破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
カーシャが蹴飛ばした扉。
それは、へしゃげながら中に吹っ飛んでいく。
だが、破壊音はない。
その代わりに、
「ひえっ!?」
「うおっと……」
ジロとネイテクが声をあげた。
氷。稲妻。火炎弾。あるいは、魔力の刃。
無数の攻撃魔法が、カーシャに向かって飛びかかった。
「……」
カーシャは声を出さない。
ただ、音もなく動いていた。
ガゴッ!
ベチィ!!
メキリ……
ゴッッ……!!
武装したエルフたちが、砕かれ、潰されて、床に沈んで、あるいは壁のしみになる。
周辺は、あっという間に血の臭いで満ちた。
――バケモンか、あの女は……。
ジロは呆然として、見つめるばかり。
何がどうなっているのかは、ほとんどわからなかった。
状況がわかったのは、カーシャが止まった後である。
「……――」
8、いや9割の敵を殺してから、カーシャは動きを止めた。
ちょうど、1人のエルフを踏み殺した直後。
奥のほうに開いた扉を見る。
どうやら、隠し扉があったらしい。
「あの、なにが……」
後を追って室内に入ったネイテクたちは、
「………!」
ギョッとしてかたまる。
敵は、2人。
どちらも魔法で拘束されている。
「動くな……というのは、遅かったか」
苦り切った顔で、ボスエルフはつぶやく。
エルフたちが捕まえている人間。
それは、
「姐さん……」
「り、リーダー……」
マコネと、バッキーだった。
「お知り合い、みたいですね」
後ろで、ネイテクが言った。
「人質か……!」
トクベーが身構えながら、険しい顔に。
「ギリギリだったが、間に合った」
ボスエルフはそう言いながらカーシャを見る。
「お前の仲間だということはわかっている。うかつなことはするなよ」
エルフらしい美しい顔に敵意を浮かべて、そう言った。
「……」
カーシャは応えない。
顔も、まったくの無表情だった。思考が読めない。
「お前らもだ。特にその狐獣人、そして恥知らずの裏切り者」
ボスエルフは、トクベーたちも牽制する。
タロザは皮肉そうに笑って、ネイテクは肩をすくめる。
「裏切り者って……。あいにく自分は半端な〝混ざりもの〟でしてね。エルフの共同体に世話になったおぼえはないですよ」
「っち……。
ボスエルフは不快そうに顔を歪める。
「正確には、クォーターですな。祖母がエルフで……」
「口を開くな!!」
ボスエルフは激昂する。
ネイテクはまた肩をすくめて、口を閉じた。
「……そこの青髪、言っておくが
「……」
鋭いボスエルフの声。
カーシャはやはり無言であり、無表情だった。
殺気が充満しているが、それは元からである。
「ど、どういうこっちゃ!? いや、人質はわかるけども……」
「ミス・カーシャの仲間を捕まえて人質にした、ということのようですね。どうやらこちらのことも、どの程度かは知りませんが調べられているようだ」
ジロとネイテクが小声で話すあいだ、
パチッ!
ボスエルフは指を鳴らした。
それを合図に――
生き残ったエルフたちが、杖や手を構えてカーシャに狙いをさだめた。
「あ、姐さん!」
「動くなと言った」
マコネが叫んだ途端、魔力のリングが彼女の首を締め上げる。
「ぐげっ……」
「こいつらを一気にしめ殺すこともできる。嫌ならどうするか、理解はできるな?」
「意味はあるのかしら」
ボスエルフに、カーシャは冷たい声で言った。
「なに?」
「こっちが言うとおりにしても、その後2人が殺されたら無意味よ」
「ふん。小賢しいな」
ボスエルフは冷笑した。
「あ、あなた……まさか仲間を!?」
一番あわてたのは、後ろのトクベーだった。
見捨てるのか、という声をどうにか飲み込んで。
「けど、その通りでもありますわなぁ」
タロザが言う。
「おどれが」
キューモは金砕棒を握りながら、牙をむいている。
「後ろの獣人どもも同じだ。動けば――」
「ぐぁ……! て、めえ……」
またもマコネが首をしめられ、
「みんな、ダメだ!」
トクベーがあわてて仲間を制する。
「優しい子なのね、あなた」
カーシャはエルフたちのほうを見たまま、トクベーに言った。
「……それは」
「ほめてるんじゃないわ」
「えっ」
カーシャはトクベーの反応を無視して、小さくため息をつく。
「好きにすれば?」
どうでもよさそうに言って、カーラナーガを投げ捨てた。
「……く、くそぉ。なんやこの展開」
「これはまた、意外な展開ですね……」
ジロとネイテクは見ているだけ。
トクベーたちも同じだった。
「まず、我らの同胞から足をどけろ」
「……」
カーシャはボスエルフに言われるまま、踏みつけていた死体から足をはなす。
「そ、そんな、そんな……!」
捕まったバッキーは真っ青になって、ガチガチと震えている。
エルフたちは、いっせいに魔法の準備に入っていた。
魔法陣が展開して、魔力が収束していく。
「……あれは、さすがにまずい」
ネイテクが帽子をつかみながら顔をしかめた。
パチッ!
