破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「確かに、良い品だな」
服を手に取りながら、ゴトクは言った。
「ミカー産の絹だ。作るのには手間も日数もかかるんで数も少ない。品質も最上級。かなりの値打ちもんだぜ。これだけでもな」
「他にも要素が、あるみたいね?」
カーシャは面白そうに言った。
「あんたにゃ、言わずともわかってると思うがな。服も腕利きの職人が作ってる。こんだけの技術を持ってるヤツはそうそういねえ」
ゴトクは、服をきれいにたたんで袋に戻す。
「ふむ。とりあえずきれいにはしたけど――」
「下手に修繕すりゃ、台無しになりかねん。一番いいのは、作った職人にまかせるこった」
「何かあてはない?」
「さっきも言ったが、作れるヤツは限られてる。そっから探していくのは、まあ難しくはないが……」
「なら探してくださる?」
カーシャはクリップで挟んだ分厚い札束をカウンターに置く。
「仕事というのなら、やるがね。あんたも派手に金使うなあ」
ゴトクはそれを受け取りながら、若干の呆れ顔。
「だが――あの
つまりはボロンのこと。
「そうね。だけど、映す記憶も一定はしてないし、完全でもない。職人に関しては、わからなかった」
「もうやったってことかい」
「ええ。関係者についてなら、多少はわかったけど?」
カーシャは青い髪をかき上げ、
「それでも、多少にすぎないわねえ」
……。
「あ、リーダー」
屋敷に戻ったカーシャを出迎えたのは、バッキー。
小走りにやってきて、あわてた様子。
「
「え、まあ……。そんな感じ、ですかね?」
バッキーはモゴモゴと曖昧な返事。
「ギルドのほうから連絡がありまして。彼女、イセンサさんの保護者になるかたがいらっしゃるとか」
「話を通しておいたのは、正解だったわね。スムーズにいってる」
「そのかたっていうのは……」
「どこぞの、立派な伯爵様あたりじゃないの?」
「あ。はい。やっぱり、ご存じなんですか?」
バッキーの質問に、
「服の『記憶』が確かなら、まあ面識はあるわ」
カーシャはイセンサの服が入った袋を見ながら、肩をすくめる。
ボロンが映した服の『記憶』。
それには、イセンサと共にどこかの屋敷と――
美しい顔立ちの若者の姿があった。
「見た感じだと、やっぱり愛人って感じだったけれど」
若者といっても?
イセンサと比べれば年齢差は大きかった。
「でも。なんか、意外というか……」
「いかにも好色そうな、スケベ
バッキーに対し、カーシャはからかうように笑う。
「ええ。いや、まあ。そうかも、です」
「私自身をかんがみる限り、いくら外見が良くっても、中身もそうだとは限らない」
「はあ……」
「見た目は貴公子や王子様でも、内面は面倒くさかったり、偏執的だったり。まあ、色々あるわ」
と。
カーシャはこめかみあたりを指でさわりながら、
「とはいえ――世の乙女たちは、見てくれが良ければたいていは許せるものだけど。もちろん、殿方もね」
「はあ、まあ……」
バッキーは相づちを打ちながら、
――しかし……。本当に恋人関係というか、肉体関係だったとは……。
ボロンが見せた『記憶』を思い返していた。
……。
「これはこれは――」
〝客人〟を出迎えながら、カーシャは微笑した。
年齢は、20代か。
まるで見本のような、貴公子然とした美形。
黒に近い青の髪。
整った鼻梁。
スラリとした背丈。引き締まった筋肉。
黒い服がよく似合う。
どこか冷たさのある顔つきは、カーシャと通じるものがある。
「こんなところまで、よくおいでになられました」
と。
「では、こちらへどうぞ」
カーシャは先導しようとする。
しかし、
「イセンサはどこだ」
男の口から美声が流れた。
「もちろん。すぐにお連れいたします。それまで、狭いですが客間のほうでお待ち願いませんか?」
「……」
「ずいぶんと荒れていらっしゃる」
先を歩きながら、カーシャは言った。
振り返らず、前を向いたまま。
「言っておくが長居する気はない」
「それはご心配なく。色々とお忙しいお体でしょうし、分を超えて引き留めたりなどしませんよ」
カーシャは肩をすくめる。
前を歩く青い乙女。
その背中を見る男の視線は厳しい。
――こいつ、何者だ。
無言の顔はそう言っていた。
「しかし。社交界でも注目の的であらせられたフォイア伯に、あんなご親族がいらっしゃるとは」
まったく存じ上げませんでしたわ。
カーシャはわざとらしい声で語る。
ベルツ・フォイア伯。
それが、男の名前だった。
「……」
カーシャの言葉に対して……。
やはり?
ベルツは無言だった。
「お前と話す口はない」
とでも言うように。
カーシャのほうも気にすることはなく、そのまま客間へと案内。
「それでは。イセンサ嬢がおいでになるまでお茶の用意を――」
部屋にあらかじめ用意されていたティーセット。
カーシャはごく自然にお茶をいれ始めた。
「何しろ、使用人もいませんので。まあ、分相応とも言えますけど」
「長居する気はない、と言ったはずだ」
ポットから湯を注ぐカーシャへ、ベルツ伯爵は厳しい声。
ソファーに座りもしない。
「あらまあ。けれど、お客様にお茶も出さないのは、礼儀に反しますので。ま、お気になさらず」
カーシャは動じることもなく、湯気の立つカップをテーブルに置く。
そんな時。
「あのう。お連れしました」
バッキーが、イセンサを連れて客間へ入ってくる。
「……ベル」
「探したぞ」
伯爵を見るなり、イセンサはその小さな体を震わせる。
イセンサを見るなり、男の口から美声が流れる。
――うううみゅ。現物を見ると破壊力マシマシ……。しかも、お顔にピッタシのイケボですやん……。
バッキーは感動さえおぼえて、伯爵を見つめてしまう。
もっとも。
伯爵のほうは、バッキーなど眼中にないのだが。
……。
「なんか、変な感じですね?」
伯爵とイセンサ。
美貌の伯爵と、可憐な少女を乗せた馬車。
それを見送りながら、バッキーは首をかしげた。
「どう誤魔化したって、愛人なのは確かだろうがね」
バッキーの隣でマコネは微かな苦笑。
「でも? あの
「さあね。とにかく、保護者に渡したんだ。後はどうなろうと、おいらたちには関係ないこった」
だが
マコネの言葉は、はずれることとなった。
3日後。
カーシャはある筋から相談を持ちかけられた。
かの、ベルツ・フォイア伯爵に関して――
美貌と才覚、そして財産。家柄。
全てを持つ若者の、縁談に関して。