破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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実は11回で今エピソードを終わらせるつもりだったのですが……

ちょっと考えることもあって、急遽間にもうひとつはさむことにしました






その113、青龍石の枕-11

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すっぱい葡萄(ぶどう)――ってあるわよね?」

 

「……え?」

 

 それは、本当にいきなり。

 犬神 (おくる)の背後で言った。

 

 さながら……。

 詩でも(うた)っているような。

 

「葡萄を食べそこねた狐が、あれはすっぱい葡萄だったんだと強がりを言って、自分を誤魔化す」

 

 そういう話、だったかしら。

 

 言いながら、その相手は送の肩に手を置いた。

 

「……君の言いたいことって」

 

 不意を突かれた送は、それでもすぐ自分自身を立て直し、苦笑する。

 

「ああ。ちょっと、違う」

 

 相手は首を振り、

 

「この場合は、そうね。腐った葡萄にいつまでも執着してもしょうがない。むしろ危険だと、理解した」

 

 と、いうのが正解だと思うの。

 

 語ってくる相手。

 長壁カーシャは、その美貌にいたずらっぽい笑みを浮かべている。

 

 そして。

 美貌の乙女が視線を向ける先には、

 

 微妙な顔で、去っていく少年。

 少年に何かを言っている少女。

 

 袖引宗吾。

 桂 五十鈴。

 

「――そんなもの、仮に食べてもまずいどころか病気になりかねない。下手すると、寄生虫にやられるかも」

 

「……ちょっと、ひどい言いかただね?」

 

「そう? けれど、腐った汚物もそれはそれで良いかもしれない。ウジやハエにはごちそうだし、土に帰れば大地の栄養になるわ」

 

「ははは……」

 

「かてて加えて」

 

 カーシャは、右の白い人さし指をピンと立て、

 

「葡萄を食べそこねたなら、次の葡萄を探しに行けばいい。葡萄はいくらでもあるのだから」

 

「ん……。僕の意見としては」

 

「その葡萄は、狐にとってかけがえのもの、だった? うん。かもね。けど、そういうのはたいてーの場合、錯覚、思い込み。勘違いなのよね」

 

「勘違い?」

 

「ええ。今まで近くにあったから、特別っぽく思えてただけ。味も栄養も、実はそこらにある葡萄と大して変わらないの」

 

 そういうことを、アドバイスした誰かはいたかもしれないわね?

 

 クスクス笑うカーシャに対して、送は次第に表情をくもらせてきた。

 

 今、自分が話している相手。

 それは、きれいなオンナノコではなく……。

 得体の知れない、たとえばどこか異世界から来た怪物じゃないのか。

 と――

 

「けどまあ?」

 

 カーシャは、送の顔を覗き込むように、

 

「あなたは新鮮な葡萄をいくつも食べて満足したのだから、どうでも良いのかしら」

 

「その、言いかたはちょっと怖いな……」

 

 送は恐怖心を誤魔化すように、笑った。

 女に対し強い効果を持つ爽やかな笑顔を、整った顔の上に。

 

「でも。葡萄たちはどうして、今さら()()()()()を気にしてるのかしら。あなたは、どう思う?」

 

「ちょっと、わからないかな」

 

 背中に冷たい汗を流し、それでも送は笑顔を崩さない。

 

「そうねえ。他人の心なんて、わかるものではないか。自分の心でも怪しいのに。ただ、推測はできるかも」

 

 いえ――

 ゲスの勘ぐりというのかしらねえ、私の場合は。

 

 カーシャは微笑する。

 あどけない、小さな子供のような。

 

「で。勘ぐった結果、いくつか思い当たることがあるわけよ」

 

 自己正当化。

 優越感。

 

 カーシャは空を仰ぐように、2つの言葉をあげた。

 

「ひとつめは、もうそのままね。ずっと一緒にいて、お互い両想いだったかもしれない相手じゃなく。ポッと出の、イケメンで女の扱いがうまい王子様になびいた……。いや、もう少しわかりやすく――」

 

 言いかけて、カーシャは少し困った顔になる。

 右の拳で口元を隠すような仕草。

 

「ちょっと、その……。下品なんだけどね、ふふふ。股を開いた、わけよね」

 

 本当にあけすけで、品のない言い草。

 

「だけど、いくらか罪悪感もある。だから、自分を正当化するために、振った相手を貶める。あいつは情けない、ダメなやつだったんだ。何もできないヤツなんだと」

 

「……」

 

「そして、ふたつめ。優越感。相手を対象外のオスと見下し、自分は他の、優良なオスと交尾をしながら、蔑み、特別感を(いだ)くの」

 

 自分はこんなに価値のあるメスだ。

 お前なんか手の届かない場所にいるんだ。

 だから。

 はいつくばって、ひとりでウジウジと孤独に過ごしていろ。

 

 カーシャは芝居がかった声と顔で、そんなことを語る。

 そして、

 

「まあ、現実としては? 彼女たちは、多少見栄えはするけど、結局はひと山いくらの安い葡萄にすぎない。自分が思っているよりも、はるかに価値は低い」

 

 私とちがって、ね。

 

 カーシャはその美貌にどこか肉食獣を思わせる笑みで断言した。

 広げた右手を自分の胸元に添えて。

 

 それから。

 ふわりと、踊るように送に背を向けて、

 

「だから。あの彼、袖引くんには自分を遠くから見つめつつ、惨めに、でもずっと自分を想って泣いていてほしい。それが理想だったんじゃあないのかなあ? けど、そうはならなかった」

 

「それって、君の――」

 

「もちろん勝手な感想。さっきも言ったけど、ゲスの勘ぐりよ。素敵な色事師(ドンファン)。いえ、ハーレムの王子様かしら」

 

「……」

 

「んんー。でも、あなたが気にすることでもないのかな?」

 

 カーシャはかたむけた首で、送を振り向いた。

 

「せいぜい、安い葡萄をたらふく食べて満足すればいい。()()()()に気をつけながらね」

 

「君は……!」

 

 たまりかね――

 送はわずかに声を荒げた。

 

「気にさわった? だったら安葡萄じゃなく、黄金の林檎(りんご)でも手に入れてみる?」

 

 何がどうなったのか。

 気づいた時には、送は壁際までも追いつめられていた。

 

「ただし。そういう果物を手に入れるには、相応の冒険や代価が必要なもの。その覚悟はある?」

 

 カーシャは送を見ながら、挑発するように言った。

 俗に言う壁ドン状態で。

 

 

 ずるずると……。

 

 

 送はその場にへたり込んだ。

 下半身から、わずかに湯気が漂いだす。

 

「――やっぱり。あなたには安葡萄がお似合いのようね」

 

 カーシャは憐れみを含んだ声を残し、去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 送を中心とした少女たちの行状。

 それが明るみとなって、大問題と化したのは――

 

 このすぐ後だった。

 

 

 

 

 

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