破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その110・5 番外:弓使い(アーチャー)-8

 

 

 

 

 

 

 

 ミーシャ・エルダーが、その女と最初に出会ったのは――

 クエストを終えて、ギルドで報酬を受け取った時。

 

 後は、すぐにボッツを探しに行く。

 そういうつもりだったのだが……。

 

 ミーシャは、報酬をしまってからもずっとギルド内にいた。

 長椅子に座り、口元で両手を組んで。

 

 ()()()が、いる

 

 ヤオアムトへ来るまで。その途中。

 ミーシャは、陸生竜(ズメルヴ)討伐に参加したことがあった。

 

 ズメルヴ。

 二足歩行。長い尾と猛牛のような角。

 頭部から尻尾まで伸びた金色のたてがみ。

 凶暴さで知られるドラゴンの一種。

 

 

 ちなみに?

 バッキーは画像でこれを見た時、

 

 ――牛の角をはやしたT-REXって感じ……。あれ、でも。あっちに比べると、前足が長いし大きいな。

 

 こういった感想を抱いた。

 

 

 ――あの時……。

 

 ミーシャはドラゴンとの戦いを思い返す。

 

 大勢の冒険者が、国の支援を受けながら、たくさんの犠牲を払い――

 ようやく倒した陸の暴君。

 

 ズメルヴと対峙する前に、離れた距離からも感じ取った気配。

 見るまでもなく、聞くまでもなく。

 相手の戦闘力や破壊力を感じさせたもの。

 

 つまり?

 巨大なドラゴンが、すぐ近くにいるのだと確信させる()()

 

 ――まさか、街の近くにドラゴンでもいるの?

 

 また。

 

 ――違う……? これは、もっと別の。

 

 ミーシャが混乱しながら、小さく身を揺すり続けていた最中(さなか)

 

「……ッッッ!?」

 

 ほぼ意識しないまま、弾かれたように……。

 ミーシャは身を低くして、長椅子から降りていた。

 

 女が立っている。

 

 同性でも見惚れそうな絶世の美女だった。

 長い青の髪。

 スラリとした、それでいて(はがね)のようなものを見て取れる体躯。

 青い宝石……蒼玉(サファイア)のように美しいが――

 刃物や氷のような冷たい水色の瞳。

 

 ――こいつッッ……!?

 

 対峙した直後。

 文字通り、瞬きほどの時間。

 

 ミーシャは、巨大な黒く濁った闇の塊を幻視した。

 おぞましい悪魔のような巨竜。

 

 いや。

 悪鬼(フィーンド)か。

 

 

 

 ――なに、こいつ。

 

 自分を見て異常に警戒している少女。

 遠巻きにおびえた連中は見飽きているが。

 

 ――こういうパターンは、あまりないかしら。

 

 名も知れぬ少女へ、カーシャが抱いた印象。

 

 それは、無力でありながら必死で吠える子犬。

 ……ではなく。

 

 牙も毒もない。

 逃げる羽も、速い脚もない。

 地面をのたうつしかないノロマなイモムシ。

 少し踏んだけで――

 容易く潰れ、絶命するちっぽけな虫けらだった。

 

 

 

 そのまま。

 青い女は、ミーシャの横を通り過ぎていく。

 

「……~~~」

 

 ミーシャはしばらく硬直していたが……。

 やがて。

 崩れるように長椅子へ座り、声も出さずにうめいた。

 

 しばらくしてから。

 

 ミーシャは何度も水を頭からかぶり、呼吸を整えた。

 自分の頬をはたく。

 

 ――あんなのが、現実の世界にいるわけ……? まるで……。

 

 まるで。

 神話やおとぎ話の怪物だ。

 

 怪物。

 物語の中では、英雄に打ち倒される存在だが?

