破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その113、青龍石の枕-10

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「困ったわねえ。こういうのを、『雁首(がんくび)をそろえて』……というのかしら?」

 

 振り向いたカーシャは、階段の踊り場で自分を睨む少女たちを見おろす。

 

「納得するか知らないけど」

 

 カーシャは首をかたむけ、目を細めた。

 動物の珍獣でも見るような目つき。

 

「私があの噂を流したなんてのは、とんだ誤解なのよね」

 

 冷笑。

 しかし、その視線は4人の少女たちを石のようにかためてしまう。

 

「うまくやってると思った? けどねえ、あんな派手なこと、どれだけ隠してるつもりでも、遅かれ早かれバレるし、広まるに決まってるじゃない」

 

 カーシャは階段の手すりにもたれるようにして、

 

「そりゃあそうよねえ。できの悪いエロ漫画じゃあるまいし、ひとりのイケメンと校内の美少女たちがそろって、毎日毎日不純異性交遊にふけってるとか。もはやギャグだわ」

 

 あの色事師(ドンファン)なイケメンくん、おかしなフェロモンでも出してるのかしら?

 それとも――

 

「変なおクスリでも使っている、とか」

 

 カーシャの一方的な物言い。

 それに、桂 五十鈴は何も言えずに震えるだけで――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 息子が、妙に身ぎれいというのか?

 髪やら服の着こなしやらが垢抜けてきた。

 

 携帯電話にも、女子からの連絡が多くなっている。

 話し方などからして、何となく察したのだが。

 

 少し、様子がおかしい。

 

 そう思いかけたも時期あったのだが、すぐに元気というか平常に戻って。

 今現在のようになっているわけだが。

 

「いすずちゃんと、最近どうなの?」

 

「どうって言われても」

 

 息子の困った顔に、彼女はどこかざわつくものがあった。

 

 桂 五十鈴。

 

 息子が幼い頃。

 それこそ、幼稚園からの付き合いがある少女。

 

 彼女にとっても、娘みたいな存在だった。

 

 息子と二人。

 いつも一緒にいて、泣いたり笑ったりしていて……。

 

 ――そのうち、結ばれて。

 

 そんなことを、何となく、でもどこか確信していた少女。

 

 しかし。

 息子は他の友人や、女友達と遊んだり付き合っている。

 明らかに、五十鈴とは疎遠になっていた。

 

「よくわからん。あいつにも色々あるんじゃないの?」

 

「だって……。今まで一緒、仲良かったじゃない」

 

「僕に言われてもなあ」

 

 と。

 息子はまた困った顔。

 

 その言いかたというか表情は、

 

 ――まるでどうでもいい他人に対するよう……。

 

 なのだった。

 

「彼氏でもできたんじゃないの? 知らんけど」

 

「え」

 

「気になるなら、桂のおばさんにでも聞いてよ。知らんし、わからんし」

 

 言葉づかいは普通で、いつもの息子と変わりない。

 声を荒げるでも、顔を歪ませるでもない。

 

 だが。

 

 その奥にあるものは、まるで切って捨てるような冷淡さがあった。

 

 彼女が友人――

 五十鈴の母から娘の行状について、泣きながら相談されたのは……。

 

 それからすぐ後のこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え? あいつら、そんなん?」

 

「ああ。間違いなく、毎日が酒池肉林のカーニバルだぜ」

 

「い、犬神ってスゴいヤツだな。色んな意味で」

 

 

 カーシャより以前。

 袖引宗吾たちのクラスに転入してきた少年。

 

 犬神 (おくる)

 

 スラッとした印象の美形(イケメン)で、物腰もさわやか。

 女子への接し方もスマート。

 運動神経もよく、成績も上の部類。

 

 色んな意味で人気者の要素を兼ね備えていたが……。

 

 

 この美形男子。

 

 桂 五十鈴。

 滝王リョウ。

 不口(くちなし)カナ。

 鬼台あかり。

 

 これら4人の少女たちと付き合っている――

 そういう噂が流れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そもそも――桂さん? は、とりあえず置くとして……」

 

 カーシャは他の3人を順に見ながら、

 

「ボーイッシュで、おしゃれにやや雑なスポーツ少女。地味で隅っこにいる本の虫。口うるさくっておかたい()()()()と。そんなのが急に色気づいて、挙動がおかしくなれば――」

 

 気づかない。

 察しない。

 そういう女のほうが少数派ではなくって?

 

 カーシャは首をかたむけ、クスクスと笑う。

 

「ま? 親御さんや教師(センセイ)たちの反応は別として。犯罪をしているわけでもないから、堂々としていれば?」

 

「……そうだね」

 

 拳を握り、桂 五十鈴が言った。

 

「私たちは犬神くんを選んだんだよ。だけど、噂を流したのは違うって言っても……。宗、くんに、何か吹き込んだのは」

 

 あなたでしょう!?

 

 唇を震わせて、少女はカーシャを見た。

 

「――は?」

 

 お前は何を言っているんだ?

 

 カーシャはそんな表情を浮かべたが、

 

「んー。そういえば、最初にデートみたいなことをしたっけ。ま、それ以降は別になにもないけど。吹き込んだというのは、どういう意味かしら?」

 

「だって……」

 

「ああ」

 

 わずかにうつむいた五十鈴を、カーシャは何かを察した。

 

「仲の良かった幼なじみくんが冷たい対応でもしたのかしら」

 

「……!」

 

 五十鈴は、そのかわいらしい顔を悔しさで歪める。

 

「彼の態度もわかるけれどねえ。だって、マンガだかAVみたいなことやってたバカなんて、関わり合いになりたくないもの」

 

「けど、宗くんは……!」

 

「あなたねえ? さっき自分で言ったじゃない、私は犬神クンを選んだってね? だったら、その彼だか王子様に助けを求めたら?」

 

 カーシャは階段を数歩降りて、五十鈴に近づく。

 

「小さい頃から、友達、だったし……」

 

「だからなによ」

 

 カーシャはその白い指で、五十鈴の顔を持ち上げた。

 虫けらでも見るような、いや、観察するような。

 五十鈴を人間とも思ってもいない。

 

 そういう眼だった。

 

「たとえどんなに堕落しても、他の男と発情期の犬ころみたいな生活してても。それでも、友達だから助けろ? 親身になれ? ずいぶんと都合の良い話じゃない――」

 

 言った後、カーシャは不口(くちなし)カナに視線を移した。

 

「前に言わなかった? 男なんてさめる時にはさめる。薄情なものだって。つまりは……」

 

 そういうことよ。

 

 と。

 カーシャは憐れみと嘲笑を混ぜた表情と声で言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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