破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
:あるギルドナイトの一人、その視点
俺は、なにを見ているのか……。
今回の任務は、エルフのテロ集団に対する陽動。
そのはずだった。
仮にも、街の守り手を自負していたギルドナイト。
俺個人としても、多分他の連中も不服な気持ちだったと思う。
と言ったところで、上の決定に逆らうことなどできない。
大体の話……。
すでに何度も討伐部隊を出して、その度に犠牲を出している。
同期の仲間が、何人も死んだ。
エルフたちは数こそ少ないが、強力な魔法の使い手ばかりだった。
攻撃やデバフ魔法ばかりじゃない。
中には、モンスターを操るヤツまでいるんだ。
モンスターに手間取っているところへ、高火力の魔法が飛んでくる。
対魔法の装備だってある。あるにはあるが……。
地方都市の冒険者ギルドが、数をそろえられる代物じゃない。
だが国軍が出張ってくれば、勝てない相手じゃないはずだ。
なのに……。
中央の連中はまるで話になりゃしない。
こないだはドラゴンがミズイの街を襲いやがった。
聞いた話じゃあ……。
腕利きの冒険者が一人で退治したらしいが……。
けど、単独でドラゴンを殺せるやつなんておとぎ話でしか知れない。
しかも、ワイバーンを引き連れた火炎竜だと?
本当にいるとしても、そんなのはとっくに中央がスカウトしてるはずだ。
正直胡散臭いデマだとしか思った。
それが――
あちこちに、モンスターの死骸が転がっている。
群れを成していたレッサードラゴンも。
さらに……。
翼こそないが、でかいグリーンドラゴンまでいた。
ブレスこそ吐かないが、頑丈さや馬鹿力はけた外れ。
下手な装備じゃ国軍だって危ない相手だぞ?
そう、そのはず……そのはずなんだ。
だが……現実は。
そのドラゴンが死体になって倒れている。
おいおい、嘘だろ……。
黒い剣を持った、暗い青の髪をした女。
そいつが、虫けらでも潰すみたいにモンスターを殺していく……。
あ。
エルフが1人、2人。3人……。
息をする間もなく、潰されていった。
その女は、でかいフルアーマーの男を片手につかんで動き回っていた。
見ただけで相当の重量だとわかるやつをだ。
あの鎧……。
そうか、モンスターの
本当なら、鎧を着た男がタンク役になるんだろう。
けど、あの女はそれをモンスターを集める道具にしてやがる。
「やめてくれぇ……! やめてくれぇえええ……!!」
鎧のやつは情けなく泣き叫んでいる。
確かに……気持ちはわかるが。
「ミズ・カーシャ! ヘイトを集める魔法は胸部装甲に仕込んであります。分離して盾になるので、それ使ってください!」
後ろから、エルフが叫んだ。
はぐれ……いや、半エルフだったか?
そいつの声と同時に、分厚い鎧の胸部が取れた。
なるほどな……。
外してみると確かに盾だ。
パッと見紋章みたいだが、魔法陣が彫り込まれている。
ドサリ
女は鎧男を放り出すと、今まで以上に動き回り出した。
気づけば後ろ。ハッとすれば斜め横……と。
さんざん苦戦した俺たちが、バカみたいだ。
エルフどもは、お得意の魔法を使う前にミンチとなっていく。
「……貴様、エルフが人間につくのかああっ!?」
あっ……。
味方側――黒髪のエルフが標的になったか?
