破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

239 / 357
その113・5、番外:マモノツカイ-1

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつだったか……。

 あの、エルフはこんなことを言っていた。

 

「ネズミってのは、厄介……いや、強いもんだぜ?」

 

「なにがッスか?」

 

 ドブネズミ。

 時々、そんな罵声を受けたことのあるソテツ。

 一瞬嫌味かと思ったが、

 

 ――このあんちゃん、は……。言うならもっとハッキリ言うか。

 

「よく強いものとしてライオンだのトラがたとえられるがな――」

 

 知ってるか?

 モンスターは別として、獣のライオンってのは滅びかけてるそうだぜ。

 餌場を奪われ、獲物として狩られてな。

 

「すでに滅んじまった生き物はいくらでもいる。知性種族だって、どれだけの連中がそうなったことやら。例外なのはモンスターくらいだ」

 

 エルフは作業を続けながら、淡々と語る。

 

「だが、そんな中でネズミはずっと生き残り続けてる。それこそ、何十、何百万年も昔からな」

 

「はあ」

 

「ネズミは小さいし、弱い。寿命も短い。個体、1匹1匹を見ればな。だが、どれだけ死のうがそれ以上に子供を産んで数を増やす。前の世代が何かのせいで死んでも、次の世代はそれに対処する技を身につけて、生き残っていく」

 

「いやー。こむずかしーこたぁ、わかんねーッスわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ネズミは強い、ッスか」

 

 物陰に隠れたソテツは、頭を低くしながら苦笑した。

 

 ダンジョンの奥。

 周辺には、無数の追撃者たちがひしめいている。

 

 シリング・クローラー。

 大型で灰色のゴブリンとでもいうモンスター。

 壁や天井を自在に這い回り、武器を振るい集団で襲ってくる。

 

 ――慎重にやってたつもりだけど、ドジ踏んだかなあ~。

 

 ソテツは自分の失敗に首を振りながら、すばやくバンダナを取った。

 

 さらされた頭の上。

 そこには、1匹のネズミが丸くなっている。

 

「頼むッスよ、かわいこちゃん!」

 

 ソテツはネズミをつかみ、シリング・クローラーのほうへ放り投げた。

 

 その、過程で。

 空中を走りながら、ネズミは淡く光り、膨張(ぼうちょう)した。

 

 

 ヂュアアアアアアアア!!

 

 

 ほんの一瞬。

 それでネズミは仔牛ほどのサイズとなり、追撃者たちに襲いかかる。

 

 巨大な前歯は武器をはね返し……どころか、むしろ武器ごとシリング・クローラーたちを噛み砕いた。

 

「ケヘヘヘ! 頼もしいッスよ、ベイベェー!!」

 

 ソテツは片手で印を構えながら、腰のナイフを抜く。

 小柄な彼女にやや不釣りあいな、大型で分厚い代物(しろもの)

 

 と。

 

 大ネズミの尻尾が一瞬明滅して、光がソテツのナイフに飛んだ。

 光を受けたナイフは、長く伸び……。

 まるで、ネズミの尻尾みたいな鞭へ変化する。

 

 金属で形作られた、強靭な武器。

 

「おら、どくッスよ!」

 

 ソテツが鞭を振るうごとに。

 

 シリング・クローラーたちの肉が裂け、骨が砕けた。

 中には、盾を構える者もいたが?

 

 ベギィィ!

 

 金属の鞭は、革製、木製の盾を容易く跳ね飛ばす。

 

 ――金属製のヤツでなくって、助かったッスよ!

 

 そんなことを考えていた矢先、

 

 ゾワリ……と。

 シーフ娘の背中に、冷たいものが走った。

 

 シリング・クローラーたちも、急に動きを変わり出す。

 動揺が走り出した、とでもいうか。

 

 そうこうするうち。

 灰色の追撃者は狙っていたソテツを無視して、壁や天井をつたって散っていく。

 

「ちょいちょいちょい……!」

 

 ソテツは金属鞭を構えなおしつつ、ネズミを近くに呼び戻す。

 

 ――こりゃヤバそうだわ。とっとと退散……。

 

 が、しかし。

 

 向こうから、響いてくる音。

 

 

 ヴヴヴヴヴヴヴヴ………。

 

 

 内臓に響く重低音。

 黒光りする巨大なものが、宙を飛んで近づいてくる。

 

 それは、巨大なカブトムシ――そんな姿だが?

