破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
あわただしく、馬車が城内に入っていく。
半ば、門番を蹴散らしそうな勢い。
「なんか、ちっちゃい城だな?」
見上げながら、マコネは言った。
「あ~。確かに……」
バッキーも同意。
――う~ん……。一応城の体裁? を整えてる感じだけど……。
正直、見栄えは良くない。
兵の数も少なめで、質素というか、
「まあ、言っちゃ悪いがビンボー臭いな。王子様の住むところたぁ思えねえ、とまではいかねえが」
「7番目、王位の継承順位が低いだけじゃなく、後ろ盾もあまりないんでしょうね」
マコネの言葉に応えつつ、カーシャは城の壁に触れた。
手は壁をすり抜けていき、そこには何の感触もない。
――やっぱり、実体のない虚像か。
そして景色が変わり、
「殿下! 今少し、今少しお待ちくださいませ!!」
宰相はすがるように若い青年に叫んだ。
「何を待てと?」
青年は、振り返りながら低い声で言った。
その瞳には暗い怒りが燃え、憎悪がたぎっている。
「いかに王であれ、父であれ……ここまで愚弄されるいわれなど無いわ!!」
「ごもっとも! お怒りはまこと、ごもっとも! しかし、ここは何とぞ……!」
「黙れ! 王なればこそ、父なればこそ、許せん! いかに泡沫の身といえ、俺とて王位を継ぐ資格を持っておるのだ! いや、それ以前に男として、かような屈辱に甘んじることなどできん!!」
「そこを! そこをなんとか! お怒りを鎮めろと、無理なお頼むをしているのは承知の上。ですが、どうか、どうかひとまず……!!」
ついに、宰相はひざまずいて懇願した。
「陛下のなされること、わたくしがなんとしてでもお止めいたしまする!」
「では、聞こう。どうにもできなんだ場合、どうする? どう始末をつけるとぬかすのだ」
「その時は、不肖わたくしめの首、差し出しましょう」
「……笑わせるな!」
王子は冷笑して、刃を抜いた。
冷たい金属が、宰相の首筋に――
「言葉だけなら、どんな奇跡も武勲も自由自在だというものだ」
「確かに。おっしゃること、ごもっと」
宰相はひざまずいたまま、微動だにしない。
「なれば。この愚物の首に免じて殿下のお怒り……鎮めていただけましょうか」
「ふん」
宰相の態度に、王子は不快そうに鼻を鳴らす。
だが。
刃は鞘へとおさめた。
「いいだろう。今すぐ、挙兵するということはせぬ」
「おお……。ありがたきこと」
「だがな。俺はいつでも王都を戦火で焼く覚悟はある。逆賊となろうが討ち死にしようが、だ。」
それは忘れるな。
王子は宰相の胸ぐらをつかみ、凄まじい目つきと声で言った。
「これは、なんもとはや……」
「やべーぞ。王子様、戦争やる気じゃねえか」
バッキーはうまい言葉が出てこない。
マコネは、あきれ果てている。
「まあ、リフラ殿下が兵を挙げたとしても、すぐに鎮圧されたでしょうけど」
カーシャは幻影の第7王子に近づきつつ、
「だけど。それは火種になって大火災を引き起こしかねないわね。ヤオアムトも決して一枚岩じゃない。ましてこの時代なら……」
ヤオアムトの支配をよく思わない勢力はあちこちにいたでしょうから。
付け入る隙を与えるようなものだわ。
と。
つまらなそうに言った。
バッキーは読んだばかりの本――
その内容を思い出しながら、
「うろおぼえというか、歴史の本を走り読みしただけでアレなんですが……。この時代、まだ完全に統一されてたわけじゃなかったんでしたっけ」
「ええ。地方で反乱が起こることもあったそうよ」
「厄介なことだな……」
その男は、どこか暗い目で宰相へ言った。
美丈夫。
そんな言葉がピッタリとくる、人物だった。
「あ。このひとって」
バッキーはこの人物も本で知っていている。
「継承権第1位の、ノデラ・ビクシュ・ヤオアムト殿下。つまり後のノデラ王陛下」
「しかし、王族ってのは色男が多いんだな。さっきのリフラ殿下といい、
マコネはチラッとカーシャを見る。
「側室としてあちこちから美女を集めているもの。サキュバスの子というパターンも珍しくはないし」
「ほーん」
そんな会話の前――
大昔の幻影たちは会話を続ける。
「老いた英雄、凡愚より役に立たず……などと、古い言い回しもあるが」
ノデラは言いながら、宰相に背中を向けた。
「正直、父王に対して使いたくはなかったな」
「……申し訳ございませぬ」
「それで、何とかする手立てはあるのか?」
「双方にご理解をいただき、丸くおさめたいと思い、ない知恵を絞ってはおりますが……」
「――場合によっては、弟を討たねばならぬかもしれん。そうではないのか」
「……。おそれながら」
宰相は重たいものを背負い、ゆっくりとうなずいた。
「あれが怒りのまま兵を挙げれば、そうするしかあるまいよ。だが」
ノデラは宰相を振り返りながら、
「しかしな。あれもそんなことはとっくに承知しているだろう。お前と話をしたということは、奇襲や暗殺も覚悟しているはず」
「……は」
「逃げ場のないネズミはドラゴンよりも厄介。これも、古い言い回しだな」
「ゾースよ。これはどういう趣向か?」
「おそれながら陛下。無礼を百も千も承知で申し上げますれば、少々視界を狭くされておられるのでは、と」
「何が言いたい」
「これらの美女、姫君をごらんくださいませ」
宰相が手を広げた先には、いくつもの絵画や【写真】。
そこにあるのは、どれも美しい女性たちばかり。
「国の内外を問わず、陛下にふさわしい者はいくらでもおります。確かにララ様はお美しいかたでございますが……」
「黙れっ!!」
ゾース宰相の言葉。
その終わりを待たず、王は叫んだ。
そればかりではない。
手をかざし、魔力の塊を放つ。
不意打ちのような行為に、宰相は防ぐもできずに吹っ飛んでしまう。
「さしでがましいぞ! 飴玉のごとく女をあてがい、おとなしくせよとでもいうつもりか!?」
「陛下! どうか、どうか……。国が乱れ、
宰相は頭から流血しながらも、必死で懇願する。
「ダメだ、こりゃ」
マコネは両手を頭の後ろで組み、
「このオッサンも災難だなあ。とち狂った王様に振り回されて……」