破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その111・5 竜が飛んだ日-3

 

 

 

 

 

 その日。

 

 【鎮魂の儀式】――最終日だった。

 

「家の中でおとなしくしてな」

 

 毎年、母からもらっていた小言。

 

 どうも。

 何事につけて、慎む期間だったらしい。

 

 が?

 マコネはそんなものには、かまわず家を抜け出していた。

 

 静かな街をこっそりと散策する。

 いつもと違う感じがして、ちょっとばかりワクワクしていた。

 

 その途中で、

 

「おいおい。お前、今の時期はおとなしくしろって言われなかったか」

 

 出会ったエルフ職人にとがめられてしまう。

 

「へへへ。ちょっとデキゴコロで……」

 

「何が出来心だ、ガキが小賢しい言い回しを……」

 

 あきれ顔のエルフだったが、

 

「――」

 

 急に顔を上げたかと思えば、

 

「おい、逃げろ!」

 

「えっ?」

 

「川でも池でもいい! 水気のある場所に逃げろ!!」

 

 いきなりわけのわからないことを言われたものの……。

 ともかく、普通ではない。

 

 それを察したマコネが走り出した、その時だった。

 

 いきなり、強い風が起こる。

 吹き飛ばされ転がった後、何がなんだかわからなくなり――

 

「お、おい……。 おっちゃん……?」

 

 顔を上げると、焦げ臭い嫌な臭いがした。

 地面には、半分黒焦げとなったエルフの死体。

 

 そして。

 

 凄まじい咆哮(さけび)が、空に響き渡る。

 顔を跳ね上げると、巨大な翼を持った赤黒いものが空を駆けていった

 

 ――ドラゴン……。火炎竜……!?

 

 幼体でさえも、ひとつの街を滅ぼす。

 そう恐れられるモンスターたちの暴君。

 

 意識もしないうちに、マコネは次々に炎が上がる街を走っていた。

 

 水のある場所へ逃げろ。

 

 そうは言われたのだが、我知らず向かった先は家の方向。

 

「あ……」

 

 つぶやいた声が、他人ごとみたいに思えた。

 

 家は……。

 いや?

 もはや、それがどこにあるのかさえわからない。

 

 周辺は炎と瓦礫ばかりで、あるのは死体ばかり。

 叫んでも、応える者はいない。

 ただ、あちこちで響く悲鳴と、あらゆるものが焼けていく音。

 

 その後は、とにかく逃げ回り、走り回っていた。

 

 

 

 ――死なないどころか、よく大したケガもせずに逃げのびたもんだ。

 

 マコネは、後でそう思った。

 

 

 

 炎があちこちで立ち昇る中。

 マコネは川のほうへと走っていった。

 近づくにつれ、水が大蛇みたいに空中を走る光景を見る。

 

 何人かの魔導士たち。

 彼女らは杖をかざし、呪文を唱えていた。

 そして。

 魔力の光を受けた川の水が噴き上がり、蛇のようになって炎のほうへ。

 

 これによって、炎はいくらかおさまりを見せつつあった。

 

 また別の場所――池では……。

 大きなボール状の水が炎に飛び込んでいく。

 

 ――す、すごいなあ。

 

 まさに魔法という光景。

 

 炎に焼かれる街は、外へ逃げるのも容易ではなかった。

 そのため。

 まず、生き残るには火をどうにかするしかない。

 

 必死で消火した魔導士たちは、みんな疲労して座り込み、あるいは倒れてしまう。

 火が消えた後、空にドラゴンの影はもうなかった。

 

 ――ああ、生きてるのか。

 

 この時、マコネはやっとそれを自覚できた。

 

 

 街の半分以上が焼かれ、何百人も死んだ。

 しかし。

 ドラゴンが去り、火が消えて、それで終わったわけではなく。

 

 多くの者が家や家族、それに財産を失った。

 あちこちで焼けた死体が転がり、誰が誰だかわからない。

 

 マコネは焼け残った家の下から、両親の死体を見つけた。

 

 色々偶然が重なったのだろう。

 ひどい状態だが、顔や体格の判別は何とかできた。

 

 救いはない。

 それでも、踏ん切りをつけるきっかけにはなった。

 

 

 問題は、その後。

 

 

 焼かれてしまったものの中には、当然食糧もあり……。

 あちこちで喧嘩、どころではなく。

 暴動や略奪が起こり出した。

 種族同士の対立も。

 

 どさくさにまぎれ、盗みを働く者。

 争いの結果死人となる者。

 さっさと逃げ出す者。

 

 とにかく、ムチャクチャで。

 

 その原因のひとつして――

 襲われたのは、この街だけではないとわかったため、

 

 風のように飛び回るドラゴンにとって――

 街を焼くことに、大した時間はかからない。

 ひとつを焼き、またすぐ別の街へ。

 

 襲撃を繰り返して、多くの街を焼き払って行ったようだ。

 その中には、国の首都も入っていた。

 

 

 当然の結果として?

 

 

 国の秩序・治安は崩壊。

 最初は治安維持につとめた兵士や、冒険者たちが暴徒となるのに時間がかからなかった。

 

 もともと。

 多くの冒険者は、その日暮らしで明日をも知れない。

 鬱屈したものを抱えた者が多かった。

 

 それがこんな状態となれば、

 

「もう、どうにでもなれ」

 

 とばかりに、牙をむき出す。

 

 一般人のほうも、ある意味似たようなもので、

 

()られる前に()れ」

 

 武器を振り回す。

 

 焼死体の次は、血まみれの死体があちこちに転がった。

 女子供も関係ない。

 

 むしろ……。

 

 そういう弱者は、まっさきに犠牲となる。

 

 マコネはとにかく逃げた。

 同じように逃げ出す者も大勢いて、その間を野良猫のようにくぐり抜けながら。

 

 

 街を逃げ出しても、行く場所はない。

 助けを求められる街も村もない。

 

 どこも似たような状況なのだ。

 

 むしろ、下手に被害の少ない街や、被害を受けなかった村。

 こういったところは、流民となった者たちが暴徒となって集まる。

 

 さらに?

 野外ではモンスターが流民たちへ襲いかかった。

 ろくな装備もなく、飢えと渇きで疲れ切った流民は格好の獲物。

 

 

 ボロボロの姿で、マコネは逃げられる場所へ逃げ続ける。

 むしろできるだけ汚い姿となり、髪の毛も短く切った。

 

 あちこちで子供の死体を目にする。

 モンスターに襲われた者は、むしろ少ない。

 中には、下半身から血を流した死体もあった。

 

 水や食べ物を得るため、娼婦の真似事をする女も。

 似たような真似をする子供も。

 

 何度も、見た。

 

 対価を得られるのは、むしろ幸運な部類でもある。

 問答無用で襲われ、殺されるなど珍しくもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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