破滅した悪役令嬢がいたので殺人マシーンにしてみた件 作:らくべえ09
モンスター襲撃――
その、少しだけ前。
「さ、どうぞ。色々あってお疲れかもしれませんけれど……。食べておかないと、力が出ませんよ」
イセンサは、亜麻色の髪を縦に揺らした。
そして、
「あの……。バッキー先生も、ご一緒に……」
「え? ああ、お気持ちはありがたいのですけれど。私は後で」
バッキーは断りながらも、少し嬉しく思いつつ、
「それに、これはイセンサ嬢のお食事ですから」
「……はい」
イセンサは少し
と。
彼女はパンをひとつ手に取り、半分に。
その半分を、バッキーへ差し出した。
「……あはは」
バッキーは困ったけれど、
「それでは、ありがたくいただきます」
静かに、半分のパンを受け取る。
イセンサは控えめだが、自然な微笑みを浮かべる。
――こういう顔は、初めて見た気がする……。
バッキーはちょっと驚くが、嬉しくもあった。
それから。
野菜。魚、肉。様々な料理。
イセンサはひとつずつ……。
それら全てを予備の皿へ半分移し、
「どうぞ」
バッキーへとすすめる。
食事の合間あいま、
「私は、ずっと遠い国の、小さな村で生まれて、育ちました……」
イセンサは過去のことを、少しずつ語る。
・母を知らないこと。
・何か、魔性存在――その娘であること。
「そうですか」
バッキーは、わずかな返事と相づちだけを返す。
「しんどかった、ですね」
「……そうかもしれません」
でも。
どっちかいえば、恵まれた境遇だったかも……しれません。
言いながら、イセンサは笑う。
どこか、自嘲的なもの。
「あの日――山が荒れました。何があったのかは、よくわかりません。ただ、山のほうで大きな……」
稲妻が走った。
ただし。
自然現象とは逆に、下から上へと。
嵐が起こり、山が崩れた。
村は阿鼻叫喚の図となる。
混乱の後。
気づいた時イセンサは、見知らぬ道を歩いていた。
知らないうちに、村の外へ出てしまったらしい。
「それから、すぐ……たぶん、奴隷商人……に捕まって」
商品扱いではあった。
ただ。
それがかえって幸いしたのかもしれない。
または。
あまり逆らわなかったのも良かったのか。
『出荷』され、
わりと穏当な扱いだった。
元から豊かとは言いがたい山村の育ち。
ずっと村八分のような扱いで生きてきた。
そんなイセンサにとっては……。
恐ろしくはあったし、不安に満ちてはいたが?
死にたいほどの、苦痛ではなかった。
「でも、市場は――」
突然。
役人が踏み込んで、大混乱と化した。
――まただ。
村を出る原因となった山の異変と混乱。
その時も、いきなりの混乱に
わけもわからず、走り回った後――
見知らぬ街をさまよう中。
ふと。
目の前に立ちふさがった大きな影。
――だれ?
黒い衣服を着た、見たこともないような美しい男。
それがイセンサを見おろしていた。
「じゃあ……」
「はい。それが、ベル……伯爵様と最初に会った時、です」
彼に連れられ。
イセンサは、このヤオアムトへ来た。
「そう。それで……」
バッキーは何と言うべきか、迷う。
「つらかったね」
と、言うのか?
「良かったね?」
と、言うのか?
どちらも違う気がする。
が。
その迷いの中、
ズン……!
「!?」
屋敷が大きく揺れた。
バッキーは立ち上がり、イセンサを抱き寄せながら、
――また来た!? しかも、これって……。
壁越しからも危険な気配や魔力を感じる。
危険なモンスターの近づく感覚。
案の定。
屋敷は騒然となり、庭はまるで戦場と化す。
「どこかに、避難しないと!!」
バッキーは片手に杖。
片手にイセンサの手を握り、部屋の外へ。
走り出そうとした直後、
ガゴッ……!
事前に張っていた、無色の結界が何かを弾いた。
「ひっ」
イセンサが小さくうめくように叫び、バッキーへしがみつく。
「やばっ……」
バッキーは周辺を見回すが?
それらしいモノはまるで見つからない。
――ああ、もう……!
バッキーを目を閉じ――
結界を可視可能なものへと切り替えつつ……。
杖の先を床につけた。
「*********……」
呪文を唱え、魔力を編む。
瞬間。
四方へ魔力の波が広がり、
ボウッ
ある
見えたものは、
「……とんだ失敗だ」
そんなことをつぶやいた。
舌先で転がすだけの小さな声。
だから?
バッキー達には、聴こえなかったのだが。
男が立っている。
鋭い目をした、背の高い男だった。
毛髪ゼロのスキンヘッド。
着ているものは、鱗と獣毛で構成された衣服。
荒々しい雰囲気ながら顔立ちは良い。
品の良さ、というやつか。
育ちの良さがうかがえた。
――これが、殺し屋?
外見はまだ良いとして、
――顔立ちとか、そういうのは……。なんか……。
そぐわない。
バッキーは、何かピースが外れているような気がした。
しかし。
ボーッとしかけている間、
ガゴッ
ザグッ……
何かが飛び、全て結界に弾かれる。
バッキーはそも、前衛職ではない。
向こうは、攻撃が通じない。
……。
「――!?」
モンスターとの戦闘が激しくなっている中。
伯爵はいきなり、屋敷のほうを振り返った。
「イセンサ……!」
つぶやき。
バウッ
半ば、飛行するように跳躍した。
言うなれば?
魔力によるブーストと、浮遊魔法の合体技。
「おい!? あ、あンの野郎……!!」
いきなり戦線離脱した友人に、紫の貴族は舌打ちして、
――何かあったのは、わかるがなあ……!?
ゴーレムを操りながら、内心で叫ぶ。
何故なら――
バッキーが相手を捕捉するため放った魔法、魔力の奔流。
それは。
魔導士なら誰でもわかるほどに強いものだった。
……。
膠着状態となりかけた時――
ガシャ
「え!?」
窓を突き破って乱入してきた、黒い影。
舞い散るガラスの破片。
その中で、伯爵……ベルツは殺気に満ちた目を、暗殺者に向けた。
「ベル……!」
――ううみゅ……。ヒーロー登場って感じ? しかし、絵になるなあ?
バッキーは、そっとイセンサから離れつつ、
ボゥ……
彼女を
そして。