破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
上を見上げた時――
巨大な翼が見えた。
そして。
鼓膜……耳、どころか?
全身が砕けそうな
その度に、炎が噴き上がる。
あちこちで赤く熱い柱が伸びていき。
熱い。
喉が焼ける。
――
「……あ~あ」
目を開いた時、マコネは不機嫌な顔で起き上がった。
――ったく。いやな夢見ちまったよ。
首を振っていると、鼻がピクリと反応。
食べ物……スープの匂い。
「あ。起きました?」
見ると。
バッキーが食事を並べていた。
真ん中には、鍋に入ったシチュー。
「おっと。キーア風のシチューかい」
ソファーから降りて、マコネはテーブルをながめた。
「ええ。前に、食堂でマコネさんが食べていたので。美味しそうだから、レシピを調べてみたんですよ」
「そっか。ま、並べるくらいはおいらがやるよ」
マコネはキッチンワゴンから料理を取り、器用に並べていく。
さらに、シチューも人数分を器にもっていった。
動きも早く、無駄がない。
その合間に、
空に気をつけ
足元よく見て
とんだ災難思わぬ時に
気をつけたって来るときゃくるけど
それでも
やらぬよりはマシ
マコネはそんな歌を小さく口ずさんでいた。
「相変わらず、すごいね」
「どーってこたぁねえよ」
マコネは軽く笑ってから、
「そういうお前さんも、なかなか腕が上がってるじゃないの」
器にもったシチューを、指でなめる。
「昨日食べた、マコネさんの料理も美味しかったですよ」
「まあな」
バッキーの言葉に、マコネはニッと笑った。
「あ。そういえば」
「?」
「さっきの歌……聞いたことがなかったですね?」
「ン? ああ。キーアの歌だよ。これと同じ出だ」
と。
マコネはシチューの鍋を指した。
「一応は、ここの隣国だな。なんとか持ち直したとかって話は聞くけど、どんなもんだかね」
「キーア?」
「何年か前に、あちこちをドラゴンに襲われてさ。ムチャクチャになった。流民も大勢出たな」
「それは……」
「よくあるこった。ドラゴンってのをどけたら」
「……」
バッキーは返答に困っていたが、
――あれ、でも。キーアの料理とか歌を知ってるって……。マコネさんは? いや、でも情報通だし?
そんなバッキーの表情から察したのだろう。
マコネは頭を掻きつつ、
「言ったことがなかったかね。おいらは、そこの生まれだよ。元・流民ってのは言ったかもしれねえが」
「え」
「まあ、待て。待てって」
マコネはちょっとあわてたように手のひらを突き出した。
驚くバッキーが顔に、一種の罪悪感を浮かべるのを見て。
「なにをどう思ったんだか、なんとなくはわかるけどな?」
キーアのことは思い出したくない。
歌も、料理もつらくなるから嫌だ。
そういうヤツのこと考えたんだろ?
マコネは椅子に座って、
「先に、もらうよ」
言いながら食事をとり始め、
「そりゃあな。お前さんの思ったようなこと、そりゃないこともない。けど――」
ンなこと言ってたら、死んじまうんだよ。
飢え死にか、モンスターの餌食か。
どっちにしたって、あの世いきだね。
ある意味。
ふてぶてしさの極みと言える顔つきと態度。
「ああ……。そう、ですね」
バッキーも納得するしかない。
ただ。
何かのドラマか、映画? それとも小説か。
極限状態で人肉を食べた――食べるしかなかった人物。
その後、死ぬまで肉類、特に刺身などの生ものは食べられなくなった。
こういう話を知った記憶がある。
また。
法事の席。
死んだ曾祖母のことを語っていたもので。
「戦中戦後と芋ばかり食べてたから、芋料理が大嫌いで自分では絶対作らなかったし、食べなかった」
そんな話も。
――けど。おんなじには、できないよなあ……。
戦後。
昭和の頃は、現代よりも治安は悪かったらしい。
――でも、街のすぐ外にモンスターがウヨウヨいて、ドラゴンなんかもいて……。何かあれば死んじゃう世界だもんね。
生前すごしていた時代の日本が、むしろ異常とも言える。
「食い物は食い物。料理は料理さ。それで死ぬわけでもねえし、毒があるわけでもなし。モンスターが襲ってくるでもない」
いちいち、気にしてられねーよ。
そんなマコネの言葉。
強がりもある、かもしれないが。
――やっぱり、生き物としての強さがちがうんだよね。クヨクヨしないし、なんかあってもすぐたち直るし……。
なのに、学習能力は高い。
――年下だけど、私よりもずっとオトナだわ……。
称賛の感情。
同時に、感じる自分への情けなさ。
それが、表に出ていたのだろう。
「? なんだよ」
「いや……。美味しそうに食べてるなって」
「うん。美味いよ? そういや姐さんは?」
「ゴトクさんのところへ、剣のメンテに行ってますよ。いらないだろうって、自分で言ってましたけど」
「使うたびに頑丈になってる気がするよな、あの黒いヤツ。……おっと、ボロンのヤツは」
「リーダーについていきましたよ」
「時々、よくわからんことするもんな、あいつ」
食事の後、しばらくして。
マコネはネビズの街を歩いていた。
裏通りや、橋の下。
時にはわかりにくいように、屋根の上。
高い場所からを空を見たり、下を見たり。
そんなことを少しやってから、
「――キーアか」
故国の名前。
それを口にしてから、また空を見る。
――今頃はどうなってんのかね。
帰る。
そんな選択肢はない。
――帰ったところで、知り合いもどうなってるかわからねえし。家もねえし。
家族はみんな死んでいる。
ならば。
ここで冒険者として生きていくほうがずっと良い。
――つうか、帰ったらまた根無し草だ。
ただ……。
――こうやって高いところにいると、思い出すよな。時どき。
キーアにいた頃。
大工だった父の仕事。
身軽さを買われて、よく高い場所での仕事を請け負っていた。
「お前の身軽さは、天性のもんだな」
いつか、ゴトクに言われた言葉。
――親父に似たんだな、そこんとこは……。
マコネはひとり苦笑しながら、
空に気をつけ
足元よく見て
とんだ災難思わぬ時に
気をつけたって来るときゃくるけど
それでも
やらぬよりはマシ
また。
故郷の歌を口ずさんだ。