破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その113、青龍石の枕-5

 

 

 

 

 

 

 

 ――ふうん。アレが、ねえ?

 

 カーシャは教室入り口から、そのクラスをのぞいていた。

 

 視線の先。

 そこには、ひとりの少女がいる。

 可愛らしい。

 素直にそう言える()だった。

 明るい茶髪のサイドポニーテールが似合っている。

 

 ある意味……。

 

 カーシャの美貌よりは好印象を受けるかもしれない。

 過剰とも言える美しさ。

 それはもう、ある意味で異形の存在でもある。

 

 (かつら) 五十鈴(いすず)

 

 袖引宗吾の幼なじみである少女。

 

 お姉さん気質、いや()()()()()()()か。

 世話焼きは好きで、元気の良さが長所、らしい。

 

 ――ああいうのに、男性は勘違いしやすいのかしらねえ?

 

 悪意で見るのなら、やたらに恩着せがましく、媚びを売る女とも言える。

 

 

 それはさておき。

 

 

「ふうん。なるほど……」

 

 カーシャは、口の中で小さく言葉を転がす。

 桂 五十鈴のとなり。

 そこには、スラリとした感じの少年がいる。

 

 イケメン。

 

 大よそはそんな感想を抱く容姿。

 

 ――体から見ると、運動神経も良さそう。体力もなかなかある、か。

 

 さらに表情や所作などから推測すれば、

 

 ――勉学はともかく、頭も回るか。ふむふむ。

 

 まあ、色んな意味で優秀だと思われる。

 将来有望と見られるだろう。

 

 ――順調にいけば、ね。

 

 カーシャはどこか生温かい気持ちになった。

 

 知恵や働き、要領が良いのが災いする。

 そういうことはいくらでもあるのだ。

 

 墓穴を掘ることもあれば?

 よりずる賢いに相手に利用され、使い捨てにされることすら。

 

 

「あ」

 

 

 視線に気づいたのか。

 五十鈴は小さな声をあげ、カーシャを見る。

 

 ビクリ、と体が震えたようだ。

 

 さらに。

 同じように気づいたのだろう。

 相手の少年も、カーシャを見た。

 

 途端、ニコリと微笑。

 爽やかな笑み、というやつだろう。

 

「……」

 

 カーシャは表情を消して、その場を去った。

 

 ――なまじ、愛想を振りまくより、最初はそっけない態度のほうが良い。

 

 ああいう男には、そのほうが効果的だ。

 

 薄く笑いながらカーシャは自分のクラスへ戻っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思い出すのは――

 あの、赤黒い場所だった。

 多くの者は、あそこを地獄というのだろう。

 実際に冥府なのか、それとも別の何か。

 それはカーシャの知るところではない。

 

 切り裂かれ、潰され。

 あらゆる恐怖と苦痛があった。

 

 しかし。

 中には、変わり種も。

 

 頭――脳へ、無数の触手が入り込み、かき回す。

 それによって、脳内の機能を(いじく)るのだろう。

 

 気が狂うような快感で、焼かれた。

 しかし。

 (たの)しさはほんの一瞬。

 

 過剰を超えた過剰な悦楽は、ある意味どんな肉体破壊よりも苦痛となる。

 泣き喚き、全身からあらゆる体液をも出しながらもだえ狂う姿。

 

 おそらく、そのさまは……。

 

 ――見られたものでは、なかったでしょうね。

 

 長い髪をかき上げ、少しだけ自嘲する。

 

 ――肉体的な快楽がどんなものか、ものだったか。それに、他人を愛する能力がないのなら、精神的な幸福感はあるのか?

 

 そんな思考がよぎった後。

 

 ――んー……。でも、これは〝こちら流〟に表現すれば?

