破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
だいぶ間が開いてしまいましたが、投稿です。
ストーリーな脳内である程度できているんですけどね……。
「まあアレです。別に、自分らが敵さんを探して本拠地見つけて~ってわけでもないんですよ」
ネイテクが気楽な態度で言った。
「そもそも、ここのギルドナイトだっておバカでも無能でもありませんからね。敵さんの動向も、ある程度はつかめているんですよ。ただまあ……それがわかったところで、相手できるかっていうと微妙なんですが。何しろ相応の武装してて、その上レベル高い魔法使えるのがそろってますから。そりゃ腕に覚えのある騎士さんたちだってやられますよって話で」
顔合わせが終わった後。
『臨時パーティー』はギルド支部の地下室にいた。
地下室とはいっても、その内装はちょっとした上質の宿屋を思わせる。
部屋も広めで、ベッドが2つあった。
出発までのあいだ、ここで待機するように言われたのだ。
「――相手の本拠地を一気に叩くということだけど?」
カーシャは椅子に座ったまま、髪の毛をいじっている。
「まあそうですね。場所はある程度……ていうか、もう把握してるんじゃないですかねえ」
ネイテクはお茶を飲みながら笑った。
「なら、どうしてさっさと教えない?」
「さあ? 多分支部長たちでもわからなかったり、どうにもできない事情があるんだと思います。街の防衛を重視したのは、もしもカーシャさんがいない時にドラゴンなんぞが襲ってきたら……」
大惨事なので――と、ネイテクは笑う。
「……」
「ま、おそらく斥候が状況を確認してるんでしょうけど、できるなら敵さんがそろってるところを一網打尽にしたいのが人情でしょう。だから、見せかけの陽動くらいは出すんじゃないですかね」
「……ずいぶんと、情報に詳しいようね?」
「いや別に。流れからしてそんな感じじゃないかなと」
そこへ――
「皆さん、時間ですので出発してください」
あわただしく入ってきたギルド職員が、緊張した顔で言った。
「……まさか、こんなもんがあるとはねえ?」
ネイテクは手をかざしながら、感心した様子。
地下道から地上へ出た臨時パーティーは、街から少し離れた森の中にいた。
支部の地下から、長い通路を歩いて出た先だった。
「いざという時の脱出路かしら――」
歩き出しながら、カーシャはつぶやく。
森と言っても、人の手が入っているのがわかる。
きちんと管理されたものだ。
よく見れば、道らしいものさえある。
カーシャは歩きながら、地図を広げた。
出発の際、職員から渡されたものだ。
同じものを、ネイテクやトクベーも持っている。
「ここを北に抜けて、岩山近くのダンジョンをアジトにしている……と」
ネイテクは地図を馬づらに見せながら説明している。
「なんで、こんなギリギリになって教えるねん……」
馬づらは不審そうな顔で言う。
「おそらくは敵さんに悟られないための細工でしょうね。陽動が注意を引き付けている間に、こっちは敵さんのところへ殴り込むって感じですが。かなり雑ですな」
「雑って……」
「まあ、下手に魔法を使った隠蔽工作よりも、かえってこういうのがエルフには有効かもしれませんけど」
「なんか頼りないなあ」
「陽動っていったら、自分とジロさんもある意味そうですからねえ。本命がカーシャさん、次がトクベーさんたち。2組がうまく敵さん……できれば首領格のもとにいけるよう、まあぶっちゃけ囮にならないと」
「囮て……」
「そうじゃなきゃ、僕らが組み込まれるわけないでしょ。ま、そのためにジロさんに特別製の新型アーマーを着てもらってるわけで」
「――魔導アーマーね」
カーシャはいきなり振り返り、ネイテクたちを見た。
馬づらの着ている鎧。
魔導技術が組み込まれたもので、軍で採用しているものに近い。
カーシャも以前に見たことがある。
単純な鎧と異なり、身体能力の補助や強化機能が組み込まれているものだろう。
「ええ。新素材やら技術やらを使った、試作品ですよ。基本的な耐久実験なんかはパスしたんで。今度は実戦データをとりたいと思いまして」
ネイテクはニコニコと自慢げに言った。
「い、いや……実験って。それ実験体(モルモット)になれいうことやん!?」
馬づらは青い顔でネイテクに抗議。
「大丈夫です。安全のためジロさんには防御と耐性の魔法をかけておいたんで。何ならもう一回プラスでかけときますから、安心して肉盾になってください」
