破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その22、カーシャと忍者シーフ

 

 

 

「また遠出しろと?」

 

 ギルドマスターに、カーシャは言った。

 

「そういうことなんです。もちろん報酬のほうは相応にお支払いするのでご心配なく」

 

「……で、次はどういう仕事(クエスト)かしら」

 

「簡単に言いますとモンスターの駆除です。といっても、かなりの大群が予想されますが」

 

「どの程度?」

 

「正確にはわかりませんが……少なくとも、バタムでのテロ組織討伐――あの3倍は覚悟していただきたい」

 

「……」

 

「あー……。報酬のほうは、この前の5倍をお約束します。もうひとつ加えますと、補助として偵察役を兼ねたシーフをひとり同行させます。単独(ソロ)ではなく一応パーティー・クエストですな」

 

 無言のカーシャに、ギルドマスターは正式な手形を見せた。

 

「なるほど……。案外ちゃんとしていらっしゃる」

 

 カーシャは手形を受け取りながら、ジロリとギルドマスターを見る。

 

「こういうのは信用問題ですからね。それに、あなたの場合……後が非常に怖い」

 

 ギルドマスターは肩をすくめた。

 

「――で、場所は?」

 

「ここ、ガルスの谷です。正確にはその周辺である森林地帯ですな」

 

 ギルドマスターが地図で示した場所は、

 

「ヒーダのわりと近くね」

 

「さよう。お願いしたいクエストの場所は、もうちょっと近くになりますな」

 

「ふーん……。ところで、なにか注意点はあるのかしら?」

 

「あります」

 

「それは?」

 

「あなたが、ヒーダで戦ったあの正体不明の亜人」

 

「……ああ。そんなのもいたわね」

 

 カーシャはどうでも良さそうに言った。

 実際、心の底からどうでも良かったわけだが。

 

「あれの同種が多数いる可能性があります。一応、ご注意を」

 

「そう。お心づかい感謝いたしますわ」

 

 カーシャは少しだけ上を向いた後、

 

「で? 正確な目的はなんなのかしら?」

 

 いきなり、ギルドマスターに顔を近づけて言った。

 

 ――おっと……。美しい乙女と顔を合わせるのは嬉しい限りだが……。

 

 ギルドマスターはひそかに、冷や汗を流す。

 

「……!」

 

 反応したのは、横で控えていたライワだった。

 わずかながらも、カーシャから殺気を感じたのである。

 

 だが。

 

「ちょい待った」

 

 そんな意思をこめて、ギルドマスターはライワに向かって片手をあげる。

 ライワが身構えかけた動きを止めてから、

 

「あまり杜撰(ずさん)なクエストを出されたら、どういう間違いがあるかわかりませんので……」

 

 カーシャの視線が、ギルドマスターに刺さった。

 

「おっしゃる通りです。まずはじめに、説明しておくべきでしたな。失礼」

 

「そうですわね」

 

 返答を聞いた後、カーシャはギルドマスターから身をはなした。

 

「お気を悪くされたら謝罪いたしますが、このクエストはぶっちゃけると露払いなんですなあ。まあ下働きの準備役ですよ」

 

「つまり、本命のクエストがある。それを遂行させるための……そういうことかしら」

 

「いかにもそうなんですよ」

 

「なら、最初から言っていただかないと。うっかり、そのクエストを行う連中と揉めるかもしれませんし」

 

「そりゃあ困りますな。やはり、最初に言うべきでした。申し訳ない」

 

「いえ。内容が明確で相応の報酬が出るなら、それでけっこう」

 

「ありがたい。さて、それで……その本命なんですが」

 

「……」

 

「噂になっている、魔王についてはご存じですか?」

 

「――魔王? ああ……」

 

 そういえば、マコネが街で聞いてきた話にそんなものがあった。

 

 ――異世界から勇者を召喚したということは……まあ、なにかしらあるのかもね。

 

「ガルスの谷。そこに、魔王の根城があるということなんですよ」

 

「……魔王、ね」

 

 カーシャは、思わず肩をすくめた。

 まるでおとぎ話の世界にいるようで、

 

 ――現実感がない……。

 

 自分の異常な体験を棚に上げ、そんなことを考えた。

 

「ミズ・カーシャ。あなた、以前にヒーダへ行かれたことがあったでしょう?」

 

「ええ、まあ」

 

「あの後、まあゴタゴタしたわけですが、一応隣国として我が国も色々介入しちゃってるわけです。難民だって来てますからねえ。で、その際にあれこれ調査して、そのへんのことがわかってきた次第です」

 

「……では、あの妙な亜人も魔王に関係があると?」

 

「はあ、わたしゃあ門外漢でよくわかりませんが、たちの悪い魔法で生み出された新種……ということらしいですよ。で、その背後には」

 

「魔王とやらがいたと?」

 

「王宮は、そう判断してるようです。そこで我らがギルドは支部から腕の良いシーフを呼び寄せてですね……」

 

「ヒーダ周辺を調べさせた……」

 

「ええ。その結果、ガルスの谷に根城があるとわかったんですな」

 

「その魔王討伐を行うパーティーが、確実に根城へ行けるよう敵兵力を削っておく。そういうことでよろしいのかしら?」

 

「はい」

 

「改めて、了解しましたわ。出発はいつに?」

 

「できる限り早くに。それと」

 

「まだ隠していることがあるわけですか……」

 

「いえいえ! 同行するシーフは、一応あなたの知っている人物でしてね。ご安心というのは変だが、ある程度人柄や能力はわかっていると」

 

「……?」

 

 

 

 

 

 

