破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その16、対エルフの臨時パーティー

 

 

 

 

 

「……面倒なことになってきてるなあ」

 

 ネビズのギルド本部。

 ギルドマスターは、大きく大きく息を吐きながら机や自分の服をゴソゴソさぐる。

 

「禁煙中じゃなかったんですかねえ」

 

 その様子を見ながら、ミゾイは苦笑した。

 

「あ、そっか」

 

「近頃はやりの花タバコに変えたらどうです? あっちは臭いもいいそうですよぅ?」

 

「いやあ、いい年のオジサンがお花の匂いプンプンさせてるのはどうかなあ」

 

「おしゃれじゃないですか」

 

「照れ臭くない?」

 

「別にいいと思いますけどねえ」

 

「そんなもんかな」

 

 ギルドマスターは軽く笑ってから、少しだけ目を閉じて、また開く。

 

「……エルフのテログループかあ」

 

「しかも、ドラゴン・ホルンを持ってる可能性があるってのなぁ……。これ、冒険者のやる仕事ですかねえ。それこそ国軍や勇者様の出番だと思いますけれど」

 

「だよねえ。それにさあ、ドラゴン・ホルンの情報流出? 今さらだよねえ。そんなのずっと前からわかってたことじゃないかな。多分だけどさ」

 

「そりゃ、国宝にもなってる魔道具の設計図が流出ってなあ、大失態ですから……。下手に表ざたにすりゃあそれこそえらいことですよ。……お茶でもいれましょうかね」

 

 と、ミゾイは部屋に置いてあるポットを手にする。

 

「問題なのは、流出もそうですけど。それで実物を作れたってあたりでしょうか?」

 

 手際よくお茶をいれながら、ミゾイは困った顔で言う。

 

「だねえ……。大体が、そういう魔術儀式とか錬金術とかって。設計図の文章まんまだけじゃ意味ないからなあ。そのまま読んでも、迷信のカタコトみたいなことしか書いてないし。一種の暗号文みたいなもんだからねえ……。それを解読できないとさ」

 

「しかし、エルフ……ですからね。時間をかけて解読した可能性もありますよ。さ、どうぞ」

 

「うん、ありがと」

 

 お茶を差し出されたギルドマスターは礼を言いながら、

 

「そういえば……マコネとか言ったよね、あのレンジャー職の子供」

 

「はい? ああ、パーティーに入ってるやつねえ。それがなにか」

 

「うん。なまりからしてさ、元々キーアから流れてきた人間だよなあ」

 

「ああ、そうでしょうねえ。2~3年前くらいでしたか。キーア国……あそこがドラゴンの襲撃を受けて、あちこちに被害があった。国も半ば崩壊して、その流民がヤオアムトにも――」

 

 そこまで言ってから、フェイスベールごしに口元を押さえた。

 

「これは、まさか?」

 

「いや……確証はないが、可能性はかなりのもんじゃないかな。キーアはどっちかというと貧しい土地の国だった。だからよそから奪うってことも多かった。そのへんは、まあどの国でも大なり小なり似たようなもんでもあるが……」

 

「……そういえば、あの国は王都にエルフの奴隷市場があったらしい、とのことですね」

 

「だとすれば。標的となるには十分だよなあ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 バタムのギルド支部。

 人は、あまりいなかった。

 どこか暗くてよどんだ空気が充満しているような。

 陰鬱なムードだ。

 

 カーシャは、一人あいた席に座っていた。

 誰も、話しかけてはこない。

 それどころか、視線を合わせることさえしなかった。

 明らかに(おび)えているのが、バカでもわかる。

 

 しかし、そんなものはカーシャにとってはどうでもいいことだった。

 さっさとクエスト片づけたい。

 ただ、支部の暗い雰囲気。

 これは、カーシャが来る前からそうだったのだが。

 

「いやー、お待たせしてすみません」

 

 入口から、シュニオがあわただしく入ってきた。

 その後ろから数人が続いて入ってくる。

 

「今回、合同でクエストに参加してもらう冒険者たちです」

 

 シュニオは言いながら、後ろの冒険者たちを振り返る。

 

「……」

 

 カーシャはざっと、並んでいる連中を見やった。

 

 若い男、というより少年という感じのヤツ。

 それに獣人種の女が3人。

 どう見ても40すぎの体格はいいが、凄みのない中年。

 背丈は大き目で、馬に似た顔だった。

 

 最後に三角帽子にマント――古典的な魔導士の服装をした、

 

 ――エルフ?

 

 ブルネットの髪は前が長く、目がほとんど隠れている。

 だが、片眼鏡(モノクル)をつけているのはわかった。

 エルフ以外の男2人はどちらも黒髪。

 そして明らかに同一人種、というか。

 

 ――フルイツバキ……バッキー。

 

 似ている。

 こいつらはおそらくバッキーと同一か、そうでなくても極めて近い人種だ。

 

 顔立ちだけではない。

 雰囲気も、まるで血縁者のように似ていた。

 さらに観察してみると、どうもお互いを意識しているのがわかる。

 

 ――どういう関係?