と、ネイテクはまるで悪びれもせずに馬づらの背中に手を当てる。
同時に魔法陣が形成されて、鎧ごしから馬づらへと入っていった。
「ひとッッつも安心できる要素がないんやけど……?」
馬づらはジト目でネイテクを睨んでいるが、
――エルフらしく、レベルの高い魔法を使うようね……。
知識のあるカーシャには、そこはすぐわかった。
――もっとも。どの程度あてになるかも不明だけど。
敵のレベル次第では、どれほど防御を重ねても、まるで無意味だ。
特に、ドラゴン種のようなモンスターには。
「……」
やがて、カーシャは立ち止まる。
前方を見ながら、黒い剣――カーラナーガを抜く。
「ん…。ありゃりゃ。ジロさん、止まって」
ネイテクは馬づらに言いながら、帽子をかぶり直している。
「え? どしたン……」
馬づらが不安げにしている間に、獣人グループも臨戦態勢に入っていた。
そして、いきなり。
ぬらりと、巨大な頭が木々の間から出てきた。
蛇に似ているが、蛇ではない。
角があり、獣のような特徴もあった。
間違いなくドラゴン種だ。
――ワイアームか。
蛇竜とか地竜などと呼ばれるモンスター。
地中や地底湖に生息することが多い。
巣穴の中には、黄金を始めとする貴金属をため込んでいる。
なので、このモンスターを倒して億万長者になったという逸話も多くあるが……。
――喰われる例のほうが、多いか……。
カーシャは構わず、ワイアームに向かって歩き出す。
ワイアームは蛇の目でカーシャを見るなり、その巨大な口を開いて、
パン。
ワイアームが首を突っ込んできたと同時に、そんな音が響いた。
カーシャは剣を横へ振るった体勢のまま立っている。
それから。
周辺に、血と肉片が降り注いだ。
ドオォ……。
と、音をたててワイアームが死体となって崩れ落ちた。
頭部は、完全に粉砕されている。
――弱い。
カーシャは血の臭いを受けながら思った。
〝地獄〟には、ドラゴンもいた。
だが、大きさも危険性もまるで違う。
不死の象徴と呼ばれる鱗も、地上のドラゴンは紙細工みたいだ。
どこか物足りなさを感じながら、カーシャはさらに歩き出す。
と、あちこちから石や矢が飛んできた。
ブン……!
カーシャはそのまま、黒剣を振るった。
飛んできた凶器は、全て砕けて微塵になる。
同時に――
カーシャはそこから消えた。
いや、他の冒険者たちにはそう見えたのだ。
ベキ!
メキ!
プチッ!
グシャ……!
何かが砕けるような音が、あちこちで響いた。
「おおお……」
ネイテクはしばらく呆けていたが、
「追いましょう!」
と、馬づら――ジロの背中を叩く。
それをきっかけに、冒険者たちはカーシャを追って走り出した。
「うお!?」
走る中で、ジロは地面に見て飛び上がった。
あちこちに、人間の死体が転がっている。
否。
人間ではなく、人間によく似たモンスターたちの死骸だった。
いずれも、原型をとどめていない。
完全にグシャグシャだ。
「……ゴブリン。それにホブゴブリン。おおっと、あっちにオーガもいますなあ。いや、大丈夫みんな死んでる」
死体を確認しながら、ネイテクはジロに手を振った。
ジロはワイアームの死体を指しながら、
「な、何が起こったのかさっぱりわからんのやけど??? っていうか、これ……」
「ワイアームですよ。こいつも立派なドラゴン種です。これの素材だけでもかなりの金になりそうだ」
ネイテクはワイアームを触りながら、ウキウキした声。
「とはいえ、こんなものが出てくるってことは、かなりの守りを固めてるってことですなあ。こりゃ敵さんの根城は――」
「って、おいおい。あれ……」
ネイテクの声を、ジロはあおいでさえぎった。
バキッッ。
ドスン……。
ギャアア………。
会話の合間に、遠くで破壊音や獣の叫びらしきものが響いてくる。
「――僕らも行こう。グズグズしてると置いてかれそうだ」
トクベーは、仲間の獣人に言った後、ネイテクたちを見る。
「そのようですね。ともかくまずはクエストを遂行しましょうかね」
パーティーがカーシャを追いかける道々――
モンスターの死骸があちこちに転がり、倒れた木々があった。
むわっと充満する死臭。
やがて。
「な、なんじゃこら!? 恐竜!?」
モンスターの死骸に、転びそうになったジロが叫ぶ。
「ああ。レッサードラゴンですねえ……」
そう言ってネイテクが見つめる先には、返り血で赤黒く染まったカーシャが立っていた。
「行くわよ」
カーシャはジロリとネイテクたちを見やった後。
冷たい声で言いながら、また先に進み出す――