破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その113、青龍石の枕-7

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこに立っていられると、邪魔なんだけど――」

 

「ひぇ!?」

 

 カーシャの声。

 それを背中に受けた少女は、痙攣するみたいな反応。

 

 黒髪の三つ編みで、眼鏡。

 地味な印象だが、かわいらしい少女だった。

 やや小柄。

 そのため、カーシャと並ぶと大人と子供のようで。

 

 カーシャは少女の背中越しに、前のほうを見た。

 

 袖引宗吾。

 イメチェンがすっかりなじんだ少年は、別の女子と話している。

 カーシャは、女子の眼に『色』があるのを見て取った。

 

 そして。

 

 三つ編み眼鏡の少女を見る。

 

「あの彼、お友達?」

 

「え。あの、その……」

 

 ハッキリしない反応。

 

 ――殿方は、こんなのが保護欲を掻き立てられたりするのかしら?

 

 考えつつ、少女を観察。

 すぐ、ある推測をして、

 

「驚かしちゃってごめんなさいね。おわびに、お茶でもごちそうするわ」

 

「……え? え」

 

 困惑の中でアタフタしている少女。

 カーシャはその手を軽く、優しく握って歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「水でいいの?」

 

「あ。はい」

 

「なら、私もそうしようかしら」

 

 自販機の近く――

 ベンチでふたりの少女は並んで座る。

 

「ところで」

 

 カーシャは笑って少女を見た。

 

「は、はい」

 

「名前を、言ってなかったわね」

 

「あ……」

 

「私は長壁。長壁カーシャ。少し前に転校してきたの」

 

 と。

 カーシャはわざわざ生徒手帳を出して名乗った。

 

「えと、私……クチナシ、カナです」

 

 つられた、せいだろう。

 少女はあわてて、自分も手帳を出して名乗った。

 

 手帳には、

 

『不口 カナ』

 

 との記載。

 

 ――ふむ?

 

 カーシャはこの世界、日本での知識と記憶を思い起こす。

 

 口にあら()……と、でもなるのか。

 合わせれば、(いな)

 

 この場合、

 

 ――(くち)ではない。

 

 いや。

 話さない、ということかもしれない。

 

 ――地名なんかでは、変わった読み方はいくつもあるけど。

 

 何となく、彼女のルーツが気になりそうだ。

 

 ――ま。それは置いておくとして……。

 

「では不口(くちなし)さん、あなたがさっき見ていたのは、男子のほうでいいのかしら?」

 

「……その」

 

「なるほど。間違っていないようねえ」

 

「……」

 

「ひょっとして、気になる相手だったりするの? なら、行きがかりというのも変だけど――お手伝いしましょうか?」

 

「いえ! ちがうんです、あの……!」

 

 わちゃわちゃとした反応。

 否定というより。

 

 ――やはり、後ろ暗いものがあるか。自覚があるかどうかは別にして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よくわからないわね」

 

 話を聞いたカーシャは、つまらなそうに言った。

 ほとんど誘導して話させたも同じだが、

 

「普通なら」

 

 と。

 カーシャは空になったペットボトルをゴミ箱へ放る。

 プラスチックごみは見事に入って、小さな音。

 

「終わった相手のことなんか、どうでも良くなると思うんだけど。あなたはちがうの?」

 

「……」

 

 不口(くちなし)カナは、答えない。

 代わりというように――

 飲みかけのペットボトルをギュッと握る。

 

「だって。あなた、もう別の()()()がいるんでしょ?」

 

「それは」

 

「だったら別にどうでもいいじゃない。そもそも」

 

 別にお互いに彼氏彼女だったわけでもないのでしょう?

 

 カーシャは薄く笑って言った。

 うつむいたカナには、カーシャの笑みは見えていなかったけれど。

 

「向こうもあなたのこと、友達としか思ってなかったのでなくて?」

 

「……でも」

 

「さっきから、〝でも〟とか〝だって〟とか。そんなことばかり。もうちょっと他にないものかしら」

 

 カーシャは肩をすくめる。

 

「あなた、なにか話していないことがあるんじゃないの?」

 

「……だけど」

 

「答えになってないわね」

 

 カーシャは呆れた顔になるが、

 

「まあ仮に? 彼があなたのことを好きだったとしましょう。でも、だからといって、いつまでも執着する意味も必然性もない」

 

 その言葉で、カナはハッとして顔を上げる。

 

「男の子は、過去の恋愛をずっと引きずるとか言うけれど」

 

 カナの様子を意地の悪い目で見ながら、

 

「私見を言わせてもらえば、そんなのは男どもが自分たちを美化して言ってるにすぎない」

 

 カーシャは指を振って語り続ける。

 

「時と場合で、男の子なんてすぐさめて離れていくわ。それはもう薄情なものよ」

 

「別に彼に未練があるわけじゃないんでしょう? さっきも言ったけど、あなただって別に男の子がいるじゃない。何ひとつ困らないと思うけど」

 

「……」

 

「それとも、なに? 彼が絶望して一生そのままくすぶって生きてくとでも思った? 何を根拠に?」

 

「わ、私……そんなこと……」

 

「んー。最近? 古い恋愛ゲームってのをやってみたんだけど」

 

 いきなり。

 カーシャはまったく関係ない話をし始めた。

 

「あれって、どのヒロインともくっつけなければバッドエンドで終わるのよね。ま、そういうゲームだから」

 

 でもねえ?

 それってゲームだからでしょ?

 この世界では、女なんかそこらへんにいくらでもいるわ。

 

 で。

 

 ()()()()()でなければいけない理由も、ない。

 

「それと。袖引くんだったかしら。彼、素材は良いし口下手でもない。その気になれば、彼女を作るのに苦労しないわね」

 

「…………」

 

「まさかとは思うけど、彼に引きずっててほしい。いえ、そうあるべきだとも思っていた? それ、まともな思考じゃないわよ」

 

「ち、ちがいます!!」

 

「じゃ。なーんにも問題ないわ。どうでもいいことにこだわって、必要もないことでモヤモヤしてるだけ」

 

 あなたが勝手にね?

 不口(くちなし)カナさん?

 

 カーシャの顔に、カナは表情を凍りつかせる。

 

 心底刻み込まれた印象は、

 

「嫌な女」

 

 だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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