破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その113・5、番外:マモノツカイ-3

 

 

 

 

 

 

 モンスター。

 それを捕らえ、手懐けて下僕(しもべ)とする。

 

 ソテツのジョブは基本シーフだが……。

 モンスターテイマーの領分も有する。

 

「そいつって、どういうモンスターなんだ?」

 

 ある時。

 ボッツは何の気なしにそうたずねた。

 

 ソテツの操る大ネズミ。

 ネズミ型のモンスターはいくつかいる。

 合成獣(キメラ)型を含めれば、なかなかの数になるだろうか?

 

 しかし。

 

「これ読んだけど、そいつは載ってないんだよな?」

 

 ボッツは首をひねる。

 いわゆるモンスター図鑑。

 生態や対処法などが記されている。

 

「冒険者はもちろん、素人も読んどくべきもんだな。逃げたり、避けたりする方法も載ってるんだ」

 

 これはゴトクの弁。

 

 さて、それでソテツの大ネズミだが?

 見た目は、まさに大型のネズミとしか言えない。

 

 特徴は、鋼鉄のような色と強固さを持つ前歯。

 いや。

 全体的に、強い防御力を誇る。

 

「さっき、ブレスを喰らった時も平気だったし……」

 

 と。

 ボッツは、斜め横を振り返る。

 

 赤い大きなイカ、のようなモノ。

 それを他のパーティーメンバーが処理、解体している。

 

 火吹きイカ。

 名前の通り。

 炎のブレスを吐く、陸生のイカ型モンスター。

 

「こいつッスか?」

 

 ソテツの頭上――

 そこに乗っかっている鋼色のネズミを指した。

 

「うん。大きくなったり、小さくなったり。他にもテイマーは見たけど、そういうのは……」

 

「あははは。まあ、捕まえて仕込んだってのはおんなじッスよ。ただ、そこらにいないのは確かッスかね」

 

「ふーん。レアモンスターか」

 

「へへへ。私に興味、持ってくれるんスか?」

 

 ソテツはニヤニヤしつつ、ボッツに肩をすり寄せる。

 

「お前の、モンスターにね」

 

 ボッツはソテツのわざとらしい態度に苦笑。

 

「んー。けど、そいつはテイマーにとってすっごい重要なことッスから。教えてもいいけど、それなりの? へへへ」

 

「うん。じゃあ、いいや」

 

 ボッツは肩をすくめる。

 

 ――テイマー、いやこいつにとっての、機密……という感じか。

 

 だったら、しつこく聞くのはダメだろう。

 ボッツはそう判断した。

 

 その一方でソテツは、

 

 ――へへっ。ま、聞かれてもホントのこと言うとは限らないッスよ?

 

 ボッツを見上げつつ、内心で苦笑。

 

 ソテツが操る、鋼鉄(はがね)のごとき大ネズミ。

 これは、よそにはいない。

 

 否。

 

 どこを探しても、同種は見つからない。

 

 何故か。

 このモンスターは、魔力と技術、そして時間をかけて作り上げたものだから。

 

 

 

「お前は、テイマーの素質がある。父親譲りってのかね」

 

 小さな頃、サキュバスの母に言われた言葉。

 

 ソテツの髪や瞳……。

 灰褐色の髪。黒っぽい茶の瞳。

 そして、小柄で細身な体形。

 

 これらの特徴は、いずれも母には似ていない。

 言われたとおり、父親似なのだろう。

 

 思えば、

 

 ――あれだけだったかな。親父についての、具体的な話ってのは。

 

 (のち)にソテツはそう思い返している。

 

「モンスターを捕まえるのも、しつけるのも、なかなかに大変さ。だから、時間も技もいるけど……」

 

 便利なやつを教えてやるよ。

 

 こういう言葉から、習い覚えたもの。

 

 まず。

 ソテツの場合は1匹のネズミを捕まえて――

 これを、事前に作っておいた特別な餌を与え、特別な(かご)に住まわせる。

 

 餌と籠。

 どちらも、製作にかける労力は大きい。

 時間をかけ、魔力を注ぎ、様々な技術や知識を必要とする。

 

