破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「そこに立っていられると、邪魔なんだけど――」
「ひぇ!?」
カーシャの声。
それを背中に受けた少女は、痙攣するみたいな反応。
黒髪の三つ編みで、眼鏡。
地味な印象だが、かわいらしい少女だった。
やや小柄。
そのため、カーシャと並ぶと大人と子供のようで。
カーシャは少女の背中越しに、前のほうを見た。
袖引宗吾。
イメチェンがすっかりなじんだ少年は、別の女子と話している。
カーシャは、女子の眼に『色』があるのを見て取った。
そして。
三つ編み眼鏡の少女を見る。
「あの彼、お友達?」
「え。あの、その……」
ハッキリしない反応。
――殿方は、こんなのが保護欲を掻き立てられたりするのかしら?
考えつつ、少女を観察。
すぐ、ある推測をして、
「驚かしちゃってごめんなさいね。おわびに、お茶でもごちそうするわ」
「……え? え」
困惑の中でアタフタしている少女。
カーシャはその手を軽く、優しく握って歩き出す。
「水でいいの?」
「あ。はい」
「なら、私もそうしようかしら」
自販機の近く――
ベンチでふたりの少女は並んで座る。
「ところで」
カーシャは笑って少女を見た。
「は、はい」
「名前を、言ってなかったわね」
「あ……」
「私は長壁。長壁カーシャ。少し前に転校してきたの」
と。
カーシャはわざわざ生徒手帳を出して名乗った。
「えと、私……クチナシ、カナです」
つられた、せいだろう。
少女はあわてて、自分も手帳を出して名乗った。
手帳には、
『不口 カナ』
との記載。
――ふむ?
カーシャはこの世界、日本での知識と記憶を思い起こす。
口にあら
合わせれば、
この場合、
――
いや。
話さない、ということかもしれない。
――地名なんかでは、変わった読み方はいくつもあるけど。
何となく、彼女のルーツが気になりそうだ。
――ま。それは置いておくとして……。
「では
「……その」
「なるほど。間違っていないようねえ」
「……」
「ひょっとして、気になる相手だったりするの? なら、行きがかりというのも変だけど――お手伝いしましょうか?」
「いえ! ちがうんです、あの……!」
わちゃわちゃとした反応。
否定というより。
――やはり、後ろ暗いものがあるか。自覚があるかどうかは別にして。
…………。
「よくわからないわね」
話を聞いたカーシャは、つまらなそうに言った。
ほとんど誘導して話させたも同じだが、
「普通なら」
と。
カーシャは空になったペットボトルをゴミ箱へ放る。
プラスチックごみは見事に入って、小さな音。
「終わった相手のことなんか、どうでも良くなると思うんだけど。あなたはちがうの?」
「……」
代わりというように――
飲みかけのペットボトルをギュッと握る。
「だって。あなた、もう別の
「それは」
「だったら別にどうでもいいじゃない。そもそも」
別にお互いに彼氏彼女だったわけでもないのでしょう?
カーシャは薄く笑って言った。
うつむいたカナには、カーシャの笑みは見えていなかったけれど。
「向こうもあなたのこと、友達としか思ってなかったのでなくて?」
「……でも」
「さっきから、〝でも〟とか〝だって〟とか。そんなことばかり。もうちょっと他にないものかしら」
カーシャは肩をすくめる。
「あなた、なにか話していないことがあるんじゃないの?」
「……だけど」
「答えになってないわね」
カーシャは呆れた顔になるが、
「まあ仮に? 彼があなたのことを好きだったとしましょう。でも、だからといって、いつまでも執着する意味も必然性もない」
その言葉で、カナはハッとして顔を上げる。
「男の子は、過去の恋愛をずっと引きずるとか言うけれど」
カナの様子を意地の悪い目で見ながら、
「私見を言わせてもらえば、そんなのは男どもが自分たちを美化して言ってるにすぎない」
カーシャは指を振って語り続ける。
「時と場合で、男の子なんてすぐさめて離れていくわ。それはもう薄情なものよ」
「別に彼に未練があるわけじゃないんでしょう? さっきも言ったけど、あなただって別に男の子がいるじゃない。何ひとつ困らないと思うけど」
「……」
「それとも、なに? 彼が絶望して一生そのままくすぶって生きてくとでも思った? 何を根拠に?」
「わ、私……そんなこと……」
「んー。最近? 古い恋愛ゲームってのをやってみたんだけど」
いきなり。
カーシャはまったく関係ない話をし始めた。
「あれって、どのヒロインともくっつけなければバッドエンドで終わるのよね。ま、そういうゲームだから」
でもねえ?
それってゲームだからでしょ?
この世界では、女なんかそこらへんにいくらでもいるわ。
で。
「それと。袖引くんだったかしら。彼、素材は良いし口下手でもない。その気になれば、彼女を作るのに苦労しないわね」
「…………」
「まさかとは思うけど、彼に引きずっててほしい。いえ、そうあるべきだとも思っていた? それ、まともな思考じゃないわよ」
「ち、ちがいます!!」
「じゃ。なーんにも問題ないわ。どうでもいいことにこだわって、必要もないことでモヤモヤしてるだけ」
あなたが勝手にね?
カーシャの顔に、カナは表情を凍りつかせる。
心底刻み込まれた印象は、
「嫌な女」
だった。