破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その113、青龍石の枕-8

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その少女が、異様な物音を聞いたのは校舎裏の近くだった。

 

 

 ゴッ……

 

 ガッ……

 

 

 何とも言いがたい……。

 嫌な響きのある音だった。

 

 少女は不審に感じ、そばに近づいた。

 

 ダークブラウンのストレートロング。

 前髪はきっちり揃えている。

 ピンと伸びた背筋から、育ちの良さがうかがえる。

 

 鬼台(おにだい)あかり。

 

 これが少女の名前。

 

 

 そして、見た光景――

 ハッキリ言って、異様としか言えないし、思えない。

 そういうものだった。

 

 

 背の高い女子生徒が、男子の髪をつかんで見おろしている。

 

 男子の顔。

 腫れあがり、血まみれになって判別がつきづらい。

 

「もう許してください」

 

 発音がひどくて、よくわからないが……。

 どうやら?

 切れた唇から、男子はそう言ったらしい。

 

「お得意の()()()()()は通じなかったわねえ?」

 

 女子は静かで、穏やかとさえ言える声で話していた。

 淡々と。

 しごく、つまらなそうに。

 

「残念だけど、練習が圧倒的に足りなかった。そういうことよ。まあ……」

 

 あと何百年か一生懸命やっていれば、勝てたかもしれなくってよ。

 

「ン? ああ、その前に寿命で死んじゃうか。これは失敬」

 

 女子生徒は首をかしげてから、手を放す。

 男子は、ゴミのように地面に転がった。

 

「それで。この後あなたは何というのかしら?」

 

 少女はうつ伏せ震えている男子に、()()()語りかけた。

 

「今時珍しい、ケンカ自慢なワルガキで評判の君が――オンナノコ相手に、一方的に殴られ、痛めつけられて、泣いて詫びを入れましたと。そう言うの? 先生や警察、お父様やお母様に。別に良いけど」

 

 女子生徒は現実離れした美貌の顔に、いたずらっぽい笑み。

 

「んー。そうね? あなたは女性を尊重する騎士道精神あふれる青年だから、オンナノコには手をあげられなかった。うん。そういうことにする? それなら面目も立つわね」

 

 でもね?

 

 と。

 女子生徒はかがみ、男子の頭をなでながら、

 

「私よりも圧倒的に弱かったあなたが惨めに負けた事実は変わらない。どんなに言い訳してもその事実は変えられないの。悔しいだろうが、仕方ないのよ。わかる?」

 

 女子生徒はそう言った後、立ち上がる。

 

 そして。

 

「ああ、でも。あなたがこの後奮起して、復讐を考える可能性も大いにあるか。なら、殺したほうがいいかもね」

 

 美しい乙女は、とんでもないことを言った。

 

「まだ未成年で()()()()()()だから色々慮ってくれるだろうし……。しつっこいストーカーにつきまとわれるより、マシかもしれないわ」

 

 言いながら、美貌の乙女はその足で男子の頭を――

 

 踏んだ。

 

 途端。

 男子の口から異様なうめき声が漏れた。

 

 恐怖と絶望。

 それだけがこめられたうめきと悲鳴。

 聞いている、あかりの心が凍りつきそうなほどに……。

 

 

「あら?」

 

 

 いきなり。

 カーシャは、少しだけ驚いたような声。

 

「まあ。いいでしょう?」

 

 小さく息を吐き、倒れ伏す男子に背を向けた。

 

「――私の言ったこと、脅しだと思う? ま、どう解釈してもいいけれど」

 

 それによっては、覚悟をしておくことね。

 

 言い残して、青い美少女は立ち去っていく。

 

 最後に――

 

 あかりのほうへ微笑を向けて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クラス、というよりは……。

 校内の男子たち――その雰囲気が少し変わり出している。

 

 そのことに、あかりが気づいたのは遅かった。

 

 気がついてみれば、ややおしゃれでスマート。

 ……な、雰囲気の男子が増えているような。

 

 特に、長壁カーシャのクラスは顕著だった。

 

 モサッした感じだった隅っこの男子。

 隅っこであること。

 そこにあまり変わりはない。

 

 また。

 別に男女間の距離が大きく縮まったとか、そういうわけでもなかった。

 

 袖引宗吾。

 かの男子はもとから、女子との距離は比較的近かったのだ。

 普通であったとも言えるが。

 

 むしろ。

 男子間で、多少交流が増えたようで。

 

 今までひとりでいた者が、同じような者同士でつるむようになった。

 その程度ではあるけれど。

 

 異性の見栄えが良くなる。

 それは歓迎こそすれ、別に困るわけではない。

 

 

 かといって、良い反応ばかりではなかった。

 

 

 偶然。

 鬼台あかりが階段の踊り場で、

 

「でも、あいつってさ……」

 

「結局自分がイケメンとか、きれいな男はべらせたいからやってるんでしょ?」

 

「お姫様気取りっていうか――」

 

 長壁カーシャに対し、そんな陰口を叩く女子を数人見かけた。

 

 ほめられたことではない。

 とはいえ。

 よくあることでもある。

 

 

「ずいぶんとひどいこと言うのね?」

 

 

 いきなり。

 本当に、何の前触れもなく苦笑を噛み殺したような声。

 

 いつの間にか、長壁カーシャはその近くにいた。

 というよりは、すぐ真後ろに。

 

 女子たちは真っ青になっていた。

 震えあがり、今にも失神しそうなほど脅えている。

 

 その時。

 カーシャの放っていた気配は、得体の知れない……人間(ひと)とは思えないものだった。

 

「まあ事実だからしょうがないけど――」

 

 カーシャはそう言って、すぐに通り過ぎてしまったが。

 その際、あかりに対して視線を向けて――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「言いたければ言ってもいいわよ」

 

 カーシャは、心底どうでもよさそうに言った。

 ひとけのない場所で、あかりは彼女と相対しているわけだが……。

 

「周りが信じるかどうかも、まあどうだっていいし。どうあっても、事実なのだから」

 

 言いながら、カーシャは壁に寄りかかって蛇のような視線を向けた。

 あかりは、思わず後ずさる。

 

「成績優秀で規律を重んじる――あなたの気質から、見過ごしがたいでしょうねえ」

 

 鬼台あかりさん?

 

 と。

 カーシャはあかりの名前を呼んだ。

 

「あなた……!」

 

「言っておくけど、あなた校内では有名だから。中学では剣道では全国レベルだったようだし。容姿もなかなかだし、キャラとしてもね」

 

「……」

 

「あのバカをしつけたのは、余計なことをしたからよ。せっかく見栄えをよくしたのに、調子に乗ってるとかわけのわからないことを言って邪魔したから」

 

 カーシャの微笑に、あかりはただ戦慄した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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