破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
胡蝶の夢。
そういう言葉がある。
夢か現実か、区別のつかないようなことを指すらしい。
――地球が夢か。それとも
どちらも夢に過ぎないのか?
カーシャは一瞬、そんなわけのわからないことを考えてしまう。
何故、そうなったかというと。
「……ふうん?」
目の前で、どこか覚悟を決めたような……。
あるいは。
受け身な自殺でもするかのような。
妙な態度の少年。
この男子生徒は、先ほど、
「僕と付き合ってください」
そんなことを言ってきたわけだが。
――つまるところ、恋人関係? になってくれということ?
これはわかる。
しかしながら、
「ふうううん?」
カーシャは、ジロジロと少年の顔を見た。
顔立ちは悪くない。
むしろ。
平均からすると、良い部類になるだろう。
――もう少し、身ぎれいにして、身なりを整えれば。
かなり見れるものになる。
カーシャはそう見て取った。
――今は、どこか覇気のない顔つきだけど。
表情が明るく、背筋が伸びれば、
――ま? 爽やかな青少年になるかしら。
世の中には――
がんばってそこまでなれない男子も多いだろう。
――そういう点では、恵まれたほうね。
「で。あなたは、どなたかしら?」
カーシャはまず基本的なことをたずねた。
「え?」
「え? じゃないわ。私、あなたのことを知らないの。あんなことを言ったのだから、当然あなたはこっちを知っているでしょうけど」
「あ……」
当然の質問に、男子生徒は急にあたふたとし始めた。
現実に引き戻された、という感じ。
「え、と。僕はA組の
「そう。ご存じでしょうけど、私は長壁カーシャ」
言ってから、カーシャは周辺を見た。
当たり前だが、注目が集まっている。
ヒソヒソと話す声も。
「しかし、ま。立ち話もなんだから、場所を変えましょうか」
「いや。あの」
「うるさい」
カーシャは片手で少年の
そして。
まるで猫でも運ぶように、歩き出す。
カーシャの身長は、170半ばを超える。
日本人女子の平均からするとかなり高い。
少年は170になるか、というものなので――
下手をすれば、姉と弟。
いや。
母と息子のようだった。
「痛っ、苦し……」
「うるさい」
「それで?」
カーシャは、ミルクティーを飲みながら問いかける。
駅近くのコーヒーチェーン店。
その一角で、2人は相対していた。
「あの、すみません!!」
いきなり。
ずっと無言だった少年は頭を下げて謝り出した。
土下座でもするような勢い。
「なにが?」
「あの、いきなり変なこと言っちゃって……!」
「付き合ってほしい、は別におかしいことではないわね」
カーシャは紙のカップを置いて、
「まあ、あんな告白の仕方で、じゃあ付き合いましょうってなる
「……その、付き合ってほしい、とか。そういうんじゃ、なかったんだ……です」
「は?」
ずいぶんと、
つまり、胡散臭い言いかた。
カーシャは少しだけ目を細め、意気消沈の少年を見た。
「それは、アレかしら。いわゆる、〝嘘告白〟とかいうヤツ?」
「え」
「なにかの罰ゲームで、その気もないのに大げさな告白をしてきたと。そういうことでいいの?」
「いや、あの」
「これは、ケンカを売られている――そう思っていいのかしら?」
「いやいやいやいや!!」
淡々と言葉を重ねるカーシャに、袖引宗吾はあわてて首を振る。
「そう、いう……のでは」
「へえ」
言いよどむ袖引宗吾に、カーシャはわざとらしい声。
「でも。まったくちがう、という感じではなさそうね」
「う……」
言葉につまった袖引宗吾は、がくりとうつむいてから、
「ホントに、ごめんなさい……!!」
テーブルに両手をつき、頭を下げた。
瞬間、ゴチンというマヌケな音。
勢いあまって頭を打ったらしい。
「意味のわからない謝罪されても、困るのだけど?」
カーシャは呆れながら、ため息。
「とりあえず、その目的だか理由だかを聞かせてほしいわ。私には、その権利があるはずでしょう」
「……」
頭をテーブルにぶつけたまま、袖引宗吾は無言。
そして。
「あの……。最近ちょっと、嫌なことっていうか、落ち込むことがあって……。そしたら、同じクラスのヤツにからかわれてさ? その時――」
何か言い争ったり、そんなことをした。
……ような気がする。
結果。
気づいた時には、カーシャに告白すると、そういうことになっていた。
どういう流れでそうなったのやら。
言ったほうも、本気ではなかったらしい。
カーシャのもとに行く袖引宗吾に、
「バカ、やめろ。冗談だって!」
「本気でとるやつがあるか!」
「やめとけやめとけ!」
そういう言葉が投げられたのだが。
「ヤケクソで、結局行動に移したと」
「はい……」
「バカじゃないの?」
「はい……」
「思慮のなさ、考えなしもそこまでいくと面白いわ」
カーシャは肩をすくめて、立ち上がる。
「くだらないけど、まあ笑いのネタになったかしら」
「……」
「まあ、せっかくだから、デートにでも付き合ってもらいましょうか」
「え!?」
「いや。接待というほうがいいわね。意味、わかる?」
「え、いや。はい。わかり、ますけど」
「なら、けっこう。じゃあ、まずは支払いをすませておいて」
カーシャは伝票と紙幣を渡してから、さっさと外へ――
「あのう、おつり」
「小銭はかさばるから嫌なんだけど……」
カーシャは受け取った硬貨を数えてから、
「それで。どこに案内していただけるの?」
「あの、いやあ……」
「お金が心もとないって顔ね」
「はい……」
「なら、その頼りない財力でも楽しめそうなところへ連れて行って。安心しなさい。ごちそうしろとか、おごれとか、卑しいことを言うつもりはないから」
「は、はいっ」
で。
そういうことになった。