破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
おいらが何かってーと。
まあ、はた目には浮浪児ってとこだろう。
大体合ってるし。
一応は冒険者っつー肩書もあるけど、最低のノーマルクラス。
レアになってからが一人前の世界で、このクラスのまま死ぬやつも多い。
かっこよく活躍できるやつはほんの上澄み。
底辺はその日暮らしの野良犬みてーなもんだ。
12の時に孤児院から放り出されて、もうすぐ一年。
良く生きてこれたとも思うよ。
この日もおいらはチュービ草原で雑魚スライムを探してた。
スライムの中でもまだ成長途中のヤツはガキでも狩れる。
一人前になったやつじゃなきゃ賞金は出ないが、それでも銭にはなるんだ。
潰した死体っつーか、粘液?
そいつを薬屋にもってけばそこそこの買い取り額だ。
でかいヤツはのろいが、油断するとやばいからな。
安全第一ってわけ。
その途中で、おかしなヤツを見た。
見た目は刑務所から出たばかりの元囚人みてーだったけど……。
すげー美人。
暗くって濃い青の長い髪に、水色の目をしてて。
ドレスでも着ればどっかのお嬢様でも通りそうだ。
けど。
明らかに浮世離れした感じなんだけど。
ぜんぜん隙がねえ。
下手にふところでも狙おうもんなら、腕を引き千切られそうだった。
ゾッとするような、危ない目つきをしてやがる。
何人……いや、多分何十人も殺してるな、と思ったね。
いかにもやばそうな相手なんで、そのまま離れようと思った。
そしたら、そいつをつけてる汚ねーのがいた。
最近噂に聞いてる。
初心者とか他人の狩った獲物を横取りする盗賊まがいの連中がいるって。
ギルドも追ってるらしいが、すばしっこくてなかなか捕まらないらしい。
なるほど、女一人でろくな装備……。
っていうか、何ももってねー。
襲ってくださいと大声で宣伝してるよーなもんだ。
まあ、どっちにしろ厄ネタだよ。
関わり合いにゃなりたくないんで、とっとと逃げようとした。
そしたら……。
あっという間だった。
まるでこう、小石を拾うとか、片手をあげるとか。
そんな感じの、あっさりとした感じで。
数人の男を殺しちまった。
何をどうしたのかも、こっちにゃよくわからんかったほどだ。
気がついたら、みんな死んでた。
……やっぱり、最悪のやべーヤツだった。
さっさと逃げりゃ良かったと思うけど、そんな暇すらなかったんだよなあ。
で……。
見つかった。
明らかにこっちに殺気向けてて……。
やべえ。マジ、やばい。死ぬかな?
あわてて飛び出して命乞いつうか、言い訳? そんなのをしてると。
「GWWWWOOOOO……!!」
うなり声がした。足音もだ。
ハッとすると、草むらをかきわけてでかいモンスターが飛び出してきやがった!?
トカゲ? いや、違う。
後ろ足で立ってて、頭にはコブみたいな角? が、いくつか……。
「レッサードラゴン!?」
おいらは思わず叫んでた。
種族的には、下等なドラゴンの端くれだって聞いてる。
だけど、ノーマルクラスじゃ手に負えないやばいヤツだ!
レアでもソロじゃあぶねえ。
頑丈だし、爪も牙も鋭くってやばい。
草原地帯じゃ、まず見ないはずなんだけど……。
おいらは、チラッとあのやばいねーちゃんを見た。
こいつを相手にどうするのか。
そういう、つまんねー好奇心があったせいかもしれない。
ねーちゃんは武器を手にしたまま、ジロジロとレッサードラゴンを見てた。
そしたら……相手はすばやく飛びかかって……!
あいつの後ろ足、その爪。そこが特にやばいって話には聞いてたけど……。
そしたら、レッサードラゴンはすっころんで悲鳴を上げた。
え?
なに?
よく見ると、ドラゴンの足首が二つともなくなってた。
血がどくどく出てる。
それでも、長い尻尾がビタンビタンと地面を叩いてた。
あれもやばいんだ……。
けど、その尻尾もぴょんとどこかに飛んでった。
切り飛ばされたらしい。
ねーちゃんの使ってるのは、安物の小剣?
いや、なんだアリャ……。
血でも塗りたくったみたいに、赤黒い。
槍もおんなじだ。
ねーちゃんの手から、やっぱり赤黒い煙みたいなもんが……。
なんかの魔法か?
