破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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※ご意見からちょっとだけ加筆しました※


その20、最後のエルフを追い詰めて

 

 

 

「……もう逃げられない。無駄なことは、やめろ」

 

 エルフの前に立ち、トクベーは言った。

 

「……おとなしく、死ねということ?」

 

 追いつめられ、壁にもたれるようにしてエルフは言った。

 まるで噛みつくように。

 

 外見は若い少女にしか見えない。

 銀髪に、紅い瞳。

 なによりも人間ばなれした美貌。

 これは、エルフ全般に言えることだが。

 というか、そもそも人間ではない異種族ではある。

 

「そうだ」

 

 爪のはえた手甲を向けたメッカイの言葉。

 

「いや、ちょっと待って。いったん黙って」

 

 急いで割って入るトクベーはエルフのほうを見ながら、

 

「もうやめないか?こんなテロリストみたいなこと」

 

「やめてどうする? お前らに捕まれと?」

 

「……」

 

 嘲るエルフの言葉に、トクベーは即答できない。

 

「ああ、そう。エルフの女だから、色々使い道があるということ? ゲスな人間らしいわ!」

 

「いや、ちがっ……」

 

「そんな獣人どもの奴隷を引き連れて、ハーレムの王様でも気取ってるのかしら? クソが! 死んでしまえ!!」

 

「……!」

 

 憎悪のこもった罵声に、トクベーは気圧されてしまう。

 

「それとも……優しい優しいご主人様(・・・・)が、かわいそうな奴隷たちを引き取っていると? 素晴らしい美談ね!」

 

 唇を歪めたエルフに、

 

「じゃっかましい!!」

 

 キューモが目を怒らせて金砕棒を叩きつけた。

 

「……!!」

 

「やめろ!」

 

 トクベーが叫ぶのと、エルフが魔法陣を展開したのはほとんど同時だった。

 半透明の障壁。

 それが金砕棒の直撃を防いだ。

 

 ……のだが。

 

「ぎゃっ!!」

 

 エルフは壁に叩きつけられ、猫のような悲鳴をあげた。

 

「おどれなんか事情が知るか! ああッ!? おかわいそうなエルフ様たちに遠慮して、うちらに手を引け(イモひけ)っちゅうんか!?」

 

「殺そう。今すぐ」

 

「ま。しょうがおまへんわなあ」

 

 メッカイもタロザも、同意らしかった。

 

「みんな……」

 

 トクベーがどこか哀しそうに仲間を見る。

 

「おやっさん、これは戦争ですけえ。エルフどもが仕かけとるのにかわいそうないうて、見逃したら後々厄介ごとにしかならんじゃないの? のう、おやっさん! おやっさんが手ぇ汚すんが嫌なら、うちらがチャチャッと片づけるわい。おやっさんにはドシーッと構えてもらわにゃあ、うちらぁやれませんけえ」

 

「その通り」

 

「大体が……こいつらは何人どころか何十人も殺してますえ? 中には一般人(カタギ)の女子供もおったんですよ。それで自分の番になったらカンベンしてくれいうのは……虫が良すぎるんやないです?」

 

 獣人たちは意見を変える気はないようだった。

 半分獣といっても、全員個性的ながら美少女ばかり。

 だが、その言動はガラが悪いどころか、血生臭い。

 

「ヤクザか、あいつらは……」

 

 ジロはつぶやいた。

 体格のいい中年男。

 彼はエルフのテロ集団より、獣人娘たちのほうに恐怖を感じていた。

 

「冒険者も似たようなものではありますけど。もちろんギルドのルールを破れば死のペナルティですが。しかし、それよりも……」

 

 ネイテクが片眼鏡(モノクル)をふきながら何か言おうとした時、

 

「ハーフエルフ、洗浄魔法は使えるわね?」

 

 カーシャがマコネ、バッキーを連れてきた。

 

「えーと。できれば名前で呼んでいただきたいんですが」

 

「なんといったかしら」

 

「いやあの、ネイテクですよ。それで、確かに使えますが。ああ……なるほど」

 

 ネイテクは返り血で汚れた2人を見て、すぐ納得する。

 

「ひっでえもんだ、しばらくレアのステーキは食えねえな。食ったことねえけど」

 

 マコネは苦笑しながら髪をかき上げた。

 

「なんなら、今日の夜にでも食べさせてあげるわよ」

 

「いやあ、遠慮しとくよ。別のもんをお願いしたいね」

 

 本気か冗談かわからないカーシャの言葉に、マコネは苦笑した。

 

 ネイテクが魔法を使うと、マコネたちの汚れは見る間に消えていく。

 

「っていうか、なにこの状況……」

 

 バッキーは転がるエルフの死体や、獣人たちに囲まれているエルフの少女を見る。

 

「あの、やっぱり、その……」

 

「殺すしかねえだろうよ」

 

 バッキーの聞きたいことを察して、マコネが首を振った。

 

「あのキツネも言ってたろ、ヤツらもあちこちで殺してきたんだ。しゃーねーよ。第一、ギルドからの依頼だしな」

 

「そういうもの、なんだね」

 

「ああ、そういうもんだ。捕まったとしても、ろくな目にあわねえさ。だったらここで死んだほうがマシだよ」

 

「……」

 

「こういう状況で、怨み買ってる女がどうなるか。お前さんだって想像つくだろ? しかも美形のエルフだしな」

 

「それは、まあ……」

 

 バッキーが口ごもっている横を通りすぎ、

 

「いつまで遊んでるつもり。やらないならこっちが殺す」

 

 カーシャが苦しそうに倒れているエルフ少女を見ながら言った。

 まるで抑揚のない声。

 

「……少し、待ってくれ」

 

 トクベーはカーシャに立ち、まっすぐに青い瞳を見る。

 そして、こんな言葉を言った。

 

「逃げ場のない鳥」

 

「は?」

 

「ことわざにもある。逃げ場のない鳥がふところに逃げ込んできた時、猟師も鳥を殺さない……」

 

 どこで聞いたことわざだ?

