破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件   作:らくべえ09

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その114、きみは虜囚か姫君か-10 ヒーラーと少女

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベル――は?」

 

 少しだけ。

 バッキーに寄りかかる形で、イセンサは言った。

 

 ――ベル? ああ、伯爵のことね。ベルツ……だから、ベル。そういえば……。

 

 バッキーは一瞬考えて、思い出す。

 迎えに来た伯爵に対し、彼女はそう呼んでいたことを。

 

 ――ご主人様でもなく、ベルツ伯でもなく、ベル……って、愛称か。

 

 単純な奴隷と主人。

 あるいは、愛人と旦那。

 

 ――そういう関係じゃない、のかなあ?

 

 ボロンの能力で、ふたりのプライベートを見てしまっている。

 バッキーはそこについて、けっこう罪悪感があった。

 

 そして。

 

 部屋を見回すイセンサの瞳。

 そこに、暗い影がよぎったのを見て取る。

 

「あの、ですね? フォイア伯はさっきまでずっとおそばにおられたんですよ?」

 

 励ますように、そう言った。

 

「……え?」

 

 表情は乏しいが――

 イセンサの表情、瞳は驚きで揺れていた。

 

「ホントです」

 

 バッキーは断言して、うなずく。

 

 実際、それは事実。

 何しろ仕事でもあるし、伯爵からは、

 

「できるだけ、念入りに()ろ」

 

 と。

 後ろから言われての診察。

 

 ――かなり神経使ったなあ、アレ……。

 

 溺愛というか。

 執着というか。

 

 恐ろしく強い、そして異常とも言えるモノ。

 バッキーは嫌でもそれを感じてしまった。

 

 ――いいのかな、この関係……。なんか、DV彼氏みたい……。

 

 内心で嘆息しつつ、

 

 

「そうね。思い返してみれば……。社交界でも、有名ではあったわね」

 

 

 カーシャは、伯爵についてそう語っていた。

 

「まさに文武両道。魔法の才能も最高レベル。おまけに、あの美貌で名の通った家柄。財産もたっぷり」

 

 女が騒いで当然の男。

 憧れている連中は、多いでしょう。夏の(はえ)みたくわんさかと。

 

「容姿や才能ぬきでも、家柄・財産だけで娘を嫁入りさせたい貴族も多い。これも、間違いなし」

 

「はあ……。それはよくわかります」

 

「そう。アレがマゾ趣味だろうがサド趣味だろうが。12かそこらの小娘を愛人にしてようが。さして問題にはしない」

 

「え、いや、それはさすがに……」

 

 バッキーはドン引きした。

 

 二次元ならまだしも、

 

 ――現実でそういうヒトと結婚するのは、ちょっと……。

 

 書類婚。

 形だけの夫婦。

 

 それでも?

 社会的地位や優雅な暮らし、他の女に対するマウント。

 

 こういったものが得られるのなら、

 

 ――まあ、色々目をつぶれば、OK? な女性(ひと)もいるだろうけど……。

 

 バッキーとしては、遠慮したい。

 貴族の社会というか、コミュニティ。

 これがいかにややこしくって、面倒くさいモノかは、

 

 ――リーダーと一緒にいて、なんとなくわかっちゃったし。

 

 名が売れてしまったカーシャは、上流階級からの依頼や接触が多くなった。

 パーティーメンバーとして、必然的にこれと関わってしまった結果。

 

 そこにある、負の側面を嫌でも見聞きし……。

 理解してしまう。

 

 

「ん……」

 

 気づけば、イセンサはベッドから降りていた。

 

 そもそも。

 強いショックを受けてはいたが、肉体的なダメージはさほどなかったのだ。

 

 ――眠って休んで、復調……回復した感じだね。

 

「……ごめんなさい。私、ベルのところへ」

 

「あ、はい」

 

 部屋を出ようとするイセンサに、バッキーは手を貸す。

 

 ――まだ、ちょっと足元が危ないなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――見ている。

 

 カーシャは気づきながら、伯爵邸から視線を移さずにいた。

 

 周辺に感じる、羽音のような気配。

 それが次第に増えていく。

 

 やがて。

 

 パン

 

 ある意味、気持ちの良い破裂音。

 カーシャが振り返った時には、あちこちへ砕かれた残骸が散っていた。

 

 ――挑発しているわけか……。

 

 つまり、自分を屋敷のほうから離したい。

 注意をそらしたい。

 と、そういうことらしい。

 

 ――こういうのを、しゃらくさい……というのね。

 

 カーシャはつまらそうな視線を後ろに送った後。

 すぐに、屋敷へと目を向ける。

 

 ――気配は近いようで、遠い。いえ、ない?

 

 どっちにしろ。

 相手の本体は、遠くにある。

 そして、

 

 ――可能な限り、身を潜めて、隠している……。

 

 カーシャはわずかに、唇を歪めた。

 

 

 やがて。

 

 

 また、羽音。

 さっきよりも、強く、大きく、数を増やして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――めんどくせえなあ……。

 

 マコネは、目の前で繰り広げられる醜態にウンザリしていた。

 ウダウダと言い合っている貴族の男たち。

 

 一方は相手をおせっかいだと言う。

 言われたほうは、現状を考えろと言う。

 

 ――ま~、どっちかってンなら……。殺し屋なんかに狙われてる今、紫のあんちゃんが正しいかな?。

 

 まさに他人事なので、マコネは傍観するしかない。

 

 そんな時、

 

「……っ!」

 

 伯爵はいきなりある方向へ顔を向けた。

 

 イセンサ。

 後ろにはバッキーが立っている。

 

「……ベル」

 

「何をしている」

 

 亜麻色の少女へ、伯爵は厳しい顔を向けた。

 

「……っ!?」

 

「部屋でおとなしくしていろ」

 

 突き放すように――

 冷たさすら感じる響き。

 

「お前な、そういう言いかた……!」

 

 紫の貴族が意見するが、

 

「口を挟むな」

 

 先ほど以上に、厳しく冷たい声。

 それが紫を抑え込んだ。

 

 ――なんだ、こいつら。

 

 より面倒くさい事態。

 

 ――ま、こっちにゃどうでもいいけどさ……。……ン?

 

 うるさい貴族の周辺。

 黙って静観している使用人たちだったが。

 

 その中で、特にメイド、女連中の視線。

 明らかにマイナス感情を含んだものが、イセンサに向けられていた。

 

 ――ああ~。そりゃなあ……?

 

 屋敷へモンスターの襲撃。

 おまけに?

 同僚がひとり死んだ……いや、殺された。

 

 こんな状況下で、

 

 ――その原因ともいえるヤツを、よく思うわきゃねーわな。

 

 敏感に敵意を感じ取ったのか。

 表情を強張らせるイセンサ。

 

 しかし。

 それに、

 

 ――んんん?

 

 イセンサをかばうように。

 

 いや。

 

 明らかにかばう形で。

 

 

 バッキーは盾となって、一歩前に出てきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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