そう思ってると、ねーちゃんはレッサードラゴンの前足を槍で叩き潰した。
こうなりゃ厄介モンスターも哀れなもんだ。
最後に、槍が脳天を貫いて、おしまい。
鮮やかなもんだ。
まるで豚を解体する肉屋みてーだな。ほれぼれとはしねーけど。
そしたら、またねーちゃんがこっちを向いた。
やべ。
思わず後ずさりをしてると、今度は馬の足音。
ギルドナイトの連中だ。
冒険者ギルドをしめてる、領主の直属だって聞いてる。
身分は低いが、腕利きの騎士や冒険者上がりばっかりだとか。
「何事だ、これは」
馬上から、リーダーらしい女騎士が言った。
紫の髪におんなじ色の眼……。
一見こぎれいな騎士様みてーだけど。
そこらの冒険者なんぞ比べもんにならねー殺気がある。
ねーちゃんは答えない。
おいおい、今度はギルドナイトともやりあう気かよ……?
どっちも殺気立ってやがる。
「ちょっと、そこのあんた」
そしたらギルドナイトの一人がおいらに話しかけてきた。
フェイスベールをつけた、占い師みたいな女だ。
目元が鋭くって、眉もまつ毛も薄い。蛇みたいな人相してやがる……。
「この状況、説明できるかい?」
馬から降りて蛇女は言った。
けっこう背が高いが、痩せっぽちで胸も尻も貧相。
「えっと、その……」
ともかく、おいらは事の次第を説明する羽目に。
こっちはあくまで巻き込まれたんだって、強調しながら。
「なるほど、なるほど」
蛇女は死体の一つに近づいて、何か呪文を唱えた。
すると、死体からフワッと煙が……。
いや、そいつは人間のガイコツみたいな形になって、
「アアアア……シヌ、コロサレル……。イヤダ、イヤダ。シニタクネエエ……」
ゾッとするような声でしゃべり出した。
こいつ……ネクロマンサーか!?
死体をゾンビにしたり、幽霊を操れるってジョブらしいが、見るのは初めてだ。
「お前は何故死んだ? 誰に殺された?」
蛇女がたずねる。
「アアア、ソイツダ。アオグロイオンナ……。エモノ、ダト。アア、コロサレル。シニタクネエ……。もんすたーヲヨブ。れっさーどらごん、クロウシテ、シコンデ。アアアア……」
「そういうことらしい。例の盗賊やってる連中だよ」
蛇女は女騎士を振り返ってうなずいた。
「手間が省けた、か? しかし、レッサードラゴンまで飼ってたとは……」
「なるべく街からは遠くに待機させてたんだな。いざって時はこいつに襲わせたんだろう」
渋い顔の女騎士。肩をすくめる蛇女。
「で、お前は――」
女騎士が改めて、あのやばいねーちゃんを見る。
「ああ、彼女は今日登録したばかりの新人さんだよ。初めてにしちゃ派手な仕事だったようだけど」
説明したのは蛇女だ。
「新人?」
「ちょっと変わったのが入ったらしいと、さっき聞いた。ま、本部で確認すりゃすぐわかるよ」
「ふん。とりあえず、こいつらの死体を運ぶ。モンスターの餌になると厄介だ。味を覚えられるからな」
女騎士は、他の連中に指示を出す。
「新人さん、とりあえずレッサードラゴンの報奨金が出るから、後で本部にいってごらん?」
「そう」
ねーちゃんは、少しだけうなずいて殺気を収めた。
やれやれ。なんとか穏やかにすみそうだ……。
そのままずらかろう、と思ってたら。
ねーちゃんは同じ方向に歩いてくる。
歩いてるだけなのに、小走りみたいなスピードだった。
「……へへへ。さっきは、おかしなことになったね?」
おいらは、ペコペコしながら愛想笑い。
「お前、なに?」
「いや……さっき言ったようにケチな冒険者さ。冒険ってほどのこたぁしてねーけど」
「子供のくせに?」
「そりゃまあ……親も家もない宿なしだからね。こうやって日銭稼ぐしかないのさ」
「冒険者か……」
女はちょっと考えたように黙り込んで、
「初めての街で勝手がわからない。案内なさい」
と、貴族のお嬢様みてえな態度で、当然のような顔で言いやがった。
「へへへ。そりゃあ、まあ嫌とは言わないけどね。おいらも、その日暮らしの立場でさ」
そしたら、いきなり槍を突きつけてきやがった……。
おいおいおい。逃げられねえよ、これ。
こうなったらもう、うなずくしかなかった。ついてねーなあ。
「で。お前、名前は?」
「おいら? 浮浪児でもマコネって名前だけはありまさ。よければ、お嬢様のご尊名もお聞きしたいですねえ」
ちょっとばかり嫌味を込めて言った。
「カーシャ」
ねーちゃんは、そう名乗った。
どっかで聞いた気がする名前だった。