破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その112、反魂香炉-3 ソーゲン王の記録

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのう、それは?」

 

 バッキーは、たずねた。

 カーシャの顔と香炉を、かわるがわる見ながら。

 

 夜――

 およそ、9時半ば近い時刻。

 

 灯りのない、真っ暗な場所。

 

 4人の乙女は普段使っていない部屋に集まっていた。

 小さなテーブルに、例の香炉を置いて。

 

「イギザナの香木」

 

 カーシャは答えながら、その香木をひとつ手に取り、香炉へ。

 

「なにか、特別製? なんですかね?」

 

「そうね……」

 

 カーシャは香を焚き始めながら、

 

「王室御用達(ごようたし)の、最上とされているものかしら。値段もそれなり」

 

「……ちょいと怖いんだけど、いくら?」

 

 本当に――

 マコネがおそるおそるという顔で質問。

 

「150万ジュラかかったわ。少し急いだから」

 

「ひゃくっ……」

 

 ――150万ジュラって、つまり150万円……。

 

 バッキーはつばを飲み込みながら、

 

「あの、そこにある分だけで、ですか?」

 

 カーシャの持つ小さな木箱を見た。

 香木の入れられた、それ自体も丁寧(ていねい)かつ上品なもの。

 

「ええ」

 

「……ひょぇえ」

 

 あの、わずかな量で150万。

 一般庶民には考えられない。

 

 驚きあきれるマコネとバッキーに対して、

 

「んん~~………」

 

 ボロンは妙な声を出しながら、香炉と煙をみているだけ。

 

「とんでもねえなあ……。それだけありゃ、飯だの服だの、どれくらい買えるんだか」

 

 そんなマコネの意見に、

 

「原木だけじゃなく、伐り出して、熟練した職人が加工して――それを踏まえてのものだから。たくさん造れるようなものではないしね」

 

「なるほどねえ。はあ……確かに、良い香りだけど」

 

 そんな会話の最中(さなか)、だった。

 

 うっすら、と。

 香炉は淡い光を放ち始めた。

 やがて、その光の生み出す影からゆっくりと何か浮き上がる。

 

「あ」

 

 バッキーが声をあげた。

 

 豪奢(ごうしゃ)なドレスに身をつつんだ、美しい貴婦人。

 年は若く、二十歳に達してはいないようだ。

 

 その姿はかつてないほど、明瞭なもの。

 ドレスの細部。

 女の顔。

 全てが、よく見て取れる。

 

「ふうん」

 

 カーシャは目を細め、女を観察した。

 

 女はわずかに動き、歩いているが……。

 周りの者にはまったく反応しない。

 

 ――やっぱり、影。実体も心もここにはない、か……。いえ、もうどこにも存在しないかも。

 

「こうなっても、魔力は感じませんね?」

 

 バッキーは実体のない女に手をかざしながら言った。

 

「やっぱ、蜃気楼みてえなもんか?」

 

 マコネは首をかしげつつ、箱型の魔道具をかざした。

 画像を記録して、残す撮影機。

 つまり、カメラのようなもの。

 

「……」

 

 ひとり。

 ボロンだけは、女ではなく香炉を見ている。

 

 そして。

 

「んーふ……んふ」

 

 漂う香りをかいでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、これだ」

 

 後日。

 バッキーは図書館の一室でつぶやいた。

 

 大きな机の前。

 黒髪のヒーラーは目を閉じている。

 

 バッキーの頭上には、小さな魔力の玉が浮いている。

 さらに。

 魔力玉の周辺には複数の本が浮かんでいた。

 

 本はパラパラとめくれていく。

 まるで意思があるのように。

 

 同時に、本から無数の小さな文字が飛び――

 バッキーの魔力玉へと吸い込まれていった。

 

 その度。

 バッキーの中へ無数の情報が流れ込み、記録されていく。

 取捨選択と整理を繰り返しながら。

 

 これによって。

 バッキーは、ある情報を知った。

 

 

 香炉から立ち現れる、女の幻影(かげ。)

 

 

 そのドレスは、

 

 ――ソーゲン王時代の後期、いや末期……。それくらいに流行ったデザインかぁ……。

 

 肖像画や服飾の記録など。

 それらを照合すると、間違いないようだ。

 

 ――でも、ベースは同じだけど? だいぶ個性が強いっていうか、かなり手間とかお金かけてるよねこのドレス。

 

 先日撮影した【写真】。

 ここに映る女のドレスは……。

 同時代の貴婦人たちと比べても、1つ2つ突き抜けている。

 

 ――で、この時代っていうのは……。

 

 当時の国王は、ソーゲン・アゴーニ・ヤオアムト。

 記録を読む限り。

 かなり実績をつんだ王ではあるが、

 

 ――晩年は心身の不調から引退。別荘で療養するけど、亡くなった……か。

 

 さらに調べると?

 

 ――その頃、息子たち……つまり王子様たちとの関係が悪化してて、これが悪く影響したらしい……。ふうん。

 

 ソーゲン王の写真。

 これに映されている晩年の王。

 引退する、少し前のものらしい。

 

 その姿は――

 

 白いひげをはやした老人ながら、活力や精気を感じさせる。

 

 バッキーは魔力球を通して、それを()た。

 

 ちなみに?

 撮影機の魔道具と、それが生み出す【写真】。

 ベースとなるものは、すでにその時代からあったようだ。

 

 ――でも、かなり高度な技術でお金もかかるし、ごく一部のひとしか使えなかったと……。ま、それはいいとして。

 

 写真を見る限り。

 ソーゲン王は、とても不調で引退するようには見えない。

 

 確かに、それなりの年齢だが、

 

 ――無理をしてるとか写真を加工してるとか、そういう可能性もあるけど……。

 

 とてものことに。

 記録にあるような理由で引退するとは。思いがたい。

 

 バッキーはあれこれと考え――

 

「ふうう……」

 

 煮詰まった。

 

 宙に浮かべた本を机におろして並べながら、ため息。

 

「どうかしら?」

 

 背伸びしているバッキーに、声がかかる。

 

「いやあ、わかったようなわからないような……」

 

 バッキーはその相手……カーシャへと苦笑を向ける。

 

「ずいぶんと、曖昧ね?」

 

「なんと言いましょうか……」

 

 実はこれこれしかじか。

 

 バッキーは、とりあえずわかったことを語る。

 要点をかいつまんで、手短かに静かな声で。

 

「……ソーゲン王か」

 

 カーシャはその名前に、少し妙な顔をした。

 

 それから。

 背を向けてどこかへ行ってしまう。

 

 かと思えば。

 

 2冊の本を手に戻ってきた。

 

『ガヒュー地方説話集』

 

『名作演劇特選』

 

「気分転換に、それでも読んでおきなさい」

 

「え。あ、はい……」

 

 バッキーは本を受け取りながら、

 

 ――どうせなら、外でお茶でもごちそうしてくれるほうが嬉しいんだけど……。

 

 内心苦笑しながら、パラパラと本をめくり、読む。

 

 ――魔力玉を使ってるせいか、普通に読んでても速読になっちゃうんだよね。

 

 その途中、

 

 ――ん?

 

 妙なことに気づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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