 あの女を倒せる者は、想像がつかない。

 

 ――それこそ、神様か天使?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミーシャは、再び目にした女に絶句したまま動けない。

 

 ――? こいつ、昨日見かけた……。まあ、いいけど。

 

 カーシャは少女の横を通りカウンターへ。

 

「あ。どうも、こんにちは」

 

 ボッツは一歩下がって、挨拶。

 

「マコネの知り合いだったかしら?」

 

 カーシャは、ボッツではなくゴトクに言った。

 

「ああ。俺の生徒でもあるがな。言わなかったか?」

 

「たぶん、聞いてないわね。それはともかく……。クエスト用の携帯食を10用意してくださる?」

 

「あいよ。10日分ほどでいいかい」

 

「それでけっこう」

 

 ゴトクが品物を取り出している間、

 

「あの、ミズ? 今度のクエスト、俺も参加するんですよ」

 

「ふーん。それは大変ね。私は半分見物人みたいなものだから」

 

 気楽なものだけど。

 

 そんなことを言うカーシャに、

 

 ――気楽っ? 大砲亀が?

 

 この発言に、ミーシャは両目を見開く。

 仮に後方にいたとしても、いつ砲弾みたいな岩が飛んでくるかわからない。

 

「ねえ……」

 

「えっ?!」

 

 ボッツはミーシャの声に驚き、振り返る。

 普通ではなかったからだ。

 

「この、ひと……。どういう、ひとなの? 私……この国に来てから、ほとんど一直線でここに来たから……」

 

「み、ミーシャさん?」

 

 何をする気だ――

 ボッツは思わず飛び出しそうな言葉を飲み込む。

 

「私だって、けっこうできる、つもりだからさ? わかるよ? 嫌でも……」

 

「ふーん」

 

 携帯食をカウンターに置いたゴトクが、小さくうなる。

 

「少なくとも、俺の知る中じゃこの国で最強の冒険者、になるのか?」

 

 自分で言った言葉への疑問。

 ゴトクはそんな態度だった。

 

「いや、ヤオアムトを含めた周辺国を入れて、かね」

 

「これは、お褒めに預かり光栄ですわね」

 

 カーシャは、小さく笑う。

 

 この時、だった。

 

「あのー、ゴトクさん?」

 

 店先に、客が入ってくる。

 ヒーラーと思わしき、黒髪の女。

 

「ちょうどいいのが来てくれたかな」

 

 ゴトクは腰に手を当てて、ため息をつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「稽古? 私は正式な武術なんか知らないのだけど?」

 

「モンスターだって、そんなもんは知らんよ」

 

 カーシャの言葉に、ゴトクはそう返していた。

 

 ミーシャは木剣を手にカーシャと対峙している。

 

 木製とはいえ……。

 長く生きた巨木の枝から削り出し、特殊な加工がなされたもの。

 重く、硬い。

 非力な者なら、持ち上げることさえ難しい。

 

 それを手に、ミーシャは本気で打ちかかった。

 

 事前に、

 

「実戦同様とはいえ、実戦じゃない。特にお前さんだ、殺してくれるなよ? バッキーがいるから、生きてりゃどうとでもなる」

 

 ゴトクはカーシャへ念入りに言っていたが、

 

「お嬢ちゃんは、まあ好きにしろ」

 

 ――好きにさせてもらうッッッ!!

 

 

 暗転。

 

 

 ミーシャが跳ね起きた時、

 

「あ。すごい元気……」

 

 黒髪のヒーラーが感心した声。

 

「なにが、どうなったの……?」

 

「腕をつかまれて、叩きつけられたんだよ。地面に……」

 

 そばにいたボッツが、何とも言いがたい顔で言った。

 

「全身の骨が、ほとんど砕けてましたよ? 腕もちぎれかけてたし……。でも、すごいですね!? 大ケガだったけど、普通に生きてたし」

 

 黒髪のヒーラーからは、変な称賛をされてしまった。

 

 完敗。

 そんな言葉がじわじわとわいてきた。

 

 ――いったい、どういう強さなのよ……。

 

 ドラゴンとも、歴戦の猛者とも違う。

 異様なもの。

 少女が初めて出会ったモノだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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