破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その113、青龍石の枕-2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 胡蝶の夢。

 そういう言葉がある。

 

 夢か現実か、区別のつかないようなことを指すらしい。

 

 ――地球が夢か。それとも異世界(あちら)が夢なのか。それとも。

 

 どちらも夢に過ぎないのか?

 

 カーシャは一瞬、そんなわけのわからないことを考えてしまう。

 何故、そうなったかというと。

 

「……ふうん?」

 

 目の前で、どこか覚悟を決めたような……。

 あるいは。

 受け身な自殺でもするかのような。

 

 妙な態度の少年。

 

 この男子生徒は、先ほど、

 

「僕と付き合ってください」

 

 そんなことを言ってきたわけだが。

 

 ――つまるところ、恋人関係? になってくれということ?

 

 これはわかる。

 

 しかしながら、

 

「ふうううん?」

 

 カーシャは、ジロジロと少年の顔を見た。

 

 顔立ちは悪くない。

 むしろ。

 平均からすると、良い部類になるだろう。

 

 ――もう少し、身ぎれいにして、身なりを整えれば。

 

 かなり見れるものになる。

 カーシャはそう見て取った。

 

 ――今は、どこか覇気のない顔つきだけど。

 

 表情が明るく、背筋が伸びれば、

 

 ――ま? 爽やかな青少年になるかしら。

 

 世の中には――

 がんばってそこまでなれない男子も多いだろう。

 

 ――そういう点では、恵まれたほうね。

 

「で。あなたは、どなたかしら?」

 

 カーシャはまず基本的なことをたずねた。

 

「え?」

 

「え? じゃないわ。私、あなたのことを知らないの。あんなことを言ったのだから、当然あなたはこっちを知っているでしょうけど」

 

「あ……」

 

 当然の質問に、男子生徒は急にあたふたとし始めた。

 現実に引き戻された、という感じ。

 

「え、と。僕はA組の袖引(そでひき)宗吾(そうご)です……」

 

「そう。ご存じでしょうけど、私は長壁カーシャ」

 

 言ってから、カーシャは周辺を見た。

 

 当たり前だが、注目が集まっている。

 ヒソヒソと話す声も。

 

「しかし、ま。立ち話もなんだから、場所を変えましょうか」

 

「いや。あの」

 

「うるさい」

 

 カーシャは片手で少年の襟首(えりくび)をつかんだ。

 そして。

 まるで猫でも運ぶように、歩き出す。

 

 カーシャの身長は、170半ばを超える。

 日本人女子の平均からするとかなり高い。

 

 少年は170になるか、というものなので――

 

 下手をすれば、姉と弟。

 いや。

 母と息子のようだった。

 

「痛っ、苦し……」

 

「うるさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?」

 

 カーシャは、ミルクティーを飲みながら問いかける。

 

 駅近くのコーヒーチェーン店。

 その一角で、2人は相対していた。

 

「あの、すみません!!」

 

 いきなり。

 ずっと無言だった少年は頭を下げて謝り出した。

 土下座でもするような勢い。

 

「なにが?」

 

「あの、いきなり変なこと言っちゃって……!」

 

「付き合ってほしい、は別におかしいことではないわね」

 

 カーシャは紙のカップを置いて、

 

「まあ、あんな告白の仕方で、じゃあ付き合いましょうってなる女性(ひと)はごく少数だとは思うけど」

 

「……その、付き合ってほしい、とか。そういうんじゃ、なかったんだ……です」

 

「は?」

 

 ずいぶんと、胡乱(うろん)な物言い。

 つまり、胡散臭い言いかた。

 カーシャは少しだけ目を細め、意気消沈の少年を見た。

 

「それは、アレかしら。いわゆる、〝嘘告白〟とかいうヤツ?」

 

「え」

 

「なにかの罰ゲームで、その気もないのに大げさな告白をしてきたと。そういうことでいいの?」

 

「いや、あの」

 

「これは、ケンカを売られている――そう思っていいのかしら?」

 

「いやいやいやいや!!」

 

 淡々と言葉を重ねるカーシャに、袖引宗吾はあわてて首を振る。

 

「そう、いう……のでは」

 

「へえ」

 

 言いよどむ袖引宗吾に、カーシャはわざとらしい声。

 

「でも。まったくちがう、という感じではなさそうね」

 

「う……」

 

 言葉につまった袖引宗吾は、がくりとうつむいてから、

 

「ホントに、ごめんなさい……!!」

 

 テーブルに両手をつき、頭を下げた。

 瞬間、ゴチンというマヌケな音。

 勢いあまって頭を打ったらしい。

 

「意味のわからない謝罪されても、困るのだけど?」

 

 カーシャは呆れながら、ため息。

 

「とりあえず、その目的だか理由だかを聞かせてほしいわ。私には、その権利があるはずでしょう」

 

「……」

 

 頭をテーブルにぶつけたまま、袖引宗吾は無言。

 

 そして。

 

「あの……。最近ちょっと、嫌なことっていうか、落ち込むことがあって……。そしたら、同じクラスのヤツにからかわれてさ? その時――」

 

 

 何か言い争ったり、そんなことをした。

 ……ような気がする。

 

 結果。

 

 気づいた時には、カーシャに告白すると、そういうことになっていた。

 どういう流れでそうなったのやら。

 言ったほうも、本気ではなかったらしい。

 

 カーシャのもとに行く袖引宗吾に、

 

「バカ、やめろ。冗談だって!」

 

「本気でとるやつがあるか!」

 

「やめとけやめとけ!」

 

 そういう言葉が投げられたのだが。

 

「ヤケクソで、結局行動に移したと」

 

「はい……」

 

「バカじゃないの?」

 

「はい……」

 

「思慮のなさ、考えなしもそこまでいくと面白いわ」

 

 カーシャは肩をすくめて、立ち上がる。

 

「くだらないけど、まあ笑いのネタになったかしら」

 

「……」

 

「まあ、せっかくだから、デートにでも付き合ってもらいましょうか」

 

「え!?」

 

「いや。接待というほうがいいわね。意味、わかる?」

 

「え、いや。はい。わかり、ますけど」

 

「なら、けっこう。じゃあ、まずは支払いをすませておいて」

 

 カーシャは伝票と紙幣を渡してから、さっさと外へ――

 

 

 

 

 

 

「あのう、おつり」

 

「小銭はかさばるから嫌なんだけど……」

 

 カーシャは受け取った硬貨を数えてから、

 

「それで。どこに案内していただけるの?」

 

「あの、いやあ……」

 

「お金が心もとないって顔ね」

 

「はい……」

 

「なら、その頼りない財力でも楽しめそうなところへ連れて行って。安心しなさい。ごちそうしろとか、おごれとか、卑しいことを言うつもりはないから」

 

「は、はいっ」

 

 

 

 で。

 

 そういうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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