 獣のような足と、獣のような牙。

 槍に似た、巨大な角。

 4~5メートル近い巨体。

 

 ――風車虫かよ!?

 

 出くわしたモンスターに、ソテツは舌打ちしかけた。

 同時に。

 黒いボールを取り出し、モンスターの足元へ投げる。

 

 ボムッッ!

 

 音と、小さな光。

 それが炸裂した瞬間、黒い煙が火花と共にモンスターを(おお)った。

 

「あばよ!!」

 

 叫びつつ、ソテツは大ネズミに飛び乗った。

 走り出す大ネズミ。

 獣は主を乗せ、風のようにダンジョンを走り抜けていく。

 

 

 

 逃げるシーフと、その下僕(しもべ)

 それを、巨大な甲虫は執拗に追い続ける。

 

「しつっこいんだよ!」

 

 ソテツは、忌々しそうに叫ぶ。

 同時に赤いボールを風車虫へ放った。

 

 ボールはモンスターに当たった瞬間、爆ぜる。

 すると。

 砕けたボールは、中から赤い液体をぶちまけた。

 

 液体は外気に触れた途端、粘性を帯びて――

 モンスターにへばりつき……。

 勢いよく、発火。

 

 一瞬で風車虫の頭部は炎に包まれた。

 

「ざまぁ!」

 

 ソテツは小さくガッツポーズ。

 

 が、

 

「げっ!?」

 

 直後。

 シーフ娘の顔は驚きと恐怖で歪んだ。

 

 風車虫の角。

 強固なダンジョンの壁さえ貫く……など噂されている巨大な凶器。

 それが、3つにわかれ、高速で回転を始める。

 名前のごとく風車のように。

 

 あっという間に。

 

 巻き起こされた暴風が、炎を吹き飛ばしてしまう。

 

 

 余談ながら

 某ヒーラーの女子はこのモンスターに遭遇した際、

 

「風車というか、プロペラ機みたい」

 

 そう呟いている。

 

 

 風車虫は炎の洗礼に激怒したのか。

 より飛行速度を上げ、ソテツに迫ってくる。

 

「じょ、冗談じゃねーッスよ!?」

 

 とっさに。

 ソテツは大ネズミから飛び降り、真横に跳んだ。

 

「ふぎゃ!?」

 

 暴風を受け、半ば壁に叩きつけられるが?

 

 風車虫はそのまま、ネズミを追って通り過ぎていく。

 

 見る間に遠ざかっていくモンスターの後ろ姿。

 

 ソテツはほんのわずかな時間、眼を閉じて。

 小さくなっていく轟音を聞きながら、ホッと息をついた。

 

 ……だが?

 

 

 ル・ル・ル・ル・ル・ル……

 

 

「はい?」

 

 脱力しかけたソテツだが、鋭い聴覚は不気味な物音を(とら)える。

 そして、視覚のほうでも。

 

 ダンジョンの陰から、這い寄ってくるナニかを見つけていた。

 

 数本の触手。

 その先端には牙と顎。

 中央に、巨大な狼に似たモノ。

 ただ、獣毛はなく全体は半透明で。

 

 たとえるなら、狼とクラゲの合成獣(キメラ)

 

(おか)スキュラ!?」

 

 小さく叫んだ時には、ソテツは全速力で走り出していた。

 自分でも、どこにそんな体力があるのか?

 と、思うほどに。

 

 海のモンスターとして有名なスキュラ。

 その近縁種で、陸生に適応したもの。

 名前が示す通り、陸地を生息地とするスキュラ。

 

 無我夢中で逃げていく先。

 そこには、ダンジョンの床を這う風車虫の姿。

 

「うぇっ!?」

 

 万事休す。

 あるいは、絶体絶命。

 

 ヒュッ

 

 何かが、横を飛んで

 後ろで爆発音。

 

 ――な、なんだぁ!?

 

 思わず振り返ってみれば。

 狼の頭部を吹き飛ばされた陸スキュラが、もがいていた。

 

 さらに。

 何かが数本突き刺さり、モンスターは焼かれていく。

 

 ――矢……。火属性……を、エンチャントしてんのか。

 

 ソテツが落ち着いて前を見れば、風車虫は既に死体となっている。

 巨大な肉食甲虫を、数人の冒険者がそれを取り囲んでいた。

 

 その中に弓を構えた少年が、ソテツを油断なく見ている。

 

 

 これが、ソテツと弓使い(アーチャー)ボッツ・ルフのファーストコンタクトだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。