破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
ちょっとしたミスで更新が遅れてしまいました
文献によると。
ガヒューは?
数百年前にあった、そこそこ大きな国の名前。
国があった場所を中心とした土地。
それを総称したもの。
この地方に伝わっていた説話。
ある国に、ひとりの王がおり……。
王には若く勇敢な騎士が仕えていた。
――明言はしてないけど、王様とお妃は年の差婚みたいな? でも、こっちじゃフツーか。特に王様だし。
騎士は美しい少女と恋仲で、結婚も間近だった。
が、しかし。
王はその少女に横恋慕。
何とかして、自分のものにしようとする。
当然だが、事態は揉める揉める。
結果、国は乱れて滅びた。
――でも、この話……。
2冊目の本である、『名作演劇特選』。
これに、同じあらすじのものがあった。
初演はソーゲン王の時代から数十年後。
「どういうことなの?」
バッキーにはカーシャの意図がよくわからなかった。
なので?
――もうちょっと調べてみようかな……。
元の説話について、他の文献を色々とあさる。
そして、わかったこと。
――あれ? 逆じゃん。
時代をさかぼっていくと、話は逆になっていた。
つまり。
若く美しい王妃と、騎士との浮気。
それによって引き起こされる内乱。
騎士と王妃は駆け落ちしたとか、遠くで別の国を興したとか。
怒った王に処刑されたとか。
結末のバリエーションは色々だったが。
――こういうの、どっか聞いたことある気もするな。
しかし。
舞台のほうでは役割が逆になっている。
それは、どういうことなのか。
――題材にするなら、別に話を変えなくっても良さそうもんだけど……。
作者はなぜんそんなことをしたのか。
バッキーはさらに文献を調べつつ、
――ええと……? もとのお話……は、ヤオアムトじゃぜんぜん知られてなかった感じで……。
むしろ。
舞台をきっかけに、知られるようになったのだ。
――人口に
後世の創作の影響。
これによって、さかのぼって説話のほうが変化してまった。
そういうことらしい。
――???
やはり、バッキーにはよくわからない。
そして。
舞台に関する記録などを読んでいくと……。
「ん?」
芝居の脚本。
それは、初演よりもずっと前――
ソーゲン王が亡くなってから5年もたたない頃に完成していたとある。
あるいは?
王の没後間もない頃、という可能性もあるそうだ。
脚本の作者は、名手として今も名の残っている人物。
多くの傑作を生みだした名作家。
――けど、そんなひとの書いた脚本なのに、みんな公演には消極的だった。
役者は劇場の支配人など、関係者。
記録を読むに……。
消極的どころか、忌避されていたとも言える。
――でも、ずっと後に公演されて、名作と呼ばれるようになってるんだよね。
数十年後。
ある人気役者が、死蔵されていた脚本を見つけて、
「これはすごい」
脚本の出来栄えに感動して、自腹を切るような形で初演まで持っていったという。
その証言から、大きく書き直されたのでもなさそうだ。
――なんだ、これ……。
妙なもの。
表沙汰にできないなにか。
書かれた脚本には、そういったものがあったのではないか?
また。
ソーゲン王没後の記録などでは、
・先王に対する、悪質な風聞が流布した。
こういうものが見つかった。
――じゃあ、問題のお芝居は……。
ソーゲン王のスキャンダルに関係するものだった。
そういうことではないか。
――だからみんな怖がって協力しなかった、ってこと?
確かに。
王が亡くなった直後に、それを揶揄した舞台などできるわけがない。
――でも? 作者さんは、そういうことも平気でやるような人物だった……。
作家としては天才だが。
その言動はかなりエキセントリックで、困った性格で。
関係者もしょっちゅう迷惑をこうむっていたようだ。
――それで……。王様のスキャンダルは女性がらみ、だっただろうなあ。きっと。
「……結局? あの美人はいったいどこの誰なんだよ?」
マコネは、疲れた顔のバッキーにたずねた。
図書館近くの軽食店。
3人の乙女は、そこでお茶を飲んでいる。
「いやあ、それが。色々調べてみたけど、あの
バッキーは、頬を指で掻きながら苦笑する。
「あれだけの美人だし、宮廷関係者だったら? なにかしら残ってそうなものなんですけど……?」
「身分は、それほど高くなかったかもしれないわ」
黙っていたカーシャはいきなり言った。
「え?」
「平民が王族・貴族の側室になる。別によくある、普通のことだけど。やっぱり、
「するってーと。王様のお気に入りだったけど、身分の低い生まれだから扱いが悪かったとか?」
マコネがそんな問いを投げると、
「その通りよ。子供でも産めば、また別だけど。でも?」
絵姿が残ってないとは限らないわ。
カーシャは髪をかき上げて、お茶をひとくち。
「えと、それは――」
バッキーが顔を上げると、
「本人だと記さず、女神や伝説・神話の人物を描いたもの。そういう建前にして、とかね」
「けど他のヤツにはすぐわかるだろ、そんなの」
「あくまでモデルにしたと言えば、良いのよ。そっくりに描かない場合も、わかる者に誰それだとわかるようにしてるパターンもある」
政敵や恨みのある相手を、怪物や悪魔に見立てたものだってあるしね?
この。
カーシャの言葉が終わるか終わらないかのうちに、
「……すみません! また行ってきます!」
バッキーは立ち上がって店を飛び出し、また図書館へ――
そしてバッキーは、
『舞い踊る愛の女神』
という題名の絵画を、ある本で発見した。
描かれている女神の姿。
それは、まさしく。
幻影の女と同じ顔。同じ姿。