破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「また遠出しろと?」
ギルドマスターに、カーシャは言った。
「そういうことなんです。もちろん報酬のほうは相応にお支払いするのでご心配なく」
「……で、次はどういう
「簡単に言いますとモンスターの駆除です。といっても、かなりの大群が予想されますが」
「どの程度?」
「正確にはわかりませんが……少なくとも、バタムでのテロ組織討伐――あの3倍は覚悟していただきたい」
「……」
「あー……。報酬のほうは、この前の5倍をお約束します。もうひとつ加えますと、補助として偵察役を兼ねたシーフをひとり同行させます。
無言のカーシャに、ギルドマスターは正式な手形を見せた。
「なるほど……。案外ちゃんとしていらっしゃる」
カーシャは手形を受け取りながら、ジロリとギルドマスターを見る。
「こういうのは信用問題ですからね。それに、あなたの場合……後が非常に怖い」
ギルドマスターは肩をすくめた。
「――で、場所は?」
「ここ、ガルスの谷です。正確にはその周辺である森林地帯ですな」
ギルドマスターが地図で示した場所は、
「ヒーダのわりと近くね」
「さよう。お願いしたいクエストの場所は、もうちょっと近くになりますな」
「ふーん……。ところで、なにか注意点はあるのかしら?」
「あります」
「それは?」
「あなたが、ヒーダで戦ったあの正体不明の亜人」
「……ああ。そんなのもいたわね」
カーシャはどうでも良さそうに言った。
実際、心の底からどうでも良かったわけだが。
「あれの同種が多数いる可能性があります。一応、ご注意を」
「そう。お心づかい感謝いたしますわ」
カーシャは少しだけ上を向いた後、
「で? 正確な目的はなんなのかしら?」
いきなり、ギルドマスターに顔を近づけて言った。
――おっと……。美しい乙女と顔を合わせるのは嬉しい限りだが……。
ギルドマスターはひそかに、冷や汗を流す。
「……!」
反応したのは、横で控えていたライワだった。
わずかながらも、カーシャから殺気を感じたのである。
だが。
「ちょい待った」
そんな意思をこめて、ギルドマスターはライワに向かって片手をあげる。
ライワが身構えかけた動きを止めてから、
「あまり
カーシャの視線が、ギルドマスターに刺さった。
「おっしゃる通りです。まずはじめに、説明しておくべきでしたな。失礼」
「そうですわね」
返答を聞いた後、カーシャはギルドマスターから身をはなした。
「お気を悪くされたら謝罪いたしますが、このクエストはぶっちゃけると露払いなんですなあ。まあ下働きの準備役ですよ」
「つまり、本命のクエストがある。それを遂行させるための……そういうことかしら」
「いかにもそうなんですよ」
「なら、最初から言っていただかないと。うっかり、そのクエストを行う連中と揉めるかもしれませんし」
「そりゃあ困りますな。やはり、最初に言うべきでした。申し訳ない」
「いえ。内容が明確で相応の報酬が出るなら、それでけっこう」
「ありがたい。さて、それで……その本命なんですが」
「……」
「噂になっている、魔王についてはご存じですか?」
「――魔王? ああ……」
そういえば、マコネが街で聞いてきた話にそんなものがあった。
――異世界から勇者を召喚したということは……まあ、なにかしらあるのかもね。
「ガルスの谷。そこに、魔王の根城があるということなんですよ」
「……魔王、ね」
カーシャは、思わず肩をすくめた。
まるでおとぎ話の世界にいるようで、
――現実感がない……。
自分の異常な体験を棚に上げ、そんなことを考えた。
「ミズ・カーシャ。あなた、以前にヒーダへ行かれたことがあったでしょう?」
「ええ、まあ」
「あの後、まあゴタゴタしたわけですが、一応隣国として我が国も色々介入しちゃってるわけです。難民だって来てますからねえ。で、その際にあれこれ調査して、そのへんのことがわかってきた次第です」
「……では、あの妙な亜人も魔王に関係があると?」
「はあ、わたしゃあ門外漢でよくわかりませんが、たちの悪い魔法で生み出された新種……ということらしいですよ。で、その背後には」
「魔王とやらがいたと?」
「王宮は、そう判断してるようです。そこで我らがギルドは支部から腕の良いシーフを呼び寄せてですね……」
「ヒーダ周辺を調べさせた……」
「ええ。その結果、ガルスの谷に根城があるとわかったんですな」
「その魔王討伐を行うパーティーが、確実に根城へ行けるよう敵兵力を削っておく。そういうことでよろしいのかしら?」
「はい」
「改めて、了解しましたわ。出発はいつに?」
「できる限り早くに。それと」
「まだ隠していることがあるわけですか……」
