破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
モンスター。
それを捕らえ、手懐けて
ソテツのジョブは基本シーフだが……。
モンスターテイマーの領分も有する。
「そいつって、どういうモンスターなんだ?」
ある時。
ボッツは何の気なしにそうたずねた。
ソテツの操る大ネズミ。
ネズミ型のモンスターはいくつかいる。
しかし。
「これ読んだけど、そいつは載ってないんだよな?」
ボッツは首をひねる。
いわゆるモンスター図鑑。
生態や対処法などが記されている。
「冒険者はもちろん、素人も読んどくべきもんだな。逃げたり、避けたりする方法も載ってるんだ」
これはゴトクの弁。
さて、それでソテツの大ネズミだが?
見た目は、まさに大型のネズミとしか言えない。
特徴は、鋼鉄のような色と強固さを持つ前歯。
いや。
全体的に、強い防御力を誇る。
「さっき、ブレスを喰らった時も平気だったし……」
と。
ボッツは、斜め横を振り返る。
赤い大きなイカ、のようなモノ。
それを他のパーティーメンバーが処理、解体している。
火吹きイカ。
名前の通り。
炎のブレスを吐く、陸生のイカ型モンスター。
「こいつッスか?」
ソテツの頭上――
そこに乗っかっている鋼色のネズミを指した。
「うん。大きくなったり、小さくなったり。他にもテイマーは見たけど、そういうのは……」
「あははは。まあ、捕まえて仕込んだってのはおんなじッスよ。ただ、そこらにいないのは確かッスかね」
「ふーん。レアモンスターか」
「へへへ。私に興味、持ってくれるんスか?」
ソテツはニヤニヤしつつ、ボッツに肩をすり寄せる。
「お前の、モンスターにね」
ボッツはソテツのわざとらしい態度に苦笑。
「んー。けど、そいつはテイマーにとってすっごい重要なことッスから。教えてもいいけど、それなりの? へへへ」
「うん。じゃあ、いいや」
ボッツは肩をすくめる。
――テイマー、いやこいつにとっての、機密……という感じか。
だったら、しつこく聞くのはダメだろう。
ボッツはそう判断した。
その一方でソテツは、
――へへっ。ま、聞かれてもホントのこと言うとは限らないッスよ?
ボッツを見上げつつ、内心で苦笑。
ソテツが操る、
これは、よそにはいない。
否。
どこを探しても、同種は見つからない。
何故か。
このモンスターは、魔力と技術、そして時間をかけて作り上げたものだから。
「お前は、テイマーの素質がある。父親譲りってのかね」
小さな頃、サキュバスの母に言われた言葉。
ソテツの髪や瞳……。
灰褐色の髪。黒っぽい茶の瞳。
そして、小柄で細身な体形。
これらの特徴は、いずれも母には似ていない。
言われたとおり、父親似なのだろう。
思えば、
――あれだけだったかな。親父についての、具体的な話ってのは。
「モンスターを捕まえるのも、しつけるのも、なかなかに大変さ。だから、時間も技もいるけど……」
便利なやつを教えてやるよ。
こういう言葉から、習い覚えたもの。
まず。
ソテツの場合は1匹のネズミを捕まえて――
これを、事前に作っておいた特別な餌を与え、特別な
餌と籠。
どちらも、製作にかける労力は大きい。
時間をかけ、魔力を注ぎ、様々な技術や知識を必要とする。
10歳から始めて、
「ま。どうにか、使えそうだね」
と。
師である母親から言われるまで2年かかった。
「ちょうど間に合った、てなところかい」
偶然か。
それは『子別れ』の時と重なっていた。
しかし。
それもまだスタート地点に過ぎず……。
現在の、仔牛サイズまで育てるのは数年かかった。
――こいつの餌を作るのも、籠のメンテナンスもだいぶかかったよなあ……。
ソテツは、モンスターを育てるためにかなりの出費を強いられた。
金を稼ぐために、せこく、ずる賢く、忙しくクエストをこなす毎日。
それこそ。
休みなく、回し車で走り続けるハムスターのごとく。
が。
それだけの価値はあった。
「自分で仕込んで、こしらえたヤツは野生のモンスターより、ずっと扱いやすい。相性もバッチリ。良い相棒になるよ」
もっとも?
どこまで使えるか、強くなるかはテイマー次第だけど。
母の言葉。
――まぁ、なんていうか。私はデキる女だから。
攻守、そして補助や乗り物として。
大ネズミは実に優秀である。
「ふたりとも、お忙しそうね?」
会話に、引きつった笑顔が割り込んできた。
前衛職の剣士ミーシャ。
少女剣士は乱れた髪を雑に整えながら、ボッツを見る。
笑い顔が引きつり、剣呑な雰囲気。
ブーツや手袋はモンスターの解体で汚れている。
「いや。見張りなんだけど」
モンスターを解体する間、周辺の警戒をする役。
相談して決めただろ?
ボッツは困った顔で言った。
「その重要な見張りって、女の子とおしゃべりしながらできるの?」
「……」
ミーシャの挑発的な言葉。
それと同時に――
ボッツは矢を構え、斜め横を向いた。
いや。
その時には、矢はすでに放たれており、
「ゴブリン……ッスか」
ソテツは、手をかざしながら矢の飛んだ方向を見る。
草の陰。
緑の小鬼が2匹、矢を受けて死んでいる。
「仲間を呼ばれると鬱陶しいッスからね。手早く始末できて良かったスよ」
いやあ。
さすがは、ボッツさん!
毎度毎度、見事な腕前ッすよ。
ソテツはスルリと、ボッツの腕に手をからませた。
「ちょっ……! あんた、クエスト中に……!」
「なんスか?」
「……ぬぁにが、『なんスか?』よ! だいたい、そのひとをおちょくったしゃべりかた、どうにかしなさい!!」
「なんなんスか?」
「このぉ……」
一触即発。
その時、
「う」
「な……」
醜く言い争う女ふたり。
その喉元へ、
動きを止めるふたりへ、
「無駄話してたのは悪かったよ。けど、それこそクエスト中にやめてくれないか?」
シーフと剣士が、ゆっくり後退していくと、
「見張りは俺がやる。で、ソテツは解体のほうを手伝ってくれ」
「……あっと。んじゃ、私のモンスターも向こうを見張らせるッス」
「そうか。じゃあ、頼むな」
言いながら、ボッツは少し離れた場所へ移動する。
「そんじゃ、よろしく」
大ネズミに指示を出しながら、ソテツは解体班のほうへ走っていく。
「あいつ、ほんっとに……」
場合によっては、本当に突き刺しかねなかった。
ボッツの氷や鉄のような雰囲気に、ミーシャは戸惑う。
昔は、決して見せなかった表情だったから。
それでも。
剣士は冒険者としての仕事に戻っていく。
とりあえず今回の番外編はここらで終了
次回よりまた新エピソードです