破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
「なるほど」
カーシャは、周辺を見ながら唇を歪めた。
虫型のモンスターが、不快な羽音を響かせて群れを成している。
サイズとしては猫。
いや。
子猫くらいか?
それでも、虫としては巨大な――
黒い
上下左右。
走っても、跳んでも逃げるのは難しい。
普通なら。
――この場合、操ってる術師を叩くのが良いのだろうけど……。
カーシャは、伯爵邸のほうへ歩き出す。
虫型モンスターは、完全に無視。
当然ながら。
隙を見せたため、虫たちはあちこちから襲いかかる。
空中を飛び回る。
微妙なサイズで
数も多い。
非常に厄介な相手だ。
普通なら。
パン
パンッ
カーシャは足を止めず、羽蟻たちを叩き落す。
視線を向けることもなく。
心なしか?
虫たちの攻撃は激しくなり、
――数も増えているか……。
しかし、カーシャを止める。
あるいは、行き先を変えることはできない。
――やはり。私に、あの屋敷へ行ってほしくなさそうねえ……。
カーシャのことを知っている。
なおかつ。
面倒な相手だと、知っている。
――仕事を成功させるためにも、私は邪魔か。いや、うちのパーティーが邪魔だと。
意識もせず羽蟻を打ち落としながら、
――しかし……? この程度なら、SRどころか、それより下のランクでも対応はできそうなものだけど。
そう思っていた時。
変化があった。
バチッ
ベチッ……
破壊する感触が、変わった。
「へえ」
カーシャは、毒蛇のごとく目を細める。
つかみとった一匹を握り潰しながら。
硬い。
まるで鉄のようだ。
その上、関節部分は弾性がある。
特に羽は剛柔合わせた、
さらに、
――どうやら、対魔力もそれなりにありそう……。ああ、これなら。
確かに。
群れを成して、それも統率されたものなら非常に危険。
巨大なグリフォンやミノタウロスを倒せる猛者でも、
「不覚を取る。いえ――」
一方的に食い殺されるか。
カーシャは興味深く思う。
それでも。
進む足を止めなかったが。
羽蟻の攻撃は終わらない。
しかし、カーシャは問題もなく歩き続ける。
この状況なら、走って振り切ることも可能。
――ま。向こうもそれはわかってるでしょうけど。
挑発か。
余裕、それとも油断。
単に遊んでいるだけ?
――どう思うかはしらないけれど。魔力の無駄づかいはさせられるわ。
敵の術師は複数いる。
それは確実だと、カーシャは読み取った。
――あの変なヤモリ? トカゲ? なんでもいいけれど……。
屋敷を襲ったものと、今カーシャを襲っているもの。
この両方を単独で操るのは、相当に厳しい。
カーシャにも、それはわかる。
才能がなかったとはいえ、魔導士の端くれだったのだ。
このままでは……。
ダラダラと同じ状態が続き、まったく
――さて、どうするのかしら?
カーシャがそう思っていると、
「うん?」
ピタリと羽蟻が消えた。
――魔力が尽きた? それとも、やり方を変えてくるのか。
カーシャは歩みを止めず、次に備える。
しかし。
すぐに、
ボァァァァアア……
不気味な、鳴き声のようなモノ。
それを伴い、黒い雲がカーシャの背後を追ってくる。
「これは……」
雲ではない。
無数の、より小さな、というより。
ただの羽蟻。
ごく普通のサイズをした虫。
その大軍が押し寄せてきた。
――そういう手か……! なるほど、さっき以上に厄介だわ。
カーシャは、
ボッ
衝撃波が、蟻の群れを吹き飛ばす。
しかし、
「なるほど……」
カーシャは下を見てつぶやいた。
足元からも、地を這う蟻の大群。
まるで、巨大な黒い
下を薙ぎ払えば、上から来る。
前を吹き飛ばせば、後ろから。
たとえ、負けることがなくても。
殺されることがなくても。
――いずれは、ジリ貧になってやられる。
カーシャは、竜巻を起こす魔法を思い起こした。
――まあ、それを使っても……。
チラリと足元を見て、笑った。
地面の下から、蟻は這い出して来る。
――空中や地上がダメなら、土の中から。よく
この時。
斜め後ろから、攻撃が飛んできた。
バチン
カーシャは問題なく、叩き落す。
襲ってきたのは、さっきの大きなタイプ。
――小さな蟻にまぎれて、こいつに奇襲させると。やっぱり、よくできていること。
内心で、カーシャは感嘆した。
かつて魔導士であったものとして、
――ふふ……。尊敬の念さえ感じるわね。
……。
「こっちはよし、と」
遠見の魔法で状況を確認しつつ、男はつぶやいた。
パッと見には、ヒーラー風の服装をしている。
ただし、全体の色調は黒。
杖などは持っていない。
奇妙な黒い頭巾で、顔を隠している。
不気味なその眼だけが、ギラギラと輝いていた。
頭巾の形状は、
「忍者?」
バッキーが見れば、そのように思うだろう。
「うむふむ。足止めはオッケイ。ガゴゼさん、うまくいけば……大金星かもしれませんよ~」
ほわほわとした声が、男の後ろで響く。
妙な格好の女。
それがヘラヘラ笑いながら立っていた。
白衣……のようなものを着て、顔には厚底のグルグル眼鏡。
服の
「なら、いいがなぁ」
黒頭巾の男は、抑揚のない声。
「ヒョーズさんのほうは……。今は準備中ですねえ」
「こっちが足止めしてる間に、片づけて欲しいもんだ」
「それが理想ですよねー」
グルグル眼鏡はパタパタと長い裾を振りながら、
「あの
「お前さんの、
黒頭巾の男――ガゴゼは鼻を鳴らして言った。
「ンも~~。
「ヒョーズのも、俺のも、全部お前が勝手につけただけだろうが」
「いけませんねえ。使い捨てじゃないんだから、ちゃんと名前くらいはつけなきゃ」
「余計なお世話だ」
「じゃ、ま。わたくしめはヒョーズさんのバックアップにまいりましょう」
女が言ったと同時に、風と何かがはばたく音。
そして。
女の姿は消えた。