破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「困ったわねえ。こういうのを、『
振り向いたカーシャは、階段の踊り場で自分を睨む少女たちを見おろす。
「納得するか知らないけど」
カーシャは首をかたむけ、目を細めた。
動物の珍獣でも見るような目つき。
「私があの噂を流したなんてのは、とんだ誤解なのよね」
冷笑。
しかし、その視線は4人の少女たちを石のようにかためてしまう。
「うまくやってると思った? けどねえ、あんな派手なこと、どれだけ隠してるつもりでも、遅かれ早かれバレるし、広まるに決まってるじゃない」
カーシャは階段の手すりにもたれるようにして、
「そりゃあそうよねえ。できの悪いエロ漫画じゃあるまいし、ひとりのイケメンと校内の美少女たちがそろって、毎日毎日不純異性交遊にふけってるとか。もはやギャグだわ」
あの
それとも――
「変なおクスリでも使っている、とか」
カーシャの一方的な物言い。
それに、桂 五十鈴は何も言えずに震えるだけで――
…………。
息子が、妙に身ぎれいというのか?
髪やら服の着こなしやらが垢抜けてきた。
携帯電話にも、女子からの連絡が多くなっている。
話し方などからして、何となく察したのだが。
少し、様子がおかしい。
そう思いかけたも時期あったのだが、すぐに元気というか平常に戻って。
今現在のようになっているわけだが。
「いすずちゃんと、最近どうなの?」
「どうって言われても」
息子の困った顔に、彼女はどこかざわつくものがあった。
桂 五十鈴。
息子が幼い頃。
それこそ、幼稚園からの付き合いがある少女。
彼女にとっても、娘みたいな存在だった。
息子と二人。
いつも一緒にいて、泣いたり笑ったりしていて……。
――そのうち、結ばれて。
そんなことを、何となく、でもどこか確信していた少女。
しかし。
息子は他の友人や、女友達と遊んだり付き合っている。
明らかに、五十鈴とは疎遠になっていた。
「よくわからん。あいつにも色々あるんじゃないの?」
「だって……。今まで一緒、仲良かったじゃない」
「僕に言われてもなあ」
と。
息子はまた困った顔。
その言いかたというか表情は、
――まるでどうでもいい他人に対するよう……。
なのだった。
「彼氏でもできたんじゃないの? 知らんけど」
「え」
「気になるなら、桂のおばさんにでも聞いてよ。知らんし、わからんし」
言葉づかいは普通で、いつもの息子と変わりない。
声を荒げるでも、顔を歪ませるでもない。
だが。
その奥にあるものは、まるで切って捨てるような冷淡さがあった。
彼女が友人――
五十鈴の母から娘の行状について、泣きながら相談されたのは……。
それからすぐ後のこと。
…………。
「え? あいつら、そんなん?」
「ああ。間違いなく、毎日が酒池肉林のカーニバルだぜ」
「い、犬神ってスゴいヤツだな。色んな意味で」
カーシャより以前。
袖引宗吾たちのクラスに転入してきた少年。
犬神
スラッとした印象の
女子への接し方もスマート。
運動神経もよく、成績も上の部類。
色んな意味で人気者の要素を兼ね備えていたが……。
この美形男子。
桂 五十鈴。
滝王リョウ。
鬼台あかり。
これら4人の少女たちと付き合っている――
そういう噂が流れていた。
「そもそも――桂さん? は、とりあえず置くとして……」
カーシャは他の3人を順に見ながら、
「ボーイッシュで、おしゃれにやや雑なスポーツ少女。地味で隅っこにいる本の虫。口うるさくっておかたい
気づかない。
察しない。
そういう女のほうが少数派ではなくって?
カーシャは首をかたむけ、クスクスと笑う。
「ま? 親御さんや
「……そうだね」
拳を握り、桂 五十鈴が言った。
「私たちは犬神くんを選んだんだよ。だけど、噂を流したのは違うって言っても……。宗、くんに、何か吹き込んだのは」
あなたでしょう!?
唇を震わせて、少女はカーシャを見た。
「――は?」
お前は何を言っているんだ?
カーシャはそんな表情を浮かべたが、
「んー。そういえば、最初にデートみたいなことをしたっけ。ま、それ以降は別になにもないけど。吹き込んだというのは、どういう意味かしら?」
「だって……」
「ああ」
わずかにうつむいた五十鈴を、カーシャは何かを察した。
「仲の良かった幼なじみくんが冷たい対応でもしたのかしら」
「……!」
五十鈴は、そのかわいらしい顔を悔しさで歪める。
「彼の態度もわかるけれどねえ。だって、マンガだかAVみたいなことやってたバカなんて、関わり合いになりたくないもの」
「けど、宗くんは……!」
「あなたねえ? さっき自分で言ったじゃない、私は犬神クンを選んだってね? だったら、その彼だか王子様に助けを求めたら?」
カーシャは階段を数歩降りて、五十鈴に近づく。
「小さい頃から、友達、だったし……」
「だからなによ」
カーシャはその白い指で、五十鈴の顔を持ち上げた。
虫けらでも見るような、いや、観察するような。
五十鈴を人間とも思ってもいない。
そういう眼だった。
「たとえどんなに堕落しても、他の男と発情期の犬ころみたいな生活してても。それでも、友達だから助けろ? 親身になれ? ずいぶんと都合の良い話じゃない――」
言った後、カーシャは
「前に言わなかった? 男なんてさめる時にはさめる。薄情なものだって。つまりは……」
そういうことよ。
と。
カーシャは憐れみと嘲笑を混ぜた表情と声で言った。