破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「……面倒なことになってきてるなあ」
ネビズのギルド本部。
ギルドマスターは、大きく大きく息を吐きながら机や自分の服をゴソゴソさぐる。
「禁煙中じゃなかったんですかねえ」
その様子を見ながら、ミゾイは苦笑した。
「あ、そっか」
「近頃はやりの花タバコに変えたらどうです? あっちは臭いもいいそうですよぅ?」
「いやあ、いい年のオジサンがお花の匂いプンプンさせてるのはどうかなあ」
「おしゃれじゃないですか」
「照れ臭くない?」
「別にいいと思いますけどねえ」
「そんなもんかな」
ギルドマスターは軽く笑ってから、少しだけ目を閉じて、また開く。
「……エルフのテログループかあ」
「しかも、ドラゴン・ホルンを持ってる可能性があるってのなぁ……。これ、冒険者のやる仕事ですかねえ。それこそ国軍や勇者様の出番だと思いますけれど」
「だよねえ。それにさあ、ドラゴン・ホルンの情報流出? 今さらだよねえ。そんなのずっと前からわかってたことじゃないかな。多分だけどさ」
「そりゃ、国宝にもなってる魔道具の設計図が流出ってなあ、大失態ですから……。下手に表ざたにすりゃあそれこそえらいことですよ。……お茶でもいれましょうかね」
と、ミゾイは部屋に置いてあるポットを手にする。
「問題なのは、流出もそうですけど。それで実物を作れたってあたりでしょうか?」
手際よくお茶をいれながら、ミゾイは困った顔で言う。
「だねえ……。大体が、そういう魔術儀式とか錬金術とかって。設計図の文章まんまだけじゃ意味ないからなあ。そのまま読んでも、迷信のカタコトみたいなことしか書いてないし。一種の暗号文みたいなもんだからねえ……。それを解読できないとさ」
「しかし、エルフ……ですからね。時間をかけて解読した可能性もありますよ。さ、どうぞ」
「うん、ありがと」
お茶を差し出されたギルドマスターは礼を言いながら、
「そういえば……マコネとか言ったよね、あのレンジャー職の子供」
「はい? ああ、パーティーに入ってるやつねえ。それがなにか」
「うん。なまりからしてさ、元々キーアから流れてきた人間だよなあ」
「ああ、そうでしょうねえ。2~3年前くらいでしたか。キーア国……あそこがドラゴンの襲撃を受けて、あちこちに被害があった。国も半ば崩壊して、その流民がヤオアムトにも――」
そこまで言ってから、フェイスベールごしに口元を押さえた。
「これは、まさか?」
「いや……確証はないが、可能性はかなりのもんじゃないかな。キーアはどっちかというと貧しい土地の国だった。だからよそから奪うってことも多かった。そのへんは、まあどの国でも大なり小なり似たようなもんでもあるが……」
「……そういえば、あの国は王都にエルフの奴隷市場があったらしい、とのことですね」
「だとすれば。標的となるには十分だよなあ」
「……」
バタムのギルド支部。
人は、あまりいなかった。
どこか暗くてよどんだ空気が充満しているような。
陰鬱なムードだ。
カーシャは、一人あいた席に座っていた。
誰も、話しかけてはこない。
それどころか、視線を合わせることさえしなかった。
明らかに
しかし、そんなものはカーシャにとってはどうでもいいことだった。
さっさとクエスト片づけたい。
ただ、支部の暗い雰囲気。
これは、カーシャが来る前からそうだったのだが。
「いやー、お待たせしてすみません」
入口から、シュニオがあわただしく入ってきた。
その後ろから数人が続いて入ってくる。
「今回、合同でクエストに参加してもらう冒険者たちです」
シュニオは言いながら、後ろの冒険者たちを振り返る。
「……」
カーシャはざっと、並んでいる連中を見やった。
若い男、というより少年という感じのヤツ。
それに獣人種の女が3人。
どう見ても40すぎの体格はいいが、凄みのない中年。
背丈は大き目で、馬に似た顔だった。
最後に三角帽子にマント――古典的な魔導士の服装をした、
――エルフ?
ブルネットの髪は前が長く、目がほとんど隠れている。
だが、
エルフ以外の男2人はどちらも黒髪。
そして明らかに同一人種、というか。
――フルイツバキ……バッキー。
似ている。
こいつらはおそらくバッキーと同一か、そうでなくても極めて近い人種だ。
顔立ちだけではない。
雰囲気も、まるで血縁者のように似ていた。
さらに観察してみると、どうもお互いを意識しているのがわかる。
――どういう関係?
