破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

188 / 357
その110、オグ事件-38 それなりはそれなり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大別すると、現在あの街には3種の住人がおりまして」

 

 ユオン・キナは、右手の指3本を立てて言った。

 

「1は、過去に何らかの理由で男性に対して強いトラウマのあるもの。これは比較的少数です」

 

 そこで。

 ユオンは少し間を置き、ちょっと考えてから、

 

「次に2、ですけれど。こっちはまあ何というのか……。そうですねえ、本人たちは無自覚でしょうけど一種の優越感、これを求めた結果かと」

 

「どういう意味だ、それは」

 

 トーザ侯爵は、カフェ・シガーを(くゆ)らせ、ジロリとユオンを見る。

 

「つまるところ。自分たちだけに許された特別な区域。それを占有することで、立ち入ることのできない男性諸氏を見下したい。こういったところでしょうか」

 

 ユオンは肩をすくめて、苦笑。

 

「とはいえ。彼女らは自分たちが被害者だと思って、それゆえの要求……だと認識してるようですけれどね」

 

「尼寺や女子寮みたいなものでは、嫌というわけか」

 

 トーザ侯爵はせせら笑う。

 

「みたいです。あんまりちゃんとしたことは考えてなかったようですが」

 

「確かに、浅はかな欲求ではあるか」

 

「あと。何と申しましょうか? 女性というモノに強い幻想、そんなものを抱いている感じです。女性という属性にしがみついて、それゆえに絶対視、神聖視してるというんですか」

 

 ユオンは頬を指で掻きながら、つまらなそうに言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グチグチグチと……うざいんだよ、このオバンが!!」

 

 バキ

 ゴキ

 

 広場に罵声が響いて、打撃音がそれに伴う。

 野次馬が、騒動を興味深そうに見ている。

 

 ギルド支部近くの広場だった。

 

 冒険者2人……。

 といっても?

 この街の住民は、全員扱いとしては冒険者。

 大半が、国民として認められない者ばかり。

 

 しかし。

 当然ながら、全員がそうではなく――

 ヤオアムトで生まれ育った国民でも、冒険者登録をして活動する者もいる。

 その多くが、貧しい生まれの者だ。

 

 騒動の中心にいる少女も、そのひとり。

 オグ近くの小さな町で育った。

 兄弟姉妹が多く、少しでも家の家計、というよりは負担。

 それを減らすため、冒険者となった。

 

 ――これもみんな、あのクソ親父のせいだ……。

 

 兄弟姉妹。

 そのほとんどは、少女とは母親が違う。

 実家はそこそこ金があるものの……。

 

 いや?

 むしろそれゆえの問題だ。

 

 父はあちこちに愛人を持ち、子供を産ませている。

 そのうち、何人かが実家に引き取られているのだ。

 

「あのひとぁ、見栄っ張りなのよ……」

 

 母がちょくちょくこぼしていた愚痴。

 

 ヤオアムトでは、貧乏人の男は結婚できない。

 結婚、妻を持つことは一種の社会的ステータスだ。

 

 かといって。

 それで女が自由に選べる立場に立てるわけでもない。

 

 サキュバスがいるのだから。

 

 なので。

 多く稼げる男は、基本複数の愛人を持つ。

 愛人を持たない、あるいは少数であれば、

 

「なんだい、あいつえらそうな顔して家計は逼迫してるのか」

 

「金ばかり貯め込んで、ケチな野郎だ」

 

 笑いものの対象になる。

 このへんは、わりと地域差はあるのだが。

 

 

 

 …………。

 

 

 

 だから、あのババァ、しつっこくからんできたんだよ。

 

 いや、知らないけど……。

 私も愚痴で、よく親父のこと言ってたけどさ。

 

 うん、まあ……。

 そしたら、あのババァからんできてさ。

 

 はあ、うん。

 そうだよ、たぶん。

 

 よくわかんね。

 なんか知らんけど、男の()()()()がどうとか、こうとか。

 意味のわかんねえことをブチブチグチグチと言ってきやがったし……。

 

 あ、どうも……。

 

 え?

 うーん……。

 

 そうだなあ。

 なんか汚いとかきれいとか、そんなことも言ってたかなあ。

 

 はい?

 

 ああ。そういえば……。

 息子がどうとかもなんか言ってたかなあ?

 

 そうそう。

 サキュバスがどうたらこうたらとも言ってたよ、確か。

 

 あれかな?

 息子がサキュバスにでもいれあげたんかね?

 そんなもん、いちいち気にしてもなあ……。

 

 ……ああ、そうか。

 変なババァとは思ってたけど、流民だったな。

 忘れてた。

 だいぶ遠くから来たんだな、きっと。

 

 ふうん。なるほど……。

 

 そんでサキュバスがいたんで、うろたえてトチ狂ったのか。

 

 え。

 

 いや、それは……。

 す、すいません……。

 

 そいで、あの、その。

 

 え!

 ちょ、え……。

 そ、そんなに払うの!?

 

 カンベンしてください……。

 お願いだから……。

 それじゃ、私、日干しになるよ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その――

 複数の女たちは街中央から離れた場所を歩いている。

 槍や小型の斧(ハンドアックス)で武装しており……。

 その動きから、多少の経験や訓練をつんでいるのがわかった。

 

 ギルドに雇われた歩兵。

 主に、他の街から集められた冒険者で構成されている。

 

 街の中、時折発生するダンジョンの対処。

 これも重要な仕事のひとつ。

 

「ちょっと、死肉ころがしなんかにかまわないで!」

 

 班長の女が、他の者に注意をしていた。

 

「あっちでウロウロしてるスライムもほっとくの?」

 

 その質問に班長は、

 

「そういうのは、素人連中にやらせるの。少しでも慣れてもらわないと、身がもたない」

 

「はいよ」

 

「あーあ……。ぜんぜん暇がないじゃない。どーりで給金が良いと思った」

 

「て、ゆ~か? あの、サトナだっけ? あっちからの連中、スライムも駆除できないんとちがう?」

 

「かもねー」

 

「ニワトリしめるのできな~いって、ほざくバカもいたし」

 

 

 こういった愚痴、雑談が飛び交っていく中……。

 

 

「え。じゃあ何か? 男の性欲全部消せって? そりゃ無理だよ」

 

「どういう経緯があって、そうなったのか。そりゃ知らないけど。まあ、無理な注文だあね」

 

「だいたい、そんなもんどこの誰に要請するのさ。中央、宮廷かい? ほぼ流民の、物乞い同然のババァが?」

 

「殴られて追い返されたらラッキー、悪くすればその場で無礼討ちだわ」

 

「頭の中、コレだから。考えるだけ無駄無駄無駄」

 

「いや、あのババァが無礼討ちになろうと知ったことじゃないけど。ひとつ間違えば、街全体にお咎めがあるよ?」

 

「ちょっと、頭くるくるになってるババァの巻き添え? ジョーダンはポイッだよ」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「あのさあ? そいつ、今のうちに」

 

「……バカッ」

 

「滅多なこと言わないでよ、それこそコレよ、コレ」

 

「ひと思いに首切られるならまだいいけど……。下手すると、逆さ吊りか、最悪、藁踊(わらおど)り……」

 

「あー、やだやだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。