「いえいえ! 同行するシーフは、一応あなたの知っている人物でしてね。ご安心というのは変だが、ある程度人柄や能力はわかっていると」
「……?」
そして、クエストの当日――
「……」
「えと……。またよろしくお願いします」
「……」
「あ、あの?」
「……」
無言でいるカーシャに、シーフの少年……トクベーは戸惑っていた。
美貌と雰囲気が合わさり、無言で見つめてくるカーシャはかなり怖い。
一方で。
黙ったままのカーシャの内心はといえば、
――こいつ、どんなヤツだったかしら……。
顔や名前はおぼえている。
だが。
なるほど、同じクエストに参加はしていた。
しかし。
その時カーシャは単身モンスターを撃破し続けていた。
一方的に虐殺していた、というほうが的確だが。
こういうわけで。
戦闘で他の連中が手を出す余地はほぼなかったのである。
つまり。
――こいつの能力なんか、知らない……。
……のだった。
「ところで」
「は、はい!」
「隠れている獣人どもは、なんのつもりかしら?」
「あ、いえ……!」
顔を引きつらせたトクベーに、
「ごまかせると思われていた……というわけかしら?」
カーシャが冷たく言ったと同時に、あちこちから獣人娘たちが姿を見せた。
3人とも、いつでも動ける臨戦態勢。
「待て! やめろ!!」
トクベーは手を突き出し、獣人娘たちを制する。
「あの、その……あいつらは、心配性なんです」
「なるほど……。常にボスの周辺を守っている、というわけね。で、あいつらも一緒に連れていくつもり?」
「違いますって! こら、みんな……!」
トクベーは必死でよくわからないジェスチャーを繰り返していたが――
獣人娘たちはしぶしぶという感じで、姿を消した。
そして、出発となった次第だが。
「……」
カーシャは高速で飛ぶように移動しながら、時どき後ろを見る。
わずかに遅れながらも、トクベーはしっかりついてきた。
息が上がっている様子もない。
――ふーん……。優秀というのは、本当らしいわね?
少なくとも、平均以上の能力はあるようだ。
――……まあ、冒険者の
その一方で、
――何なんだ、この
前のクエストで見せた戦闘力。
そして、現在すぐ近くで目の当たりにしている身体能力。
――魔法の
トクベーが以前偵察に行った時のルートとは違う。
しかし、カーシャは確実に目的の場所へと進んでいた。
得体が知れない。
カーシャという女の印象はその一言だった。
――それに……。
どことなく、妙なものを感じる。
――僕と似ている? いや、そうじゃなくって……。
考えながら走って飛ぶトクベー。
『〝黄泉がえり〟の者には、くれぐれも気をつけよ』
――!!
唐突に、師匠の言葉を思い出した。
トクベーが忍法を教わった師匠。
『世の中にはな? 時どき〝黄泉がえり〟をしてきた連中がおる。個人差はあるが……そのほとんどは尋常ならざる破壊力と戦闘力を持っとる。くれぐれも、うかつに関わるなよ?』
――〝黄泉がえり〟……かあ。
少年がそんな考えごとをしているうちに、
「ついたようね」
「あ、はい」
2人はクエストの中心となる場所に到着していた。
――こないだと同じ……。いや、それ以上にモンスターの数が増えてる。
高い樹木の上。
カーシャと共にのぼったトクベーは、気配を察知しながら頭をかく。
「……あなた、先に一度偵察をしてきたらしいわね」
「ええ、まあ」
「優秀でいらっしゃるのね」
「それ、嫌味ですか……?」
「ほめているつもりだけど、一応は」
「そ、そうですか」
――……一応ね。
カーシャは少しだけ、肩をすくめた。
「えーと、あなたのほうこそ……強いんですね、すごく」
「まあ、そうね」
「失礼でなかったら、お聞きしたいんですが……。どんな訓練を?」
「別に。ただ、慣れただけよ」
「慣れ……ですか」
「ええ。才能なんて関係ないわ。人間は慣れるものよ、戦争だろうと殺しだろうと。あなたも……同じ体験をすれば、そうなる」
「……」
カーシャは淡々とそう言った。
そこには、何の感慨も思い入れも感じられない。
――怖いひとだ……。
トクベーは思わず身震いする。
この女は、いざとなればたとえ子供だろうが動けない病人だろうが――
いや、ひとつの村や町を平気で皆殺しにしかねない。
それこそ、ハエでも叩き潰すような感覚で。
なんの感慨もなく、ただあっさりと。
そんな予感があった。
――いや、まさかね……。妄想がすぎるだろ。
自分の考えに、トクベーは密かに苦笑した。
「さて、じゃあやりましょうか」
言いながら、カーシャは木から飛び降りた。
周辺で、モンスターの気配が強くなっていく。
――今は、クエスト。仕事だ、仕事!
トクベーは気持ちを切り替えながら、カーシャに後に続く。