破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
ちょっと考えることもあって、急遽間にもうひとつはさむことにしました
「すっぱい
「……え?」
それは、本当にいきなり。
犬神
さながら……。
詩でも
「葡萄を食べそこねた狐が、あれはすっぱい葡萄だったんだと強がりを言って、自分を誤魔化す」
そういう話、だったかしら。
言いながら、その相手は送の肩に手を置いた。
「……君の言いたいことって」
不意を突かれた送は、それでもすぐ自分自身を立て直し、苦笑する。
「ああ。ちょっと、違う」
相手は首を振り、
「この場合は、そうね。腐った葡萄にいつまでも執着してもしょうがない。むしろ危険だと、理解した」
と、いうのが正解だと思うの。
語ってくる相手。
長壁カーシャは、その美貌にいたずらっぽい笑みを浮かべている。
そして。
美貌の乙女が視線を向ける先には、
微妙な顔で、去っていく少年。
少年に何かを言っている少女。
袖引宗吾。
桂 五十鈴。
「――そんなもの、仮に食べてもまずいどころか病気になりかねない。下手すると、寄生虫にやられるかも」
「……ちょっと、ひどい言いかただね?」
「そう? けれど、腐った汚物もそれはそれで良いかもしれない。ウジやハエにはごちそうだし、土に帰れば大地の栄養になるわ」
「ははは……」
「かてて加えて」
カーシャは、右の白い人さし指をピンと立て、
「葡萄を食べそこねたなら、次の葡萄を探しに行けばいい。葡萄はいくらでもあるのだから」
「ん……。僕の意見としては」
「その葡萄は、狐にとってかけがえのもの、だった? うん。かもね。けど、そういうのはたいてーの場合、錯覚、思い込み。勘違いなのよね」
「勘違い?」
「ええ。今まで近くにあったから、特別っぽく思えてただけ。味も栄養も、実はそこらにある葡萄と大して変わらないの」
そういうことを、アドバイスした誰かはいたかもしれないわね?
クスクス笑うカーシャに対して、送は次第に表情をくもらせてきた。
今、自分が話している相手。
それは、きれいなオンナノコではなく……。
得体の知れない、たとえばどこか異世界から来た怪物じゃないのか。
と――
「けどまあ?」
カーシャは、送の顔を覗き込むように、
「あなたは新鮮な葡萄をいくつも食べて満足したのだから、どうでも良いのかしら」
「その、言いかたはちょっと怖いな……」
送は恐怖心を誤魔化すように、笑った。
女に対し強い効果を持つ爽やかな笑顔を、整った顔の上に。
「でも。葡萄たちはどうして、今さら
「ちょっと、わからないかな」
背中に冷たい汗を流し、それでも送は笑顔を崩さない。
「そうねえ。他人の心なんて、わかるものではないか。自分の心でも怪しいのに。ただ、推測はできるかも」
いえ――
ゲスの勘ぐりというのかしらねえ、私の場合は。
カーシャは微笑する。
あどけない、小さな子供のような。
「で。勘ぐった結果、いくつか思い当たることがあるわけよ」
自己正当化。
優越感。
カーシャは空を仰ぐように、2つの言葉をあげた。
「ひとつめは、もうそのままね。ずっと一緒にいて、お互い両想いだったかもしれない相手じゃなく。ポッと出の、イケメンで女の扱いがうまい王子様になびいた……。いや、もう少しわかりやすく――」
言いかけて、カーシャは少し困った顔になる。
右の拳で口元を隠すような仕草。
「ちょっと、その……。下品なんだけどね、ふふふ。股を開いた、わけよね」
本当にあけすけで、品のない言い草。
「だけど、いくらか罪悪感もある。だから、自分を正当化するために、振った相手を貶める。あいつは情けない、ダメなやつだったんだ。何もできないヤツなんだと」
「……」
「そして、ふたつめ。優越感。相手を対象外のオスと見下し、自分は他の、優良なオスと交尾をしながら、蔑み、特別感を
自分はこんなに価値のあるメスだ。
お前なんか手の届かない場所にいるんだ。
だから。
はいつくばって、ひとりでウジウジと孤独に過ごしていろ。
カーシャは芝居がかった声と顔で、そんなことを語る。
そして、
「まあ、現実としては? 彼女たちは、多少見栄えはするけど、結局はひと山いくらの安い葡萄にすぎない。自分が思っているよりも、はるかに価値は低い」
私とちがって、ね。
カーシャはその美貌にどこか肉食獣を思わせる笑みで断言した。
広げた右手を自分の胸元に添えて。
それから。
ふわりと、踊るように送に背を向けて、
「だから。あの彼、袖引くんには自分を遠くから見つめつつ、惨めに、でもずっと自分を想って泣いていてほしい。それが理想だったんじゃあないのかなあ? けど、そうはならなかった」
「それって、君の――」
「もちろん勝手な感想。さっきも言ったけど、ゲスの勘ぐりよ。素敵な
「……」
「んんー。でも、あなたが気にすることでもないのかな?」
カーシャはかたむけた首で、送を振り向いた。
「せいぜい、安い葡萄をたらふく食べて満足すればいい。
「君は……!」
たまりかね――
送はわずかに声を荒げた。
「気にさわった? だったら安葡萄じゃなく、黄金の
何がどうなったのか。
気づいた時には、送は壁際までも追いつめられていた。
「ただし。そういう果物を手に入れるには、相応の冒険や代価が必要なもの。その覚悟はある?」
カーシャは送を見ながら、挑発するように言った。
俗に言う壁ドン状態で。
ずるずると……。
送はその場にへたり込んだ。
下半身から、わずかに湯気が漂いだす。
「――やっぱり。あなたには安葡萄がお似合いのようね」
カーシャは憐れみを含んだ声を残し、去っていった。
送を中心とした少女たちの行状。
それが明るみとなって、大問題と化したのは――
このすぐ後だった。