破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
イセンサは、ひとり庭の中にいた。
いや――
正確には、使用人が2人目立たない場所で控えているのだが。
手入れの行き届いた、美しい庭。
フォイア邸の、その歴史と威厳を感じさせる外観にふさわしいもの。
少女は庭に植えられた果樹の下に座っている。
一体、自分は何なのか。
その疑問が頭によぎった時、イセンサはいつも果樹の下に座った。
古く、大きな果樹。
秋には甘酸っぱく、どこか懐かしい味の果実がなる。
ここで初めて食べたはずなのに。
何故かひどく懐かしい味だった。
「だけど、あの
窓から庭――果樹の下に座るイセンサを見てバッキーはほぼ無意識につぶやいた。
「さあね」
マコネはつまらなそうに言って、ベッドに寝転がる。
「あの感じからして、どうせまともな経緯で来たわけねーだろうさ」
「それって……」
「やめときな」
振り返ったバッキーに、マコネは背を向けたまま、
「おいらたちは、あいつがケガしたら治す。それだけの仕事だ。事情を探ったり、お悩み相談を受けに来たわけじゃねえ」
「……まあ、確かに」
まったくもって。
マコネの言う通りなのだ、とバッキーも思う。
だが。
理屈では納得できても、感情で納得できないものがある。
この世界、この文化圏では……。
イセンサくらいの年齢で結婚する少女も珍しくはないらしい。
特に、王族や貴族はその傾向が顕著。
異国どころか、異世界の倫理や道徳で口を挟むのは、
――傲慢というか、勘違いでしかないんだろうけど……。
バッキーはため息を吐いた。
ボロンが、イセンサの着ていた服から映した『記憶』。
――ハッキリ言って、お耽美ロリエロ漫画の世界だったんだよなあ……。いや、ティーンズラブ? つっても……。
耽美。
そんな言葉が出てくるのは……。
相手、ベルツ・フォイア伯爵が――
貴公子然とした並の女よりはるかに美しい美男子であるため。
――種オジみたいな感じだったら、ジャンル変わるよねえ。
バッキーが意味のないことを考えてる、それと同時に
ベルツ・フォイアは1階の窓から、イセンサを見ていた。
自分と彼女の関係。
それを、あの女たちはどう思っているのか。
なんであれ、知ったことではない。
――あいつは、誰にも渡さん。悪魔だろうが。
言葉にはしない。
だが。
ベルツ・フォイアにとって、イセンサとの出会いは――
運命。
そう思い、感じていることだった。
「もうじき、日が暮れますね」
バッキーは意味のないことをつぶやいた。
――あの
心中では、そんなことを考えつつ。
まだ夕焼けは現れない。
しかし、それが近づいているのは時刻でわかる。
「夕飯は美味いもん出してくれるかね?」
マコネは寝転がって新聞を読みながら、気のない返事。
そして。
夕暮れの色が庭を染め上げ始める。
事態が急転したのは――
空に夕焼けが現れたのと、ほとんど同時だった。
いきなり。
巨大な振動が、屋敷を、庭を震わせた。
「な、なんだぁっ!?」
マコネは窓を開き、夕暮れの庭を見る。
地面を這う巨大なモノ。
それが、イセンサに迫っていた。
屋敷を囲む鉄柵をオモチャのように破壊して。
――なに、あれ? トカゲ……じゃない。
オオサンショウウオ!?
バッキーはモンスターの姿を見て、大いにあわてると同時に、
――え!? どうしよう、殺しちゃったらまずいのでは?!?
と。
混乱した思考となってしまう。
青黒い巨体のモンスター。
その姿は、どう見てもオオサンショウウオ。
6メートル近い巨躯を別にすれば、だが。
この大きな両生類。
日本では、天然記念物に指定されている。
捕獲や殺害などすれば、法律違反となってしまうわけで。
「いやちょっと待てよ!?」
バッキーは首を振りながら、
――ここは異世界で、日本じゃないし!? それに、アレも絶対日本のヤツとは別物だって!? サイズちがいすぎだし!!
急いで気を取り直して、庭へ向かって杖を突き出した。
大きな魔力の玉が飛んでいく。
ただし。
モンスターではなく、イセンサに向かって。
「きゃああああああ!?」
イセンサは頭を押さえて、草の上にうずくまった。
まさに、絹を裂くような悲鳴。
それを、魔力が光がドーム状となって
バッキーの防御用結界魔法。
ルルゥオオオオ……!
結界に前脚を弾かれ、モンスターは後ずさる。
「ヤロォ!!」
マコネは下に飛び降り、
「行け!!」
人差し指と中指を立て、右手をモンスターに突き出した。
瞬間。
コマのように回転するモノが、モンスターの頭を切り裂いて地面へと飛び降りた。
ゲカット。
猫とヤモリの特徴を持つマコネのテイムしたモンスター。
「なんで、こんなにあっさり攻め込まれてんだよ!?」
侵入者を警戒、監視して近寄ることさえ阻む警備システム。
それが、作動していない。
――あの柵にしたって、魔法も物理攻撃も防ぐ高級品だろうが……!?
無惨に破壊された鉄柵の残骸。
マコネはそれをチラリと見てから、舌打ちをする。
さらに。
巨大オオサンショウウオの後ろから、大小のモノが這い寄ってくる。
サイズはバラバラだが、
「みんな、オオサンショウウオ!?」
結界をより強固に固めながら、バッキーは叫ぶ。
いずれも。
最初にやって来た個体よりは小さい。
が。
もっとも小型なものでも、2メートルはある。
おまけに、
「なに、あのスピード!?」
恐ろしいまでの俊敏さで動く巨大両生類の群れ。
バッキーは生理的な恐怖を感じて、叫んでしまう。
さらに、
あわてながら周辺を見回したバッキーは、
「ふぉ、フォイア伯! お願いします!!」
ドーム状の結界を球体に変化させ、屋敷のほうへと走らせた。
いや。
転がしたというのが正しいのか。
ただし。
結界の中にいるのは、イセンサのみ。
自分だけ外に出たバッキーは、
「おりゃあああああああああああ!!」
昔、観ていた特撮ヒーローのシャウトを思い出しつつ――
同じく球体の結界を、巨大オオサンショウウオへと投げつけた。
中は
しかし?
強固な結界は、そのまま巨大な鈍器となってモンスターへと直撃する。
顎を破壊されたモンスターは、腹を見せてひっくり返った。
「おやまあ?」
反対方向より。
状況を見ていたカーシャは手にした槍を手に、首をかしげる。
――2人だけでも、なんとかしそうじゃないの? まあ、それならそれでいいけど。
「これは、意外な展開だな……」
遠目でそれを見ていた男は、何度か瞬き。
「どうやら、お前にも働いてもらわんといかんようだ」
つぶやきながら、