破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
――あああ! ムカつく!!
頭から湯気を出さんばかり――
そんな勢いで、ミーシャは歩いていた。
ソテツにさんざんにおちょくられ、それに言い返して、また言い合って。
とにかく。
不毛極まることの繰り返し。
そして。
気がつけば早足で進んでいた。
――なんなの、あいつ!? 今までさんざん世話してあげたのに、あの態度っっ!
ミーシャにとって……。
認識としては、できの悪い弟みたいなもの。
少なくとも、そうだとは思っていた。
いつもいつも。
自分のそばや近くでウロウロして、なんとかかまってもらおうとする。
あくまで、自分よりも下の存在だった。
正直、男などと見れるわけがない。
――だから、しょうがなく……。
かまってやったし、世話もしてやった。
そうミーシャは思っている。
――どーせ、相手してくれる女の子なんてできないんだろうし?
それでは不憫。
――だから、相手してやった。
事実。
彼女と一緒のパーティー時も、
「いてもいなくってもわかんないよーなヤツ」
だったはずで。
――それが……! なに、あの白けた顔と態度!?
どこか淡白で、よく言えば落ちついた目つき。
まるで相手にしなかった女を見返す。
あるいは、振り向かせる。
そういうものは、一切なかった。
気に入らない。
とにかく、気に入らない。
発散の場がない感情をため込みながら歩くミーシャ。
「ドリンクのサービスでございます。よろしければ」
その途中、ウェイターが飲み物が並ぶトレイを差し出した。
「どーも!」
ミーシャは適当に飲み物を取り、そのまま通り過ぎる。
太った中年のウェイターの顔など、まったく見もせずに。
しばらく歩くうちに――
ミーシャは、自分が妙に汗をかいていることに気づいた。
体がほてるような、熱っぽいような。
――なに、これ……。
体がよろめきかけたところへ、
「あら、どうかしたの?」
柔らかい手が、ミーシャの体を支えた。
「え?」
黒髪で、泣きぼくろが色っぽい貴婦人。
後ろには3人の侍女が並んでいる。
「良かったら、少しお話しない?」
と。
貴婦人はミーシャの手を取った。
優雅で無駄のない仕草で。
「暑そうねえ。お水でもいかが?」
「いただきます……」
貴婦人のすすめで、ミーシャは冷えた水を飲んだ。
ちょっとはほてりが鎮まった気もする。
あくまで、ちょっと……だが。
ジャコー。
貴婦人はそう名乗った。
「さっき会ったばかりで、いくらも話していないけれど……」
引きずられるように、いくつか世間話をした。
いや。
世間話に付き合わされた後。
「あなた、とても勝気……闘争心が強いというのかしらねえ」
ジャコーは、ゆったりとした動作で首をかしげてみせた。
「特に、無視されることは不快に思う。私にはそう見えるわ」
「……なんで、そう思うんですか?」
「話して感じたあなたのひととなり、から?」
「……」
ミーシャは少しムッとする。
確かに。
それはその通りだった。
優れた騎士にして剣士でありながら出世のかなわなかった父。
決して愚痴や不満を口に出さなかったけれど……。
その背中に――
大きいが、疲れや悲しみのつもった父の背中。
ミーシャはそれを見るたび、父の気持ちを察した。
――だから……!
父の分まで、自分が――
そんな思いを秘めてやってきた、はず。
「あなたはさっき、色々と男の子の愚痴をこぼしてたわねえ。愚痴というか悪口だけど」
でも。
恋する殿方へ素直になれない、困った姫君みたい。
「はあ!? 恋なんて、してない。いえ、してません!!」
「そうね。私も違うんじゃあないかな、と思っているの」
「え???」
「ねえ。ミーシャ・エルダー」
ジャコーは名乗った覚えもない、ミーシャのフルネームを呼んだ。
「あなたや、
素性や能力、ある程度の性格。
そういうものがよくわからない相手には、依頼をしたくなかったもので。
「じゃあ、あなたが――」
「ええ。今回の依頼をした者ですわ」
ジャコーは言った後、何とも言えない目つきでミーシャを見つめる。
「ミズ・エルダー。あなたにとって、あのボッツくんはどういうひとなの? 古い友達? 弟? それとも、ただの家来?」
「け、家来って……!?」
「嫌なものよねえ。貴族の社会って、腹の探り合い、根回しに
「それで、私を見透かしてると、おっしゃるんですか……?」
「別に心を読む魔法なんて使えないから、100%なんてことは言えない。でも、けっこう当たるのよ? 私の勘ぐりは」
「――あなたは、出ていったボッツくんを追ってきた」
「ちがいます。色んな国をまわってるうちに……」
「ふむふむ。つまり、すぐに追いかけたわけじゃないと。そうねえ、本当に気持ちがあるなら途中で追いついてるでしょうし――」
「だから言ってるじゃないですか、ちがうって……」
「いかにも、その通りでしょう。だけど、もし? ボッツくんが技術はともかく、昔と同じような態度なら……」
ジャコーは目を細めて、
「あなたは
「何を、おっしゃりたいんです……」
「ボッツくんが昔と同じ態度なら、やはり
「だから、どういう意味だってお聞きしてるんです……。いくら、貴族のかただからって、あんまり……」
「うーん……」
体を震わせるミーシャへ、ジャコーは困った顔になり、
「何を、どう言うべきなのか? それを、私も迷っているの――」
いきなり、予定が狂った。
陰で見ていたスキンヘッド肥満体中年。
個性のわかりにくい顔をしかめている。
ともかく。
この場はあんまりよろしくない。
予定は変更して……。
切り替えて、男は次なる行動へ出ることを決めた。