見てたずねるカーシャ。
うなずくヒシャク。
――魔力の形跡も感じない。単なる古道具ね。しかし……。
どこか、妙な。
臭いというのか。
何かうっすらとした違和感がある。
「これ、ずっと昔に道端で拾ったものなんです」
「へえ?」
だとすれば。
やはり、その程度の代物か。
カーシャが自分の判断に納得していると、
「正直、汚いゴミだとは思ったけど。妙に気にいって……。拾って帰ったんですよね。で、ずっとしまってたんだけど――」
ある日、いきなり。
こちらの世界に来てしまった時から。
「このランタンに、変なものを感じるようになったんです」
「……」
「それから、これからどうするか、どうしていくかで街がゴタゴタしてた時」
何気なく、取り出したランタンへ触れた。
この時。
ランタンに光がともり、うっすらと蒸気のようなものが噴き出して……。
「目の前に、不思議な格好をした、女の子が浮かんでました。すごく、きれいな顔で……」
上着から足のズボンまで、大きなトカゲの姿。
それが描かれた奇妙な衣服。
「やっと、目がさめた。お前が起こしてくれたのか? 礼を言うぞ、うん」
と。
トカゲの女の子は笑って言った。
「その礼といってはなんだが、何か願いをひとつかなえてやろう。何が良い? 不老長生。天に届くような富。強大な魔力。何でも言ってみろ」
語りながら、ヒシャクは苦笑して、
「夢だとか、妄想だと思いました。こんな、都合の良い話……」
「確かに? 私だって、同じようなことを思うでしょうね」
だが。
現実とは思えなかった。
そういうこと、なのだろう。
「まさか。そいつに、この街を」
「はい。女性だけが暮らせる、女性だけの街が欲しいって。そう、願いました」
「……はあ」
カーシャは何とも言えない顔を、片手で
「そんなことを願うまで、殿方が嫌いだったわけねえ。まあ、何というのか……」
「バカだと思いますか?」
「賢明だったとは、まず言えませんわね」
カーシャは淡々と言った。
「嫌いなのだったら、自分だけの家でも良かったのではなくて? 他の女性なんて無視すれば良かったでしょうに」
「そうかもしれません」
「他の女性も一緒に救いたかった? あなたの国では、それほど女性が冷遇されていたのかしら?」
「……ちゃんとした扱いをされていた、とは思えません」
「そう」
これが、具体的にどういうものかをカーシャは問わなかった。
あまり興味もなかったからだ。
ただ。
「――私も、殿方にさほど敬意を抱いたことはありませんわね」
「え?」
「何しろ。父親が尊敬できる、敬愛を抱ける相手ではなかったから」
「そう、なんですか」
「優しくされた
でもね?
あの男にとって、私はどうでもいい存在だった。
今わの際ですら私の扱いなど、気にもかけていませんでしたの。
ひどいでしょう?
言って、カーシャは冷笑した。