 

 こじらせた中学生みたいな考えかた、となるのかしら。

 

 そう考えれば、逆に面白い。

 

 

 カーシャの脳内をよぎっていた回想や思考などなど。

 

 

 これらは、本当に一瞬で過ぎ去っていったもので――

 

 

「しかし、ねえ?」

 

 会話に復帰しながら、宗吾を見た。

 

 昼休み。

 2人は、カーシャのクラスで話していた。

 

 内容は、主に宗吾の友人? 関係のことだったが……。

 

「状況的には、なんだか珍妙なラブコメみたいだこと」

 

「はい?」

 

 いきなりの、珍妙な発言。

 宗吾は反応に困っている。

 

「えーと。そうそう、手ひどくヒロイン? から振られたり、バカにされた主人公がもっとすごい美少女に好かれてしまう。そういうマンガ」

 

「???」

 

「で。たいていそのヒロインは自滅したりなんやらで、ヒドイ目にあうというパターンで」

 

 カーシャは夢かもしれない異世界での記憶をたどっていた。

 

 確か。

 例の集団転移者の一人が持っていたスキル。

 絵草紙(マンガ)を召喚できるという、妙なもの。

 

 そのうちのいくつか。

 正確には、研究者たちが模造した本をカーシャはもらっていた。

 

 色々なものがあったが、その中で――

 

「仮に、私があなたと恋人関係になったら、まさにそういう感じになるわねえ」

 

 クスクス笑うカーシャに、

 

「そうかなあ?」

 

 宗吾の態度や表情は、言外にそう語っている。

 

「しかし――なんとも女々しい話じゃないかしら。まるで、お安い女性向けラブロマンスみたい」

 

「え。そうなんですか?」

 

「恋人のスペックで他にマウントを取るなんて女社会でこそ通用する話よ」

 

「いくらなんでも、極端じゃないかと……」

 

 宗吾は疑問を述べる。

 が。

 カーシャは無視して続ける。

 

「自分を振った、見下していた相手を、はるかに上のランクの恋人を手に入れて見返す。〝ざまぁ〟っていうの?」

 

「そうっすね。読む側はスッキリするかと」

 

「でも。そんなことする男性が、果たして同性から一目置かれるものやら。逆にバカにされたりするのではなくって?」

 

「あああ」

 

 その意見に、宗吾は一瞬ポカンとするが納得の様子。

 

「まあ、それでもかまわないなら、あなたもそうしてみる? これもなにかの縁だし、〝ふり〟ぐらいならしてあげるわよ」

 

「遠慮しますよ……」

 

「あ、そう」

 

 けれど。

 賢明な判断、と言うべきしょうね。

 

 カーシャは意地の悪い目つきで、楽しそうに笑った。

 

 

 それから。

 カーシャは宗吾を無視して、スマホをいじり始める。

 

「ああ、えーと。じゃあ、これで……」

 

「これを見なさい」

 

「え?」

 

 間が持たないので、そそくさと立ち去りかけた宗吾。

 カーシャはそれを呼び止め、スマホを突き出した。

 

 画面には、マンガの1ページが表示されており、

 

 

「女なんてもんは、自分で動くだけのオナホールみたいなもんやがな。 マジになっとったらあかんで? ブヘヘヘ」

 

 

 いかにも、ヤクザという風貌の男がその台詞を言って笑う。

 そういうシーンだった。

 

「??????」

 

 

 意味がわからない。

 

 

 思わずカーシャを見る宗吾へ、

 

「ハッキリ言って。女としては心底不快だし、現実であったら叩き殺したくなる言い草だけど」

 

 あなたみたいな凡俗タイプは、これくらいドライでいたほうが人生楽になるわよ?

 

 これまた、とんでもない言葉が投げつけられた。

 

「いやいやいや。ドライって言うんですか、それ???」

 

「あら。老婆心から言ってあげてるのだけど。ああ、意味わかる? 要するにおせっかいってこと」

 

 おせっかいとか、そういう部類の話ではない。

 宗吾は、何とも表現の難しい心境と表情だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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