破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「100%か……と言われたら断言はできんが――」
9割がた、本物だな。
香炉を置きながら、ゴトクは静かに言った。
どこか、ため息を吐くように。
「いや、本物って」
バッキーは目を白黒させ、
「チーフウォール家の、つまり……」
「ウッソだろ。なんで、そんなンがあんなとこで売ってたんだよ」
マコネは胡散臭そうに香炉を見つめ、
「そら、ゴトクが言うのなら間違いねーんだろうけどさ?」
「リーダーの、実家の、ですよね? つまり公爵家由来の……」
マコネとバッキーが顔を見合わせていると、
「――実家は実家でも、
カーシャは香炉を手に取りながら、つまらなそうな顔。
「私はそういう目利きができるわけではないけど」
何をどうしたのか、わからないが?
指先から、一滴の血を香炉に落とす。
――え? 血? 指を、切った? いつの間に?
バッキーが驚いているところへ。
香炉はゆっくりと、淡い青の光を発していく。
やがて。
光は小さな鳥の形をとって空中に飛び立った。
「あ……」
「ほええ……」
青い光の鳥――正確には
それは香炉の上で輪を描いて飛び、粒子となって消える。
「本物らしいわね」
香炉を置きながら、カーシャは言った。
いつものように、どうでも良さそうな顔で。
「こういうのは、たいてい一族の血を受けると発動するギミックがある。こういう手が込んだもんは、珍しいが」
ゴトクは、驚くマコネとバッキーに解説を述べた。
「なるほど……。そういうものなら、確かにすごい値打ちがありますね。え、でも……」
どうして、そんな品物がフリマに?
しかも、3000ジュラって。
「私が捕まった後、屋敷から持ち出したのがいたんでしょうね」
「家が潰れた。主が失脚。そのドサクサで火事場泥棒。わりにある話だな。退職金が期待できないことも多いし」
カーシャが小さく鼻を鳴らす。
ゴトクが補足するように苦笑。
「ニセモノだってのは、むしろ本物と思われたらヤバいってことかい?」
「だな」
マコネの問いに、ゴトクはまた苦笑。
「公爵家は王族に連なる。つまり王家の血族だ。この香炉も、チーフウォール家というより王族の血に反応するんだろうよ」
「じゃ、そんなのが盗まれて売られてたって……」
バッキーは香炉を凝視する。
「ただでさえ、骨董ものなんざ足がつきやすいんだ。それが王族関係のもんとなりゃあ、バレたら関係者はあらかたコレで」
ゴトクは首をはねるジェスチャーをしてみせる。
「うっわ……」
バッキーは、思わず顔を引きつらせた。
「あっちこっち厄介払いされるうちに? フリマで売られる羽目になったんだろうなあ」
――それで、元の持ち主? にあたるリーダーのもとに。なんだか、運命を感じるなあ……。
「だけどよ? ボロンのヤツはなんであんな反応したんだ? 今まであんなことなかったぞ」
マコネは不思議がって香炉をつつく。
「そりゃ知らん。俺だってああいう種族? はアイツしか会ったことがないからな」
ゴトクは商品棚の整理をしながら言った。
夜――
カーシャは目を覚ました。
あるいは。
ただ目を閉じていただけかもしれない。
起き出した理由。
それは、おかしなことに気づいからだ。
――香のにおい?
ほんの、微かだが、確かにそれを嗅覚は感じ取った。
貴族時代。
香を
なので。
においから、焚かれている香木の質はおおよそわかった。
――かなり上質のもの……。少なくとも、そこらの木っ端貴族が使うものじゃないわね。
カーシャは、静かに起き上がり、廊下を歩く。
屋敷の中は無駄に広い。
大金を払って、建てたものではあるのだけれど……。
住居者はわずか四人。
さらに。
ほとんどの部屋が空き部屋という、何ともおかしな状態で。
途中、カーシャは足を止めた。
何かがいる。
いや、見える。
――女?
見事なドレスを着こなした、輝くような美女だった。
明らかに貴族か富者の着るもの。
パッと見だが、カーシャの視覚はドレスを細部まで
服のつくりや装飾品まで。
同時に。
女の姿が、
――幻影?
目くらまし。
そういうものを作る技や魔法は見聞きしたことがあった。
単純な目の錯覚なら、別に魔力も魔法も使わずともできるという。
場合によっては、高度な幻術魔法より、そういう技のほうが、
――有効なこともある、か。
カーシャは意識を集中し、周りを警戒。
が。
それらしい魔力も気配も感じ取れない。
わかるのは、香のにおいと目の前にある幻影だけ。
見えている女の姿は、月や星の光と同じようなモノ。
カーシャにはそうとしか判断できなかった。
少なくとも、この時点では……。
カーシャは女に近づき、触れてみる。
女は何も反応しない。
伸ばした手は、女の体を突き抜けてしまった。
それこそ、何の手ごたえもなく。
ただの影。
ただの幻。
しかし、自分自身が幻惑されていないのなら、
――これはなに?
考えているうちに、女の姿はふわりと消えた。
カーシャはにおいを追い、進む。
たどり着いた場所は、屋敷の客間。
部屋に入ると、昼間に飾っておいた香炉が目に入った。
香炉の周辺にふわふわとゆらめくものがある。
女の、横顔だ。
同じ顔、同じ
――なんて、妙な……。
結局。
カーシャは、朝まで香炉を見張り続けた。
夜が明けるまで、何度も女の影は現れ、消えて。
まるで何かの芝居、あるいは舞でも見ているかのような。
でも。
ただ、それだけだった。
この一夜だけなら、
――おかしな夢か、幻想。
これですんでいたかもしれない。
しかし?
女の
試しに香炉を使ってみたが。
焚かれた香木から心地よい香りが漂うだけで、何も起こらない。
どの時間帯でも、結果は同じ。
「なんなんですか、あれは……」
「幽霊って感じじゃないよなあ?」
「感覚としては、単なる映像と変わらないわね」
あの
カーシャはひとりでブツブツと言っているボロンを見た。
「あれは、うう~~~~ん。ようわかりませんですねえ……?」
ボロンは首を振りながら、おかしな顔を浮かべつつ、
「皆さんに再々言われるんですが、わたし、頼りない女なんです」
「そりゃま、みんなわかってるよ。お前以上にな」
マコネがそんな返事をしている横で、
――あの女が出る時、あの香り、におい。
カーシャは香炉を見つめながら、いくつかの思案を重ねていた。