盾の効果なし……。
そうか、エルフはモンスターじゃないからな。
けど。
叫んだエルフはその直後に、頭を吹っ飛ばされた。
そう木っ端みじんに……。
「ふぎゃああああーーーー!?」
あ、鎧のやつが魔法を喰らった。
「うおお……。なんでこんな目にあうねん……」
けど、生きてる。
半泣きになって地面を這いずり回ってるが。
かなり高威力の爆裂魔法をまともに喰らったんだけど。
そうか。
あの
そうこうしてるうちに、どんどんエルフの数が減っていく。
確かに、魔法を発動する前に倒せばいい。
理屈はあってる。
だが、エルフの魔法発動はかなり早い。
おまけに、対物理の
なのに、それを苦も無く破って相手を肉塊……いや、肉片に変えていく。
はははは……。
そりゃドラゴンだって瞬殺できるよな。
本当に。
本当に、あっという間だった。
呆然とする俺たちを無視するように、女はアジトの入り口……ダンジョンへと進んでいった。
他の連中も、それに続く……。
「いやはや、とんでもないですね」
血まみれで先を歩き出すカーシャを見ながら、ネイテクはため息を吐いた。
「も、もういや……」
放り出されているジロはげっそりとした顔でつぶやく。
「もうちょっと気張ってください。敵の本拠地はすぐ目の前ですから」
「っていうか、わしらもういらんやろ、絶対……」
「そうかと言って途中放棄で逃げるわけにはいきませんね、仕事なので」
「つらいのう……」
「まあ仕事なんてそんなもんです」
カーシャはダンジョンに入ると、周辺を見まわした。
あちこちに光があり、左右の壁は広く天井も高い。
「……うお、広いなあ。しかも
「見た目は、基本的なダンジョンですねえ」
「灯りがあるちゅうことは、やっぱり誰かが住んどるんやな?」
「いえ。どこのダンジョンでもああいったものがありますよ。まあ、灯りのない真っ暗なタイプもありますが」
「廃墟ちゅうか、無人やのに?」
「ああ、あなたが知らないのは無理もありませんか。ダンジョンというのは自然発生するんです、色んなところにね」
「は……?」
「理由は、まあよくわかりません。一説には古代の神々が何かのゲームとして作った魔法がいまだに働いているせい……というのもありますが。実際のところは、ねえ?」
「ちょ、ちょっと!? カーシャ、さん? そんなに先に……!」
歩いていくカーシャに、トクベーが呼びかける。
しかし、カーシャは聞く耳を持たない。
途中でいくつもの罠があった。
何匹ものモンスターが出現。
が、その全てが紙くずのように破壊され殺されて、まったくの無意味。
「……ムチャクチャどすなあ、あのおかたは」
後方を歩くタロザは呆れ顔。
「手練れというか、慣れてるわい。ありゃあ、人もモンスターも
「同感」
キューモや、ネッカイも似たような反応。
「あ、あのねえ? そういう決めつけは……」
トクベーはたしなめるように言ったが、
「
メッカイは断言した
他の2人も同じ意見らしい。
そんな獣人娘たちを見ながら、
「なんか、
「あのアライグマかアナグマの獣人は、キーアあたりの生まれでしょうね」
ジロとネイテクは会話をかわしている。
「しかし、妙ですね」
「え? なにが? あんまり怖いこと言わんといてや?」
「いえ。確かに厳重な守りではありますが……ダンジョンに入ってからエルフの姿が見えない」
「奥のほうに隠れとるんとちがう?」
「そうなんでしょうが……それでも迎撃に何人か出てきても良さそうなものです。モンスターにしても、エルフの魔法、
「なんか、あるんかな?」
「でなければ、いいんですがねえ……」
ほとんどカーシャによる一方的な撃滅をへて――
パーティーは今までにない、大きな場所へ出た。
奥のほうに、いかにも頑丈そうな扉が見える。
その扉の前には、
「マンティコア……!」
トクベーが身構えた。
「それも、魔法であれこれ改造やら強化された個体どすな」
「はっ。
タロザの言葉にキューモはニタリと笑って、
ブン!
手にした鉄棒を振るった。
鉄棒の先端部分は、鋭いスパイクで覆われている。
「あの物騒なんはなに? 鬼の金棒みたいやで」
「オニというのが何かしりませんが、あれは
ガッ! ベキッ!! グシャッッッ!!!!
「「「「――あ」」」」
会話が飛び交っている間に、カーシャはマンティコアを壁に叩きつけていた。
モンスターの巨体は半分近くがほぼ粉砕状態。
今までのモンスターとまったく同じ運命をたどっていた。
あちこちに、鋭くて大きな針がいくつも散乱している。
どれもこれも、半分以上砕け散った状態で。
「……あー。あの個体は、尻尾の毒針を飛ばすタイプだったんですねえ」
かがんで針をペンチで拾いながら、ネイテクはパーティーを振り返る。
「??」
「……あー、ほら。あのマンティコアの尻尾、先っぽがボールみたいになってて、まだ毒針も残ってるでしょう? アレを飛ばすんですよ」
と、ネイテクがジロに説明している間――
「――……」
カーシャは片手に
完全ではないが、肉体はできてきた。
最初の頃よりもずっと動ける。戦える。
それを実感して、薄く笑った。
息を少し吐いてから、カーシャは無造作に扉を蹴り破る。