破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その114、きみは虜囚か姫君か-9 襲撃の後

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーするに」

 

 マコネは死体を親指でさしながら、

 

「あの運が悪いメイドさんは、使い魔にとりつかれて操られた、てえところです」

 

「たちの悪い呪法だな」

 

 伯爵は、メイドの遺体を見ながら静かに言った。

 感情の見えない顔。

 整っているだけに、余計冷たい印象を与える。

 

「外で()かれて、一緒に屋敷へ入り込んだか」

 

「そんなところでしょうねえ。体の中にうまく隠れて探知の魔法やら魔道具を誤魔化したんでしょ」

 

「……チッ」

 

 伯爵は舌打ちをして、背中を向けた。

 マコネは、伯爵の背中にさめた視線を送る。

 

 それから。

 

 遺体へ布をかぶせた。

 

「やれやれ……。不運ってのはどこに転がってるか、わかったもんじゃねえな」

 

 死んだメイドがどんな人物で、どんな人生を送っていたのか。

 それは、マコネの知るところではない。

 

 ただ。

 冥福を祈るわけでもないが、

 

 ――あるのかどうか知らんけどよ。行けるなら、天国にでも行きなよ。

 

 マコネが心の中でつぶやいて、少し目を閉じた時。

 

 

 ……!

 

 …………っ!

 

 

「……?」

 

 外が、何か騒がしいことに気づいた。

 

 

 

 遺体が安置されていた部屋から出てみると――

 

 玄関で、何やら揉めている様子。

 

「ふむン?」

 

 マコネは首をかしげる。

 

 モンスターの襲撃。

 使用人の死。

 

 ――そらま、こんなゴタゴタが起こったわけだから、一応な?

 

 などと思ったのだが、

 

「余計なことをしたものだな」

 

「今の状況で言うか、そういうこと」

 

 不機嫌さを隠そうともしない若き伯爵。

 それに言い返す、やはり若い貴族らしき男。

 

 長い濃い紫の髪。

 それを下のほうで結んでいる。

 軽薄な印象の、遊び人風だった。

 

 伯爵とはタイプが違うが?

 やはり、美青年であることは間違いない。

 

「恩を着せるわけじゃないがな……」

 

 と。

 紫の貴族は、マコネに視線を送って来た。

 

「あいつらがいなかったら、イセンサはどうなってたと思うんだよ?」

 

 ――んん。まあ。死んでた可能性は高いよな。

 

 マコネが内心身もふたもないことを思っていると、

 

「……」

 

「自分が飛び出してって、どうにかしたってか? まあ、そうかもしれないがな」

 

 紫は、いらだたしそうに髪を掻く。

 

「それでも、100%なんてこと、ありえんだろ? だからなあ……」

 

「だから――」

 

 伯爵は怖い目で紫を睨み、

 

「あの連中を差し向けたのか」

 

 マコネのほうを見た。

 

 ――は?

 

 マコネはとまどい、2人の若い貴族たちを見比べて、

 

 ――あ~。じゃ、あの()()()()()が、依頼主か。

 

 今回の仕事(クエスト)

 

 依頼先の相手。

 その名前も、顔も知らされてはいない。

 

 胡散臭いが、よくあることでもある。

 

 当然。

 仲介先のギルドは知っていたのだろうが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーシャは――

 伯爵邸へ、高級な魔導馬車が入っていくのを遠方から見ていた。

 車内から、若い男があわてて飛び出していく様子も。

 

「おやおや……」

 

 白い指で顎を触りつつ、カーシャは思い返す。

 

 

 

「イスキ・ダーマ。なるほど――イスキ準伯爵家のご令息」

 

 魔導タブレットを返しながら、カーシャはその名前を口にした。

 

「やはり、ご存じですか」

 

 ギルドマスターはタブレットを受け取って、何気ない顔で言う。

 

「ご存じ……というほどではないけれど」

 

 遊び人と評判の人物とは、聞いてますわ。

 どこかで、挨拶くらいはしていたかも?

 

 そう言いながら、カーシャはとぼけた表情。

 

「依頼先は伏せて欲しい、とのことでしたがね。こちらとしても、後々余計なトラブルはごめんこうむるわけで」

 

「まあ、それでご親切に教えてくださったのかしら?」

 

「いやあ。別に勝手な判断でお教えしたわけじゃありません」

 

 ギルドマスターは手を振って、

 

「そこらへんは、向こう様にもきちんと説明して、納得していただきましたよ?」

 

「では問題はありませんわね」

 

「そうですね」

 

「しかし? かの人物が、フォイア伯爵と友人関係とは存じませんでした」

 

「まあ……。正反対の人物ですからなあ」

 

 ギルドマスターは頭を掻きつつ、

 

「とはいえ。そのほうがうまくいくパターンも往々にしてありますが」

 

「だけど、どうしてこんな依頼を出したものやら。しかも、私のようなものに」

 

「ドラゴンスレイヤーのあなたにそんなことを言われたら、他の連中は立つ瀬がありませんよ」

 

 と。

 ギルドマスターは困った顔をする。

 

「そうですねえ。確かに、質の悪い嫌味になってしまうかしら」

 

「依頼の理由としては、すでにご存じでしょうけど先に2回失敗してるから、ですかなあ」

 

「暗殺者は腕利きのようで」

 

 カーシャは出されていたカップを手に取り、さめかけたお茶を飲んだ。

 

 

 

 ――腕利き、か。

 

 屋敷を襲ったオオサンショウウオのモンスターたち。

 確かに、あんなものを複数同時に操るのは並のレベルでは無理だろう。

 

 しかし。

 

「本気というわけでは、ないかもね」

 

 そうつぶやきながら、カーシャは目を細める。

 

 ギルドナイトの者を除けば……。

 SRの冒険者とはほぼ付き合ったこともない。

 まともに会話をしたかどうかさえ、怪しいレベル。

 

 それでも、どれくらいの実力かはある程度わかっている。

 

 ――少なくとも、うちのメンバーでどうにかできそうなレベルなんてありえないわね……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ありゃ?

 

 バッキーは、騒ぎを耳にしてドアのほうを見た。

 

 モンスター襲撃の後。

 ショックのため気絶したイセンサを、しばらく診ていたわけだが――

 

 玄関のほうではちょうど伯爵(ベルツ)とイスキが口論しあっている最中だった。

 

 バッキーはそんな状況など知るわけがなく、

 

 ――そりゃま、なかなか騒ぎはおさまらないよね。

 

 としか思っていなかった。

 

 事実。

 モンスター撃退後も、軽いパニックは続いていたのだから。

 

 そんな中、

 

「ん?」

 

 ある感触に、バッキーは視線を戻す。

 

 イセンサの白い手がバッキーの服をつかんでいる。

 深緑の瞳がバッキーを見つめている。

 

「あ。起きたんですね」

 

 起きようとするイセンサに手を貸しながら、バッキーは微笑む。

 その柔らかい表情を、イセンサはジッと見つめ続ける。

 

 ――??? な、なんだろ。困ったな……。

 

 バッキーのほうは困惑しながらも、

 

 ――私みたいなのが、珍しいのかなあ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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