破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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今回の番外編は
猫のゴトクが主役となります


その110・5 番外:弓使い(アーチャー)-1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その少年が、たびたびゴトクの店に出入りしていることは――

 

「まあ。みんなというか、親しい連中は知ってるわな」

 

 マコネは言っている。

 

 栗色の髪。赤みがかった黒の瞳。

 短めに刈った少年らしい、悪く言うと無個性な髪型。

 

 顔立ちは悪くない。

 身なりを整えれば、なかなかのものだろう。

 

 さて。

 

 この少年がゴトクのもとに訪れたのは……。

 カーシャがネビズへ送られてくる少し前だった。

 

 

 

 

 

 

 

「手紙――?」

 

 訪ねてきた少年から渡されたものを読んでから、

 

「ふうん。なるほど……。ま、いいか」

 

 ゴトクは手紙をしまいながら、

 

「お前さん、見たところレンジャー職。いや、正確にはアーチャーが専門か」

 

「え。わかるんですか?」

 

「そりゃ体つきを見ればな。荷物は弓……リュックのサイズからすると、変形型か」

 

「あの、まさか手紙に書いてあったとか?」

 

 少年は少し黙りこんでから、そんなことを言った。

 

「疑い深いのは、悪いことじゃないがな。こっちも弓に関してはいくらかおぼえがあるんだよ」

 

 言ってから、ゴトクは奥から弓と矢筒を取り出して、

 

「どの程度のもんか。お前さんにはわかるかい?」

 

 それを少年に手渡す。

 

「えーと、いや、これって……」

 

 少年は弓を受け取るなり、困った表情に。

 

「アッハハハハ! もったいぶって出してきたのに、拍子抜けしたか?」

 

 その反応を見て、ゴトクはいきなり笑い出した。

 

「そうだよ。どこにでもありそうな、下手すりゃ素人が使うような代物だ」

 

「な、なんですか、それ!? からかったんですか!?」

 

 怒る少年に対して、

 

「まあ、落ち着けよ若き弓使い(アーチャー)。青スジたてられてちゃビビっちまう。今から、コイツでどうモンスターを仕止めるか、お見せしようってんだ」

 

「ええ……?」

 

 ゴトクの言動に、少年はちょっと引きながら疑いの目を向ける

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すごい、ですね。まるで神業だ」

 

 少年は、つっかえながら、変な声で、つぶやくようにそう言った。

 まるで。

 魂が抜けたような表情で。

 

 岩場と草原の中間地帯。

 そのあちこちに、モンスターの死体が転がっている。

 

 ゴブリンの群れと、それを指揮するゴブリン・リーダー。

 全てが、1本の矢で急所を射抜かれている。

 

 時間にして、数分もかかっていない。

 まさしく……。

 あっという間、一瞬とも言えるもので。

 

「よしな。こんなのは基本だよ」

 

 ゴトクは言いながら、矢を回収していく。

 

「き、基本ですか?」

 

「ああ。こいつらゴブリンは、的は小さいがその分耐久力も低い。多少狙いを外そうが当たればなんとかなる。多少強い弓なら、特にな」

 

「いや、でも」

 

「あー。言いたいことはわかる。強い弓ほど力もいるし、連射は難しいってんだろ。その通りだよ」

 

 矢を全て回収したゴトクは少年を振り返りながら、

 

「だから、そのへんをカバーするためには色々やらんとならないわけだ。訓練とか、色々な」

 

「……」

 

「まあ、そういうわけだから――お前さんには、色々やってもらう。それなりのもんにするためにな?」

 

 沈黙する少年に、ゴトクはそう宣言した。

 

「はい……!?」

 

「あの手紙には、そういうことが書かれてたからな。ま、嫌なら無理にとは言わん。入門料もタダってわけじゃない。ちゃんと払ってもらう」

 

「え、ええと……」

 

 少年はしばらくうろたえていたが、

 

「わかりました、お世話になります。どうかご教授をお願いします」

 

 ジッとゴトクを見つめた後、丁寧(ていねい)に頭を下げた。

 

 

 

 

 この少年。

 名前はボッツ・ルフといった。

 

 

 かくして――

 ボッツはその日より、ゴトクの弟子となったわけだが。

 

「まずは実地で訓練だ。とりあえず、基礎の基礎の基礎。そのまた基礎からだな。そいつをモノにしろ」

 

 ゴトクは、基本となる弓の射型を教えて、

 

「で、だ。そいつを体に叩き込みながら、狙って射る。それと、もうひとつ」

 

 射手として、基本になる集中方法だ。

 こいつも後々応用を利かせなきゃならんが……。

 まずは、2の矢。3の矢。

 いいか?

 百発百中なんてもんはない。

 あっても、敵が1体とは限らねえ。

 

 初日。

 ボッツ少年は、近場のダンジョンに連れていかれた。

 

 そこで。

 ひたすらに狙い、射る。

 これを何度も繰り返させられた。

 数えるのも馬鹿らしくなるほどに。

 

 

 ようやく終わった後――

 

 

「とりあえず? 今日お前が狩った獲物は全部お前の報酬にしていい。そっから入門料を払ってもらう。次からはこなしたクエストで稼いだ金を授業料として持ってきな」

 

 疲労を感じないほどの疲労。

 その中で、座り込んでいる彼にゴトクはそう言った。

 

「今日教えたことは忘れるなよ。無意識でもできるくらいに叩き込んどけ」

 

 

 

 

 

 ここから、ボッツ少年の弓使い(アーチャー)修業は始まったわけで……。

 

 

 

 

「いいか? 弓だけ使えればいいってもんじゃない」

 

飛礫(つぶて)。一番簡単で習得しとくべき技術だ。あるとないとじゃ天と地ほどの差がある」

 

投石器(スリング)。こいつは携帯しやすいし、カモフラージュも楽。造り方やメンテのやり方もよくおぼえとけ」

 

「指撃ち。指だけで弾を撃つ技だ。弾によっちゃ弓以上の威力も出す」

 

「魔力の制御。こいつがあると、射撃の威力を増大できる。魔法とは違うが、身体の強化を緊急時のブーストにも使える。もっとも、お前は専門の魔導士じゃないからな。消費量には気をつけろ?」

 

「狙撃。一撃必殺を要求される。基本的に強弓を使うからな。それだけの筋力をつけておきな」

 

「足の運び。体の運び。安定したところからの射撃なんざ、実戦じゃほとんどない。あらゆる場所を想定しておけ」

 

「基本的な体術。基本アーチャーは遠距離が基本だが、接近されるなんてのもよくある話だ。が、むしろそういう時こそ相手が油断してる場合も多い。即座に対応できるようになれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴトクの訓練や授業はハードだった。

 しかし、難解というわけでもない。

 

 言われたこと、基本的なことをやれるようになる。

 

 それだけで――

 どんどん技術が向上していく。

 それが実感できた。

 

 

 ただ、ゴトクのほうは、

 

「あんまり教えがいのないヤツだな……」

 

 ちょっとばかり、つまらなそうに言っていた。

 

「おぼえも良い。基礎も応用もできる。教本渡してほっとけば、勝手にのびるタイプだ」

 

「あの、それって悪いことなんですか???」

 

 思わずたずねたボッツに対して、

 

「悪くはない。むしろベストに近い。だが、俺としてはつまらねえんだよ」

 

 個人的な好みで言えばな。

 バカで出来の悪いやつのほうが、教えるのは面白いんだよ。

 アレコレ考えて……。

 教えるほうに創意工夫がいるんでな。

 

 こういう返答だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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