破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
カーシャ。
もと、侯爵家の令嬢であり、身分を剥奪されて王都から追われた女。
やって来た当初から今まで――
話題のつきない人物。
彼女を見ながら、ボッツはほぼ無意識に気配を隠そうとしていた。
――いつ見ても……。
ゾッとするものをまとった女だ。
顔立ちが女神のごとく整っているだけに、より恐ろしい。
時間がたつにつれて、表立ったものは小さくなってはいるが、
――寒気がしそうだ……。
訓練で危険を察知する感覚が上昇した分……。
ボッツの本能は、嫌でも相手の殺気を読み取ってしまう。
普通なら、むしろその殺気がこちらに有利だ。
いわゆる〝
――でも、あれは……。
遠くからの狙撃も、奇襲も、
――無駄だろうなあ……。
こっちが殺気を感じるように、向こうはそれ以上に感じ取る。
確信があった。
「えと。じゃあ、かけますね?」
バッキーが近づいてきて、控えめな態度で言った。
「あ。はい……」
杖がかざされ、詠唱の魔法が発動される。
シュウウ……
「う……」
鉛のように重かった疲労や筋肉の痛み。
それが嘘のように消えていく。
いや。
筋肉がより強靭さを増し、再生されていくのがわかった。
「ちゃんと代金は払えよ」
ゴトクがボッツの肩を軽く叩く。
「あ、もちろんですッ」
バッキーが使う治癒魔法のレベル。
その高さに驚きながら、ボッツは声を大きくした。
「すみません。一応、仕事でやってるもので……」
「いえ。とんでもないです。ちゃんとお支払いしますッ」
バッキーの控えめに、ボッツはブンブンと首を振る。
そんなボッツを見ながら、
「あはは。そんな、一生懸命に言わなくても……」
バッキーは苦笑。
――優しいひとなんだなあ。
人見知りで、どこか壁のある人物。
ボッツから見るとそういう印象のバッキーだったが、
――実は違うのかも……。それに、度胸もすごいし
カーシャを少し見てから、ボッツはそう思ってしまう。
このバッキーにしろ。マコネにしろ。
――
だけど……。
やっぱり、とんでもない美人だよなあ……。
カーシャの容貌には、そう思うしかない。
「……怖いし、
ネビズの街へ戻り、馬たちを
ボッツは深い呼吸と一緒につぶやいた。
「まあな。それがわかりゃ上出来だ」
ゴトクは馬を撫でてやりながら、笑う。
「それがわからず、殺されかけたり、二度と荒事のできなくなったヤツもいる」
「…………」
「もっとも。あの怖さを
「ドラゴンを何匹も
「一匹でも退治できれば英雄だからな。普通なら、一国が軍を使ってようやく倒せるモンスターだ」
むしろ。
あいつが異常なんだよ。
ゴトクは静かに言った。
聞き取りやすいように、一語一語を噛んでふくめるように。
「――あの?」
「お前、あいつみてえになりたいと思ってるんじゃないのか」
ゴトクは背を向けたままボッツにたずねた。
「いや、それは……。確かに、そういう……。いえ」
ボッツは言いよどんだ後、ゴトクの背中を見つめる。
誤魔化すことなく、しっかりと。
「あれくらいに強くなれたら。確かに、そう思います」
「向上心があるのはけっこうなことだ。けどな」
ゴトクは、まだ背を向けたまま。
「お前、
「え」
「一見、パーティーの連中と一緒で、丸くなっているようには思える。いや、それは確かだが……」
道具を用意して、ゴトクは馬の世話をし始める。
「本質のところは、完全にぶっ壊れてる。パーティーの連中にしたって――」
「あの……」
「んー。そうだな……」
ゴトクは馬にブラシをかけながら、首をひねった。
「たとえば。マコネたちを含めて、この街にいるヤツら全員があいつのことを忘れて、敵に回ったとする。それで、あいつが苦悩すると思うか? どうにもならんな、と判断すれば」
しょうがないな、と。
見切りをつけたら、簡単に殺すぞ。
多少思うところはあるかもしれんが……。
容赦はするまいよ。
「な――」
ボッツは、言葉を失った。
ゴトクのブラシに、馬は気持ちよさそうにしている。
「といって……。よほど、強力な精神操作でもされん限り、あいつと敵対するやつはいないだろうがな。まあ……危険性がわからんバカは別として」
「だ、だって……」
「言っただろ。ぶっ壊れてるとな」
「でも、そんなのは」
「俺の偏見だって言いたいのか? 確かにその通りだ。実際どうなるかは、わからんよ。ただ、現状を見た限り、俺の予想はそんなもんだ」
「……」
ボッツは何も言えない。
ゴトクの予測や予想――
その正確性や信頼性は、これまでの付き合いでよくわかる。
「だいたい目標とする相手が間違ってるんだ、前提からな」
ゴトクは言いながら、馬用のブラシをボッツに投げる。
ボッツがそれをキャッチすると、
「強さだの技術だのを目標にするなら、ギルドナイトのライワあたりにしとけ。あいつぁ、冒険者の中では最強格のひとりだよ。金、装備、時間――そいつを惜しまないなら、ドラゴン討伐だってやれるかもしれん」
「……は、はい」
ボッツは、ギルドナイトの1番隊長を思い出す。
紫の美女。女騎士。
しかし、その美しさや凛々しさに反して、
「やり方はえげつない」
「殺し合いでは手段を選ばない」
そんな声をチラホラと聞く。
「あの女と比べれば、雑魚に見えるかもしれんが。そもそも、あいつが例外、異常なんだ。災害と背比べ、力比べをさせるようなもんだよ」
ゴトクは両手を腰に当てて、小さく笑う。
「生き物や道具の区別なく――乗り物の世話は
「……あ、はいっ」
ボッツはブラシを手に、急いで馬のほうへと走っていく。
ただ。
馬の世話していく中、
「せいぜい後ろでヒョロヒョロ矢を飛ばしてなさいよ。それしか能がないんだから」
思い出したくもない――
その言葉が、ボッツの頭によぎっていた。