破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その111、ウズコッケの保養地-5 「それを、私も迷っているの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――あああ! ムカつく!!

 

 頭から湯気を出さんばかり――

 そんな勢いで、ミーシャは歩いていた。

 

 ソテツにさんざんにおちょくられ、それに言い返して、また言い合って。

 とにかく。 

 不毛極まることの繰り返し。

 

 そして。

 気がつけば早足で進んでいた。

 

 ――なんなの、あいつ!? 今までさんざん世話してあげたのに、あの態度っっ!

 

 ミーシャにとって……。

 認識としては、できの悪い弟みたいなもの。

 少なくとも、そうだとは思っていた。

 

 いつもいつも。

 自分のそばや近くでウロウロして、なんとかかまってもらおうとする。

 あくまで、自分よりも下の存在だった。

 

 正直、男などと見れるわけがない。

 

 ――だから、しょうがなく……。

 

 かまってやったし、世話もしてやった。

 そうミーシャは思っている。

 

 ――どーせ、相手してくれる女の子なんてできないんだろうし?

 

 それでは不憫。

 

 ――だから、相手してやった。

 

 事実。

 彼女と一緒のパーティー時も、

 

「いてもいなくってもわかんないよーなヤツ」

 

 だったはずで。

 

 ――それが……! なに、あの白けた顔と態度!?

 

 どこか淡白で、よく言えば落ちついた目つき。

 

 まるで相手にしなかった女を見返す。

 あるいは、振り向かせる。

 

 そういうものは、一切なかった。

 

 気に入らない。

 とにかく、気に入らない。

 

 発散の場がない感情をため込みながら歩くミーシャ。

 

「ドリンクのサービスでございます。よろしければ」

 

 その途中、ウェイターが飲み物が並ぶトレイを差し出した。

 

「どーも!」

 

 ミーシャは適当に飲み物を取り、そのまま通り過ぎる。

 太った中年のウェイターの顔など、まったく見もせずに。

 

 

 

 

 

 しばらく歩くうちに――

 

 

 

 

 

 ミーシャは、自分が妙に汗をかいていることに気づいた。

 体がほてるような、熱っぽいような。

 

 ――なに、これ……。

 

 体がよろめきかけたところへ、

 

「あら、どうかしたの?」

 

 柔らかい手が、ミーシャの体を支えた。

 

「え?」

 

 黒髪で、泣きぼくろが色っぽい貴婦人。

 後ろには3人の侍女が並んでいる。

 

「良かったら、少しお話しない?」

 

 と。

 貴婦人はミーシャの手を取った。

 優雅で無駄のない仕草で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暑そうねえ。お水でもいかが?」

 

「いただきます……」

 

 貴婦人のすすめで、ミーシャは冷えた水を飲んだ。

 

 ちょっとはほてりが鎮まった気もする。

 あくまで、ちょっと……だが。

 

 ジャコー。

 貴婦人はそう名乗った。

 

「さっき会ったばかりで、いくらも話していないけれど……」

 

 引きずられるように、いくつか世間話をした。

 いや。

 世間話に付き合わされた後。

 

「あなた、とても勝気……闘争心が強いというのかしらねえ」

 

 ジャコーは、ゆったりとした動作で首をかしげてみせた。

 

「特に、無視されることは不快に思う。私にはそう見えるわ」

 

「……なんで、そう思うんですか?」

 

「話して感じたあなたのひととなり、から?」

 

「……」

 

 ミーシャは少しムッとする。

 

 確かに。

 それはその通りだった。

 

 優れた騎士にして剣士でありながら出世のかなわなかった父。

 決して愚痴や不満を口に出さなかったけれど……。

 その背中に――

 大きいが、疲れや悲しみのつもった父の背中。

 ミーシャはそれを見るたび、父の気持ちを察した。

 

 ――だから……!

 

 父の分まで、自分が――

 

 そんな思いを秘めてやってきた、はず。

 

「あなたはさっき、色々と男の子の愚痴をこぼしてたわねえ。愚痴というか悪口だけど」

 

 でも。

 恋する殿方へ素直になれない、困った姫君みたい。

 

「はあ!? 恋なんて、してない。いえ、してません!!」

 

「そうね。私も違うんじゃあないかな、と思っているの」

 

「え???」

 

「ねえ。ミーシャ・エルダー」

 

 ジャコーは名乗った覚えもない、ミーシャのフルネームを呼んだ。

 

「あなたや、()()()のことはある程度調べさせてもらったの。悪く思わないでね」

 

 素性や能力、ある程度の性格。

 そういうものがよくわからない相手には、依頼をしたくなかったもので。

 

「じゃあ、あなたが――」

 

「ええ。今回の依頼をした者ですわ」

 

 ジャコーは言った後、何とも言えない目つきでミーシャを見つめる。

 

「ミズ・エルダー。あなたにとって、あのボッツくんはどういうひとなの? 古い友達? 弟? それとも、ただの家来?」

 

「け、家来って……!?」

 

「嫌なものよねえ。貴族の社会って、腹の探り合い、根回しに権謀術数(わるだくみ)。そんなのはごく普通だから? 相手のことを、どれだけ見定められるかが重要になってくるの」

 

「それで、私を見透かしてると、おっしゃるんですか……?」

 

「別に心を読む魔法なんて使えないから、100%なんてことは言えない。でも、けっこう当たるのよ? 私の勘ぐりは」

 

「――あなたは、出ていったボッツくんを追ってきた」

 

「ちがいます。色んな国をまわってるうちに……」

 

「ふむふむ。つまり、すぐに追いかけたわけじゃないと。そうねえ、本当に気持ちがあるなら途中で追いついてるでしょうし――」

 

「だから言ってるじゃないですか、ちがうって……」

 

「いかにも、その通りでしょう。だけど、もし? ボッツくんが技術はともかく、昔と同じような態度なら……」

 

 ジャコーは目を細めて、

 

「あなたは()()()()、違う国へ行っていたんじゃないかな、と。私は思うのよ」

 

「何を、おっしゃりたいんです……」

 

「ボッツくんが昔と同じ態度なら、やはり()()()()、恋人を見つけるなり、結婚するなりしていたかもね」

 

「だから、どういう意味だってお聞きしてるんです……。いくら、貴族のかただからって、あんまり……」

 

「うーん……」

 

 体を震わせるミーシャへ、ジャコーは困った顔になり、

 

「何を、どう言うべきなのか? それを、私も迷っているの――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いきなり、予定が狂った。

 

 陰で見ていたスキンヘッド肥満体中年。

 個性のわかりにくい顔をしかめている。

 

 ともかく。

 この場はあんまりよろしくない。

 

 予定は変更して……。

 

 切り替えて、男は次なる行動へ出ることを決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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