破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
――あれ。えーと……。あれ?
自分を睨みつけている少女。
その顔には、見覚えがありすぎるほどにあった。
オレンジがかった赤い髪。
高めのポニーテール。
金色の勝ち気なそうな、あるいは攻撃的な瞳。
スレンダーっぽく見えるが、鍛えられた筋肉がわかる。
小さな頃から、幼なじみとして過ごしてきた少女。
「ミーシャ、だよな。うん。久しぶり」
ボッツの曖昧な返答に、
「……このッ!?」
少女は目を怒らせていた。
…………。
「ミーシャ・エルダー。その功績により、国より騎士の称号を授ける――」
宮廷の中で、ミーシャは正式にそれを受けた。
玉座の前に跪いて……ではなく。
国王自ら……とは、ならなかったが。
「そんなこと、よっぽどのことじゃなきゃないわよ。それこそ、ドラゴンを討伐した……くらいでなきゃね」
パーティーのヒーラーから、事前にそう言われてもいた。
――やっと、お父様に報告できる……!
貧しく、仕事に忙しい中でも何とか時間を作り、武術を教えてくれた父。
騎士の称号。
冒険者の中では、相当な実績がなければ得られない。
それでも、過去にそこから出世していった者も多くいた。
「よっしゃあ!」
宮廷からの帰り。
ミーシャは往来で、拳を突き上げて叫んだ。
衆人から変な眼で見られるが、気にしない。
が。
「どういうことよ!?」
ミーシャは噛みつくような態度で、リーダーに食ってかかった。
クラウド・ミラ・ゾウニ。
黒い短髪。黒い隻眼と
岩のような肉体を持つ、巨漢。
「言ったとおりだ」
クラウドは淡々とした声で、ミーシャを見おろしていた。
「戦力外通告で、やめてもらった。
「なに勝手なことやってんのよ!?」
ミーシャはクラウドの胸ぐらをつかんだ。
しかし。
身長差のため、だいぶ位置が低い。
「これでもパーティーリーダーだ。そのへんのことは決める権限がある。義務でもあるがな」
「ふざけないでよ!!」
目を怒らせるミーシャに、クラウドはあくまで冷静だった。
他のメンバーは、口をはさめずにいる。
「せいぜい後ろでヒョロヒョロ矢を飛ばしてろ」
クラウドは、いきなり妙なことを言った。
しかし?
「……!?」
ミーシャは絶句する。
「それしか能がないんだろ」
「…………ッ」
唇を噛み、ミーシャは血走った眼でクラウドを睨んだ。
「
蔑むのではなく、挑発するのでもなく――
やはり。
クラウドの態度も声も冷静だった。
「~~~~~~…………!!」
ミーシャはゆっくりとクラウドから手を放し、体を震わせる。
悔しそうな顔で。
そして、
「やめる」
押し殺したような声。
「このパーティー、ぬける!」
ミーシャは叫んで、クラウドに背中を向けた。
「そうか。まあ、好きにしろ」
「好きにするわよ!!!」
猛獣みたいな咆哮。
それを残して、ミーシャは去っていった。
「やれやれ……。ガキってのは」
クラウドは疲れたように自分の肩を揉む。
「……いいの? あの
「100年だろうが1000年だろうが、本人がその気じゃねえなら仕方なかろうぜ」
…………。
幼馴染同士の、少年少女。
両者がある種の
「痴話喧嘩ならよそでやってくれない?」
迷惑そうな声が、横から割って入った。
いつの間にか。
サキュバスたちが迷惑そうな顔をして立っている。
「だ、誰が! ちわ……」
「いやぁ、そういうのではないんですが。すみません……」
確かに。
迷惑なのは揺るぎない事実。
ボッツはミーシャが言い切る前に、謝罪して頭を下げた。
「な……!」
ミーシャが驚きと屈辱で顔を赤くしているのへ、
「確かに迷惑でした。失礼します」
ボッツはもう一度謝ってから、ミーシャの腕をつかんで早足に歩き出す。
「ちょっと、あんた、何を……!」
「ここで喧嘩売られたら、みんなの迷惑になるんだよ」
ミーシャの抗議に、ボッツはため息を吐いた。
…………。
「あんた、今まで何してたわけ?」
同じテーブルに座った途端、ミーシャは咎めるような声で言った。
夜の冒険者食堂。
半分酒場のようになっているが、専門の店に比べるとややおとなしめ。
「そりゃあ、訓練とクエストかなあ。基本そればっかり」
テーブルに肘をついたボッツは、感慨深げに言った。
「ふん。少しは使えるようには、なったみたいだけど?」
「ああ。先生が良いから。勉強することも多いし」
「はあ、そう? それっていやらしい場所にいく余裕がある程度のもんなわけね」
「え。いやあ、言われても今日が初めてだったし。今までそんなヒマなかったぞ」
「どうかしら。わかったもんじゃないわ」
「そりゃあ、証明しろって言われても難しいしなあ」
「……」
「? なに?」
「ずいぶんと余裕ぶってるじゃない。だいぶ自信がおつきになったようで」
「ま、多少はね?」
「ふんっ」
面白くない――
そんな表情で、鼻を鳴らし、そっぽを向くミーシャ。
「考えてみると……。半年以上たってるのか……。ここに来るのもだいぶかかったし」
ボッツは経過した時間を思い返しながら、何度かうなずいていたが、
「あ。そういえば。ミーシャは、どうしてここに? 何かのクエスト?」
「……腕試しよ。あちこち回ってね」
「ははあ。なるほど。確かに、ここには腕利きが多いからなあ」
経験で知っているだけに?
ボッツは実感を込め、またうなずいた。
「じゃあ、リーダーのクラウドさんや他のみんなも?」
「いないわよ。やめたから」
「やめたって、パーティーを?」
「決まってるでしょ? 鈍いわね」
「なんで?」
「そんなの私の勝手でしょ」
「ああ、まあ、うん。そうだけど」
――なに、その態度!?
ミーシャは、ボッツに対してひどくいらだっていた。
これまでとは違う。
どこか、他人事というのか。淡白で……。
かつてのように。
ずっと自分を追うような、あの視線はない。
「なんか、生意気になったじゃない。昔はずっと私にひっついていたくせに」
「うん。そうだった、そうだった。ありゃみっともなかったな」
「……なに、それ」
むきになるのでも、否定するのでもない。
その対応に、ミーシャはまたイラついた。