破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

238 / 357
※ラストあたり、ちょっと微修正しました


その113、青龍石の枕-12

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――()()()にも、あの映画はあるわけ、か。

 

 湯船につかりながら、カーシャはボンヤリと思う。

 

 先ほど。

 とあるシリーズ作品の映画を一気見し終わったところで。

 

 魔法使いの世界。

 魔法使いたちの社会を舞台とした、冒険活劇。

 

 実に、面白い。

 多様な人物と、多様な組み合わせ。

 様々な試練や悲劇を乗り越えていく、王道な英雄譚。

 

 その中で――

 

 ふと、気になった登場人物(キャラクター)がいた。

 

 ある男。

 

 恋した女性が、他の男と結ばれて作った子供――

 

 その子供を、恋した女性への想いから命がけで助けて、最後には盾となって死ぬ。

 美しくも哀しい話だ。

 多くのひとは、きっと感動するのだろう。

 

 だが。

 カーシャの抱いた感想は、

 

 ――裏を返せば、それは浅ましい、マヌケな執着とも言えるのじゃなくって?

 

 確かに、美しい献身かもしれない。

 しかし。

 その裏を返せば、哀れな執着というべきではないか。

 

 少なくとも、そういう見方もできる。

 

 ――男の勝手なヒロイズム、自己陶酔の極みだわ。

 

 カーシャに言わせれば、

 

 ――かの魔法使いサンは……終わった恋にとっとと見切りをつけて、自分の道を歩くべきだったのよ。

 

 女にとって……。

 意中でない、あるいは異性として見られない男の献身や善意など意味はない。

 

 せいぜい、使用人がやるべき仕事をしている。

 その程度だ。

 

 まして、好意や恋情など攻撃に等しい。

 

 ――いつまでも。とっくに終わった昔の恋にウジウジとしがみついて、しまいに自己を犠牲にする。まったくもって後ろ向き、非建設的。そんな男に魅力なんぞあるものか。

 

 いや?

 そんな男だからこそ、いつまでも過去の失恋なぞを引きずるのか。

 

 ――愚かしい。

 

 ならば、

 

「女みたいなもん、しゃべって歩くだけのオ〇〇ールやんけ」

 

 そう吐き捨てる野蛮人のほうが、まだマシだ。

 

 少なくとも。

 そいつらは偽善をまとわず、不気味な自己陶酔もしていない。

 

 ――まあ、実際目の前にいたら叩き殺すけど。

 

 ただ。

 

 ()()()()()には、心地良いことなのかもしれない。

 

 ――ひょっとすると……。

 

 あの連中。

 桂 五十鈴をはじめとするヒロインたちは、

 

 ――袖引宗吾に、そんなことを望んでいたのかもしれない。

 

 そんなことも思う。

 

「あるいは、そうなっていた可能性もあるのかしら?」

 

 ま。

 何事も、可能性はゼロではない。

 ほぼゼロに近い案件があるだけ。

 

 実にひどい、詐欺同然の詭弁だが。

 

 ――ふうん。となれば……。私は、彼を頭も下半身もゆるいバカと縁が切れるようにしたのかも? だったら、ある意味……。

 

 

 救いの女神とも言えるのかしら。

 

 

 つぶやいた後、カーシャは目を閉じてクスクス笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クスクス……。

 

 と。

 

 自分の発した小さな笑い。

 それが、カーシャを薄い暗闇から引き起こす。

 

 瞬き。

 

 それが終わるか終わらないうちに、身を起こす。

 混乱することなく、状況を飲み込んでいた。

 

 あくび。

 

 ……をするようなふりをして、声を出す。

 

 別に眠くもなかったが。

 

 ――眠気、ね。

 

 そういえば、と思い返す。

 

 どこまでも深く、広い赤黒い奈落の底。

 あそこから、帰って――

 

 眠気など、感じたことはあったのか。

 

 カーシャはそんなことを考えつつ、テントから出る。

 

 河の音。

 虫の声。

 草と()の匂い。

 魔素の香りを含んだ、ヤオアムトの風。

 

 それを五体で感じながら、

 

「ぬおおおお……」

 

 河原に座り込み、魔力をしぼり、練り上げる野良猫みたいな少女を見る。

 

「あ。起きたんですか?」

 

 魚を焼いていた黒髪おかっぱに眼鏡のヒーラーが振り返った。

 

「ええ。少し、夢を見ていたわ」

 

「夢、ですか」

 

 ――このひとも、夢ってみるんだな? あ、いや。当たり前か……。

 

 聞いていたヒーラー……バッキーはそんなことを思う。

 

「あなたの、影響もあるのかしら」

 

「へ?」

 

「ふふ」

 

 カーシャは少し笑った後、バッキーの顔を覗き込む。

 

「うえ!? あの、その……? なにか?」

 

 ヒトとは思いがたい美貌。

 それを真正面から見て、バッキーは少しドギマギする。

 

 ――見慣れてるとはいっても、やっぱパンチあるなあ。このひと。

 

「街に帰ったら――」

 

「?」

 

「少し、オシャレでもしてみる?」

 

「???」

 

「そういうのも、良いでしょう。オンナノコだし」

 

「はい。まあ、そうですね?」

 

 言われたバッキーは、変な感じになって曖昧(あいまい)な返事。

 

 ――むーん……。前世では、一応身だしなみは人並み程度? はやってたけど。あんまり力というか、気合を入れてやった記憶もないなあ……。

 

 それにお金使うくらいなら、ゲームとかマンガとか、そんなんにお金使ってたし。

 

 と。

 バッキーは過去のことも思い返し、微妙な気分。

 

 困惑するバッキーに背を向け、カーシャはテントに戻る。

 

 それから、すぐ。

 

 青竜石の枕を手に出てきた。

 

「それって?」

 

「さあ。宝箱に入っていたから、何かの魔道具かもね。よくわからないけど」

 

 バッキーの問い。

 カーシャは軽く笑い、石の枕をつつく。

 

「帰ったら、あのエルフに鑑定でもしてもらいましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日って、誰も休んでないよな?」

 

 『ハーレム事件』で騒がしかった校内も、少し落ち着いてきた。

 そんなある日。

 

 男子たちが、教室内を見回してそんなことを話していた。

 

「えーと。うん。確かにいないけど。遅刻してきたヤツもいないし。ちょっと珍しいかも」

 

「だよな?」

 

 事件が明るみになったせいで――

 数人の女子は自主退学という形で学校を去った。

 

 問答無用で退学処分となった『ハーレムの王子様』は……。

 色々と大変らしい。

 保護者も警察も巻き込んで、揉めているようだ。

 

 どちらの保護者も大変だろう。 これも、色んな意味で。

 

 自主退学女子のひとりと友人関係だったある男子の言では?

 

 家族はかなり迷惑、憔悴していたらしい。

 どこか引っ越して、どうなったかは知らないとのことで。

 

 

 それはさておき。

 

 

 確かに、全員いる。

 だが。

 ひとり、足りない。

 

「まるで、アレだよ。幽霊、じゃなくって。そうそう」

 

 座敷童(ざしきわらし)だ。

 

 と。

 誰かが笑ってそう言った。

 

 

 子どもが数人遊んでいる。

 しかし。

 数えてみると、何故か一人多い。

 

 そんな話。

 

 

「あれって、家にいたら金持ちになるとかじゃないの?」

 

「そういう話もあるらしいんだと」

 

「へー……」

 

 

 

 彼らは知らないことだが――

 

 

 

 座敷童にはついて、こんな話もある。

 

 それは、小さな子供ではなく。

 

 得体の知れない、異形の……獣のごときナニか、だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。