 10歳から始めて、

 

「ま。どうにか、使えそうだね」

 

 と。

 師である母親から言われるまで2年かかった。

 

「ちょうど間に合った、てなところかい」

 

 偶然か。

 それは『子別れ』の時と重なっていた。

 

 しかし。

 それもまだスタート地点に過ぎず……。

 現在の、仔牛サイズまで育てるのは数年かかった。

 

 ――こいつの餌を作るのも、籠のメンテナンスもだいぶかかったよなあ……。

 

 ソテツは、モンスターを育てるためにかなりの出費を強いられた。

 金を稼ぐために、せこく、ずる賢く、忙しくクエストをこなす毎日。

 

 それこそ。

 休みなく、回し車で走り続けるハムスターのごとく。

 

 が。

 それだけの価値はあった。

 

「自分で仕込んで、こしらえたヤツは野生のモンスターより、ずっと扱いやすい。相性もバッチリ。良い相棒になるよ」

 

 もっとも?

 どこまで使えるか、強くなるかはテイマー次第だけど。

 

 母の言葉。

 

 ――まぁ、なんていうか。私はデキる女だから。

 

 攻守、そして補助や乗り物として。

 大ネズミは実に優秀である。

 

 

 

「ふたりとも、お忙しそうね?」

 

 会話に、引きつった笑顔が割り込んできた。

 

 前衛職の剣士ミーシャ。

 少女剣士は乱れた髪を雑に整えながら、ボッツを見る。

 

 笑い顔が引きつり、剣呑な雰囲気。

 ブーツや手袋はモンスターの解体で汚れている。

 

 

「いや。見張りなんだけど」

 

 モンスターを解体する間、周辺の警戒をする役。

 相談して決めただろ?

 

 ボッツは困った顔で言った。

 

「その重要な見張りって、女の子とおしゃべりしながらできるの?」

 

「……」

 

 ミーシャの挑発的な言葉。

 それと同時に――

 ボッツは矢を構え、斜め横を向いた。

 

 いや。

 その時には、矢はすでに放たれており、

 

「ゴブリン……ッスか」

 

 ソテツは、手をかざしながら矢の飛んだ方向を見る。

 

 草の陰。

 緑の小鬼が2匹、矢を受けて死んでいる。

 

「仲間を呼ばれると鬱陶しいッスからね。手早く始末できて良かったスよ」

 

 いやあ。

 さすがは、ボッツさん!

 毎度毎度、見事な腕前ッすよ。

 

 ソテツはスルリと、ボッツの腕に手をからませた。

 

「ちょっ……! あんた、クエスト中に……!」

 

「なんスか?」

 

「……ぬぁにが、『なんスか?』よ! だいたい、そのひとをおちょくったしゃべりかた、どうにかしなさい!!」

 

「なんなんスか?」

 

「このぉ……」

 

 一触即発。

 その時、

 

「う」

 

「な……」

 

 醜く言い争う女ふたり。

 その喉元へ、(やじり)が突きつけられていた。

 

 動きを止めるふたりへ、

 

「無駄話してたのは悪かったよ。けど、それこそクエスト中にやめてくれないか?」

 

 シーフと剣士が、ゆっくり後退していくと、

 

「見張りは俺がやる。で、ソテツは解体のほうを手伝ってくれ」

 

「……あっと。んじゃ、私のモンスターも向こうを見張らせるッス」

 

「そうか。じゃあ、頼むな」

 

 言いながら、ボッツは少し離れた場所へ移動する。

 

「そんじゃ、よろしく」

 

 大ネズミに指示を出しながら、ソテツは解体班のほうへ走っていく。

 

「あいつ、ほんっとに……」

 

 場合によっては、本当に突き刺しかねなかった。

 ボッツの氷や鉄のような雰囲気に、ミーシャは戸惑う。

 昔は、決して見せなかった表情だったから。

 

 それでも。

 剣士は冒険者としての仕事に戻っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




とりあえず今回の番外編はここらで終了
次回よりまた新エピソードです
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