 

 カーシャは、好奇心をくすぐられた。

 

「……」

 

 無言で、若いほうへ近づいていた。

 その途端、獣人の女たちが前に立ちはだかる。

 

「警戒するなと言わないけど、別にケンカを売る気はない」

 

 カーシャは一応弁明しつつ、後ろの少年を見た。

 

 ――……!

 

 ほんのかすかだが、懐かしい臭いがした。

 焦げ臭さと、血や臓物の腐ったものが混じった臭い。

 あの赤黒い場所。

 〝地獄〟でさんざん()いだ臭いだ。

 

 ――でも……。

 

 こいつは違う、とカーシャは思った。

 あの世界を経験したにしては、あまりにも――

 

「ぬるい」

 

「えっ?」

 

 カーシャのつぶやいた言葉に、少年は困惑。

 

「いえ。優しそうで、おだやかそうだと思っただけよ」

 

 嘘の感想ではない。

 さっきの言葉が意味すること。

 そのへんを聞こえが良いように言い換えただけで。

 

「失礼」

 

 カーシャは後ろにさがりながら、獣人たちを見た。

 獣人は獣人だが、全員種類が違う。

 

 ――アナグマ……?

 

 一番小柄なやつは、よくわからない。

 初めて見るタイプだった。

 妙な目の隈が特徴である。

 次に、たれ耳の犬獣人(コボルト)

 最後が、

 

 ――狐か……。

 

 いつか本で読んだことがある。

 東の大陸には、魔力に秀でた狐の獣人が数多く住むとか。

 

 ――しかし……。

 

 エルフのテロ集団。

 そんなものを相手にするとなれば、ギルドナイトあたりが来ると思っていたのだが。

 

「えーと、まあ顔合わせたばっかりやし? それぞれ自己紹介しとくなはれ」

 

 シュニオは無理やりとわかる笑顔で、そんなことを言った。

 

「カーシャ。一応前衛のファイター職……ということになっているわ。冒険者ランクはSR」

 

 ドラゴン討伐を終えた後、そういうことになった。

 冒険者ランク。

 そんなものはほとんど意識もせず、忘れかけていたのだが。

 

「えと。僕はトクベー。レンジャー職です。ランクは、一応HRになります」

 

 緊張気味に、少年は言った。

 

「キューモじゃ」

 

 よくわからない獣人は、胸を張るように言った。

 

「メッカイ」

 

 コボルトはこれだけ。

 

「あてはタロザ言います。どうぞよろしゅう」

 

 最後の狐は、このへんの方言だった。

 所作も他の連中よりも洗練されているとでもいうのか、上品である。

 

「あ、みんなランクはHRです。僕ら4人パーティーで」

 

 補足したのはトクベー少年だった。

 

「そう」

 

 カーシャはそっけなく言ってから、馬づらとエルフを見た。

 

「自分は、ネイテク。見ての通り魔導士です。あ、こちらはチョージロー・シオタニさん。通称はジロさん。あなたと同じくファイター職です。ランクはどっちもHN(ハイノーマル)になります」

 

 HN。

 最低ランクのNより一つ上。

 初心者ではないが、半人前といったところか。

 

「ど、どうも」

 

 馬づらは緊張した顔で頭を下げる。

 

「よろしく。で、そういうあなたは――」

 

 カーシャはジロリと、ネイテクの顔を見る。

 

「いやあ、見ての通りエルフというとエルフなんですが。自分は混血でしてね。向こう様からすると〝混ざりもの〟で忌避される対象なんですよ。むしろ、人間社会のほうが暮らしやすいんで」

 

「……」

 

「そう怖い目で見ないでください。ドラゴンスレイヤーに睨まれちゃたまらんですよ。さっきも言ったように混血で片親は人間でしてね。エルフの社会はそもそも知らないんです。だから、エルフ全体に対しては正直義理も人情もないわけでして」

 

 ネイテクは両手をあげながら、弁解するようにしゃべり続けた。

 

「……」

 

 カーシャは確認するように、シュニオを見やる。

 

「あ、はい。身元とかもちゃんと確認しているし、そこは大丈夫ですわ。それにネイテクさんは実力も確かなんですよ? あんまり活動してないんでランクが低いだけで……」

 

 何やら、擁護するような弁解しているような。

 

「……で。そこの顔の長いあなた。もういい年のようだけど」

 

「あ、いや」

 

 馬づらに言うと、ウッと言葉につまった様子。

 

「あ、あははは……。いやね? あちこちの農村とかから出稼ぎで()はる人もいるんですよ。まあ、そういう人たちは専門? というわけでもないんで、まあどうしてランクは低いといいますか。はは……」

 

「ああ、そう」

 

 カーシャは、シュニオを見ずに馬づらをもう一度見てから、形だけうなずいた。

 

 ――まるで田舎町の山狩りね……。

 

 率直な感想は、それだった。

 人員の質も数も、あまりにもお粗末だ。

 

「これで武装したエルフの集団を始末できると、思っているわけ?」

 

 本気? と、カーシャは改めてシュニオを見た。

 

「ああ、いや……。うちんところの人員はだいぶやられてまして。街の防備にまわすので手いっぱいなんですわ。それでまあ、ドラゴンスレイヤーのかたにご期待してるわけで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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