破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「あんたは、ホントに身軽だねえ」
母親から何度も言われていた。
マコネが生まれた街。
冒険者たちや商人が行き交い、人間の中にいくつかの種族が暮らす。
普通と言えば、普通の街。
その中で、マコネは大工の娘として生まれて、育った。
木登りから始まり、気づけば高い場所でもスルスルと猫のように歩く子供に。
まだ10歳にならない少女の行動としては、かなり大胆で。
母親をはじめ、近所の者からも心配されたりあきれられたり。
父が大工職……特に屋根などを得意としていたため、だろうか。
高いところをのぼりおりして、すばやく動き回る。
まさに、野良猫のごとく。
足も速く、年上の少年たちにも負けなかった。
おまけに、妙にはしっこい。
色々と小細工をしたり、誰かを手伝ったりして駄賃を稼ぐ。
「貧乏暮らしのせいかねえ……」
母親はそんな娘にあきれたような、困ったような。
とは言っても――
金持ち・小金持ちではなかったが、父は腕の良い大工。
食べるものに困る、という生活ではなかった。
「なぁに。将来はしっかりしたおかみさんになるよ」
「おてんば、じゃじゃ馬だけど器量は良いしね」
「そこは母親似だ」
「あの身軽さはおとっつあん譲り」
こんなことを、身近な者たちは言っていた。
「まあ何にしても、冒険者なんぞになるよりはマシかねえ」
ためいきまじりに母親は言っていた。
冒険者。
ダンジョンや森の奥、谷の底に向かい――
モンスターと戦って生きる者。
時々……。
冒険者の狩ったモンスターが、荷車などで運ばれる光景。
マコネはそれを見た。
胸を張って歩く、羽振りの良さそうな冒険者たちも。
「父ちゃん、冒険者ってもうかるン?」
娘のそんな質問に、
「儲かるのは、ひと握りだ」
父は、つまらなそうに言った。
「ほとんどは死んじまうよ」
「そんな危ないのに、なんでなるヤツが多いの?」
「うーん」
父親はちょっと考えて、
「だいたい2つある。ひとつは、それしか仕事がないからだ」
「じゃ、もういっこは?」
「今のお前みたいに、欲の皮がつっぱったヤツだよ」
と。
父親は笑って、マコネの頬を軽くつねった。
「危ない真似しても、金持ちになりたいヤツがやるんだよ」
「死ぬかもしれないのに?」
「死ぬかもしれないのに、だ。でもな、言っただろ? ほとんどのヤツは死んじまうんだ」
「ふうん……」
「冒険ってのは、勝てるかどうかわからんバクチを続けていくってこと。そいつはよくおぼえとけ」
父親は何をか思い出すように、言っていた。
そうかもしれない。
いや。
きっと、そうなのだろう。
と。
幼いマコネも、理解はできた。
――モンスターと戦うんだから、そりゃそうか。
隊商がモンスターと出くわし、全滅した。
近くの街が、モンスターに襲われた。
こんな話は日常でもある。
近所の子供が、小型モンスターを捕まえようとして死んだことも。
アルミラージという角のあるウサギ。
それに、突き殺されたのだ。
貧しい家の子で、肉が欲しかったらしい。
この時は、
「絶対真似するんじゃあないよ!」
母親からしつこく言われた。
直接襲ってこなくっても、畑に入り込むスライムなどもいる。
潰した粘液は良い肥料になるが、
「食われたもんが、返ってくるわけじゃない」
そうこぼす農夫たち。
こんな毎日でも、底辺冒険者よりはマシだった。
クエストの報酬は仲介をするギルドに何割も持っていかれる。
大きなものになればなるほど、だ。
その上、役人からは目をつけられる。
「何かあれば冒険者と思え」
役人たちはそんなことを言っていたようだ。
まあ、実際……。
底辺暮らしで自暴自棄になり、犯罪を犯す連中もいる。
だから完全な差別、偏見とも言いがたい。
「まあ、ギルドってのがそもそもヤクザもんの集まりだからなあ……」
父親はそうも言っていた。
そんな中で、いくらか安定している者もいたが――
ヤオアムト出身の魔導士たち。
得意分野に関わらず、ほぼ
ヤオアムト。
近辺では最大の国であり、最強の国。
そこから入ってくる魔道具や専門書は高価なものが多かった。
ヤオアムト産の魔道具は、ある種のステータス、憧れの象徴。
しかし?
ヤオアムト出の女たちは、あまり祖国をよくは言わなかった。
女はバカにされる。
雑魚みたいな男からも見下される。
わりばかり食う。
こんな愚痴をこぼすのを、マコネは耳にしていた。
まあ、故郷でやっていけなくなって逃げてきたようなものだから……。
仕方ないことかもしれないが。
なんだかんだの毎日の中。
毎年、決まった時期にはある場所で変な儀式が行われる。
その期間はわずか数日ながら、
――退屈なんだよなー。
マコネは好きではなかった。
子供はみんな似たようなものだったろう。
ある場所……。
ほとんど空き地みたいだが、近寄る者の少ないところ。
そこで、葬式みたいなことが行われるのだ。
いわゆる【鎮魂の儀式】だと聞かされたのは、魔道具職人のはぐれエルフから。
人間に、いやほとんどの種族に敵対的な森の種族。
そのはずだが、普通に街で暮らしているエルフ。
「オッサンはな? エルフからはじき出されたはぐれモンだよ。だからはぐれエルフだ」
職人エルフはそう言っていた。
「エルフは森でどんな風に暮らしてるン?」
「知らんよ」
「だって、エルフなんだろ?」
「オッサンはな、捨て子だったからぜんぜん知らんのだ。森の連中には相手にされんし、下手すりゃ殺されかねん」
「なんでさ」
「さあね。よそもんが嫌いで、自分らが一番えらいと思ってるんだろ」
この職人エルフから、
「あれか? ありゃ鎮魂の儀式、つまり幽霊になって出てくるなってお願いするもんさ」
「幽霊???」
「昔な。あそこはエルフの奴隷市場だった。死んだヤツも多かったろうよ。だから、ああいうことをしてるんだ」
オッサンも、その頃には生まれてもなかったから、話だけだ。
と。
職人エルフはどうでもよさそうに言っていた。