 そして、クエストの当日――

 

「……」

 

「えと……。またよろしくお願いします」

 

「……」

 

「あ、あの?」

 

「……」

 

 無言でいるカーシャに、シーフの少年……トクベーは戸惑っていた。

 美貌と雰囲気が合わさり、無言で見つめてくるカーシャはかなり怖い。

 

 一方で。

 

 黙ったままのカーシャの内心はといえば、

 

 ――こいつ、どんなヤツだったかしら……。

 

 顔や名前はおぼえている。

 だが。

 なるほど、同じクエストに参加はしていた。

 しかし。

 その時カーシャは単身モンスターを撃破し続けていた。

 一方的に虐殺していた、というほうが的確だが。 

 こういうわけで。

 戦闘で他の連中が手を出す余地はほぼなかったのである。

 

 つまり。

 

 ――こいつの能力なんか、知らない……。

 

 ……のだった。

 

「ところで」

 

「は、はい!」

 

「隠れている獣人どもは、なんのつもりかしら?」

 

「あ、いえ……!」

 

 顔を引きつらせたトクベーに、

 

「ごまかせると思われていた……というわけかしら?」

 

 カーシャが冷たく言ったと同時に、あちこちから獣人娘たちが姿を見せた。

 3人とも、いつでも動ける臨戦態勢。

 

「待て! やめろ!!」

 

 トクベーは手を突き出し、獣人娘たちを制する。

 

「あの、その……あいつらは、心配性なんです」

 

「なるほど……。常にボスの周辺を守っている、というわけね。で、あいつらも一緒に連れていくつもり?」

 

「違いますって! こら、みんな……!」

 

 トクベーは必死でよくわからないジェスチャーを繰り返していたが――

 獣人娘たちはしぶしぶという感じで、姿を消した。

 

 

 

 そして、出発となった次第だが。

 

「……」

 

 カーシャは高速で飛ぶように移動しながら、時どき後ろを見る。

 わずかに遅れながらも、トクベーはしっかりついてきた。

 息が上がっている様子もない。

 

 ――ふーん……。優秀というのは、本当らしいわね?

 

 少なくとも、平均以上の能力はあるようだ。

 

 ――……まあ、冒険者の平均(フツー)なんて知らないけど。

 

 その一方で、

 

 ――何なんだ、この女性(ひと)は……。

 

 前のクエストで見せた戦闘力。

 そして、現在すぐ近くで目の当たりにしている身体能力。

 

 ――魔法の強化(バフ)もないのに、こんな……。いったい、どういう人なんだ? ていうか、僕が案内役なのになんで先に先にいくんだ?

 

 トクベーが以前偵察に行った時のルートとは違う。

 しかし、カーシャは確実に目的の場所へと進んでいた。

 

 得体が知れない。

 

 カーシャという女の印象はその一言だった。

 

 ――それに……。

 

 どことなく、妙なものを感じる。

 

 ――僕と似ている? いや、そうじゃなくって……。

 

 考えながら走って飛ぶトクベー。

 

 『〝黄泉がえり〟の者には、くれぐれも気をつけよ』

 

 ――!!

 

 唐突に、師匠の言葉を思い出した。

 

 トクベーが忍法を教わった師匠。

 

 『世の中にはな? 時どき〝黄泉がえり〟をしてきた連中がおる。個人差はあるが……そのほとんどは尋常ならざる破壊力と戦闘力を持っとる。くれぐれも、うかつに関わるなよ?』

 

 ――〝黄泉がえり〟……かあ。

 

 少年がそんな考えごとをしているうちに、

 

「ついたようね」

 

「あ、はい」

 

 2人はクエストの中心となる場所に到着していた。

 

 ――こないだと同じ……。いや、それ以上にモンスターの数が増えてる。

 

 高い樹木の上。

 カーシャと共にのぼったトクベーは、気配を察知しながら頭をかく。

 

「……あなた、先に一度偵察をしてきたらしいわね」

 

「ええ、まあ」

 

「優秀でいらっしゃるのね」

 

「それ、嫌味ですか……?」

 

「ほめているつもりだけど、一応は」

 

「そ、そうですか」

 

 ――……一応ね。

 

 カーシャは少しだけ、肩をすくめた。

 

「えーと、あなたのほうこそ……強いんですね、すごく」

 

「まあ、そうね」

 

「失礼でなかったら、お聞きしたいんですが……。どんな訓練を?」

 

「別に。ただ、慣れただけよ」

 

「慣れ……ですか」

 

「ええ。才能なんて関係ないわ。人間は慣れるものよ、戦争だろうと殺しだろうと。あなたも……同じ体験をすれば、そうなる」

 

「……」

 

 カーシャは淡々とそう言った。

 そこには、何の感慨も思い入れも感じられない。

 

 ――怖いひとだ……。

 

 トクベーは思わず身震いする。

 

 この女は、いざとなればたとえ子供だろうが動けない病人だろうが――

 いや、ひとつの村や町を平気で皆殺しにしかねない。

 それこそ、ハエでも叩き潰すような感覚で。

 なんの感慨もなく、ただあっさりと。

 

 そんな予感があった。

 

 ――いや、まさかね……。妄想がすぎるだろ。

 

 自分の考えに、トクベーは密かに苦笑した。

 

「さて、じゃあやりましょうか」

 

 言いながら、カーシャは木から飛び降りた。

 周辺で、モンスターの気配が強くなっていく。

 

 ――今は、クエスト。仕事だ、仕事!

 

 トクベーは気持ちを切り替えながら、カーシャに後に続く。

 

 

 

 

 

 

 

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