破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その114、きみは虜囚か姫君か-4 イケボだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「確かに、良い品だな」

 

 服を手に取りながら、ゴトクは言った。

 

「ミカー産の絹だ。作るのには手間も日数もかかるんで数も少ない。品質も最上級。かなりの値打ちもんだぜ。これだけでもな」

 

「他にも要素が、あるみたいね?」

 

 カーシャは面白そうに言った。

 

「あんたにゃ、言わずともわかってると思うがな。服も腕利きの職人が作ってる。こんだけの技術を持ってるヤツはそうそういねえ」

 

 ゴトクは、服をきれいにたたんで袋に戻す。

 

「ふむ。とりあえずきれいにはしたけど――」

 

「下手に修繕すりゃ、台無しになりかねん。一番いいのは、作った職人にまかせるこった」

 

「何かあてはない?」

 

「さっきも言ったが、作れるヤツは限られてる。そっから探していくのは、まあ難しくはないが……」

 

「なら探してくださる?」

 

 カーシャはクリップで挟んだ分厚い札束をカウンターに置く。

 

「仕事というのなら、やるがね。あんたも派手に金使うなあ」

 

 ゴトクはそれを受け取りながら、若干の呆れ顔。

 

「だが――あの尼僧(シスター)もどきに()せたほうが、話は早いんじゃないのか?」

 

 尼僧(シスター)もどき。

 つまりはボロンのこと。

 

「そうね。だけど、映す記憶も一定はしてないし、完全でもない。職人に関しては、わからなかった」

 

「もうやったってことかい」

 

「ええ。関係者についてなら、多少はわかったけど?」

 

 カーシャは青い髪をかき上げ、

 

「それでも、多少にすぎないわねえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、リーダー」

 

 屋敷に戻ったカーシャを出迎えたのは、バッキー。

 小走りにやってきて、あわてた様子。

 

()()()から、連絡でもあったのかしら」

 

「え、まあ……。そんな感じ、ですかね?」

 

 バッキーはモゴモゴと曖昧な返事。

 

「ギルドのほうから連絡がありまして。彼女、イセンサさんの保護者になるかたがいらっしゃるとか」

 

「話を通しておいたのは、正解だったわね。スムーズにいってる」

 

「そのかたっていうのは……」

 

「どこぞの、立派な伯爵様あたりじゃないの?」

 

「あ。はい。やっぱり、ご存じなんですか?」

 

 バッキーの質問に、

 

「服の『記憶』が確かなら、まあ面識はあるわ」

 

 カーシャはイセンサの服が入った袋を見ながら、肩をすくめる。

 

 

 ボロンが映した服の『記憶』。

 

 それには、イセンサと共にどこかの屋敷と――

 美しい顔立ちの若者の姿があった。

 

 

「見た感じだと、やっぱり愛人って感じだったけれど」

 

 若者といっても?

 イセンサと比べれば年齢差は大きかった。

 

「でも。なんか、意外というか……」

 

「いかにも好色そうな、スケベ親爺(おやじ)とでも思った?」

 

 バッキーに対し、カーシャはからかうように笑う。

 

「ええ。いや、まあ。そうかも、です」

 

「私自身をかんがみる限り、いくら外見が良くっても、中身もそうだとは限らない」

 

「はあ……」

 

「見た目は貴公子や王子様でも、内面は面倒くさかったり、偏執的だったり。まあ、色々あるわ」

 

 と。

 カーシャはこめかみあたりを指でさわりながら、

 

「とはいえ――世の乙女たちは、見てくれが良ければたいていは許せるものだけど。もちろん、殿方もね」

 

「はあ、まあ……」

 

 バッキーは相づちを打ちながら、

 

 ――しかし……。本当に恋人関係というか、肉体関係だったとは……。

 

 ボロンが見せた『記憶』を思い返していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これはこれは――」

 

 〝客人〟を出迎えながら、カーシャは微笑した。

 

