破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「無理」
ひと言。
それだけで、カーシャは背を向けてしまった。
ゲームを1回やった後のこと。
遊んでいたのは――
いわゆる……。
クレーンゲームというもの。
「こういう繊細なのは苦手」
「あ、はい。いや、けどもう1回できるけど……?」
「じゃ、あなたがやりなさい。私はけっこう」
そう言って、カーシャは宗吾をゲーム機へと押しやった。
――うわっ……。力
ゆっくりと、静かに。
しかし。
その白い手に押された瞬間、宗吾は巨大な重機をイメージした。
――そういえば……。学校から引っ張って来られたんだっけ……。ものすごい力だった……。
チラッと振り返れば。
カーシャはどうでも良そうな顔。
でも。
宗吾やゲーム機から視線を外さない。
――なんか、すごいプレッシャーだ……。
宗吾は一瞬身震いした。
クレーンゲームはわりと得意だが、こんな状況では、
――とても、とれる自信ないよな。あ、でも。別に頑張って取る必要ないのか?
態度を見るに、カーシャも別に景品を期待していないのがわかる。
「こういうのも、慣れとかコツがいるんだけど……」
結果。
「へえ?」
見事景品を取った宗吾に、カーシャは少し驚いた顔。
「そういう特技はあるとは、自己紹介で聞かなかったわね」
「いや。別にわざわざ言うことでも」
「ふむ。それもそうか」
その後。
カーシャは宗吾の案内や紹介で、メダルゲームなどを軽くやっていたが、
「あの丸いの、なにかしら」
白くきれいな指がさした先は――
丸形の大きな
「んん。あー、簡単に言うと、ロボットに乗り込んで戦う体感ゲーム」
「機動兵士ムガダン。私もそれはわかるけど」
カーシャに、この世界における知識では……。
「なんだったかしら? 主人公が変な仮面のロボットと戦うアニメ?」
「それ、正確にはサイボーグなんだけど」
「ああ、そう。ま、それはどうでもいいとして」
どうやって遊ぶわけ?
ひょっとして2人用?
言いながら、カーシャは筐体へ近づいていく。
「いや、入って遊ぶのはひとりなんだけど」
「それならけっこう」
うなずいて、カーシャは遊び方、操縦方法を確認する。
「なるほど……。ふーん……。こういう感じと」
それから。
宗吾を放置して、ゲームを始めてしまった。
――マイペースだなあ……
呆れながらも、
――楽しんでるなら、それでいっか。
そばに設置された、ゲーム状況を確認できるモニター。
宗吾はそれを見ながら、小さく笑った。
色んな意味で怖い
が。
――こういうとこは、フツーなんだなあ。
カーシャがゲーム内で操るロボット。
敵方の量産型……の、カスタムタイプ。
アニメでは、初期に主人公のライバルが乗っていたものだ。
――あ、これってけっこう癖が強いんだよな? 使いこなすと強いけど、そこまでいくのが……。
ゲーム画面の中、カーシャの機体は一応基本動作はできる。
そういうレベルだった。
――あ~。そういえばこれ、1回遊ぶのもちょっと高めだった。機嫌悪くしなきゃいいけど。
宗吾はやや不安を感じながら見ていた。
ただ歩いているだけのカーシャの機体。
それはもう。
狙ってくださいと言ってるようなものだった。
「ああ」
こりゃすぐヤラれる。
宗吾はそう確信して、思わずため息。
しかし。
ただ歩いているだけの機体。
それは、敵の攻撃をひょいとかわした。
いや?
勝手に外れた、あるいは偶然の動きがたまたま回避になった。
そういう感じなのだが……。
カーシャの機体は、その後も同じように攻撃をかわす。
あるいは、シールドで防いだ。
まるで打ち合わせでもしているような動き。
敵がいつ、どうやって攻撃するのか。
あらかじめ知っているみたいだった。
――これって、最初のステージでもけっこう被弾するんだよな?
このゲームは、かなり難易度が高い。
最初のステージで即ゲームオーバー、というほどではないが、
――慣れるまで、だいぶ削られるのが普通? なんだけど……。
遠・中・近。
いずれにおいても、カーシャは攻撃をかわし、防いでいった。
そして。
慣れてくると、攻撃にも移りだす。
見ていると――
敵が勝手に攻撃に当たっている。
そんな印象さえ受けてしまう。
次々と。
虫でも潰すように敵機は破壊されていき、
「いや、おいおいおい……」
宗吾は思わず、驚きを口にしてしまう。
カーシャのプレイ。
初めのほうこそ、何度か攻撃しての撃破。
まあ、普通だ。
が。
気づけば、一撃で敵の急所――つまりコクピットを破壊していた。
最後においては、ボスを一方的に倒す。
それはもう……。
見ていて気の毒になるほどだった。
ステージを重ねるごとに、それは顕著になっていく。
進めば進むだけ、難易度は上がっているのだが。
カーシャのプレイはどんどん向上していった。
いや。
容赦のないものになっていった、というべきか。
現れる敵。
倒せる敵。
それらは全て撃ちもらさない。
所詮は単なる娯楽、ゲームではある。
――いや、だけど、これ……。
皆殺し。
虐殺。
そんな単語が浮かぶほど、カーシャのプレイは殺伐としていた。
――……対人プレイだったら、色んな意味で荒れるな、絶対。
宗吾が嫌な確信を抱いている中で、
「うわああ……」
「なんだ、これ……」
「どんだけやりこんでんの?」
後ろのほうには、数人のギャラリーが集まっていた。
みんな、カーシャのプレイに驚き、とまどっている。
やがて。
当然のごとくゲームクリア。
「まあまあ面白かったわ」
筐体から出てきたカーシャは、宗吾に向かって言った。
「あ、はい」
「しかし……。けっこう時間をくったわね。まあいいけど」
カーシャは時間を確認しながら、
「それにしても。あなた、ずっとそこで待ってたわけ?」
「え? まあ、はい。プレイしてるのを見てて……」
「なるほど。ふむ。ちょっと悪いことをしたわね」
カーシャは少し考えて、
「時間はまだある、か。あなた、他にも遊びたいゲームとかあるの?」
「あ、いや? 今日は案内してきただけ、みたいなもんだし」
「そ。なら、場所を変えましょうか」
ギャラリーたちは――
宗吾を引っ張っていくカーシャを、半ば放心状態で見送っていた。