また、ボスエルフが指を鳴らした瞬間、
バッ!
ボムッ!
バシュムッッ!!
魔力弾。魔力の刃。火球。稲妻。
強力な攻撃魔法がカーシャに殺到した。
ボッ………!!!
凄まじい爆風と閃光。
トクベーたちが目を開いた時、
「……あ!」
熱気と煙の中に、真っ黒に焼け焦げた腕が宙に浮かんで――
そのまま落下した。
ほぼ炭化していたのだろう。
床に落ちた途端、半分以上が砕けてしまった。
「………ひえ!!」
「なんとも、これは……」
「クソ……!!」
「これは、また」
「……!!」
「…………」
パーティーメンバーは、驚き固まって崩れた腕を見つめる。
マコネも、バッキーも何も言えない。
「――これで、一番厄介な敵が消えた」
ボスエルフがどこかホッとしたように言った後、
バシャ。
マコネとバッキーは、血で真っ赤に染まった。
そして。
ボスエルフの頭が吹き飛んで、横に倒れる。
もう1人のエルフは、床に叩きつけられてベチャリとつぶれた。
ほとんど原型はない。
「………は?」
理解不能。
エルフたちの頭にあったのは、その言葉だけ。
だから、反応が遅れた。
グシャリ
ベチャ
ペキン
ゴシャ
肉や骨が砕ける嫌な音が、あちこちに響いた。
最後に残ったエルフ。
その宝石みたいな瞳に映ったものは、
メキ、メキメキ……
後ろから頭をつかまれ、目や鼻から血を流している仲間の姿。
「お、お前は……!」
エルフはその相手――青い髪の女を見てやっと叫んだ。
「助かったわ」
グチャ。
カーシャは片手でつかんだエルフの頭を、トマトのように潰した後、
「お前たちが、ウスノロで」
「あ、あの腕は……」
「自分たちの仲間の腕、それもわからなかったの?」
「……!」
カーシャの言葉に、エルフは真っ青になった。
「ああ、そういう……」
ネイテクは、そのやりとりを見ながらうなずいた。
――あの一瞬、エルフの死体を囮にして動いてたのか……。しかし、普通のスピードじゃない。ほとんど瞬間移動だ。
「え? コレもしかして、なんとかなったん?」
「いやあ、こう……なんというか。形勢逆転というか」
頭に無数の【?】を浮かべるジロに、ネイテクは苦笑した。
と、男2人がのんきに言っているあいだ、
「……どうやら、相手が悪かったようどすなあ」
「なんか気がぬけたけぇど、逃がさんけぇのう」
「……殺す」
獣人娘たちは、すでにエルフを囲んでいた。
「いや、あのお前ら、もうちょっとこう……」
トクベーはまたあわてているが、
「
「同意」
キューモは目をギラギラさせ、メッカイもうなずいている。
「いやまあ、それは、そうなんだけど……」
「お、おやっさん?」
横で聞いていたジロは困惑顔。
「確かに、あんな少年に対する呼び方としては珍しいです。ただ」
「ただ?」
「ちょっと反社会的な自警団? っぽい組織では、ボスに相当する人物をオヤジとか呼んだりするようですね」
「いやそれ、ヤクザやん……」
「ふむ。なるほど、的確な言葉ですね」
まだ、ジロとネイテクは雑談? をしている。
「……まったく」
いつの間にか、カーシャは捕まっていた2人のところに行っていた。
「ドジを踏んだわね」
拘束をときながら、カーシャは呆れた顔。
「へへ……。面目ねえや。けど、ありがとうな姐さん……」
照れくさそうに言うマコネの首に、カーシャは手を当てる。
「ああ、大丈夫だぜ? ちょいと苦しかったが、別に……」
「妙な【置き
「へ?」
「人質に、あらかじめ何か魔法をしこんでおくという手もある」
「あ……!」
「自爆魔法とか、毒とか、いろいろ。今回は心配ないようだけど」
「お、おどかさないでくれよ」
「ありふれた手よ。次はわからない」
カーシャは言いながら、バッキーにも同じことをする。
「あ、あの、すみません……」
「どっちみち、あんたじゃ逃げるのは難しかったでしょ。抵抗すれば殺されかねないし」
「まあ、はい……」
「しかし――」
カーシャは手をはなしながら、
「人質なら、1人でも十分だったはず」
不審げに、小さく首をかしげた。
「あの、そ、それじゃ、どっちかが殺されてたかも……ってことですか!?」
「いかにも、その通りよ」
「……ひぇ」
「今さら青くなってもしょうがないわ」
カーシャはそう言った後、包囲されている最後のエルフへ視線を向けた。