破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
何も言われない。
誰も近寄る者はいない。
向けられるのは、侮蔑と嫌悪の視線。
イセンサが育ったのは、そういう
一応?
父というべき相手はいた。
しかし。
向こうは決して自分が父親などとは言わなかった。
ある意味、それは真実で……。
血縁という意味では、イセンサと彼は赤の他人だった。
母親のことはまったくおぼえていない。
イセンサが物心ついた時には、影も形もなかった。
疑問に思っても、周りは誰も答えてくれない。
ただ。
嫌な顔をするか、バケモノでも見るように遠ざかるだけ。
自分はなんなのか。
皆の仲間ではない、バケモノなのか。
ならば。
そのバケモノが、なぜ
だが――
疑問は、突然教えられることになる。
その日。
イセンサは他の子ども連中から避けられ、ひとり歩いていた。
そこへ、半分酔っぱらった馬方が通りかかり、
「お前も大変だなあ。いっつも、いっつも」
嘲りと憐れみを混ぜ合わせたような顔で言った。
馬方。
つまりは、馬を引いて物を運搬する職業の者。
この男。
村によく出入りして、半分住民みたいになっているが?
正確にはよその街で暮らしている人物。
「お前の母親があんなことにならなけりゃあなあ」
母親。
その言葉に反応したイセンサに、酔っ払いは気づいた様子もなく、
「あの女ぁ、嫁入りが決まってたってえのに、山の精に魅入られちまって、おかしくなったンだよなあ」
山の精。
古くから、皆が恐れている山に住まう魔性。
時に災い。
時に幸運。
気まぐれで下界の者たちを弄ぶ魔物。
姿かたちはハッキリしない。
ただ、その気配や影。
あるいは声のようなものを聴いた者がいるだけ。
しかし、幻影ではない。
確実に実体を持った何者か。
だから、誰も山の奥へと入る者はいない。
過去多くの腕自慢、あるいはよそ者が山の奥へ挑んだという。
しかし……。
ある者はそのまま帰らず。
また、ある者はバラバラになった死体をさらした。
イセンサの母。
その女は、ひとり山の奥へと姿を消した後――
消えてから十日ほどたってから、
まるで。
楽しい夢でも見ているような、ヘラヘラとした笑み。
そして、大きく
すでに臨月の身となっていたのだ。
やがて生まれた子供が、イセンサだった。
彼女は、母と結婚するはずだった男。
その家に引き取られることとなる。
どういう経緯で母が死に、イセンサが引き取られたのか。
馬方も、ハッキリしたことは知らないようだった。
――なら、どうして……。
そんな得体の知れない
何故自分は生かされているのか。
何故捨てられなかったのか。
「みんな、山の精が怖いからなあ……」
馬方のつぶやき。
これが答えなのかもしれない。
過去。
山の精への対応をミスした結果、
「山崩れがあったり、病がはやったりした」
と、いうことだ。
だから、なのか。
愛することもなく、抱き寄せることもなく。
かといって。
捨てることも、殺すこともせず。
ただ、ただ。
消極的な理由で生かしているだけ。
生かされているだけ。
なら。
自分はいったい。
「……!!?」
イセンサは、我に返り――
いくつのもの叫びや音を聞いた。
一瞬の追想。
一瞬の
死の間際にあって思い返した過去。
それは、自分を抱きしめる強い力でどこかへ消えた。
――これって。
あの時と、同じ。
ベルツのような硬い筋肉の感触ではない。
イセンサが無意識に手を伸ばそうとした時。
その腕は、イセンサを何かに押し込んだ。
淡く輝く、光の玉。
少女の大きく開いた瞳は、その相手を見る。
黒い髪に眼鏡の、優しそうな女性。
しかし。
女性は必死の顔で、
「逃げて!」
そう叫んだ。
瞬間。
イセンサを入れた光の
まさに目の回る状態の中で。
ようやく止まった球体……結界のボールから、イセンサは見る。
「おりゃあああああああああああ!!」
黒髪の女性は、大きな魔力の玉を……。
まるで岩のようにモンスターへと叩きつけた。
騒乱の中。
イセンサは、結界の中で何かをつぶやいた。
自分自身でもわからない、聴こえないつぶやきを。
……
「はあ。っとに、とんだ大立ち回りだ……」
しゃがみながら、マコネは大きく息を吐いた。
庭中に、モンスターの死体が散乱している。
とんでもない奇襲だったが、
――早く片づいたなぁ……。
ゲカットの様子を確認してから、マコネは息を整えながら立ち上がる。
襲ってきたモンスターは数多い。
その何匹かはマコネやバッキーが倒した。
しかし。
半数は、遠くから飛んできた黒い
――姐さんは、飛び道具もおっかなかったな、そういや……。
どこかでこちらを見ているであろう、青い乙女。
その姿を思い浮かべ、マコネは苦笑する。
――しっかし……。なんだよ、ここのポンコツ警備は……。いざって時に、使えないとか動かないとか……。
などと。
心の内で毒を吐いていたが、
「……ッ」
表情を変えて、周辺を見回す。
――こいつぁ、まさか?
……。
マコネの抱いた不安。
それは、どうやら的中していたらしい。
ひとりのメイドが、床に倒れていた。
仰向けで、両の手足を広げ、弛緩した状態。
多くの使用人が遠巻きに見ている中。
マコネはそれに混じってメイドを観察する。
全身が微かに焼け焦げ、白目をむき、ピクリとも動かない。
「ちょ、ちょ、ちょっとすいません……!」
少し遅れて――
バッキーがあわてて走り寄ってきたが、
「……なっ!?」
「おいおい……」
2人が並んだと、ほぼ同時の瞬間。
倒れたメイドの口から、黒いモノが這い出してきた。
それは、小さなオオサンショウウオ。
両生類はしばらくモゾモゾしていたが?
やがて。
黒い気体となって消えた。
メイドの口元に、黒い
「……たぶん、使い魔の一種ですね」
バッキーはつぶやきながら、ゆっくりしゃがむ。
しばらくメイドを診ていたが、
「……」
振り返り、小さく首を振った。
「使い魔に
マコネが視線を上げた先。
そこには、警備システムの心臓部と言える魔導装置がある。
装置の全体から斜め下あたりへ――
30センチほどの金属片が突き刺さっていた。
「私も、専門外だから詳しくはわかりませんけど……。素人がちょっと弄ったり壊したりできるものじゃないですね」
仮にできても……。
と。
バッキーは途中で言葉を詰まらせ、死体となったメイドを振り返った。