破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その114、きみは虜囚か姫君か-3 見世物とも言える

 

 

 

 

 

 

 

 ――いわゆる、陽動というやつかしら。

 

 木陰から露骨に感じる気配。

 

 ――隠れている、ように見せかけて……。

 

 明らかに、こちらを誘っている。

 

 ――目的は……やはり、あっちということか。

 

 二階にいるマコネたち。

 いや、

 

 ――たぶん、狙いはあのお人形さん。

 

 ならば。

 

 ――アレを放り出せば、それで終わりねえ? やる気なら……。

 

 とっくに部屋を襲っているわ。

 こちらと、ことを構える気はあまりないのかしら。

 

 カーシャは考えながら、ゆっくりと歩き出す。

 

 確かに?

 カーシャが抜ければ、戦力は大幅にダウン。

 

 バッキーは、ほぼ非戦闘要員。

 マコネは、いざとなればあの少女を見捨てるだろう。

 

 ――ふうん。でも?

 

 最初にマコネを襲ったのは、何故か。

 

 あのまま放置していたかもしれないのだ。

 素性も知れない行き倒れをわざわざ助ける物好きはいない。

 

 まして。

 浮き草のような冒険者ともなれば、なおさらに。

 

 手を出したため、結果としてマコネが関わってしまったわけで……。

 

 ――と、なれば。あの()自体を見られたくなかった。いえ。

 

 見かけた者はそれなりにいただろう。

 だが?

 

 ――身なりや顔を細かく観察した者は、いなかった。そんなところ? と、いうことは……。

 

 そこから素性がバレる可能性を危ぶんだのか。

 

 ――アレに生きててほしくはない連中がいるわけか。

 

 なるほど。

 きな臭い。実にきな臭い展開だと、カーシャは思う。

 

 自然と、右手が口元を隠していた。

 ついつい冷笑を浮かべそうになったのだ。

 

 そして、

 

 トン

 

 地面を蹴る。

 

 ――やっぱりね。

 

 瞬時に間合いを縮め、跳躍。

 

 空中からカーシャが見たものは、

 

 ――しゃらくさい。それとも小器用と褒めるところか。迷うわね。

 

 木陰に潜んでいたヒト型。

 否。

 ヒト型に固まっていた虫の群れ。

 

 バチュン

 

 引っ搔くような――

 あるいは、獣が前足で振るうような。

 カーシャはそんな動作で、左手を振るっていた。

 

 残ったものは、潰れて地面に広がった虫の残骸

 ただそれだけ。 

 

 ――蜂、じゃない。これは、アリ?

 

 先ほどつかんだ虫の残骸。

 そして今、つまみ上げている残骸。

 

 羽はあるものの、どうもアリに近いようだった。

 

 ――アリに、蜂か。ふん……。

 

 頭によぎるのは、赤い地獄で見た巨大な虫の怪物。

 

 虎のような毒蜂。

 鋼鉄のように硬い顎を持つ大アリ。

 

 ――他には、脳みそを喰うイモムシもいたわね。

 

 ある意味で懐かしい。

 そんな表現もできる記憶。

 

 カーシャはつまんだ残骸を放り捨て、後ろを振り返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにぃ!?」

 

 マコネは天井を見上げて叫ぶ。

 古く、あちこちしみのある天井。

 

 そこには何匹ものアリが群がっていた。

 当然、ただのアリではなく――

 猫ほどもある巨大なサイズ。

 

「ちょ、ちょ、ちょ!?」

 

 バッキーはあわてつつも、ベッドの少女を抱き寄せる。

 同時に、魔力の結界で身を包んだ。

 

「この……!」

 

 マコネはすばやく窓のほうへ手を伸ばした。

 

 すると。

 

 ガラス窓に、犬ほどのモンスターが張り付く。

 マコネが偶然からテイムした合成獣(キメラ)型モンスター。

 種族名はゲカット。

 

 猫とヤモリの特徴を持つモンスターは、窓の隙間からするりと部屋に入る。

 まるで、液体のように。

 

 入ると同時に、ゲカットはマコネの腕に飛びついた。

 

 と。

 ゲカットは大きなガントレットのように変化していく。

 手の甲あたりから、太い鞭。

 いや。

 鞭と化した長い尾が伸びる。

 

「おらああっ!」

 

 ベシュ……

 ゴチュ

 

 

 鞭は群れる大アリを瞬く間に叩き潰す。

 

 が。

 それで終わることはなかった。

 

 天井の隅を食い破り、第2第3の群れが入り込んでくる。

 

「ったく。やっぱり厄ネタだな、こいつ」

 

 マコネは軽く少女を見てから、さらに鞭を振るう。

 

「おい、きりがねえや! ずらかるぞ!?」

 

「やっぱり!?」

 

 バッキーはしょうがない、という表情で応えた。

 右手に杖を掲げ、左手で少女を抱き上げながら。

 

「例の手で頼む!」

 

「かしこまっ……!」

 

 マコネがバッキーの結界内へ飛び込んだ後。

 

「****……」

 

 バッキーの呪文が小さく響く。

 それと同時に、結界は丸く変形して3人を包む。

 

 ボール状となった結界は跳ねて、転がり――

 

 強引に窓を突き破って、外に飛び出していった

 

 この魔法と言うのか、技と言うのか。

 バッキーは、

 

「避難ボール」

 

 と、名づけている。

 

 3人を入れたまま転がっていくボールだが……。

 いきなり、急停止。

 

「ぬぁ!?」

 

「うえ!?」

 

「……っ!?」

 

 顔を上げた3人に、

 

「派手な逃げ方をしたわね」

 

 片手でボールを止めたカーシャが言った。

 

「あ、姐さん!」

 

「大きなアリにでも襲われたの?」

 

「そ、そうなんだよ!!」

 

 結界が解除されると。

 マコネは叫び、カーシャは肩をすくめる。

 

「仕掛けてきたのは……虫使い、というやつになるのかしら?」

 

 カーシャは窓の壊れた宿屋の2階を見て、首をかしげた。

 

「いえ。モンスターテイマーね」

 

「ああ……。厄介なもん使いやがる……」

 

 マコネはうなずきながら、忌々しそうに言った。

 

「あなたも、不運だこと」

 

 カーシャはうつむいている少女を見て、目を細める。

 

「下手に関わったばかりに、私たちは大した出費(ついえ)――と言いたいけれど」

 

 クスクス。

 

「感謝なさい。面倒は見てあげるわ」

 

「いいのかよ?」

 

 意外な発言。

 マコネはそう思いながら、思わずカーシャを見る。

 

 しかし、

 

 ――おいおいおい。面倒ごとを遊びにする気か?

 

 何となく察してしまったその心情。

 

 ――おいらが招いたようなもんだけどさぁ……。

 

 マコネは首を振って、肩を落とす。

 

「ただし。他人(ひと)を働かせるには、報酬が必要。お金も物も、あなたは持っていない。あるのはトラブルだけ」

 

「……ごめんなさい」

 

 カーシャの辛辣な物言いに、少女……イセンサはうつむいて謝る。

 それしか、できないのだろう。

 

「だから。あなたのトンチキな、悲劇か喜劇か知らないけど。それを鑑賞させていただこうかしら」

 

 あなたの()()()も見てみたいしね?

 

 カーシャの笑み。

 

 ――うわあ……。

 

 それを見ながら、バッキーはイセンサに同情する。

 

 ――とはいえ……。しょうがなくも、あるんだけど……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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