破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その113、青龍石の枕-4

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「む――」

 

 と。

 その男が足を止めたのは、職場へ戻る途中だった。

 

 

 向かい側の歩道。

 2人づれの高校生が歩いている。

 ただ、それだけ。

 

 しかし、

 

 ――これは……。

 

 その片方、きれいな顔をした少女。

 驚くような美貌だった。

 どこか、人間ばなれしているほどに。

 

「はあ~。世の中、あんなかわいい子がいるんですねえ!?」

 

 連れ立っていた部下も、少女に気づいたらしい。

 

 確かに、その美貌も凄まじい。

 

 だが。

 そこではない。

 

 男が思わず見てしまったのは、少女から感じる臭い。

 まとった空気。

 

 ――血だ。

 

 無意識に口元を押さえ、男は顔をしかめていた。

 

 血と、腐った肉……死体の臭い。

 それが、車道越しですら感じられるような。

 

 刑事。

 長年つとめてきた男の職業である。

 

 その中で、多くの犯罪者を見て、出会ってきた。

 嫌なことばかりだったように思う。

 いつしか。 

 ある犯罪者からは、独特な臭い、気配がすることに気づいた。

 

 殺人を犯した者。

 それらは、全て共通した死臭に似たものを出している。

 多くを殺害した者ほど、強い〝臭い〟を放つ。

 

 あの美しい少女からは――

 

「どうしたんです? 顔、真っ青ですよ?」

 

「……すまん。ちょっと気分がな。俺も年か」

 

 よろける体をこらえながら、男は何とか笑ってみせた。

 

 あの少女が殺した人間。

 おそらく、百やそこらではない。

 まるで戦争のような。

 

「……いや、本当に年だな。まったくどうも」

 

 自分の思考を、男は笑って否定した。

 

 ――バカらしい……。まったく、長年の勘なんか当てにならんもんだ。いや、やっぱり年か。

 

 そして、

 

「じゃあ倒れないうちにさっさと戻るか。まだ仕事も残ってる」

 

 男は部下を促して歩き出す。

 無意識化で逃げるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「あの、どうかした……ですか?」

 

「いえ」

 

 立ち止まり、どこかを見ていたカーシャ。

 宗吾に声をかけられ、笑って首を振る。

 

「さて。ちょっと何か食べていきましょう。待たせたお詫びにごちそうしてあげる」

 

 と。

 カーシャはファミレスを指して言った。

 

 リーズナブルな価格で、満足できると評判のチェーン店。

 さらに。

 なかなか洒落(しゃれ)た雰囲気もある。

 学生のデートコースとしては、かなり上質な店だ。

 

「え。いや」

 

「言っておくけど、あなたよりお金はあるから」

 

「あ、あははは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勘違いでしょ」

 

「えっ?」

 

「だから。勘違いだと言っているの。自意識過剰、あるいはひとり相撲(ずもう)?」

 

 ン。

 これはちょっと年寄り臭い表現かしらね。

 でも、まあ。

 そういうことだから。

 

 会話の途中――

 カーシャはそう断言した。

 

 その前には複数の料理が並んでいるが……。

 

 無駄のない所作と、ゆったりとした、ように見える動き。

 カーシャはしゃべる合間に、どんどん料理を食べていた。

 

 それでいて。

 ちょくちょく相づちを打つのだ。

 

 ――どれだけ食べるんだ……。

 

 カーシャの食事に、宗吾は恐怖すら感じる。

 いくら背が高いと言っても、その量は明らかに10代少女のものではない。

 

 ――運動部の女子だって、こんなには食べない。絶対に。

 

 食事の中で。

 いつの間にか、宗吾個人のことになっていた。

 

 あるいは悩みか。

 

 むしろ。

 ほぼ面識のない相手だからこそ、話せるものだった。

 かもしれない。

 

「あなたの話というか、愚痴を要約すれば――」

 

 カーシャは、ステーキを切っていた手を止め、

 

「親しい、と思っていた女の子たちがみんな他の男。しかもたったひとりに持っていかれたと。そういうことでしょ?」

 

「う」

 

 身も(ふた)もない。

 しかしながら。

 まったくその通りだった。

 

「いえ?」

 

 カーシャはさめた目つきで、宗吾を見る。

 切り分けた肉を口に入れ、音を立てずに食べてから。

 

「そもそも、()()()()なんていうのが、間違っているわ」

 

「あの、いや」

 

「まずお友達の代表と言える、幼馴染さん。古い付き合いだから、まあそれなりに距離は近かった。と、いうだけでしょ」

 

「そ――」

 

 何か言おうとするのだが、宗吾は声が出ない。

 

「他の()も同じこと。たまたま距離が近い、仲良くなった。そう思っていただけじゃないの? あなたが勝手に、ひとりで」

 

「いや、その」

 

「それとも、なに? 向こうもあなたが好きだったとか、そんな風に思っていたのかしら? すごい自信だこと」

 

「うあ」

 

「ちょっと仲が良いだけの相手を、勝手に自分のヒロインだと勘違いしてた。それがあなたです」

 

 突き放すような言葉。

 

 しかし。

 不思議と宗吾は不快にもならなかった。

 哀しくもない。

 つらくもない。

 

 ――不思議なひとだなあ。

 

 頭の隅で、そんなことすら思う。

 

「話から察するに、その男の子はあなたより数段上のランクにいるのでしょう。だったら、仮にあなたの思い上がりが事実だったとして、女の子があなたにこだわる意味なんかないわね」

 

「そういうもの、ですか」

 

「そういうものよ」

 

「うん。はい。そうですよね」

 

 カーシャの辛辣(しんらつ)な言葉は、宗吾の中にしみこんでいった。

 何の抵抗もなく。

 

「最悪、あなたのことはいわゆる黒歴史になっている可能性すらある」

 

「うわあ……」

 

 言われたことを想像して、宗吾はげんなりとなった。

 頭を抱えたい心境。

 

 そして。

 脳裏をよぎるのは――

 

 

 ずっと一緒に過ごした幼馴染の少女。

 ボーイッシュな半分喧嘩友達だった少女。

 地味な印象だが、不思議な魅力の少女。

 クラス委員長をつとめ、まじめで堅物の少女。

 

 

 ――あ……アホか、僕は。

 

 カーシャの血も涙もない指摘に、宗吾は笑うこともできない。

 というより。

 むしろ、羞恥心しかなかった。

 

「はあああ……」

 

 辛気臭い。

 その見本みたいな、無駄にでかいため息。

 

 でも。

 

 息と一緒に、今までたまっていた(おり)のようなものが、抜けていく。

 

 その一方で。

 カーシャはといえば?

 

 ――しかしまあ……。

 

 宗吾から聞いた話をもう一度思い返していた。

 

 そも。

 どういう感じだったかというと――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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