破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
――
湯船につかりながら、カーシャはボンヤリと思う。
先ほど。
とあるシリーズ作品の映画を一気見し終わったところで。
魔法使いの世界。
魔法使いたちの社会を舞台とした、冒険活劇。
実に、面白い。
多様な人物と、多様な組み合わせ。
様々な試練や悲劇を乗り越えていく、王道な英雄譚。
その中で――
ふと、気になった
ある男。
恋した女性が、他の男と結ばれて作った子供――
その子供を、恋した女性への想いから命がけで助けて、最後には盾となって死ぬ。
美しくも哀しい話だ。
多くのひとは、きっと感動するのだろう。
だが。
カーシャの抱いた感想は、
――裏を返せば、それは浅ましい、マヌケな執着とも言えるのじゃなくって?
確かに、美しい献身かもしれない。
しかし。
その裏を返せば、哀れな執着というべきではないか。
少なくとも、そういう見方もできる。
――男の勝手なヒロイズム、自己陶酔の極みだわ。
カーシャに言わせれば、
――かの魔法使いサンは……終わった恋にとっとと見切りをつけて、自分の道を歩くべきだったのよ。
女にとって……。
意中でない、あるいは異性として見られない男の献身や善意など意味はない。
せいぜい、使用人がやるべき仕事をしている。
その程度だ。
まして、好意や恋情など攻撃に等しい。
――いつまでも。とっくに終わった昔の恋にウジウジとしがみついて、しまいに自己を犠牲にする。まったくもって後ろ向き、非建設的。そんな男に魅力なんぞあるものか。
いや?
そんな男だからこそ、いつまでも過去の失恋なぞを引きずるのか。
――愚かしい。
ならば、
「女みたいなもん、しゃべって歩くだけのオ〇〇ールやんけ」
そう吐き捨てる野蛮人のほうが、まだマシだ。
少なくとも。
そいつらは偽善をまとわず、不気味な自己陶酔もしていない。
――まあ、実際目の前にいたら叩き殺すけど。
ただ。
――ひょっとすると……。
あの連中。
桂 五十鈴をはじめとするヒロインたちは、
――袖引宗吾に、そんなことを望んでいたのかもしれない。
そんなことも思う。
「あるいは、そうなっていた可能性もあるのかしら?」
ま。
何事も、可能性はゼロではない。
ほぼゼロに近い案件があるだけ。
実にひどい、詐欺同然の詭弁だが。
――ふうん。となれば……。私は、彼を頭も下半身もゆるいバカと縁が切れるようにしたのかも? だったら、ある意味……。
救いの女神とも言えるのかしら。
つぶやいた後、カーシャは目を閉じてクスクス笑った。
クスクス……。
と。
自分の発した小さな笑い。
それが、カーシャを薄い暗闇から引き起こす。
瞬き。
それが終わるか終わらないうちに、身を起こす。
混乱することなく、状況を飲み込んでいた。
あくび。
……をするようなふりをして、声を出す。
別に眠くもなかったが。
――眠気、ね。
そういえば、と思い返す。
どこまでも深く、広い赤黒い奈落の底。
あそこから、帰って――
眠気など、感じたことはあったのか。
カーシャはそんなことを考えつつ、テントから出る。
河の音。
虫の声。
草と
魔素の香りを含んだ、ヤオアムトの風。
それを五体で感じながら、
「ぬおおおお……」
河原に座り込み、魔力をしぼり、練り上げる野良猫みたいな少女を見る。
「あ。起きたんですか?」
魚を焼いていた黒髪おかっぱに眼鏡のヒーラーが振り返った。
「ええ。少し、夢を見ていたわ」
「夢、ですか」
――このひとも、夢ってみるんだな? あ、いや。当たり前か……。
聞いていたヒーラー……バッキーはそんなことを思う。
「あなたの、影響もあるのかしら」
「へ?」
「ふふ」
カーシャは少し笑った後、バッキーの顔を覗き込む。
「うえ!? あの、その……? なにか?」
ヒトとは思いがたい美貌。
それを真正面から見て、バッキーは少しドギマギする。
――見慣れてるとはいっても、やっぱパンチあるなあ。このひと。
「街に帰ったら――」
「?」
「少し、オシャレでもしてみる?」
「???」
「そういうのも、良いでしょう。オンナノコだし」
「はい。まあ、そうですね?」
言われたバッキーは、変な感じになって
――むーん……。前世では、一応身だしなみは人並み程度? はやってたけど。あんまり力というか、気合を入れてやった記憶もないなあ……。
それにお金使うくらいなら、ゲームとかマンガとか、そんなんにお金使ってたし。
と。
バッキーは過去のことも思い返し、微妙な気分。
困惑するバッキーに背を向け、カーシャはテントに戻る。
それから、すぐ。
青竜石の枕を手に出てきた。
「それって?」
「さあ。宝箱に入っていたから、何かの魔道具かもね。よくわからないけど」
バッキーの問い。
カーシャは軽く笑い、石の枕をつつく。
「帰ったら、あのエルフに鑑定でもしてもらいましょうか」
…………。
「今日って、誰も休んでないよな?」
『ハーレム事件』で騒がしかった校内も、少し落ち着いてきた。
そんなある日。
男子たちが、教室内を見回してそんなことを話していた。
「えーと。うん。確かにいないけど。遅刻してきたヤツもいないし。ちょっと珍しいかも」
「だよな?」
事件が明るみになったせいで――
数人の女子は自主退学という形で学校を去った。
問答無用で退学処分となった『ハーレムの王子様』は……。
色々と大変らしい。
保護者も警察も巻き込んで、揉めているようだ。
どちらの保護者も大変だろう。 これも、色んな意味で。
自主退学女子のひとりと友人関係だったある男子の言では?
家族はかなり迷惑、憔悴していたらしい。
どこか引っ越して、どうなったかは知らないとのことで。
それはさておき。
確かに、全員いる。
だが。
ひとり、足りない。
「まるで、アレだよ。幽霊、じゃなくって。そうそう」
と。
誰かが笑ってそう言った。
子どもが数人遊んでいる。
しかし。
数えてみると、何故か一人多い。
そんな話。
「あれって、家にいたら金持ちになるとかじゃないの?」
「そういう話もあるらしいんだと」
「へー……」
彼らは知らないことだが――
座敷童にはついて、こんな話もある。
それは、小さな子供ではなく。
得体の知れない、異形の……獣のごときナニか、だと。