破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その110、オグ事件-37 嫌なものは避けたいらしい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「抱きしめてもらったことも、抱き上げられたこともない。言ってみれば、血がつながっているだけの他人。屋敷にも、ほとんど帰らなかったですし?」

 

 笑って語るカーシャに、

 

「それって、ネグレクトじゃないですか」

 

 ヒシャクは、どこか怖い目で言った。

 カーシャに対してではなく。

 おそらくは、話で聞く〝父親〟に向けた……。

 

「ねぐれくと?」

 

 カーシャのほうは、聞き慣れない単語に首をかしげた。

 

「つまり、子供をほったらかして、そのままで放置するっていうか……」

 

「ああ。それなら、確かに。父上は、そういう態度でしたわねえ」

 

 ポンッと、打つカーシャ。

 

「といって……。私も、殿方を誠実に愛したことはないのだけど」

 

 せいぜい、身を飾り立てるアクセサリー。

 あるいは?

 自分の立場をより大きく強くするための存在。

 他の女性へマウントを取り、優位に立つためだけのモノですわ。

 

 ククククク。

 

 と。

 カーシャはヒシャクを見ながら、魔女のような目つきで笑う。

 

「――婚約者のことだって、実際どの程度想っていたか知れたものじゃない。正式な婚約を交わしているのだから、ほぼ自分の所有物だと、思っていたのかもしれないですわねえ?」

 

「しれない?」

 

「……自分でも、よくわからないことってあるものよ」

 

 ヒシャクの疑問に、カーシャはそっけなく答えた。

 

「それに。貴族の婚姻にお芝居みたいなロマンスを求めるほうが愚かというもの。基本的には」

 

 まあ。

 殿方のほうだって、同じようなものだしどうということもないけれど。

 

 ヒシャクは、どこか遠くを見るような目つきで、

 

「……ちゃんと、誠実に愛してくれる男性なんているんでしょうか?」

 

「わかりませんわね」

 

 カーシャはゆっくり首を振る。

 

「そもそも。誠実な愛とやらがどういうものか、それだって私にはわかりません。色恋に関わらず、ひとを愛せる能力も資質も最初から持ち合わせていないのかもね?」

 

 あったとしても――

 今さら、無意味か。

 

 カーシャは密かに自嘲しながら、ランタンを撫でる。

 

「あなたは、どうかしら?」

 

「……!」

 

 何気ない、カーシャの言葉。

 それに、ヒシャクを顔を跳ね上げた。

 目を大きく、大きく開いて。

 

「そこまで驚くようなこと、言いました?」

 

 カーシャは不思議そうに問う。

 質問は――

 特に意図のない、明日の天気はどうかしら? 程度のものだった。

 

「誠実な愛。どういうものかはともかく? あなたにはそれがあるの?」

 

「私は……。わかりません……」

 

 目を伏せて、ヒシャクはどこか苦しそうに言った。

 

「あら、そう。まあ、わかったところで、だからどうしたというものではないけど」

 

 カーシャの反応は淡々としたもの。

 だが。

 それに、ヒシャクはどこかホッした顔で。

 

「だけど。なんだろう。自分が、男に、欲望の対象にされる。それは嫌だと思います」

 

「それは良い女のアクセサリーみたいなものではなくって?」

 

「……あなたは、そう思われるんですか?」

 

「まあ……? 社交界で、自分に見惚れている殿方の視線は、なかなか悪くはありませんでしたわ。自分がいかに価値ある存在か、証明されているようでね」

 

「そうですね……。ミズはとても、おきれいですから」

 

「よく言われますわ」

 

「あはは……」

 

 簡単に肯定するカーシャに、ヒシャクはちょっと脱力。

 

「だけど……。その、ですね」

 

「欲望というのは、性欲とか肉欲も含まれている。いえ、あなたの場合はそちらがメインかしら」

 

「はい。そういう目で見られていると、想像することも嫌で……」

 

「他人の胸の内なんて、あまりわかるものではないけれど。まあ、若さに関係なく殿方は女性の体を求めるのでしょうね。多少の好みはあれど――」

 

 ただ?

 言葉や態度に出すのならともかく?

 こっちの知らないところで、どう思ってどうしようと、何かできるわけでもないわ。

 わざわざ知りたいとも思わないし。

 

 言ってから、カーシャはヒシャクの顔を見つめる。

 少しだけ、その目を大きくしながら――

 

「あなた――まさか、そんなものを気に病んでこんな街を欲しがったの?」

 

「……いけませんか?」

 

「うまく、理解はできないかしら。でも、あまり健全な精神状態とは言いがたい……」

 

 言いかけて、カーシャはキョトンとなり、

 

 ク、ク、ク、ク。

 

 と。

 たまらないという顔で笑いだした。

 

 それに、ヒシャクは驚き、引く。

 

「いやはや。我ながら……。他人(ヒト)の精神について、とやかく言える立場ではなかったわ。いや、失礼」

 

 カーシャは片手をあげながら、身を揺する。

 

 それから。

 少しだけ背筋を伸ばし、青く美しい髪を触りつつ、

 

「んー。すると? ひょっとして、あなたに()()したサトナの女性たちも、似たような理由で移住してきたと」

 

「それは、色々あると思いますけど……」

 

「んん。いずれにしろ、殿方から距離を置きたいというわけ? そのへんは、まあ個人の自由よね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぼけんな、タコッ!」

 

 ボグッ

 

 打撃音と共に、女の体が転がった。

 砕けた鼻から血を噴き出して、殴られた女はヒィヒィとうめいている。

 中年らしいが……。

 今の状態では顔はわからない。

 

「お前なんかに説教されるいわれなんかないのよ、アホ!」

 

 言いながら、殴ったほうの女は蹴りつけていく。

 年齢は中年女よりもずっと若い。

 10代近いようだ。

 

「おい、何をしている!!」

 

「やば!?」

 

 騒動の中――

 

 駆けつけてきたギルドナイトに気づき、若いほうはあわてて逃げ出す。

 

 が。

 

「いだいっ! わかった、わかりました! おとなしくするから……ぎゃ!?」

 

 魔法で拘束された女は、さらに殴られて悲鳴をあげた。

 

 

 

 

 

 

「何の騒ぎだよ」

 

 事態がどうにか収まった後。

 呼ばれてやってきたヤーマンは、疲れた声でたずねる。

 

「ああ。単なるケンカ、というか年くったほうが一方的にやられたんだよ」

 

 前衛職の女は、部屋のほうを見ながら嫌な顔をする。

 それはヤーマンに対してではない。

 この事態そのものに、だった。

 

「で……。何が原因だ?」

 

「さてな。よくわからんけど、サキュバスをどうにかするとか、それに協力しろとか。そんなんをしつっこく勧誘? されたってさ」

 

 ギルド支部の内部……取調室の前で、2人の女は会話している。

 

「ああ。あいつか……。どうにかって、何をどうするんだ???」

 

「知らん。前からおかしいヤツだってのは、聞いてたけどな。一応ヒーラーに治療させたが。あっちは話にもならないね。完全にコレだ」

 

 ギルドナイト所属の女は、頭をつついてそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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