破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その112、反魂香炉-2 影女

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「100%か……と言われたら断言はできんが――」

 

 9割がた、本物だな。

 

 香炉を置きながら、ゴトクは静かに言った。

 どこか、ため息を吐くように。

 

「いや、本物って」

 

 バッキーは目を白黒させ、

 

「チーフウォール家の、つまり……」

 

「ウッソだろ。なんで、そんなンがあんなとこで売ってたんだよ」

 

 マコネは胡散臭そうに香炉を見つめ、

 

「そら、ゴトクが言うのなら間違いねーんだろうけどさ?」

 

「リーダーの、実家の、ですよね? つまり公爵家由来の……」

 

 マコネとバッキーが顔を見合わせていると、

 

「――実家は実家でも、()()実家、だけどね」

 

 カーシャは香炉を手に取りながら、つまらなそうな顔。

 

「私はそういう目利きができるわけではないけど」

 

 何をどうしたのか、わからないが?

 指先から、一滴の血を香炉に落とす。

 

 ――え? 血? 指を、切った? いつの間に? 

 

 バッキーが驚いているところへ。

 

 香炉はゆっくりと、淡い青の光を発していく。

 やがて。

 光は小さな鳥の形をとって空中に飛び立った。

 

「あ……」

 

「ほええ……」

 

 青い光の鳥――正確には(さぎ)

 それは香炉の上で輪を描いて飛び、粒子となって消える。

 

「本物らしいわね」

 

 香炉を置きながら、カーシャは言った。

 いつものように、どうでも良さそうな顔で。

 

「こういうのは、たいてい一族の血を受けると発動するギミックがある。こういう手が込んだもんは、珍しいが」

 

 ゴトクは、驚くマコネとバッキーに解説を述べた。

 

「なるほど……。そういうものなら、確かにすごい値打ちがありますね。え、でも……」

 

 どうして、そんな品物がフリマに?

 しかも、3000ジュラって。

 

「私が捕まった後、屋敷から持ち出したのがいたんでしょうね」

 

「家が潰れた。主が失脚。そのドサクサで火事場泥棒。わりにある話だな。退職金が期待できないことも多いし」

 

 カーシャが小さく鼻を鳴らす。

 ゴトクが補足するように苦笑。

 

「ニセモノだってのは、むしろ本物と思われたらヤバいってことかい?」

 

「だな」

 

 マコネの問いに、ゴトクはまた苦笑。

 

「公爵家は王族に連なる。つまり王家の血族だ。この香炉も、チーフウォール家というより王族の血に反応するんだろうよ」

 

「じゃ、そんなのが盗まれて売られてたって……」

 

 バッキーは香炉を凝視する。

 

「ただでさえ、骨董ものなんざ足がつきやすいんだ。それが王族関係のもんとなりゃあ、バレたら関係者はあらかたコレで」

 

 ゴトクは首をはねるジェスチャーをしてみせる。

 

「うっわ……」

 

 バッキーは、思わず顔を引きつらせた。

 

「あっちこっち厄介払いされるうちに? フリマで売られる羽目になったんだろうなあ」

 

 ――それで、元の持ち主? にあたるリーダーのもとに。なんだか、運命を感じるなあ……。

 

「だけどよ? ボロンのヤツはなんであんな反応したんだ? 今まであんなことなかったぞ」

 

 マコネは不思議がって香炉をつつく。

 

「そりゃ知らん。俺だってああいう種族? はアイツしか会ったことがないからな」

 

 ゴトクは商品棚の整理をしながら言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜――

 

 カーシャは目を覚ました。

 あるいは。

 ただ目を閉じていただけかもしれない。

 

 起き出した理由。

 それは、おかしなことに気づいからだ。

 

 ――香のにおい?

 

 ほんの、微かだが、確かにそれを嗅覚は感じ取った。

 

 貴族時代。

 香を()いたことは、何度もある。

 なので。

 においから、焚かれている香木の質はおおよそわかった。

 

 ――かなり上質のもの……。少なくとも、そこらの木っ端貴族が使うものじゃないわね。

 

 カーシャは、静かに起き上がり、廊下を歩く。

 屋敷の中は無駄に広い。

 

 大金を払って、建てたものではあるのだけれど……。

 住居者はわずか四人。

 さらに。

 ほとんどの部屋が空き部屋という、何ともおかしな状態で。

 

 途中、カーシャは足を止めた。

 何かがいる。

 いや、見える。

 

 ――女?

 

 見事なドレスを着こなした、輝くような美女だった。

 明らかに貴族か富者の着るもの。

 パッと見だが、カーシャの視覚はドレスを細部まで(とら)えていた。

 服のつくりや装飾品まで。

 

 同時に。

 女の姿が、()()だとも見てとった。

 

 ――幻影?

 

 目くらまし。

 そういうものを作る技や魔法は見聞きしたことがあった。

 単純な目の錯覚なら、別に魔力も魔法も使わずともできるという。

 場合によっては、高度な幻術魔法より、そういう技のほうが、

 

 ――有効なこともある、か。

 

 カーシャは意識を集中し、周りを警戒。

 が。

 それらしい魔力も気配も感じ取れない。

 わかるのは、香のにおいと目の前にある幻影だけ。

 

 見えている女の姿は、月や星の光と同じようなモノ。

 

 カーシャにはそうとしか判断できなかった。

 

 少なくとも、この時点では……。

 

 カーシャは女に近づき、触れてみる。

 女は何も反応しない。

 伸ばした手は、女の体を突き抜けてしまった。

 それこそ、何の手ごたえもなく。

 

 ただの影。

 ただの幻。

 

 しかし、自分自身が幻惑されていないのなら、

 

 ――これはなに?

 

 考えているうちに、女の姿はふわりと消えた。

 

 カーシャはにおいを追い、進む。

 たどり着いた場所は、屋敷の客間。

 

 部屋に入ると、昼間に飾っておいた香炉が目に入った。

 香炉の周辺にふわふわとゆらめくものがある。

 女の、横顔だ。

 同じ顔、同じ美女(おんな)

 

 ――なんて、妙な……。

 

 結局。

 カーシャは、朝まで香炉を見張り続けた。

 

 夜が明けるまで、何度も女の影は現れ、消えて。

 まるで何かの芝居、あるいは舞でも見ているかのような。

 

 でも。

 ただ、それだけだった。

 

 

 

 この一夜だけなら、

 

 

 

 ――おかしな夢か、幻想。

 

 これですんでいたかもしれない。

 

 しかし?

 

 女の幻影(かげ)は、毎夜のように現れ、屋敷の中を歩き回った。

 

 試しに香炉を使ってみたが。

 焚かれた香木から心地よい香りが漂うだけで、何も起こらない。

 どの時間帯でも、結果は同じ。

 

 

 

「なんなんですか、あれは……」

 

「幽霊って感じじゃないよなあ?」

 

「感覚としては、単なる映像と変わらないわね」

 

 あの()がいつも見てるのと、同じようなものよ。

 

 カーシャはひとりでブツブツと言っているボロンを見た。

 

「あれは、うう~~~~ん。ようわかりませんですねえ……?」

 

 ボロンは首を振りながら、おかしな顔を浮かべつつ、

 

「皆さんに再々言われるんですが、わたし、頼りない女なんです」

 

「そりゃま、みんなわかってるよ。お前以上にな」

 

 マコネがそんな返事をしている横で、

 

 ――あの女が出る時、あの香り、におい。

 

 カーシャは香炉を見つめながら、いくつかの思案を重ねていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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