 年齢は、20代か。

 まるで見本のような、貴公子然とした美形。

 黒に近い青の髪。

 整った鼻梁。

 スラリとした背丈。引き締まった筋肉。

 黒い服がよく似合う。

 どこか冷たさのある顔つきは、カーシャと通じるものがある。

 

「こんなところまで、よくおいでになられました」

 

 と。

 慇懃(いんぎん)に礼をとった後、

 

「では、こちらへどうぞ」

 

 カーシャは先導しようとする。

 

 しかし、

 

「イセンサはどこだ」

 

 男の口から美声が流れた。

 

「もちろん。すぐにお連れいたします。それまで、狭いですが客間のほうでお待ち願いませんか?」

 

「……」

 

「ずいぶんと荒れていらっしゃる」

 

 先を歩きながら、カーシャは言った。

 振り返らず、前を向いたまま。

 

「言っておくが長居する気はない」

 

「それはご心配なく。色々とお忙しいお体でしょうし、分を超えて引き留めたりなどしませんよ」

 

 カーシャは肩をすくめる。

 

 前を歩く青い乙女。

 その背中を見る男の視線は厳しい。

 

 ――こいつ、何者だ。

 

 無言の顔はそう言っていた。

 

「しかし。社交界でも注目の的であらせられたフォイア伯に、あんなご親族がいらっしゃるとは」

 

 まったく存じ上げませんでしたわ。

 

 カーシャはわざとらしい声で語る。

 

 ベルツ・フォイア伯。

 それが、男の名前だった。

 

「……」

 

 カーシャの言葉に対して……。

 やはり?

 ベルツは無言だった。

 

「お前と話す口はない」

 

 とでも言うように。

 

 カーシャのほうも気にすることはなく、そのまま客間へと案内。

 

「それでは。イセンサ嬢がおいでになるまでお茶の用意を――」

 

 部屋にあらかじめ用意されていたティーセット。

 カーシャはごく自然にお茶をいれ始めた。

 

「何しろ、使用人もいませんので。まあ、分相応とも言えますけど」

 

「長居する気はない、と言ったはずだ」

 

 ポットから湯を注ぐカーシャへ、ベルツ伯爵は厳しい声。

 ソファーに座りもしない。

 

「あらまあ。けれど、お客様にお茶も出さないのは、礼儀に反しますので。ま、お気になさらず」

 

 カーシャは動じることもなく、湯気の立つカップをテーブルに置く。

 

 

 そんな時。

 

 

「あのう。お連れしました」

 

 バッキーが、イセンサを連れて客間へ入ってくる。

 

「……ベル」

 

「探したぞ」

 

 伯爵を見るなり、イセンサはその小さな体を震わせる。

 イセンサを見るなり、男の口から美声が流れる。

 

 ――うううみゅ。現物を見ると破壊力マシマシ……。しかも、お顔にピッタシのイケボですやん……。

 

 バッキーは感動さえおぼえて、伯爵を見つめてしまう。

 

 もっとも。

 伯爵のほうは、バッキーなど眼中にないのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか、変な感じですね?」

 

 伯爵とイセンサ。

 美貌の伯爵と、可憐な少女を乗せた馬車。

 

 それを見送りながら、バッキーは首をかしげた。

 

「どう誤魔化したって、愛人なのは確かだろうがね」

 

 バッキーの隣でマコネは微かな苦笑。

 

「でも? あの()、なんで狙われてたんでしょうか?」

 

「さあね。とにかく、保護者に渡したんだ。後はどうなろうと、おいらたちには関係ないこった」

 

 

 だが

 

 

 マコネの言葉は、はずれることとなった。

 

 3日後。

 カーシャはある筋から相談を持ちかけられた。

 

 かの、ベルツ・フォイア伯爵に関して――

 

 美貌と才覚、そして財産。家柄。

 全てを持つ若者の、縁談に関して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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