破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その111、ウズコッケの保養地-8 「そうじゃない。そこは重要じゃないんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

「で――」

 

 帰りの準備をしながら、カーシャは振り向きもせずに言った。

 

 背後には、エルフの美少女――

 ユオン・キナが立っている。

 

「どっから来たのかまでは知りませんけど。おかしな技で好き勝手してましたので? ちょっとばかり小細工をしたんですよ」

 

 あれでなかなか、普通の歩兵や冒険者じゃ手こずるか……。

 捕縛できても派手になりそうなので。

 

 ユオンはそう言って苦笑。

 

「来月か再来月(さらいげつ)あたり、国王陛下ご夫妻がこちらにいらっしゃるので」

 

「ふうん。なるほど? おかしなスケベ男が暴れたなんて話が出たら」

 

「はい。()()()()ですから。この街にもケチがついちゃいます」

 

「それで、捕まったアレは今頃解剖でもされてると」

 

「ははは。いやあ、そこまでは。けど、わりとサンプルの多いタイプだから、死んじゃっても問題なし、ということになりそうですねえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気づけば……。

 

 

 

 黒いような白いような。

 あるいは灰色のような。

 

 奇妙な場所に浮かんでいた。

 

 空間内のあちこちから、いくつもの声が響く。

 

「まったくもって――」

 

「女を寝取った相手から闇討ちにあって死んじゃうなんて、君には失望したよ」

 

「そんな根性のかけらもないお前に朗報だ」

 

「新たに肉体を再生させて、司法も追ってこれない場所に送ってやろう」

 

「女子校生だの美人教師だの、そんなチャチなものじゃあない」

 

「高貴な姫君や貴婦人。凛々しい女騎士や可憐な魔法使い。美貌のエルフ。創作の中にしかいない美女や美少女が盛りだくさんだ」

 

「今まで種付けしてきた女どもが、薄汚いホームレスババァに思えるぞ?」

 

「ただし――」

 

「剣と魔法、日本社会とちがってモンスターがあふれた世界。命は紙のように軽い」

 

「そこのところはよく呑み込んでおけよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、現在。

 

 

 

 男は、そのブヨブヨとした体を揺らしていた。

 腕を完全に拘束され――

 天井に伸ばしたまま、つるし上げられている。

 三角木馬へ乗せられた下半身。

 

 薄暗い部屋だった。

 

「なかなか荘厳じゃあないか」

 

 大きな影が、楽しそうに言った。

 

「ま、待ってくれ……!」

 

 男は、必死で叫んだ。

 

「俺みたいなのを捕まえなくっても、イケメンはいくらでもいるだろ?! ナニしたって、面白くねえよ!」

 

 だからカンベンしてくれ。

 

 そういうものを込めて、男は許しをこう。

 

「いやいや」

 

 大きな影……巨漢。

 

 ラージ・トーザ侯爵は苦笑して手を振った。

 まるで。

 親しい友人に接するような態度で。

 

「そうじゃない。そこは重要じゃないんだよ、()()

 

「へ……?」

 

「気づいてはいないんだろうが――」

 

 と。

 侯爵は太い葉巻へ火をつけた。

 マッチもライターも使わない。

 火は、勝手についたのだ。

 

 単純な着火魔法のひとつ。

 葉巻の香りは、タバコのそれではなくコーヒーのもの。

 

「知ってるかね。こいつはカフェ・シガーというんだ?」

 

 君もやるかい?

 

 侯爵は友好的な態度で、葉巻を一本差し出す。

 

 当然。

 男のほうに、そんな余裕はない。

 

「やらんか? もっと豪胆だと思っておったんだが」

 

 侯爵は肩をすくめてから、

 

「ところで……自分の体を見て気づいたことはないかな?」

 

 言われて、男は気づいた。

 全身、特に腹を中心に不気味な刺青(タトゥー)が……。

 

「少し特殊な刻印でな? お前さんの特技……〝スキル〟だったか。そいつを潰す効果がある」

 

 その言葉に――

 男は一瞬ポカンとなるが、すぐに顔色を変えた。

 

「あー、封じるんじゃあない。潰すんだぞ? つまり、二度と使えなくなるんだ。刻印(そいつ)が消える頃には、便利なスキルは全部消えてるだろう」

 

 侯爵はカフェ・シガーを(くゆ)らせつつ、そういった。

 何でもないことのように。

 

「女を骨抜きにして、奴隷にする技か。便利なもんだ。こっちの手駒になってくれれば、相応の待遇はしたんだがなあ。いや、残念だ」

 

「ま、待ってくれ!?」

 

 首を振る侯爵へ――

 男は必死で弁解と〝売り込み〟をした。

 

 が、

 

「悪いがな? こっちだってバカじゃあない。君の素性は洗わせてもらった。近くの街で、なかなか派手にやったそうじゃないか」

 

「……!」

 

「うまくやったつもりだったかな? いささか考えが甘いね。とはいえだ……」

 

 侯爵はコーヒーの臭いがする煙を吐きながら、

 

「こっちにも色々事情があってね。ことを大げさにしたくはなかった。ケチがつくんでね。それがなかったら、即座に捕縛したんだが」

 

 おかげで、面倒なことをする羽目になった。

 しかし、まあ……。

 バカンスのついでと思うことにしたよ。

 

 言いながら、侯爵は男の頬をペチペチと叩く。

 

「こ、殺さないでくれ……」

 

 男はそういった内容のことを言った。

 

 侯爵はそれに対して、

 

「ほう。震えあがっても、そこだけ縮んでおらんね。見事な大筒だ」

 

 男の下半身を見ながら楽しそうに言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やめてくれ……!

 

 やめてくれ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男は――

 

 部屋の床に転がっていた。

 空っぽの酒樽(さかだる)……あるいは、死体のように。

 

 死んではない。

 

 ただ……。

 

 ある意味。

 死んでいたほうが、男にとっては救いかもしれない。

 

「なぁに気にすることはない」

 

 侯爵は全身の汗をぬぐいもせずに、カフェ・シガーを(くゆ)らせる

 

「こっちに関しては、(せん)じ詰めれば男も女も関係ないというもんだ。慣れることだな?」

 

 男は答えない。

 答えることも、言葉を認識することもできなかった。

 

「それにだ。君、モテるぞ。その体も、立派な大筒も」

 

 巨体を揺すり、侯爵は笑った。

 

「女というやつは、男が気にするほどサイズは気にせんものだ。男のほうが、そっちには執着するものだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「運が悪いのか、自業自得か……」

 

 プールサイドでバカンスを続けながら、ジャコーはつぶやいた。

 

「奥様、なにか」

 

 つぶやきを聞いた侍女が反応すると

 

「いえ? ちょっと考え事をね」

 

 艶っぽい笑みの後、

 

 ――けれど。我が旦那様相手なら良かったとも言えるかしら。あれで、お優しいかただから。

 

 ジャコーは夫の顔を思い浮かべていた。

 

 ――世の中には、もっと趣味の悪い男もたくさんいることだし……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今エピソード、あと一回ございますので
よろしくお願いいたします
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