破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「フォイア伯ですか」
「ええ」
ショケラ・ロシトー伯爵夫人はうなずき、困った顔をより困ったものにする。
「ふむ……。しかし、私はすでに爵位を失った身ですからねえ?」
貴族のかたがたについては、どうにも……。
カーシャは飲み終えた茶器を置く。
夫人をまねるように、困った顔をしてみせながら。
「いーえ。それでも、貴種の血を引かれたかたには間違いございません。何よりも……今や、ドラゴンスレイヤーたる英雄ではありませんか」
「おほめいただくのは嬉しいですが――」
夫人の言いかたは何とも大げさだった。
カーシャはそれに苦笑して、
「領地を荒らすモンスターの討伐、という荒事ならご相談に乗れますが」
「ですが――お気を悪くされたら謝罪を申し上げますけれど、その……
「相当にお困りのようですね」
「……ええ。縁談の相手というのが、私の従兄……その娘でして」
「なるほど。親族の縁談となれば確かに他人事でもありませんわね」
「それもありますけれど、わたくし個人といたしましても――何とかしてあげたいのです」
と。
ショケラ夫人は深刻な顔となった。
……
「護衛?」
マコネは不思議そうに聞き返した。
「はい。ぜひ、ミズ・カーシャに……と。報酬もかなりのものですね」
ギルドの受付嬢はどこか
ちなみに。
彼女は登録に来たボロンに翻弄されて、ひどく疲れたという過去がある。
なので、
「今日は、あの
などと。
カーシャパーティーのメンバーが来るたび、警戒するほどだった。
「なるほど。確かに大盤振る舞いってえやつだね」
簡単な依頼内容と、報酬金額。
それを記載した書類を確認して、マコネはうなずく。
「けどよ?」
「ええ。確かに高額ですけど……」
受付嬢は困った顔になる。
カーシャの実績。
何匹もドラゴンを討伐し、他にもSRの冒険者……どころか。
国軍が対処するようなモンスターも倒している。
最近は、もはや通常のクエストは、
「他の冒険者のため、受けないように……」
ギルドが頼んでいる有様で。
――まあ、厄介ごとばかり押しつけられてんだけどよ?
その分、報酬も大きい。
だが。
カーシャ個人への報酬は、軍を動かし、兵器を使うよりも安く上がる。
「だけど、その、なんと申しましょうか……」
「ンんだよ? ハッキリしねえな」
「これまで、二回失敗してるんです」
と。
受付嬢はうなだれる。
「護衛対象さんが
「さすがに、そこまでは……。でも、請け負った冒険者たちは全滅してます」
「おいおいおい」
マコネは不審の眼で依頼書を読み直す。
「どちらも、SRのパーティーだったんですけどね」
「そんな腕利きを殺ったってえこたぁ、よほど面倒な相手らしいね?」
「はい。だから、ミズに……というわけで」
「ふーん。そいつぁ、厄ネタだぁね」
マコネは若干受付嬢に同情しつつ、
――まあ、SRだろうが英雄だろうが……。隙をつかれりゃ簡単に死ぬけどよ。
カーシャを思い浮かべた。
――姐さんは、そういうことに関しちゃえらく鼻がきくからなあ……?
彼女の戦闘力は、攻撃力以上にそういう点が大きい。
マコネはそう思っている。
……。
「え。それって」
依頼の話を聞いたバッキーは、眼を大きくした。
「おう。こないだの色男だぁね」
それは、
『ベルツ・フォイア伯爵を密かに護衛せよ』
と、いうものだった。
「ううん。だけど……。どういう?」
バッキーは首をかしげる。
イセンサを迎えにやって来た、美貌の伯爵。
あの態度からして、
――リーダーに頼むっていうのは、考えにくいよねえ? ってことは、別の誰かが?
「ああ。表向きは、そうなっているけどよ。本当の護衛対象は……」
イケメン伯爵様の愛人だ。
つまり。
マコネはバッキーの疑問を感じ取って、肩をすくめる。
「イセンサ、さん?」
あの――
人形のように愛らしく。
雪のように
亜麻色の髪をした少女。
「そういうこと」
「だけど、どうして。そんな……」
言いかけて、バッキーは口元に手を当てた。
自分たちと出会うきっかけ。
――イセンサさんは傷をおって、路地裏に倒れていた……んだよね?
それは。
どう考えても、普通の状況ではない。
「狙われてる。そいつは、確かだろうよ」
マコネは、肩をすくめる。
「なんで、あの
「知らねえよ。あの色男についても、ぜんぜん知らねえし」
けど?
ま、こいつは邪推だけどよ。
あのお姫様に入れ上げてとち狂ってんなら、理由はあるかもな
マコネの皮肉な言葉。
バッキーはそこから思い出す。
以前、古い香炉で
美女に恋焦がれ、国を乱しかけた王。
その王に応えた美女。
どちらも、最後には――
「あの
伯爵の寵愛を受けて、成り上がる。
そういった野心、企み。
――ないんじゃ、ないかな?
「本人がどう考えてようと、存在自体が邪魔になることだってあるさ」
バッキーに対して、マコネは首を振る。
「嫌な話ですね……」
「だな。けど。それはそれとして。
受けるかどうかは、姐さん次第だな」
マコネは言いながら、テーブルに置いた依頼書を見つめた。
……。
「私は、やらない。そういうことにしておきましょう」
カーシャは即座に答えた。
「?」
バッキーはその意味がわからなかったが、
「表向きは、ってことかい」
マコネはちょっと考えてから、
「姐さんが関わってるとなりゃ、向こうも警戒するだろうしなあ」
「どっちにしろ。ダラダラと護衛任務を続けるのは不愉快だし」
カーシャは薄く笑って、
「命令してる相手を見つけてどうにかしないと、いつ終わることか」
「だったら、最初は受けなくっても……」
バッキーの疑問に、
「フォイア伯に関しては、面白い話も聞いたし」
まあ野次馬根性というやつよ。
カーシャはまた、薄く笑った。