破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その110、オグ事件-40 多分なるべくして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつ、また手紙書いてるのか?」

 

「そうね。昨日、また荷物が届いたから」

 

 マコネの問い――

 カーシャはガーデンテーブルでカードを切りながら応える。

 

 屋敷の中庭。

 カーシャとマコネは、カードゲームに興じていた。

 

 様々な52枚のカードがセットになっているもので――

 一般的には、タリスマン・カードと呼ばれている。

 

 それを用いた中でも……。

 2人がやっているのは、比較的なシンプルな子供向けのゲーム。

 

「ふうん。文通ってえやつかい。アレがなあ」

 

 マコネは屋敷の2階、ボロンがいる部屋の辺りを見上げた。

 

「あの、サトナにいた変なヤツだっけ? おかしなしゃべりかたする」

 

「ええ。色々映画やアニメの感想を書いたりしてるようね」

 

「ふーん? 面白かった、で終わるんじゃないの?」

 

「その割には文章量というか、紙も多いようだけど」

 

「ほへえ……。しかし、あのサトナはどーなったかな?」

 

「まあ適当にやるのじゃないかしら」

 

 カーシャはカードを取りながら、

 

 ――問題があるのはむしろ、あの結界内の街か。ま、どうせそのうち国に取り込まれるでしょうけど……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでああいう(こじ)らせたのが暴走しちゃったかといえば……」

 

 と。

 ユオン・キナは、ペンを置いてから、ちょっと顔を上げる。

 言った相手は――

 報告書をまとめ、提出しに来たラミア魔導士。

 

「端的に言うと、サキュバスのせいですかね」

 

「サキュバス?」

 

 ラミア魔導士は頭上に、?マークを浮かべた。

 

「調べた結果、向こうの世界には人間種以外の知性種族は存在しない。当然? サキュバスも――」

 

「はあ。それは私も調査書を読みましたけど……。ホントなんですかね?」

 

「ホントです」

 

 ユオンはうんうん、とうなずいてから、

 

「そもそも、サキュバスの存在自体が女性というよりは……生物としての(めす)として非常に不利益なものなのですよ」

 

「え。そうなんですか?」

 

「いいですか? 雌雄ともに違いはあれども生物の根源的欲求は自分の血を次世代に残すこと」

 

 わかります?

 

 ユオンは微笑して、ラミア魔導士を見る。

 

「しかし? 何か人為的なもの、高度な技術がない限り子供を産めるのは雌だけ。ま、(おす)がいなければ子は残せませんが……究極、上位の上澄み、全体の1割程度、それ以外の(おす)()()()()のです」

 

「いえ、あの~。それってものすごい極論じゃないですか?」

 

 ラミア魔導士、ちょっと引き気味。

 

「いえ。もちろん? それはあくまで配偶者(つがい)として、ということです。出産とそれにともなう育児には、大きな大きなコストがかかりますから」

 

「それは、まあ…? お産は確かに、大変ですけど」

 

 同意しながらもラミア魔導士は、

 

 ――でも。ラミア族(わたしら)は子育てって村ぐるみ、街ぐるみでやるからなあ。私も子供の頃から、近所の赤ちゃんのおもりしてたし。

 

 そんなラミア魔導士の内心を知ってか知らずか?

 ユオンは続ける。

 

「残り9割の(おす)にも存在はしてもらわなくては困る。まず、モノの価値は、求める相手が多いほど高まる。そこに希少性が加われば、さらに」

 

「そこも、わかります」

 

「はい。なので? (めす)としては自分をめぐって多数の(おす)が競い合い、争うという図式は極めて有利なわけです。社会的にも、生物的にも。ここまではおわかりでしょう?」

 

「ははあ……。確かに、そうなればより良い配偶者をゲットできる可能性が上がりますよね」

 

「そうです、そうです」

 

 ユオンは何度かうなずいた後、

 

「でも、サキュバスがいると? (めす)としての価値はかーなーり減っちゃうのです。はい、それはもう色んな点で」

 

「そこも確かだと思いますけど」

 

 ラミア魔導士は、今ひとつ飲み込めないものがあった。

 

「さて。そこでちょいと話は脱線しますと。彼女たちが、自分……というか女性というか、(めす)というか。それ自体に大いなる価値があると信じこむ根本的な理由は、(めす)は子を産める存在であり、基本的に求められる性であること。そこにある」

 

「彼女たち??? ……あー、それってサトナ。え?、でも? それは自然界じゃわりと普遍的なのでは???」

 

「いかにも、その通りですけど。ここから難しいというか、厄介でしてねえ?」

 

 ユオンはニッと笑う。

 

「さっきの()()()()にプラスして究極的にまで(こじ)らせると、自分たちが無謬(むびゅう)で神聖な、あくまで善性の存在だと思い込んじゃうのです。意識無意識問わず」

 

「……あははは。それはいくら何でも。魔導官にしては、あまりにも、その、何というか……」

 

 ラミア魔導士は、ユオンの言説に苦笑する。

 

 暴論すぎる。

 それが彼女の感想だった。

 