カーシャは、好奇心をくすぐられた。
「……」
無言で、若いほうへ近づいていた。
その途端、獣人の女たちが前に立ちはだかる。
「警戒するなと言わないけど、別にケンカを売る気はない」
カーシャは一応弁明しつつ、後ろの少年を見た。
――……!
ほんのかすかだが、懐かしい臭いがした。
焦げ臭さと、血や臓物の腐ったものが混じった臭い。
あの赤黒い場所。
〝地獄〟でさんざん
――でも……。
こいつは違う、とカーシャは思った。
あの世界を経験したにしては、あまりにも――
「ぬるい」
「えっ?」
カーシャのつぶやいた言葉に、少年は困惑。
「いえ。優しそうで、おだやかそうだと思っただけよ」
嘘の感想ではない。
さっきの言葉が意味すること。
そのへんを聞こえが良いように言い換えただけで。
「失礼」
カーシャは後ろにさがりながら、獣人たちを見た。
獣人は獣人だが、全員種類が違う。
――アナグマ……?
一番小柄なやつは、よくわからない。
初めて見るタイプだった。
妙な目の隈が特徴である。
次に、たれ耳の
最後が、
――狐か……。
いつか本で読んだことがある。
東の大陸には、魔力に秀でた狐の獣人が数多く住むとか。
――しかし……。
エルフのテロ集団。
そんなものを相手にするとなれば、ギルドナイトあたりが来ると思っていたのだが。
「えーと、まあ顔合わせたばっかりやし? それぞれ自己紹介しとくなはれ」
シュニオは無理やりとわかる笑顔で、そんなことを言った。
「カーシャ。一応前衛のファイター職……ということになっているわ。冒険者ランクはSR」
ドラゴン討伐を終えた後、そういうことになった。
冒険者ランク。
そんなものはほとんど意識もせず、忘れかけていたのだが。
「えと。僕はトクベー。レンジャー職です。ランクは、一応HRになります」
緊張気味に、少年は言った。
「キューモじゃ」
よくわからない獣人は、胸を張るように言った。
「メッカイ」
コボルトはこれだけ。
「あてはタロザ言います。どうぞよろしゅう」
最後の狐は、このへんの方言だった。
所作も他の連中よりも洗練されているとでもいうのか、上品である。
「あ、みんなランクはHRです。僕ら4人パーティーで」
補足したのはトクベー少年だった。
「そう」
カーシャはそっけなく言ってから、馬づらとエルフを見た。
「自分は、ネイテク。見ての通り魔導士です。あ、こちらはチョージロー・シオタニさん。通称はジロさん。あなたと同じくファイター職です。ランクはどっちも
HN。
最低ランクのNより一つ上。
初心者ではないが、半人前といったところか。
「ど、どうも」
馬づらは緊張した顔で頭を下げる。
「よろしく。で、そういうあなたは――」
カーシャはジロリと、ネイテクの顔を見る。
「いやあ、見ての通りエルフというとエルフなんですが。自分は混血でしてね。向こう様からすると〝混ざりもの〟で忌避される対象なんですよ。むしろ、人間社会のほうが暮らしやすいんで」
「……」
「そう怖い目で見ないでください。ドラゴンスレイヤーに睨まれちゃたまらんですよ。さっきも言ったように混血で片親は人間でしてね。エルフの社会はそもそも知らないんです。だから、エルフ全体に対しては正直義理も人情もないわけでして」
ネイテクは両手をあげながら、弁解するようにしゃべり続けた。
「……」
カーシャは確認するように、シュニオを見やる。
「あ、はい。身元とかもちゃんと確認しているし、そこは大丈夫ですわ。それにネイテクさんは実力も確かなんですよ? あんまり活動してないんでランクが低いだけで……」
何やら、擁護するような弁解しているような。
「……で。そこの顔の長いあなた。もういい年のようだけど」
「あ、いや」
馬づらに言うと、ウッと言葉につまった様子。
「あ、あははは……。いやね? あちこちの農村とかから出稼ぎで
「ああ、そう」
カーシャは、シュニオを見ずに馬づらをもう一度見てから、形だけうなずいた。
――まるで田舎町の山狩りね……。
率直な感想は、それだった。
人員の質も数も、あまりにもお粗末だ。
「これで武装したエルフの集団を始末できると、思っているわけ?」
本気? と、カーシャは改めてシュニオを見た。
「ああ、いや……。うちんところの人員はだいぶやられてまして。街の防備にまわすので手いっぱいなんですわ。それでまあ、ドラゴンスレイヤーのかたにご期待してるわけで」