破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その111・5 竜が飛んだ日-2

 

 

 

 

 

 

「あんたは、ホントに身軽だねえ」

 

 母親から何度も言われていた。

 

 マコネが生まれた街。

 冒険者たちや商人が行き交い、人間の中にいくつかの種族が暮らす。

 普通と言えば、普通の街。

 

 その中で、マコネは大工の娘として生まれて、育った。

 木登りから始まり、気づけば高い場所でもスルスルと猫のように歩く子供に。

 まだ10歳にならない少女の行動としては、かなり大胆で。

 

 母親をはじめ、近所の者からも心配されたりあきれられたり。

 父が大工職……特に屋根などを得意としていたため、だろうか。

 高いところをのぼりおりして、すばやく動き回る。

 まさに、野良猫のごとく。

 

 足も速く、年上の少年たちにも負けなかった。

 

 おまけに、妙にはしっこい。

 色々と小細工をしたり、誰かを手伝ったりして駄賃を稼ぐ。

 

「貧乏暮らしのせいかねえ……」

 

 母親はそんな娘にあきれたような、困ったような。

 

 とは言っても――

 金持ち・小金持ちではなかったが、父は腕の良い大工。

 食べるものに困る、という生活ではなかった。

 

「なぁに。将来はしっかりしたおかみさんになるよ」

 

「おてんば、じゃじゃ馬だけど器量は良いしね」

 

「そこは母親似だ」

 

「あの身軽さはおとっつあん譲り」

 

 こんなことを、身近な者たちは言っていた。

 

「まあ何にしても、冒険者なんぞになるよりはマシかねえ」

 

 ためいきまじりに母親は言っていた。

 

 冒険者。

 

 ダンジョンや森の奥、谷の底に向かい――

 モンスターと戦って生きる者。

 

 時々……。

 

 冒険者の狩ったモンスターが、荷車などで運ばれる光景。

 マコネはそれを見た。

 胸を張って歩く、羽振りの良さそうな冒険者たちも。

 

「父ちゃん、冒険者ってもうかるン?」

 

 娘のそんな質問に、

 

「儲かるのは、ひと握りだ」

 

 父は、つまらなそうに言った。

 

「ほとんどは死んじまうよ」

 

「そんな危ないのに、なんでなるヤツが多いの?」

 

「うーん」

 

 父親はちょっと考えて、

 

「だいたい2つある。ひとつは、それしか仕事がないからだ」

 

「じゃ、もういっこは?」

 

「今のお前みたいに、欲の皮がつっぱったヤツだよ」

 

 と。

 父親は笑って、マコネの頬を軽くつねった。

 

「危ない真似しても、金持ちになりたいヤツがやるんだよ」

 

「死ぬかもしれないのに?」

 

「死ぬかもしれないのに、だ。でもな、言っただろ? ほとんどのヤツは死んじまうんだ」

 

「ふうん……」

 

「冒険ってのは、勝てるかどうかわからんバクチを続けていくってこと。そいつはよくおぼえとけ」

 

 父親は何をか思い出すように、言っていた。

 

 

 そうかもしれない。

 いや。

 きっと、そうなのだろう。

 

 と。

 幼いマコネも、理解はできた。

 

 ――モンスターと戦うんだから、そりゃそうか。

 

 隊商がモンスターと出くわし、全滅した。

 近くの街が、モンスターに襲われた。

 

 こんな話は日常でもある。

 

 近所の子供が、小型モンスターを捕まえようとして死んだことも。

 アルミラージという角のあるウサギ。

 それに、突き殺されたのだ。

 貧しい家の子で、肉が欲しかったらしい。

 

 この時は、

 

「絶対真似するんじゃあないよ!」

 

 母親からしつこく言われた。

 

 直接襲ってこなくっても、畑に入り込むスライムなどもいる。

 潰した粘液は良い肥料になるが、

 

「食われたもんが、返ってくるわけじゃない」

 

 そうこぼす農夫たち。

 

 

 こんな毎日でも、底辺冒険者よりはマシだった。

 

 

 クエストの報酬は仲介をするギルドに何割も持っていかれる。

 大きなものになればなるほど、だ。

 

 その上、役人からは目をつけられる。

 

「何かあれば冒険者と思え」

 

 役人たちはそんなことを言っていたようだ。

 

 まあ、実際……。

 底辺暮らしで自暴自棄になり、犯罪を犯す連中もいる。

 だから完全な差別、偏見とも言いがたい。

 

「まあ、ギルドってのがそもそもヤクザもんの集まりだからなあ……」

 

 父親はそうも言っていた。

 

 そんな中で、いくらか安定している者もいたが――

 

 ヤオアムト出身の魔導士たち。

 得意分野に関わらず、ほぼ冒険(クエスト)など行わず、日々の仕事で暮らしていける。

 ()()()がきくのだ。

 

 

 ヤオアムト。

 

 

 近辺では最大の国であり、最強の国。

 

 そこから入ってくる魔道具や専門書は高価なものが多かった。

 ヤオアムト産の魔道具は、ある種のステータス、憧れの象徴。

 

 しかし?

 ヤオアムト出の女たちは、あまり祖国をよくは言わなかった。

 

 女はバカにされる。

 雑魚みたいな男からも見下される。

 わりばかり食う。

 

 こんな愚痴をこぼすのを、マコネは耳にしていた。

 まあ、故郷でやっていけなくなって逃げてきたようなものだから……。

 仕方ないことかもしれないが。

 

 

 なんだかんだの毎日の中。

 毎年、決まった時期にはある場所で変な儀式が行われる。

 

 その期間はわずか数日ながら、

 

 ――退屈なんだよなー。

 

 マコネは好きではなかった。

 子供はみんな似たようなものだったろう。

 

 ある場所……。

 

 ほとんど空き地みたいだが、近寄る者の少ないところ。

 そこで、葬式みたいなことが行われるのだ。

 

 いわゆる【鎮魂の儀式】だと聞かされたのは、魔道具職人のはぐれエルフから。

 

 人間に、いやほとんどの種族に敵対的な森の種族。

 

 そのはずだが、普通に街で暮らしているエルフ。

 

「オッサンはな? エルフからはじき出されたはぐれモンだよ。だからはぐれエルフだ」

 

 職人エルフはそう言っていた。

 

「エルフは森でどんな風に暮らしてるン?」

 

「知らんよ」

 

「だって、エルフなんだろ?」

 

「オッサンはな、捨て子だったからぜんぜん知らんのだ。森の連中には相手にされんし、下手すりゃ殺されかねん」

 

「なんでさ」

 

「さあね。よそもんが嫌いで、自分らが一番えらいと思ってるんだろ」

 

 この職人エルフから、

 

「あれか? ありゃ鎮魂の儀式、つまり幽霊になって出てくるなってお願いするもんさ」

 

「幽霊???」

 

「昔な。あそこはエルフの奴隷市場だった。死んだヤツも多かったろうよ。だから、ああいうことをしてるんだ」

 

 オッサンも、その頃には生まれてもなかったから、話だけだ。

 

 と。

 職人エルフはどうでもよさそうに言っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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