「まあまあ。向こうとこっちではあまりにも違いが大きすぎるのです。で。話を戻せば」

 

 ユオンは手のひらをちょいっと上げて、

 

「向こうではさして問題はなかった。子供を産める。基本的に求められる。そこは変わらないので」

 

「はあ……」

 

「ですが、その前提を破壊するサキュバスがいるこちら側じゃどうかと言えば」

 

「ど、どうなるんです?」

 

 ユオンの目つきに、一瞬ラミア魔導士は引き込まれてしまった。

 

「女、いえ? 単に(めす)であるだけじゃ価値はありません。言ってみれば、男――(おす)と同じなのです」

 

「??? うん、うん……?」

 

 ラミア魔導士は何度か首をかしげてから、

 

「――ちょっと待ってください……キナ魔導官。まさか、そんなごく当たり前なことを、世紀の大発見みたいにおっしゃるつもりじゃないでしょうね?」

 

「いかにも、そうです。こっちというか、ヤオアムトと違って、向こうでは女性はそれだけで価値がある」

 

 社会、司法などでも同情を買いやすいし、受け入れられやすい。

 無論?

 それに付随するリスクも、デメリットもあるようですが。

 あの街で暮らして、住民を見て。

 何か思うこと、気づいたところはありませんか?

 

「……あああ」

 

 言われて――

 ラミア魔導士は、納得した。

 あくびみたいな声を出しながら。

 

「向こうと異なり、この国ではサキュバスが社会的、文化的にも、当然のものとして存在して受け入れられている。いや、むしろ必須の存在とされている。下位9割の(おす)だけではない。支配層にとっても。そもそも、建国の祖からして、サキュバスの子供だという話ですから」

 

「ホントなんですかね、あの伝承は」

 

「少なくとも、かなり古い世代から王家がサキュバスと子をなしていたのは事実だと思いますねえ。というか、いまだに時々ですけどやってるし?」

 

「は、はあ……。でも、確かにサキュバスがいるかいないで言えば、平民男性の不満度はまるで違うでしょうね」

 

「食べて、着て、眠る。これに性欲。何のかんの言っても、この4つを満たせれば民は満足するのです。あるいは妥協できる。これに多少の娯楽がプラスされたらもう100点満点。多少の悪政だって文句は言いません。愚痴はこぼしてもね」

 

「ああ。確かに、他国と比べてもヤオアムトの治安は良いですね」

 

「むしろそこまでできるのなら、もはや善政ですか。理想的統治とさえ言える」

 

「だけど、ですよ。魔導官の説にちょっと疑問があるんですけど」

 

 ラミア魔導士は、むむ、と考えながら、

 

「さっきまでの話が正しいとすれば、こっちの女性はもっと不満をためこんで、爆発させているはずでは?」

 

「あー。それはですね? 長い時間の中、淘汰や適応が繰り返されてきましたから――」

 

 ユオンは何かを思い返すような表情で、

 

「動物レベルの戦略しか使えない。そーゆー個体から死んでいったのでしょう。つまり男性と同程度に淘汰されていったのですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの街な――」

 

 と。

 ゴトクは店の商品棚を整理しながら言った。

 

「よそから派遣された貴族のご婦人が市長に就任したぞ」

 

 初代の市長は、隠遁生活らしい。

 

 ゴトクはそう言ってから、カーシャを見る。

 

「ふーん」

 

「反応が薄いな」

 

「あなただって、どうせこんなことになると思ってたのでしょう?」

 

「まあ、そうだが……」

 

 ゴトクは髪の毛を掻きながら、

 

「女だけの街ってところは変わらんようだし、ある種の特区って感じかねえ。貴族の女学校を建てる話も出てるしな。ある意味、ぴったりの場所ではある。あの結界、あの街自体も中央の研究員にとっては得難い研究対象だ」

 

「あんな正体のわからない場所に、よく貴族の子女を集められるものね?」

 

「そりゃ、貴族と言っても……」

 

「ああ? せいぜい準男爵や騎士クラスの……。いえ、あるいは平民の子供という線もあるのね」

 

「当たりだよ。学校っていっても……多少犠牲になろうが、さほど痛手のない連中だろうな」

 

 ゴトクは皮肉げに笑い、

 

「新しい市長だって、直接街に住むわけじゃねえ。オグに屋敷と仕事場を兼ねたもんを用意してる。ただ指示をするだけ。実務は送られた文官や魔導士の仕事だ」

 

「なるほど……」

 

 カーシャは、くすりと微笑む。

 

「幕切れは、なんとも貧相なものだったわね」

 

「〝竜がはばたき、枯れ葉が1枚〟ってやつだ。サトナ風に言うのなら――」

 

 大山鳴動して鼠一匹か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オグの研究所から始まり、2つの街が出現した騒動。

 公式記録では、【オグ事件】とされている。

 

 

 

 

 

 

 

 




とりあえずこのエピソードはここでひと区切り
次回からはまた別のお話になります

色々構成をやり直したいと言いましょうか……
改訂する時には組みなおしたいです(;^ω^)
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