破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その114、きみは虜囚か姫君か-2 薄情のようだが仕方がないんだ

 

 

 

 

 

 

「あ……」

 

 少女は、声と共に目を開いた。

 

 翡翠のような瞳が、天井、そしてマコネたちを映す。

 

 

 ――ふうん?

 

 マコネは改めて少女を見る。

 

 年齢はマコネとそう変わらない。

 ただ。

 12歳より上、でもなさそうだ。

 

 ウェーブのある亜麻色の髪。

 肩口あたりで切りそろえられ、柔らかそうだ。

 わかりやすい美少女。

 

 ――なんつうの? 〝お人形さんみたい〟……ってのはこういうんだろうな。

 

 チラッと振り向けば、カーシャは後ろのほうで見ているだけ。

 口を挟む様子はない。

 

「あ。気がついたね」

 

 バッキーは少し身をかがめて話す。

 でも。

 距離はあまり縮めない。

 

 その声は聞き取りやすいが、あくまで穏やか。

 

 ――前は人見知りつうか、ガキはとにかく苦手そうだったのに? なんか、若い母親(かーちゃん)みたいだな。

 

 仲間の変化。

 マコネは実感しながら、ちょっと微笑む。

 

「あの……」

 

 少女は言いよどむ。

 

 しゃべれないのではなく――

 話せない。

 

 あるいは、

 

 ――話したくない、か。

 

 観察しながら、マコネはそう察した。

 

「あのう……。私、はね? バッキーって言うの。ヒーラー」

 

 黒髪地味目のちょいぽちゃヒーラーは、胸に手を当てて名乗る。

 

「はい……」

 

 少女はゆっくりうなずいた。

 まだ警戒や不安があるようだったが。

 

「うん。で、こっちは」

 

「マコネだよ」

 

 バッキーの視線を受け、マコネは答える。

 

「……」

 

 無言だが……。

 わかった、という感じで少女はうなずく。

 

「それで、最後に」

 

 振り返るバッキーにつられ、カーシャを見た途端、

 

「……っ」

 

 少女は大きく動揺する。

 

「知り合い?」

 

「だったら最初から言っているわよ」

 

 マコネの問いにカーシャは首を振り、

 

「話がわかったら、教えにきなさい」

 

 言い残し、部屋から出ていった。

 

「あのぉ……。怖いひと……なのは確かだけど、怒鳴ったりとか、めったやたらに乱暴するひとじゃないから」

 

 バッキーは両手のひらを向け、弁解するように言った。

 

 ――怒鳴ったりはしねーな。ボーリョクは気軽に振るうけどよ。

 

 マコネは内心苦笑する。

 

「えっと。一緒だったひととか、連絡する先とか、聞かせてくれるかな?」

 

 バッキーはそそくさと話を変え、少女に質問。

 

「イセンサ、です」

 

「え?」

 

「私はイセンサって、言います。バッキー……さん」

 

「あ。うん。ありがとう。じゃあ、イセンサさん? 連絡する場所とか相手とか、教えてくれる?」

 

 バッキーは照れ笑いを浮かべながら、身をかがめた。

 つまり、少女と同じ視線の高さとなる。

 

「……」

 

 しかし。

 少女は沈んだ顔のまま、答えない。

 

 ――おいおいおい……。やっぱ訳ありかよ。めんどーくせえ……。

 

「言えないの? なにか……」

 

 理由があるのか。

 バッキーはそう聞きかけたが、やめる。

 

「あのね。私たちは今旅先ですぐに帰らないといけないの。だから、あなたと一緒に待ってるわけにはいかないんだよ」

 

「……」

 

 少女は無言でうなずく。

 それでも。

 バッキーのことは、しっかり見ているようだ。

 

「それとね? もしも、だよ? もしも、あなたが誰か悪いヤツとかに狙われているとしたら――」

 

 ゆっくりと言いながら、バッキーは途中で言葉を切る。

 

「ハッキリ言っちゃうと……。私たちに、あなたを守る義務はないの。どこの誰かもわからないし、どういう事情があるのかもわからないなら、余計に」

 

「……はい」

 

「もし、あなたを守るとすれば。それは報酬、お金とか色々もらってやる。そういう仕事だから」

 

「……」

 

「誰か報酬を払ってくれるひとがいるなら、それでもいいんだけど……」

 

 ――そういうわけにもいかねーって、(つら)だな。

 

 うつむいた少女の顔を見て、マコネは顎を指で掻く。

 

「それでも、話すことはできないかな?」

 

「……たぶん」

 

「?」

 

「……たぶん、いません。お金を払ってくるひとは」

 

 ――なんだよ、たぶんって。

 

 わかりにくい言葉に、マコネはわずかに顔をしかめた。

 

「……きっと、私はもう()らないから」

 

「えっ?」

 

 バッキーは本気で困った顔。

 

「お前さ」

 

 マコネは急に割り込んで、

 

「どっかで囲い者にでもなってたのか?」

 

「はい?」

 

 その言葉に、むしろバッキーがキョトンして振り向く。

 

愛人(めかけ)って言えば、わかりやすいかね。それとも、()()()()()のかよ?」

 

 マコネは、

 

「朝飯はなに食った?」

 

 とでも聞くようにそう言った。

 

 まるで、世間話でもするように。

 

「か、飼うって……」

 

 犬猫(ペット)じゃあるまいし。

 

 バッキーは呆れて言葉に困ったが、

 

 ――ん……?

 

 少女の顔は、真っ青になっていた。

 その瞳が大きく開き、微かに震え出して――

 

 ――ええええ……? ま、まさか……。

 

 正解、だったのか。

 

 予想外の事態。

 バッキーは絶句して、少女を見つめるばかり。

 

「どこの何様か知らんけど、良い趣味してるよ」

 

 マコネは両手を頭の後ろに回し、天井を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 カーシャはゆっくりと視線を上げる。

 宿屋の裏手。

 

 近くには、木陰が多い。

 水色の視線はそこに向けられていた。

 

 と。

 木陰の周辺でなにかが動く。

 

 黒い影。

 羽音とともない、殺気をまとったモノが低空で走る。

 

 パチン

 

 一瞬後。

 潰れた何かが、地面に散乱する。

 

 そして。

 カーシャの手には、

 

 ――蜂?

 

 大きな肉食昆虫、らしきもの。

 その残骸がつかまれていた。

 

「まあ。なんにしろ」

 

 カーシャは軽く息を吐き、

 

 ――攻撃してきた以上は、相応の対応をするのだけど。フツーなら……。

 

 その意識を、自分のとった部屋。

 

 つまり。

 現在、マコネやバッキー、そしてあの少女がいる部屋に向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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