 思い出せない。

 ただその時、少年シーフの頭にあったのは、

 

「助けて」

 

 多分、あの()はそう言っていた。

 でも。

 自分が何かをすることもないまま、

 

「ぎゃ……!」

 

 悲鳴をあげて。

 矢が。

 背中に。

 

「そんなわけないでしょう」

 

 自分の言葉を一蹴され、トクベーは我に返った。

 

「どこのことわざか知らないけど、獲物が飛び込んできたら猟師は喜んで狩る。それが現実よ」

 

「……う」

 

 反論できない言葉に、少年は絶句するしかない。

 それは、確かにそれはそうなのだ。

 

 

「お前の慈善事業に付き合う気はないわ」

 

「あー、ちょっと待ってください」

 

 そこへネイテクが割って入った。

 

「彼らはドラゴン種を操っていました。ということは、ドラゴン・ホルンを持っている可能性が高い――」

 

 ネイテクの言葉が終わる前に、

 

 ブオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

 

 角笛の音が、部屋に響き渡った。

 

「うぎゃ!?」

 

「しまっ……!」

 

「ひえ!?」

 

「うげっっ!!」

 

 パーティーがたまらず耳をおさえたり、うずくまる。

 

 さらにそこへ、

 

 バババババババッ………!

 

 カーシャが破壊した扉、のあった入口から何かが群れをなして飛び込んできた。

 

「きゃあ! なに!? コウモリ!?」

 

 バッキーは悲鳴をあげてうずくまる。

 

 小型の飛翔モンスター。

 それが大群で入り込んできたのだ。

 

 当り前だが。

 パーティーは大混乱となる。

 

 だが、そんな中。

 カーシャは、モンスターたちを次々に叩き落としていった。

 しかし、きりがない。

 

「ちっ」

 

 カーシャはチラリと他の者たちを見てから、カーラナーガを握りなおした。

 黒い刀身が、うっすらと輝く。

 

「……みんな、目を閉じろ!」

 

 いきなり、トクベーが叫んだ。

 少年は床に何かを叩きつける。

 その瞬間、突き刺すような閃光がまわりを包み込んだ。

 モンスターたちは混乱して、部屋から逃げ出していく。

 

 光がおさまった時。

 モンスターのほとんどはいなくなっていた。

 逃げ遅れたわずかな個体が壁にぶつかったり、床を転げまわっている。

 

「なにこれ……? 恐竜? いや、翼竜? なんとかドン?」

 

 バッキーは転がっているモンスターを見ながらつぶやく。

 モンスターの姿は、どこかで見た翼竜の姿に似ていた。

 

「ワイバーンベビーですね。ま、別にワイバーンの幼体ってわけじゃないですが」

 

 ネイテクが手短に説明。

 

 と、

 

「マコネ」

 

 カーシャがマコネに何かを放った。

 

「うわ!?」

 

 それは、切り落とされた腕。

 手には銀色の角笛を握りしめている。

 

「保管しときなさい。私はさっきのヤツを追う」

 

 カーシャは背を向けながら、淡々と言った。

 

「いや、追うって……深追いは危険――」

 

「無駄だよ。もう行っちまった」

 

 止めようとするネイテクに、マコネは肩をすくめた。

 言葉通り、カーシャの姿はもうない。

 

「……で。どないするん、この後」

 

 ジロの質問に誰も答えなかった。

 

「おやっさん〟敵の根城は潰したんやし、ギルドナイトを呼びなはったらどうです?」

 

 タロザはトクベーの肩に触れながら言った。

 

「そうだな……」

 

 トクベーがうなずいた時だった。

 

 

 ゴッゴッゴッゴッ……。

 

 いきなり、得体のしれない音がダンジョンに響き出す。

 

「――!!」

 

 トクベーをはじめ、獣人娘たちがすばやく身構えた。

 

「つ、次はなんやねん?」

 

「急いで脱出したほうがいいようですね」

 

  ド、ズン………

 

 うろたえるジロへネイテクが叫んだ時、天井から分厚い鉄板が降りてきた。

 鉄板は、エルフが脱出した出口を完全にふさいでしまう。

 

 ル・ル・ル・ル・ル・ル……

 シュー、シュー、シュー……

 

 ゾッとするような不気味な音が外から響いてくる。

 

「まずい! みんな外へ!」

 

 トクベーの声を合図に、パーティーは部屋から飛び出した。

 四方の壁――そのあちこちに出入口が開いて、音が……。

 いや、うなり声が聞こえてくる。

 

「おい――なんかいやがる!」

 

 マコネが嫌な気配に顔を上げると、高い天井には人型のモンスターが何匹も張り付いていた。

 あちこちの出入口からは、フクロウの顔をした大型獣が出てくる。

 

「シリング・クローラー」

 

「それに、オウルベアですか……」

 

 トクベーとネイテクがそれぞれつぶやく。

 

「あー……。どうやら、自分たちがやられた場合に備えて罠を設置していたようですね。ダンジョンのモンスターが集まってきたようだ」

 

 ネイテクは杖を構えつつ、皮肉そうに笑う。

 

 逃げる隙もないまま――

 パーティーは、モンスターの群れに囲まれてしまった。

 

「あ、あ、あはははは……。これ、まさか絶体絶命?」

 

 バッキーは冷や汗を流しながら、ただただ笑う――

 

 

 

 

 

 

 

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