破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
猫のゴトクが主役となります
その少年が、たびたびゴトクの店に出入りしていることは――
「まあ。みんなというか、親しい連中は知ってるわな」
マコネは言っている。
栗色の髪。赤みがかった黒の瞳。
短めに刈った少年らしい、悪く言うと無個性な髪型。
顔立ちは悪くない。
身なりを整えれば、なかなかのものだろう。
さて。
この少年がゴトクのもとに訪れたのは……。
カーシャがネビズへ送られてくる少し前だった。
「手紙――?」
訪ねてきた少年から渡されたものを読んでから、
「ふうん。なるほど……。ま、いいか」
ゴトクは手紙をしまいながら、
「お前さん、見たところレンジャー職。いや、正確にはアーチャーが専門か」
「え。わかるんですか?」
「そりゃ体つきを見ればな。荷物は弓……リュックのサイズからすると、変形型か」
「あの、まさか手紙に書いてあったとか?」
少年は少し黙りこんでから、そんなことを言った。
「疑い深いのは、悪いことじゃないがな。こっちも弓に関してはいくらかおぼえがあるんだよ」
言ってから、ゴトクは奥から弓と矢筒を取り出して、
「どの程度のもんか。お前さんにはわかるかい?」
それを少年に手渡す。
「えーと、いや、これって……」
少年は弓を受け取るなり、困った表情に。
「アッハハハハ! もったいぶって出してきたのに、拍子抜けしたか?」
その反応を見て、ゴトクはいきなり笑い出した。
「そうだよ。どこにでもありそうな、下手すりゃ素人が使うような代物だ」
「な、なんですか、それ!? からかったんですか!?」
怒る少年に対して、
「まあ、落ち着けよ若き
「ええ……?」
ゴトクの言動に、少年はちょっと引きながら疑いの目を向ける
…………。
「すごい、ですね。まるで神業だ」
少年は、つっかえながら、変な声で、つぶやくようにそう言った。
まるで。
魂が抜けたような表情で。
岩場と草原の中間地帯。
そのあちこちに、モンスターの死体が転がっている。
ゴブリンの群れと、それを指揮するゴブリン・リーダー。
全てが、1本の矢で急所を射抜かれている。
時間にして、数分もかかっていない。
まさしく……。
あっという間、一瞬とも言えるもので。
「よしな。こんなのは基本だよ」
ゴトクは言いながら、矢を回収していく。
「き、基本ですか?」
「ああ。こいつらゴブリンは、的は小さいがその分耐久力も低い。多少狙いを外そうが当たればなんとかなる。多少強い弓なら、特にな」
「いや、でも」
「あー。言いたいことはわかる。強い弓ほど力もいるし、連射は難しいってんだろ。その通りだよ」
矢を全て回収したゴトクは少年を振り返りながら、
「だから、そのへんをカバーするためには色々やらんとならないわけだ。訓練とか、色々な」
「……」
「まあ、そういうわけだから――お前さんには、色々やってもらう。それなりのもんにするためにな?」
沈黙する少年に、ゴトクはそう宣言した。
「はい……!?」
「あの手紙には、そういうことが書かれてたからな。ま、嫌なら無理にとは言わん。入門料もタダってわけじゃない。ちゃんと払ってもらう」
「え、ええと……」
少年はしばらくうろたえていたが、
「わかりました、お世話になります。どうかご教授をお願いします」
ジッとゴトクを見つめた後、
この少年。
名前はボッツ・ルフといった。
かくして――
ボッツはその日より、ゴトクの弟子となったわけだが。
「まずは実地で訓練だ。とりあえず、基礎の基礎の基礎。そのまた基礎からだな。そいつをモノにしろ」
ゴトクは、基本となる弓の射型を教えて、
「で、だ。そいつを体に叩き込みながら、狙って射る。それと、もうひとつ」
射手として、基本になる集中方法だ。
こいつも後々応用を利かせなきゃならんが……。
まずは、2の矢。3の矢。
いいか?
百発百中なんてもんはない。
あっても、敵が1体とは限らねえ。
初日。
ボッツ少年は、近場のダンジョンに連れていかれた。
そこで。
ひたすらに狙い、射る。
これを何度も繰り返させられた。
数えるのも馬鹿らしくなるほどに。
ようやく終わった後――
「とりあえず? 今日お前が狩った獲物は全部お前の報酬にしていい。そっから入門料を払ってもらう。次からはこなしたクエストで稼いだ金を授業料として持ってきな」
疲労を感じないほどの疲労。
その中で、座り込んでいる彼にゴトクはそう言った。
「今日教えたことは忘れるなよ。無意識でもできるくらいに叩き込んどけ」
ここから、ボッツ少年の
「いいか? 弓だけ使えればいいってもんじゃない」
「
「
「指撃ち。指だけで弾を撃つ技だ。弾によっちゃ弓以上の威力も出す」
「魔力の制御。こいつがあると、射撃の威力を増大できる。魔法とは違うが、身体の強化を緊急時のブーストにも使える。もっとも、お前は専門の魔導士じゃないからな。消費量には気をつけろ?」
「狙撃。一撃必殺を要求される。基本的に強弓を使うからな。それだけの筋力をつけておきな」
「足の運び。体の運び。安定したところからの射撃なんざ、実戦じゃほとんどない。あらゆる場所を想定しておけ」
「基本的な体術。基本アーチャーは遠距離が基本だが、接近されるなんてのもよくある話だ。が、むしろそういう時こそ相手が油断してる場合も多い。即座に対応できるようになれ」
ゴトクの訓練や授業はハードだった。
しかし、難解というわけでもない。
言われたこと、基本的なことをやれるようになる。
それだけで――
どんどん技術が向上していく。
それが実感できた。
ただ、ゴトクのほうは、
「あんまり教えがいのないヤツだな……」
ちょっとばかり、つまらなそうに言っていた。
「おぼえも良い。基礎も応用もできる。教本渡してほっとけば、勝手にのびるタイプだ」
「あの、それって悪いことなんですか???」
思わずたずねたボッツに対して、
「悪くはない。むしろベストに近い。だが、俺としてはつまらねえんだよ」
個人的な好みで言えばな。
バカで出来の悪いやつのほうが、教えるのは面白いんだよ。
アレコレ考えて……。
教えるほうに創意工夫がいるんでな。
こういう返答だった。